千年の言霊

望月保乃華

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 第三章 匡胤の覚醒

 泰山府君祭

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 陰陽師である匡胤の元には色々な仕事が持ち込まれた。 特に最近はあやかしの類の仕事が妙に多い。

 ある日、 公卿の道康が邸を訪ねて来て姫が急に倒れ、 飢え死にしそうだと言って居ると言う。
 匡胤が道康の邸に出向いて姫に会い、 占うと姫は餓鬼に憑かれて居た。
 「姫さまは、 餓鬼に憑かれておりまする。 物を食べると餓鬼も退散します」

 飢餓感に暴れて居る姫に粥を無理やりに食べさせると餓鬼は退散して姫は元通りになった。

 又、 とある日の夜に匡胤らが近頃天狗が現れ子供をさらうと言うので調査に出向いた時、 川の傍を通ると、 赤子を抱いてふらふらして居る武将の隆利が居た。
 「川の近くで少し赤子を抱いて居て欲しいと女に頼まれて赤子を抱いたら女は消えてしまった。 赤子が重すぎて
これ以上抱いてられん、 これは一体なんだ?! こんなに重い赤子など今迄知らぬ」

 匡胤は赤子を見てすぐに解った。
 「産女と言う妖怪に会われましたな。 赤子を決して離してはなりませぬぞ。 もし落とせば産女に殺される。
その重さに耐えられたら、 怪力を産女から授かりましょう。 虎景、 赤子を落とさぬ様に支えてやってくれ」

 怪力を持つ虎景は赤子を落とさぬ様に隆利の両腕を支えて居ると暫くして、 どこからともなく産女が現れ、
 「よくぞ耐えられましたな、 子を返して下され。 お礼に怪力を授けましょう」

 産女は赤子を隆利から返して貰うと怪力をお礼に授け、 消えてしまった。

 隆利は一体何が有ったのか解らず狼狽えて居る。
 「そなたは陰陽師の匡胤だな? 今の女は一体何だ?」

 匡胤は目を伏せた。
 「お産で命を失った女のあやかしでしてな。 近頃は物の怪が多く出ているゆえ、 用心なさいませ」

 恐れ慄いて隆利は自宅に逃げ帰ってしまった。

  そこへ天狗が現れ匡胤らにより退治された。

 匡胤は重い表情をした。
 「どうも変だ……、 物の怪騒動が頻繁に有り過ぎる。 どこぞから物の怪が漏れ出しているな」


 匡胤は時に苦しそうな表情を浮かべることが多くなった。
 そんな匡胤を案じた右京。
 「匡胤、 どこか悪いのか?」
 
 匡胤は顔に冷や汗を浮かべて無理に微笑んだ。
 「右京、 以前そなたに何か隠して居ると問われたな。 前に少し話たが俺は黄龍の魂を宿して居る。
 人には寿命がある。 俺の齢になると、 本来の黄龍の魂を呼び醒まさないといけないのだ……」

 右京は戸惑った。
 「匡胤? ……何を言っている? 黄龍として魂を呼び醒ますなど……どうすると言うのだ」

 既に覚醒の始まった匡胤は更に苦しそうに息も荒くなっていた。
 「これより、 陰陽道の奥義・泰山府君の祭を行う。 終焉を司る玄武、 五十鈴を連れて来て欲しい」

 右京は慌てて五十鈴を呼び、 右往左往して居る。
 五十鈴は冷静だった。
 「匡胤、 己の中に居る黄龍を呼び醒ます為に人の命を司る泰山府君を行うのだな? その為に我の力で一度
匡胤の命を終焉に誘う」

 右京は狼狽えた。
 「その様なことをすれば匡胤の命が危ないのではないのか?!」

 匡胤は苦しそうに微笑んだ。
 「まさか、 ……己に使うとはな。 泰山府君祭は宮廷でも秘術だ。 だが、 俺が黄龍を呼び醒まさなければ
本来と違い力が弱まる。 都を守る為にも必要なのだ右京。 玄武、 ……こちらへ」

 匡胤は玄武を呼び、 左手で手を軽く握ると右手を五十鈴の背中に回した。
 今迄聞いたこともない文言を唱える匡胤。 匡胤は五十鈴に倒れ掛かると同時に全身から金色の光を放った。
 一瞬のできごとだった。

 力尽きて伏せて居る匡胤を虎景が寝所に運んだ。
 「成功したな。 右京、 案ずるな暫くすると匡胤は目を覚ます」

 泰山府君とは、 冥府の神であり、人の生死を司る。 閻魔大王だとみなす呪祭もある。

 雅巳、 虎景、 隼と右京は隣の部屋で待って居たが五十鈴は匡胤の傍に座り続けた。
 「匡胤……、 お願いだ、 無事で居てくれ」

 目を伏せたまま、 匡胤は呟いた。
 「五十鈴、 ……案ずるな。 俺なら平気だ」

 五十鈴は思わず横になって居る匡胤の手を握った。
 「匡胤……、 無事なんだな? 良かった……」

 隣の部屋から匡胤と五十鈴を覗き見する右京、 雅巳、 虎景、 隼。
 右京は誇らしげに呟いた。
 「見ろ、 俺の言った通りだ。 あの二人は互いに恋をして居る」

 やがて、 ゆっくり褥に座った匡胤は覗き見する連中を横目で見ると声を掛けた。
 「お前達……何を覗いているのだ? 気の利かぬ奴らだ。 これで都に何があろうとも我らの力で防げる」

 匡胤は己の命を賭けて都を守る為に泰山府君を成功させた。
 
 青龍、 白虎、 朱雀、 玄武、 中心に黄龍が揃った。


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