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第二十七夜(2)
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羽田空港は人で溢れている、ということはなく、ただ初めて羽田に来た恭介にはこれが混んでいるのか空いているのかよく分からない。
4月2日のこんな時期に、旅行に行く人が結構いるんだなあという印象を抱いた。
大小似たようなスーツケースを押す老若男女。それはカップルだったり、家族連れ、複数人のグループ、単身者など様々だ。
チェックインを済ませて荷物を預けた2人は、保安検査場を通過した。
駅まで走った甲斐もあって、搭乗時間まで30分ほど余裕がある。
向かう先は沖縄県恩納村。本島の中央部に位置するリゾート地だ。東シナ海の海岸に建つホテルに2泊する。
ここまでの道中に、恭介は海斗から聞き出した。
年末ぐらいから、やたらとアルバイトに精を出していたのもこのためだった。
搭乗口近くのカフェテリアは空いていた。
奥まった位置にある、見晴らしのいい窓際のカウンター席で、ぼんやりと滑走路を眺めながら、まだ恭介は夢見心地だった。
当日、それも寝起きにこの旅行を知ったためどうもまだ思考が追いつかない。これから沖縄に行くという実感はゼロだ。
頬杖をついて、今まさに離陸していく一機を目で追っていると、
「まだねむい?」
2人分の朝食が乗ったトレーを持った海斗が隣に座った。
ホットコーヒーを受け取り、2種類のサンドイッチから恭介は卵サラダとハムが挟まったほうを選んで手に取る。
朝から走らされたこともあって、今にも鳴りそうなくらい腹は減っている。
ひと口かじって、また目の前の滑走路に視線を向けた。
「非現実的すぎて、なんか夢見てるみたいだなと思って」
「現実なんだなこれが。あー楽しみっ」
言葉通り楽しそうな様子の海斗を横目にふうとため息をつく。
ここに来るまでに散々小言は吐いたので、もう許してやることにする。
こうなったらもう楽しむしかない。
「俺、沖縄は行った事ないんだ。今日明日はホテルでのんびり過ごして、3日目は那覇市内を観光するんだっけ?」
「そのつもり。行きたい所あったら言って」
恭介は空いている方の手でスマホを開いて、沖縄の観光地を検索してみる。
恭介でも知っている有名な水族館は、ホテルからだと空港とは別方向になってしまうようだ。移動にさく時間がもったいない。
どうせなら空港近くの観光地がいい。
指で画面をスクロールをしていき、外国の街並みのような写真が目に留まる。
「ここは?国際通りだって」
顔を上げて隣の海斗を見ると、予想以上に整った顔が近くにあって内心穏やかではいられない。身体を傾けて覗き込んで来る海斗の肩が、恭介の肩に触れた。
昨夜繰り返し抱かれた恭介の身体は、どうやらまだ奥底で消し切れていない火がくすぶっているのかもしれない。
「いいね、食べ歩き。あ、これ食べたい」
海斗の人差し指が恭介のスマホの画面をタップすると、美味しそうな沖縄そばの写真がいくつも出てきたが、恭介の視線は未だに海斗へ向いていた。
海斗が恭介を見たことで目が合い、そこでやっとハッとする。慌てて目線をスマホに戻すが、今度は海斗がじいっと恭介を見つめてくるのが分かった。
「……なんだよ……?」
「なんかやらしい顔してるなーと思って」
「別に、してないっ」
今夜から泊まるのは、海の見える眺望抜群の部屋だと聞いている。
「ここって結構死角だな」辺りに視線を巡らせながら海斗の手が恭介の腰に回った。
次の瞬間にはくちびるにくちびるが重なった。軽く触れたあと、すぐに離れてしまう。分かっていても、それを寂しいと思う。
「……楽しみだな」
今度の海斗のその言葉には含みがあった。
恭介は素直に頷いて、でも照れ臭くてサンドイッチを大きくかじった。
今から夜のことを考えているのは、きっと恭介だけじゃない。
4月2日のこんな時期に、旅行に行く人が結構いるんだなあという印象を抱いた。
大小似たようなスーツケースを押す老若男女。それはカップルだったり、家族連れ、複数人のグループ、単身者など様々だ。
チェックインを済ませて荷物を預けた2人は、保安検査場を通過した。
駅まで走った甲斐もあって、搭乗時間まで30分ほど余裕がある。
向かう先は沖縄県恩納村。本島の中央部に位置するリゾート地だ。東シナ海の海岸に建つホテルに2泊する。
ここまでの道中に、恭介は海斗から聞き出した。
年末ぐらいから、やたらとアルバイトに精を出していたのもこのためだった。
搭乗口近くのカフェテリアは空いていた。
奥まった位置にある、見晴らしのいい窓際のカウンター席で、ぼんやりと滑走路を眺めながら、まだ恭介は夢見心地だった。
当日、それも寝起きにこの旅行を知ったためどうもまだ思考が追いつかない。これから沖縄に行くという実感はゼロだ。
頬杖をついて、今まさに離陸していく一機を目で追っていると、
「まだねむい?」
2人分の朝食が乗ったトレーを持った海斗が隣に座った。
ホットコーヒーを受け取り、2種類のサンドイッチから恭介は卵サラダとハムが挟まったほうを選んで手に取る。
朝から走らされたこともあって、今にも鳴りそうなくらい腹は減っている。
ひと口かじって、また目の前の滑走路に視線を向けた。
「非現実的すぎて、なんか夢見てるみたいだなと思って」
「現実なんだなこれが。あー楽しみっ」
言葉通り楽しそうな様子の海斗を横目にふうとため息をつく。
ここに来るまでに散々小言は吐いたので、もう許してやることにする。
こうなったらもう楽しむしかない。
「俺、沖縄は行った事ないんだ。今日明日はホテルでのんびり過ごして、3日目は那覇市内を観光するんだっけ?」
「そのつもり。行きたい所あったら言って」
恭介は空いている方の手でスマホを開いて、沖縄の観光地を検索してみる。
恭介でも知っている有名な水族館は、ホテルからだと空港とは別方向になってしまうようだ。移動にさく時間がもったいない。
どうせなら空港近くの観光地がいい。
指で画面をスクロールをしていき、外国の街並みのような写真が目に留まる。
「ここは?国際通りだって」
顔を上げて隣の海斗を見ると、予想以上に整った顔が近くにあって内心穏やかではいられない。身体を傾けて覗き込んで来る海斗の肩が、恭介の肩に触れた。
昨夜繰り返し抱かれた恭介の身体は、どうやらまだ奥底で消し切れていない火がくすぶっているのかもしれない。
「いいね、食べ歩き。あ、これ食べたい」
海斗の人差し指が恭介のスマホの画面をタップすると、美味しそうな沖縄そばの写真がいくつも出てきたが、恭介の視線は未だに海斗へ向いていた。
海斗が恭介を見たことで目が合い、そこでやっとハッとする。慌てて目線をスマホに戻すが、今度は海斗がじいっと恭介を見つめてくるのが分かった。
「……なんだよ……?」
「なんかやらしい顔してるなーと思って」
「別に、してないっ」
今夜から泊まるのは、海の見える眺望抜群の部屋だと聞いている。
「ここって結構死角だな」辺りに視線を巡らせながら海斗の手が恭介の腰に回った。
次の瞬間にはくちびるにくちびるが重なった。軽く触れたあと、すぐに離れてしまう。分かっていても、それを寂しいと思う。
「……楽しみだな」
今度の海斗のその言葉には含みがあった。
恭介は素直に頷いて、でも照れ臭くてサンドイッチを大きくかじった。
今から夜のことを考えているのは、きっと恭介だけじゃない。
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