3 / 6
3章 魔性の輪舞曲
運命は静かに廻り始める
しおりを挟む
翌日午後7時
秀康と待ち合わせをした繁華街の高級ホテルロビーに行くと、 秀康はやや照明を落とした静かな一角に座り、 本を読んで居た。
「ごめんなさい、 秀康さん……、 待ちましたか?!」
「いいえ。 レディを待たせるなど男として最低ですから。 早めに此処に来て本を読んでました」
パタンと古い洋書を閉じる。 英語じゃ無い。
「……」
何の本だろうと惑う麗子に、 秀康は敏感に察した。
「ラテン語です。 長い間、 ルーマニア・トランシルバニアなどに居ましたから。 さて……、 移動しますか」
麗子は、 秀康の言葉の裏に何処か不自然さを覚えた。
『ラテン語……? ルーマニア・トランシルバニア……。 なぜ?』
そんな麗子の微かな動揺さえも秀康は既に見抜いて居た。 低い声で静かに麗子の耳元に囁く。
「余計なことを考えるな」
微かでありながら、 地面を揺るがす低い声に一瞬、 恐怖を覚える麗子。
そんな麗子に、 秀康はスマートにまるで貴族の様に紳士的で華麗にエスコートした。
秀康と色々話歩きながら、 繁華街から外れた頃、
「麗子さん……」
目を合わせた麗子、 又、 秀康の赤い妖艶な瞳に動けない。
「麗子さん、 少し目を閉じて……」
秀康の言葉と同時に意識を失う麗子を支える秀康。
「ここから先、 ……貴女にまだ道を教える訳にいかない」
麗子を支えた状態でその場から突然、 消えた……。
「麗子さん……」
意識を正常にした麗子は、 抱きかかえられる様にしなだれかかる自分の姿に気付き慌てて体を離した。
「ご、 ごめんなさい、 何が有ったのか……」
「謝らないで下さい。 ここです」
目の前にお洒落な薄暗い高級レストラン。 異国情緒たっぷりな店で、 こんなにお洒落な店有ったと今まで知らなかった。
スペイン風にも見え、 美しいピアノの旋律。
「レディ・ファースト……」
扉を優雅に開け、 女性に慣れたエスコートをする秀康に麗子は少し寂しさを感じた。
『女性の扱いに慣れて居るのね。 ……エリートな男性だから……当然かもね』
と心で呟いた。
「どうしました……? あぁ……、 『向こう』(異国)でレディ・ファーストは当然です。 さぁ、 リラックスしてエスコートに委ねて下さい……」
背中に優しく手を添え、 reserveをした席に誘導する。
『何か周囲の目線、 私に集中するわネ……私それ程変な格好かしら……』
ギラリとする視線を方々から浴びる。 少し怖い。
「秀康さん……、 私、 変な格好に見えますか?」
「いいえ。 とても、 綺麗です、 本当に。 ただ……、 彼ら自身……」
「え? 彼ら……?」
自然に麗子の腰に腕を回し抱き寄せ、 又低い声で囁いた。
「今はまだ知らなくていい……」
怖いと言う思いを吹き消す様な色っぽい秀康の声に言葉は不釣り合いで、 全身痺れる様な、 力が抜ける様な甘さを覚えた。
「ふふふふ……耳の敏感な女 (ひと) だ。 敏感な女性は、 好きだ」
秀康は麗子の長い髪を撫でた。
窓の明かりで綺麗なシャンデリアのある席に案内され、 向かい合わせに座る。
麗子からやや斜め向かいに座った。 心理的に麗子に緊張させない為に意図的に取った秀康の自然な行動だった。
「食べたい料理、 ありますか?」
麗子に尋ねる。
「私……、 こういう高価なお店初めてで……、 何を頼めば良いか」
「では、 お任せを。 麗子さん、 ワインをお召になりますか?」
「私……、お酒呑めない」
呆れを含む様に微笑んだ秀康。
「貴女、 少し遊んだ方が良い。 私が教えます。 ……夜の最高の遊び方を」
パチンと指で合図をするとボーイ現れる。
「秀康様、 いらっしゃいませ」
「シェリー酒と、 お決まりコースを二人分」
『お決まりコース……、 やっぱ色んな女性と来てるんだわ……』
テーブルに両手を乗せ、 麗子をまじまじと見ると
「麗子さん、 此処へ女性を供にした相手など居ません。 貴女だけ」
秀康のダークレッドに輝く美しい長髪がサラリとテーブルに流れた。
心を読まれた麗子、 少し恥ずかしさで真っ赤になる。
『ダメだわ……、 秀康さんに完全に読まれて居る』
改め麗子を見た秀康。
「その格好似合います。 初めて会った日、 その綺麗なロングヘアーをソフトにアップされていたが。 長い髪をおろされた姿もまた、 ……綺麗だ……」
と言いながら、 麗子の髪をソフトに撫でた。
どう言う反応取れば良いか解らず、 秀康の思うままになっている麗子。
「麗子さん……、 貴女、 ……」
そこへボーイが料理とシェリー酒を運ぶ。 秀康は言い掛けた話を逸らせ
「此処で出すシェリー、 現地直送で最高です。 決して悪酔いしません」
秀康の言うように高級シェリーも全く悪酔いせず、 美味しい料理。
すっかり緊張取れた頃、 秀康は、 懐からタロットカードを出した。
「少し遊びましょう」
「わっ……、 タロット・カード……。 秀康さん占いを?」
「昔、 ジプシーに教わりました」
「ジプシー……、 あのフラメンコとか」
「縁が深いのです、 我々。 フラメンコならジプシーが優雅に踊ります。 此処で本場を見たいと思いますか?」
麗子、 瞳を煌かせ、
「見れるんですか?!」
パチンと指を弾かせたと同時に、 煌びやかなフラメンコ衣装に包まれたスペイン男女のダンサー現れる。
静かなピアノから、 ギタリストによる情熱のリズムに変わると共に、 情熱のフラメンコショー始まった。
ジプシーの踊り……、 秀康の占い……どちらも見たい……。
「どちらを選べば良いか解りません……」
戸惑う麗子に、
「両方選べば良い……。 さぁ、 もっと貪欲に。 まず、 踊りましょうか」
「私踊れない……」
「私が教えます。 ギタリストのリズムに酔い、 本能を出せば良い……」
秀康、 麗子のしなやかな指を取るとダンスホールへ誘う。
不思議とギタリストのリズムに乗り、 体が踊る。
スペインで一般的に踊られるセビリャーナスと言う踊りで、 皆で、 ラフに踊れる。
麗子と向かい合わせに踊る秀康は、 男性フラメンコダンサーの様な踊り方。
「麗子さん……、 その調子でもっと背筋伸ばして、 胸を張って。 威張って。 男を誘う様に、 大胆に。 ……私を誘う様に……」
堂々と踊りを、 見せつける
そこへ女性フラメンコダンサー、にこやかに微笑んで、 麗子に近付いて両手を握った。
『踊りましょう』
店内一面にラテン系情熱のリズムで熱い踊り30分程続いた。
席に帰った二人、 まだ興奮醒めぬうちに汗ですっかりアルコール醒め、 秀康は赤ワインを追加した。
「秀康さん……凄いわ。 何でもするんですね」
余裕な笑みを浮かべ、
「次はタロットだ……。 何を知りたい? 私に知られても構わない範囲で」
「うふふ……、 じゃぁ、 明日時間通りに起きれるかしら?」
「麗子さん、 さては寝坊すけさんだな?」
雑談をしながら秀康は、 神秘的な目をしてカードをシャッフルし、 開いた。
「何……?!」
一瞬だったが動揺する秀康。
「秀康さん? どうしたんですか?」
問いかける麗子を自然にはぐらかすと、
「あぁ……、 いいえ。 今すぐと言うカードじゃありません。 さて、 ……午前零時を過ぎたら帰らないと起きられないな、 これ」
秀康、 懐中時計を出した。 とうに午前零時を回って居た。
「麗子さん、 明日も出社なさるんですね? 送らせます。 表に迎えを待たせていますから」
「楽しいから時間なんて忘れてた」
「さぁ……シンデレラの帰る時間だ。 ……魔法が醒めぬうちに」
妖艶で、 お洒落な遊びを知り、 それながら知的で紳士な秀康にすっかり心を奪われた麗子。
危険な香りも、 魅惑的に思えた。
表に出ると黒い高級外車が止まって居て、 運転席からモーリス現れた。
モーリスは、 麗子を連れた秀康に少し驚いた顔をした。
「秀康様」
「あぁ、 モーリス、 ……彼女をお送りして。 住所……」
モーリスと呼ばれる男性から鋭い目、 あれは獲物を狙う目線だ……。
今の店で感じた違和感と同じ。 そして……今思えば、 秀康から感じた視線。 麗子もそれ程鈍感ではなかったのだ。
「執事で名をモーリスだ。 モーリス、 大切なご婦人だ。 家迄お送りを」
秀康と麗子、 後部に座った。
無言で後部座席に居るとあっと言う間に、 麗子が住むマンションの下に着いた。
次に会う約束もせず、 離れる寂しさ隠せない麗子。
これで……二度と会えないかも知れないから……。
「モーリス、 彼女を部屋迄送るから、 此処で待ちなさい」
「解りました」
モーリス、 後部ドアを開け、 秀康と麗子を下した。
お互い無言でエレベーターに乗る。
7階にエレベーター停まり、
「秀康さん……、 今日ほんとうに楽しい時を過ごせました……。 ありがとうございました」
立ち去ろうとする麗子の腕を掴む秀康。
「え?」
秀康に抱きしめられられていた。
「又、 会えるかい……?」
「秀康さん……」
秀康、 体温の無い手で麗子の頬を撫でると、 麗子に濃厚なディープ・キスをした。
二人の両手が互いに背中に回り、 抱きしめ合う。 燃える程熱くなり互いを求め合う体と心に一層回した抱きしめる手に力が籠る。 これを、 愛欲と言われても否定しない。 秀康は我に返った様に、そっと麗子を離した。
「帰ろう……。 今、 一緒に居たら送り狼になる」
踵を返すと立ち去ろうとする秀康の背中に抱き着いた麗子。
「麗子さん?」
無言で抱き着かれて秀康は、 どうすれば良いか解らない。
「秀康さん、 これから先何が有っても構わない。 ……だから、 だから……」
秀康は、 何処か悲しい戸惑う一面を初めて見せ、 再び麗子を正面から強く抱きしめて居た。
「麗子さん又連絡します。 ……又、 私とこうして逢ってくれますね? ……ただ、 次は何もしないと言う約束しませんよ」
一瞬、 麗子もどう答えて良いか解らず、 黙って頷いた。
はっきりと今解ったのは、
この秀康ヴァン・フォワードという男は、 危険だと言うことだ。
それでも、 すっかり秀康から溢れ出る様な妖艶な魅力に吸い寄せられてしまった。
モーリスの待つ車に帰ると自分で後部座席のドアを開けて座る秀康。
「秀康様?」
「モーリス、 帰る……」
「吸血、 ……なされなかった?」
「今は……。 彼女を大切に思う。 なんなんだろうな」
「秀康様……、 久々に 『恋』 をされたんです。 あれから長い歳月経ちましたから……。 あの方を秀康様の大切な方と思わせて頂きたいと思います」
「恋などしない。 過去の同じ過ちを二度と繰り返したくない……。 上弦の月か……。 満月だったら……あの女にセーブなど出来なかったろう……俺はそこまで紳士ではないからな」
上空に薄い光を放つ上弦の月。 幾日か過ぎれば満月
目を閉じる秀康……。
モーリス、 バック・ミラーで秀康を見る。
人間の混血ヴァンパイア……。 秀康の最大の強さと弱さに他ならない。
純血ヴァンパイアなら、 例え、 致死量に迄吸血した末に女を殺しても罪悪感に苛まれ無い。
ヴァンパイア……。 生き血を啜り、 赤ワイン、 薔薇を食べる。
赤い物なら貪欲に貪り血の欲と飢えを凌いだ。
紳士的な立ち居振る舞いと裏腹に貪欲な部分はヴァンパイアの特徴。
ヴァンパイア……、 吸血鬼と言う名の怪物に過ぎない
半分人である秀康には、 吸血に対する罪悪感を持っていた。 ある日を境に。
種族繁栄、 秀康に是非に嫁を娶って欲しいと願うモーリスは、 このチャンスを成功させたいと思った。
しかし……。 今の秀康を見ると、 あまりに難しい話でもあった。
翌日、 麗子は午後からの勤務体制だった為、 朝10時に目を覚ました。
「……」
ぼんやりしながら会社に行き、 ロッカールームで白衣を羽織る。 白いビルで内部かなり広い。
『あぁ……、 ダメダメ、 秀康さんは会社で忘れよう……』
同僚の中村智子から声。
「北守さん……、 どうかしたの? ぼんやりして」
「ううん、 無いよ」
「そういえば最近の連続変死の件、 謎解けたらしいわね。 やっぱりヴァンパイアの仕業らしい。 何か信じられない話だわ、 非科学的すぎる」
「ヴァンパイア……?」
その言葉の響きに何処か心に残る不安を覚える麗子。
「ヴァンパイアハンターを密かに手配したとか……ドラマじゃないんだから……そんな変な作り話なんて信じられない」
智子、 手を振りながら担当である生化学検査室へ向かった。
智子と、 臨床検査専門校時分から、 友達だった。
午後11時。 少し残業をした麗子と智子、 共に会社を出た。
繁華街を二人で歩いて居ると何か思い出した様に、
「午後11時だから早い方か。 今日、 タクシー要らないわね。 あ、 私レンタルDVD返すからここで」
繁華街を少し抜けた場所で智子と別れた。
路地裏から声がする。
「へぇ……、 何か、 平凡な女だな」
底知れぬ得体の知れない殺気を感じた麗子、 思わず、 身構える様に振り向いた。
「誰?!」
黒い豪華なスーツ、 プラチナブロンドヘアーを夜風に少し揺らせた綺麗な男性立っていた。
秀康と待ち合わせをした繁華街の高級ホテルロビーに行くと、 秀康はやや照明を落とした静かな一角に座り、 本を読んで居た。
「ごめんなさい、 秀康さん……、 待ちましたか?!」
「いいえ。 レディを待たせるなど男として最低ですから。 早めに此処に来て本を読んでました」
パタンと古い洋書を閉じる。 英語じゃ無い。
「……」
何の本だろうと惑う麗子に、 秀康は敏感に察した。
「ラテン語です。 長い間、 ルーマニア・トランシルバニアなどに居ましたから。 さて……、 移動しますか」
麗子は、 秀康の言葉の裏に何処か不自然さを覚えた。
『ラテン語……? ルーマニア・トランシルバニア……。 なぜ?』
そんな麗子の微かな動揺さえも秀康は既に見抜いて居た。 低い声で静かに麗子の耳元に囁く。
「余計なことを考えるな」
微かでありながら、 地面を揺るがす低い声に一瞬、 恐怖を覚える麗子。
そんな麗子に、 秀康はスマートにまるで貴族の様に紳士的で華麗にエスコートした。
秀康と色々話歩きながら、 繁華街から外れた頃、
「麗子さん……」
目を合わせた麗子、 又、 秀康の赤い妖艶な瞳に動けない。
「麗子さん、 少し目を閉じて……」
秀康の言葉と同時に意識を失う麗子を支える秀康。
「ここから先、 ……貴女にまだ道を教える訳にいかない」
麗子を支えた状態でその場から突然、 消えた……。
「麗子さん……」
意識を正常にした麗子は、 抱きかかえられる様にしなだれかかる自分の姿に気付き慌てて体を離した。
「ご、 ごめんなさい、 何が有ったのか……」
「謝らないで下さい。 ここです」
目の前にお洒落な薄暗い高級レストラン。 異国情緒たっぷりな店で、 こんなにお洒落な店有ったと今まで知らなかった。
スペイン風にも見え、 美しいピアノの旋律。
「レディ・ファースト……」
扉を優雅に開け、 女性に慣れたエスコートをする秀康に麗子は少し寂しさを感じた。
『女性の扱いに慣れて居るのね。 ……エリートな男性だから……当然かもね』
と心で呟いた。
「どうしました……? あぁ……、 『向こう』(異国)でレディ・ファーストは当然です。 さぁ、 リラックスしてエスコートに委ねて下さい……」
背中に優しく手を添え、 reserveをした席に誘導する。
『何か周囲の目線、 私に集中するわネ……私それ程変な格好かしら……』
ギラリとする視線を方々から浴びる。 少し怖い。
「秀康さん……、 私、 変な格好に見えますか?」
「いいえ。 とても、 綺麗です、 本当に。 ただ……、 彼ら自身……」
「え? 彼ら……?」
自然に麗子の腰に腕を回し抱き寄せ、 又低い声で囁いた。
「今はまだ知らなくていい……」
怖いと言う思いを吹き消す様な色っぽい秀康の声に言葉は不釣り合いで、 全身痺れる様な、 力が抜ける様な甘さを覚えた。
「ふふふふ……耳の敏感な女 (ひと) だ。 敏感な女性は、 好きだ」
秀康は麗子の長い髪を撫でた。
窓の明かりで綺麗なシャンデリアのある席に案内され、 向かい合わせに座る。
麗子からやや斜め向かいに座った。 心理的に麗子に緊張させない為に意図的に取った秀康の自然な行動だった。
「食べたい料理、 ありますか?」
麗子に尋ねる。
「私……、 こういう高価なお店初めてで……、 何を頼めば良いか」
「では、 お任せを。 麗子さん、 ワインをお召になりますか?」
「私……、お酒呑めない」
呆れを含む様に微笑んだ秀康。
「貴女、 少し遊んだ方が良い。 私が教えます。 ……夜の最高の遊び方を」
パチンと指で合図をするとボーイ現れる。
「秀康様、 いらっしゃいませ」
「シェリー酒と、 お決まりコースを二人分」
『お決まりコース……、 やっぱ色んな女性と来てるんだわ……』
テーブルに両手を乗せ、 麗子をまじまじと見ると
「麗子さん、 此処へ女性を供にした相手など居ません。 貴女だけ」
秀康のダークレッドに輝く美しい長髪がサラリとテーブルに流れた。
心を読まれた麗子、 少し恥ずかしさで真っ赤になる。
『ダメだわ……、 秀康さんに完全に読まれて居る』
改め麗子を見た秀康。
「その格好似合います。 初めて会った日、 その綺麗なロングヘアーをソフトにアップされていたが。 長い髪をおろされた姿もまた、 ……綺麗だ……」
と言いながら、 麗子の髪をソフトに撫でた。
どう言う反応取れば良いか解らず、 秀康の思うままになっている麗子。
「麗子さん……、 貴女、 ……」
そこへボーイが料理とシェリー酒を運ぶ。 秀康は言い掛けた話を逸らせ
「此処で出すシェリー、 現地直送で最高です。 決して悪酔いしません」
秀康の言うように高級シェリーも全く悪酔いせず、 美味しい料理。
すっかり緊張取れた頃、 秀康は、 懐からタロットカードを出した。
「少し遊びましょう」
「わっ……、 タロット・カード……。 秀康さん占いを?」
「昔、 ジプシーに教わりました」
「ジプシー……、 あのフラメンコとか」
「縁が深いのです、 我々。 フラメンコならジプシーが優雅に踊ります。 此処で本場を見たいと思いますか?」
麗子、 瞳を煌かせ、
「見れるんですか?!」
パチンと指を弾かせたと同時に、 煌びやかなフラメンコ衣装に包まれたスペイン男女のダンサー現れる。
静かなピアノから、 ギタリストによる情熱のリズムに変わると共に、 情熱のフラメンコショー始まった。
ジプシーの踊り……、 秀康の占い……どちらも見たい……。
「どちらを選べば良いか解りません……」
戸惑う麗子に、
「両方選べば良い……。 さぁ、 もっと貪欲に。 まず、 踊りましょうか」
「私踊れない……」
「私が教えます。 ギタリストのリズムに酔い、 本能を出せば良い……」
秀康、 麗子のしなやかな指を取るとダンスホールへ誘う。
不思議とギタリストのリズムに乗り、 体が踊る。
スペインで一般的に踊られるセビリャーナスと言う踊りで、 皆で、 ラフに踊れる。
麗子と向かい合わせに踊る秀康は、 男性フラメンコダンサーの様な踊り方。
「麗子さん……、 その調子でもっと背筋伸ばして、 胸を張って。 威張って。 男を誘う様に、 大胆に。 ……私を誘う様に……」
堂々と踊りを、 見せつける
そこへ女性フラメンコダンサー、にこやかに微笑んで、 麗子に近付いて両手を握った。
『踊りましょう』
店内一面にラテン系情熱のリズムで熱い踊り30分程続いた。
席に帰った二人、 まだ興奮醒めぬうちに汗ですっかりアルコール醒め、 秀康は赤ワインを追加した。
「秀康さん……凄いわ。 何でもするんですね」
余裕な笑みを浮かべ、
「次はタロットだ……。 何を知りたい? 私に知られても構わない範囲で」
「うふふ……、 じゃぁ、 明日時間通りに起きれるかしら?」
「麗子さん、 さては寝坊すけさんだな?」
雑談をしながら秀康は、 神秘的な目をしてカードをシャッフルし、 開いた。
「何……?!」
一瞬だったが動揺する秀康。
「秀康さん? どうしたんですか?」
問いかける麗子を自然にはぐらかすと、
「あぁ……、 いいえ。 今すぐと言うカードじゃありません。 さて、 ……午前零時を過ぎたら帰らないと起きられないな、 これ」
秀康、 懐中時計を出した。 とうに午前零時を回って居た。
「麗子さん、 明日も出社なさるんですね? 送らせます。 表に迎えを待たせていますから」
「楽しいから時間なんて忘れてた」
「さぁ……シンデレラの帰る時間だ。 ……魔法が醒めぬうちに」
妖艶で、 お洒落な遊びを知り、 それながら知的で紳士な秀康にすっかり心を奪われた麗子。
危険な香りも、 魅惑的に思えた。
表に出ると黒い高級外車が止まって居て、 運転席からモーリス現れた。
モーリスは、 麗子を連れた秀康に少し驚いた顔をした。
「秀康様」
「あぁ、 モーリス、 ……彼女をお送りして。 住所……」
モーリスと呼ばれる男性から鋭い目、 あれは獲物を狙う目線だ……。
今の店で感じた違和感と同じ。 そして……今思えば、 秀康から感じた視線。 麗子もそれ程鈍感ではなかったのだ。
「執事で名をモーリスだ。 モーリス、 大切なご婦人だ。 家迄お送りを」
秀康と麗子、 後部に座った。
無言で後部座席に居るとあっと言う間に、 麗子が住むマンションの下に着いた。
次に会う約束もせず、 離れる寂しさ隠せない麗子。
これで……二度と会えないかも知れないから……。
「モーリス、 彼女を部屋迄送るから、 此処で待ちなさい」
「解りました」
モーリス、 後部ドアを開け、 秀康と麗子を下した。
お互い無言でエレベーターに乗る。
7階にエレベーター停まり、
「秀康さん……、 今日ほんとうに楽しい時を過ごせました……。 ありがとうございました」
立ち去ろうとする麗子の腕を掴む秀康。
「え?」
秀康に抱きしめられられていた。
「又、 会えるかい……?」
「秀康さん……」
秀康、 体温の無い手で麗子の頬を撫でると、 麗子に濃厚なディープ・キスをした。
二人の両手が互いに背中に回り、 抱きしめ合う。 燃える程熱くなり互いを求め合う体と心に一層回した抱きしめる手に力が籠る。 これを、 愛欲と言われても否定しない。 秀康は我に返った様に、そっと麗子を離した。
「帰ろう……。 今、 一緒に居たら送り狼になる」
踵を返すと立ち去ろうとする秀康の背中に抱き着いた麗子。
「麗子さん?」
無言で抱き着かれて秀康は、 どうすれば良いか解らない。
「秀康さん、 これから先何が有っても構わない。 ……だから、 だから……」
秀康は、 何処か悲しい戸惑う一面を初めて見せ、 再び麗子を正面から強く抱きしめて居た。
「麗子さん又連絡します。 ……又、 私とこうして逢ってくれますね? ……ただ、 次は何もしないと言う約束しませんよ」
一瞬、 麗子もどう答えて良いか解らず、 黙って頷いた。
はっきりと今解ったのは、
この秀康ヴァン・フォワードという男は、 危険だと言うことだ。
それでも、 すっかり秀康から溢れ出る様な妖艶な魅力に吸い寄せられてしまった。
モーリスの待つ車に帰ると自分で後部座席のドアを開けて座る秀康。
「秀康様?」
「モーリス、 帰る……」
「吸血、 ……なされなかった?」
「今は……。 彼女を大切に思う。 なんなんだろうな」
「秀康様……、 久々に 『恋』 をされたんです。 あれから長い歳月経ちましたから……。 あの方を秀康様の大切な方と思わせて頂きたいと思います」
「恋などしない。 過去の同じ過ちを二度と繰り返したくない……。 上弦の月か……。 満月だったら……あの女にセーブなど出来なかったろう……俺はそこまで紳士ではないからな」
上空に薄い光を放つ上弦の月。 幾日か過ぎれば満月
目を閉じる秀康……。
モーリス、 バック・ミラーで秀康を見る。
人間の混血ヴァンパイア……。 秀康の最大の強さと弱さに他ならない。
純血ヴァンパイアなら、 例え、 致死量に迄吸血した末に女を殺しても罪悪感に苛まれ無い。
ヴァンパイア……。 生き血を啜り、 赤ワイン、 薔薇を食べる。
赤い物なら貪欲に貪り血の欲と飢えを凌いだ。
紳士的な立ち居振る舞いと裏腹に貪欲な部分はヴァンパイアの特徴。
ヴァンパイア……、 吸血鬼と言う名の怪物に過ぎない
半分人である秀康には、 吸血に対する罪悪感を持っていた。 ある日を境に。
種族繁栄、 秀康に是非に嫁を娶って欲しいと願うモーリスは、 このチャンスを成功させたいと思った。
しかし……。 今の秀康を見ると、 あまりに難しい話でもあった。
翌日、 麗子は午後からの勤務体制だった為、 朝10時に目を覚ました。
「……」
ぼんやりしながら会社に行き、 ロッカールームで白衣を羽織る。 白いビルで内部かなり広い。
『あぁ……、 ダメダメ、 秀康さんは会社で忘れよう……』
同僚の中村智子から声。
「北守さん……、 どうかしたの? ぼんやりして」
「ううん、 無いよ」
「そういえば最近の連続変死の件、 謎解けたらしいわね。 やっぱりヴァンパイアの仕業らしい。 何か信じられない話だわ、 非科学的すぎる」
「ヴァンパイア……?」
その言葉の響きに何処か心に残る不安を覚える麗子。
「ヴァンパイアハンターを密かに手配したとか……ドラマじゃないんだから……そんな変な作り話なんて信じられない」
智子、 手を振りながら担当である生化学検査室へ向かった。
智子と、 臨床検査専門校時分から、 友達だった。
午後11時。 少し残業をした麗子と智子、 共に会社を出た。
繁華街を二人で歩いて居ると何か思い出した様に、
「午後11時だから早い方か。 今日、 タクシー要らないわね。 あ、 私レンタルDVD返すからここで」
繁華街を少し抜けた場所で智子と別れた。
路地裏から声がする。
「へぇ……、 何か、 平凡な女だな」
底知れぬ得体の知れない殺気を感じた麗子、 思わず、 身構える様に振り向いた。
「誰?!」
黒い豪華なスーツ、 プラチナブロンドヘアーを夜風に少し揺らせた綺麗な男性立っていた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる