12 / 20
第一章
保健室
しおりを挟む
ピシャリと目の前で戸が閉まり、直央はなすすべなく呆然と立ち尽くした。
やがてハッとして隣の大河に視線を向けると、大河も直央と同じように、何が起こったのか理解できずに呆気に取られているようだった。
おそらくこういう顔を、鳩が豆鉄砲を食らったような顔、というのではないか。
そんなことを考えながら、閉まった扉の上に掲げられた「保健室」という教室標示を見上げた。
借りた漫画から得た知識で、直央は2つ目の候補地に保健室を選んだ。
「なるほど、確かに。ベッドもあるしいいな」と大河も肯定的だったため、休み時間に下見にやってきたのだが……。
コンコンとノックをして扉をくぐると、保健医が目の前に立ち塞がった。いや、おそらく普通に立っていただけだろうが、あまりの威圧感からそう感じてしまった。
ベッコウ柄の眼鏡が印象的な、50半ばくらいのかなりふくよかな女性だった。
「どうしたの?怪我?体調不良?どっちが?」
休みたいと言えば寝かせてもらえるだろうと思っていた直央は焦った。大河と事前に打ち合わせなどしていなかった。
その時、とん、と大河が直央の背中を押した。
「こいつが腹痛いみたいで、俺は付き添いで来ました。ベッドで休ませてもらえますか」
直央は思わず大河を見上げる。
「あらそう。顔色は……悪そうじゃないけど」
顔を覗き込まれて直央の心臓はドキリと跳ねる。当たり前だ。すこぶる健康なのだから。
「薬は飲んだの?」
「持ってないらしいです」と大河が間髪入れずに答える。
内服薬は与えない決まりとなっていること、ベッドで静養する場合は1時間を限度としてその後は担任と相談して決めること、そんな保健室の利用方法の説明を受けて直央は次第に顔を青くしていく。
──ぜんっぜん、漫画と違うやん山本!
八つ当たりもいいとこだが、内心そんな悪態をつく。
「横になりたいほど腹痛が酷いなら我慢せず帰りなさい。担任の先生呼んできてあげるから」
早退なんてしたら祖母を心配させてしまう。
「あの、もう治りましたんで……!」
そう言うしかなかった。
そして、ほとんど閉め出される形で目の前で戸が閉められたのだった。
「あの人、絶対オレが嘘ついとったって思ったよな」
追い出される際の冷めた視線を思い出してブルッと震える。
「仮病使って休もうとするやつが多いのかもな」
「お前オレのこと売ったやろ」
「助けたんだろうが。直央は嘘が下手だから」
そんな言い争いをしながはも、保健室はない、という結論だけは一致したのだった。
「あと他に候補はあるのか?」
そう問われて、借りた漫画の数々を頭に思い浮かべるが、直央は首を横に振った。
「放課後の教室とかよう出てきたけど、無理やんか」
大河は部活があるし、誰かしらクラスメイトが残っていることが多い。
「トイレも嫌やしなあ」
「鍵がかかるし良くないか」
「嫌やってあんなとこ。だいたい、お前が言い出しっぺなんやからお前が探しぃや」
そもそも直央は、セックスは卒業したらでいいと思っていたのだ。
なぜかいつの間にかすることに前向きになってしまったが、場所がないならやはり急ぐ必要はないだろう。
「……うちの部室なんてどうだ」
しばらく考えて、大河が口にしたのは、帰宅部の直央には馴染みのない場所だった。
「オレ中に入れるんそれ」
「ああ。ただすぐには無理だ。タイミングさえ合えば……」
難しい顔で大河が考え込むのを尻目に直央は、しばらくチャンスは来なさそうやな、と安堵したのだった。
やがてハッとして隣の大河に視線を向けると、大河も直央と同じように、何が起こったのか理解できずに呆気に取られているようだった。
おそらくこういう顔を、鳩が豆鉄砲を食らったような顔、というのではないか。
そんなことを考えながら、閉まった扉の上に掲げられた「保健室」という教室標示を見上げた。
借りた漫画から得た知識で、直央は2つ目の候補地に保健室を選んだ。
「なるほど、確かに。ベッドもあるしいいな」と大河も肯定的だったため、休み時間に下見にやってきたのだが……。
コンコンとノックをして扉をくぐると、保健医が目の前に立ち塞がった。いや、おそらく普通に立っていただけだろうが、あまりの威圧感からそう感じてしまった。
ベッコウ柄の眼鏡が印象的な、50半ばくらいのかなりふくよかな女性だった。
「どうしたの?怪我?体調不良?どっちが?」
休みたいと言えば寝かせてもらえるだろうと思っていた直央は焦った。大河と事前に打ち合わせなどしていなかった。
その時、とん、と大河が直央の背中を押した。
「こいつが腹痛いみたいで、俺は付き添いで来ました。ベッドで休ませてもらえますか」
直央は思わず大河を見上げる。
「あらそう。顔色は……悪そうじゃないけど」
顔を覗き込まれて直央の心臓はドキリと跳ねる。当たり前だ。すこぶる健康なのだから。
「薬は飲んだの?」
「持ってないらしいです」と大河が間髪入れずに答える。
内服薬は与えない決まりとなっていること、ベッドで静養する場合は1時間を限度としてその後は担任と相談して決めること、そんな保健室の利用方法の説明を受けて直央は次第に顔を青くしていく。
──ぜんっぜん、漫画と違うやん山本!
八つ当たりもいいとこだが、内心そんな悪態をつく。
「横になりたいほど腹痛が酷いなら我慢せず帰りなさい。担任の先生呼んできてあげるから」
早退なんてしたら祖母を心配させてしまう。
「あの、もう治りましたんで……!」
そう言うしかなかった。
そして、ほとんど閉め出される形で目の前で戸が閉められたのだった。
「あの人、絶対オレが嘘ついとったって思ったよな」
追い出される際の冷めた視線を思い出してブルッと震える。
「仮病使って休もうとするやつが多いのかもな」
「お前オレのこと売ったやろ」
「助けたんだろうが。直央は嘘が下手だから」
そんな言い争いをしながはも、保健室はない、という結論だけは一致したのだった。
「あと他に候補はあるのか?」
そう問われて、借りた漫画の数々を頭に思い浮かべるが、直央は首を横に振った。
「放課後の教室とかよう出てきたけど、無理やんか」
大河は部活があるし、誰かしらクラスメイトが残っていることが多い。
「トイレも嫌やしなあ」
「鍵がかかるし良くないか」
「嫌やってあんなとこ。だいたい、お前が言い出しっぺなんやからお前が探しぃや」
そもそも直央は、セックスは卒業したらでいいと思っていたのだ。
なぜかいつの間にかすることに前向きになってしまったが、場所がないならやはり急ぐ必要はないだろう。
「……うちの部室なんてどうだ」
しばらく考えて、大河が口にしたのは、帰宅部の直央には馴染みのない場所だった。
「オレ中に入れるんそれ」
「ああ。ただすぐには無理だ。タイミングさえ合えば……」
難しい顔で大河が考え込むのを尻目に直央は、しばらくチャンスは来なさそうやな、と安堵したのだった。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる