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第十五夜(5)

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「うっわ、ダサ……」

 全てを聞き終えると、清彦はスマホをいじる手を止めてそう漏らした。

「寝込み襲って、さらに酔っぱらって?なにそれ超ダサイじゃん。最低じゃん」

 事実なのに、他人に改めて海斗のことを悪く言われると、いい気はしない。

「そんなことない……っ。俺が寝たふりしてたのが悪いし、それに、酔ったのは飲まされたからで、海斗は何も……」

「あー、はいはい」清彦はため息まじりに面倒臭そうに言うと、スマホを尻ポケットにしまった。
 何もない宙を見つめるその横顔は、どうしてか急に大人びて見える。

「清彦くんってハーフ?」

「ははっ、めっちゃ関係ない話きた。クオーターだけど」

「ああ、だからそんなに、……かっこいいんだな」

 可愛いと言おうとしたのだが、すんでのところで言い換えた。

「顔が良いのは知ってる。……なのに、なんで先輩はオレよりアンタがいいんだろうな」

 頭おかしいだろ、と小さく呟いて、彼は前髪をぐしゃっと掻き上げた。

「アンタはオレのことなんて知らなかっただろうけど、オレはずっと知ってたよ。ずっとアンタが羨ましかった」

 清彦はズボンを手で払いながら立ち上がると、掛ける言葉に詰まっている恭介を見下ろした。その顔はどこか晴れやかだった。

「ヨシ、じゃあ最後に、アンタの本音を聞かせてよ」

「へ……?」さっきは聞きたくないと言ったくせに。「早く」と急かされ、違和感を感じながらも恭介は渋々口を開いた。

「お、俺も、海斗のことが好きだから、協力はできない」

「はあ?聞こえなーい。もっと大きな声で言って」

 煩わしそうに眉根を寄せているが、海斗の前での清彦の立ち居振る舞いのように、それはどこかわざとらしさがあった。
 だがそんなことに負けてはいられない。恭介は大きく息を吸った。

「だからっ、俺は、海斗が好きなんだっ!」

「……フン、ばーか」

 その瞳は、水気を帯びて、揺れていた。でもどこか満足げな様子は、悪戯に成功した子供のようでもあった。

 突然、ドサッと、背後で重いものが落ちたような鈍い音がした。

 振り向けば、海斗がいる。

 なぜか持っていた清彦のボストンバッグを、地面に落としたらしい。

 聞かれてしまった。いやそれよりも、なぜ海斗がここにいるのか。
 混乱した頭では、何から先に考えればいいのか分からない。

「あー!人のカバン落としたあ!」清彦が小走りで海斗の元へ歩み寄る。

「と、言うわけなので先輩、ボクはもう帰りますね」

「アイ、お前、何を……」

 よいしょっ、と清彦がカバンを拾って肩に掛ける姿を見て、恭介はやっとそこでハッとする。

 恭介の話を聞きながら清彦は、ずっとスマホをいじっていた。海斗にこの場所を教えたのだ。そして、旅行カバンを持ってくるよう連絡をしたのだろう。
 もしかしたら、逃げるように走り出したあの時から、そのつもりだったのかもしれない。

 清彦はもう今すぐにでも帰ってしまいそうな雰囲気だった。

 よろよろと駆け寄って、清彦の裾を掴む。自販機の明かりが横から当たって眩しい。

「待って、相庭くんはそれでいいのか?」

「……オレ、勝率0%の負け戦はしないもん。アンタが自覚さえしなければ、勝ち目はあったんだけどね」

 何も言えないでいると、「じゃーね、先輩」呆然と立ち尽くす海斗にだけ挨拶して、清彦は本当に帰ってしまった。


 古い住宅街の一角、廃れたたばこ屋の前に、恭介と海斗だけが残された。
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