×××する場所がない!

西 美月

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第一章

保健室

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 ピシャリと目の前で戸が閉まり、直央はなすすべなく呆然と立ち尽くした。

 やがてハッとして隣の大河に視線を向けると、大河も直央と同じように、何が起こったのか理解できずに呆気に取られているようだった。

 おそらくこういう顔を、鳩が豆鉄砲を食らったような顔、というのではないか。

 そんなことを考えながら、閉まった扉の上に掲げられた「保健室」という教室標示を見上げた。


 借りた漫画から得た知識で、直央は2つ目の候補地に保健室を選んだ。

「なるほど、確かに。ベッドもあるしいいな」と大河も肯定的だったため、休み時間に下見にやってきたのだが……。

 コンコンとノックをして扉をくぐると、保健医が目の前に立ち塞がった。いや、おそらく普通に立っていただけだろうが、あまりの威圧感からそう感じてしまった。

 ベッコウ柄の眼鏡が印象的な、50半ばくらいのかなりふくよかな女性だった。

「どうしたの?怪我?体調不良?どっちが?」

 休みたいと言えば寝かせてもらえるだろうと思っていた直央は焦った。大河と事前に打ち合わせなどしていなかった。

 その時、とん、と大河が直央の背中を押した。

「こいつが腹痛いみたいで、俺は付き添いで来ました。ベッドで休ませてもらえますか」

 直央は思わず大河を見上げる。

「あらそう。顔色は……悪そうじゃないけど」

 顔を覗き込まれて直央の心臓はドキリと跳ねる。当たり前だ。すこぶる健康なのだから。

「薬は飲んだの?」

「持ってないらしいです」と大河が間髪入れずに答える。

 内服薬は与えない決まりとなっていること、ベッドで静養する場合は1時間を限度としてその後は担任と相談して決めること、そんな保健室の利用方法の説明を受けて直央は次第に顔を青くしていく。

──ぜんっぜん、漫画と違うやん山本!

 八つ当たりもいいとこだが、内心そんな悪態をつく。

「横になりたいほど腹痛が酷いなら我慢せず帰りなさい。担任の先生呼んできてあげるから」

 早退なんてしたら祖母を心配させてしまう。

「あの、もう治りましたんで……!」

 そう言うしかなかった。

 そして、ほとんど閉め出される形で目の前で戸が閉められたのだった。


「あの人、絶対オレが嘘ついとったって思ったよな」

 追い出される際の冷めた視線を思い出してブルッと震える。

「仮病使って休もうとするやつが多いのかもな」

「お前オレのこと売ったやろ」

「助けたんだろうが。直央は嘘が下手だから」

 そんな言い争いをしながはも、保健室はない、という結論だけは一致したのだった。

「あと他に候補はあるのか?」

 そう問われて、借りた漫画の数々を頭に思い浮かべるが、直央は首を横に振った。

「放課後の教室とかよう出てきたけど、無理やんか」

 大河は部活があるし、誰かしらクラスメイトが残っていることが多い。

「トイレも嫌やしなあ」

「鍵がかかるし良くないか」

「嫌やってあんなとこ。だいたい、お前が言い出しっぺなんやからお前が探しぃや」

 そもそも直央は、セックスは卒業したらでいいと思っていたのだ。
 なぜかいつの間にかすることに前向きになってしまったが、場所がないならやはり急ぐ必要はないだろう。

「……うちの部室なんてどうだ」

 しばらく考えて、大河が口にしたのは、帰宅部の直央には馴染みのない場所だった。

「オレ中に入れるんそれ」

「ああ。ただすぐには無理だ。タイミングさえ合えば……」

 難しい顔で大河が考え込むのを尻目に直央は、しばらくチャンスは来なさそうやな、と安堵したのだった。
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