ヘタレ勇者の成り上がり~ボッチにハーレムは厳しいです~

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日々の生活……これはこれで幸せなのかもしれないが、えてして長くは続かないものだったりする。

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「さて、と、少し時間も早いし、街にでも寄っていくか。」

俺はホーンラビットを収納にしまい込むと、街を目指すことにした。

ここから街へは、徒歩で2時間余り。

往復でそれなりに時間がかかるため、俺とミィナは、1週間に一度、街に行く日を決めて、その時にまとめて物を売ったり、必要なものを買ったりしている。

ミィナの調合したポーションも、その時に売っているのだが、効果が低いとはいえ、1週間分となるとそれなりの稼ぎにはなる。

現在の俺達の生活費の半分は、ミィナのポーションの売り上げだったりするのだ。

そして俺は、3日に一回ぐらいの割合で、こうして一人で街に来ている。

……いっとくけど、娼館に通うためじゃないぞ?
……いや、金があれば、そりゃぁ、行きたいんだけどさぁ。
だって、ミィナと毎晩引っ付いて寝てるのに、手が出せないんだぞ?
そりゃあ、溜まるもんも溜まってるっつうのっ!

……まぁ、金があっても、娼館に通えるかって聞かれると……。
…………転生前、金はそれなりにため込んでいたけど、風俗に一切行ったことがなく、エロゲにつぎ込んでいた俺の生活スタイルで察知してほしい。

……ヘタレで悪かったなっ!


はぁはぁはぁ……そんな事はどうでもいい。

俺が一人で街に行くのは、ミィナには聞かせられない情報を得る為だったりする。

情報ソースは、ミィナの事を知っているらしいギルドの受付嬢。



「いやぁー、今日も悪いわねぇ、カズトちゃん。」

目の前で、これでもか、というほど巨大なパフェを前にご機嫌な受付嬢。

「うぅ、悪いと思ってるなら、少しは手加減してくれよぉ。」

「いやだよ?」

きっぱりとそう告げる目の前の女性。

「……それで?このパフェに見合うだけの情報はあるんだろうな?」

受付嬢が食べているパフェは大銅貨1枚と銅貨3枚だ。

今日狩ったホーンラビット3匹分の買取額が、これだけで吹っ飛ぶ。

「そうねぇ、正直な話、『季節のフルーツタルト』をつけてくれてもおつりがくるくらいだと思うわよ?」

「ぐっ、……それは情報次第だな。」

季節のフルーツタルトは、銅貨8枚だ。

流石に手持ちはなく、生活費に手をつけなければならない。

生活費に手を付けたら、ミィナにバレる……と言うか、俺が一人で街に行くことは、ミィナは黙認していてくれているが、それも、生活費には手を付けていないからだったりする。

ここで手を付けた場合、ミィナを納得させることが出来るだけの理由がなければ……俺は破滅だよ。

「まぁまぁ、損はさせないわよ。」

そう言って話し出す受付嬢。

市場の相場の変動から、街の中での噂など、あたりさわりのないものから、ちょっとしたお得情報までを次々と教えてくれる。
こういうのは、街で暮らしていれば自然と耳に入るものなのだが、街を離れて暮らしていると、どうしても疎くなってしまう。

情報溢れた現代社会で暮らしていた俺にとって、情報の有無が如何に戦局を左右することになるかを知っている。
これは何も戦に限ったことではなく、例えば、ホーンラビットの肉が市場で過多になっていて、逆に、ラビ―鳥の肉が品薄だったとする。
この情報を知っていれば、ホーンラビットの狩りをやめて、ラビ―鳥を狩るのに専念するのだが、知らなければいつも通りホーンラビットを狩ることになるだろう。

その結果、一日の稼ぎに倍以上の差が出るとしたら?

知っていれば倍の稼ぎだったのに、と歯噛みすることもなくなるって事だ。

しかし……。

小麦が値上がりし始めている、など、それなりに有益な情報もあったが、これだけでは目の前のパフェ代にもなりはしない。季節のフルーツタルトに見合うだけの情報には程遠いのだが?

俺のそんな心情が顔に出ていたのか、受付嬢は、くすっと笑う。

「もぅ、カズトちゃんたらそんな顔しないでよ。何なら、この後、お姉さんとイイことする?」

「いいのかっ!」

イイコト、という言葉に思わず食いつく俺。

「クスッ、慌てないの。カズトちゃんって、私の好みなのよ……。じゃぁ、2階に行きましょうか?」

パフェを食べ終わった受付嬢は、妖艶な笑みを浮かべて上へと誘う。

この世界、酒場や食堂などの2階は、一定時間貸し切りに出来るシステムになっている。

要は「ご休憩」が出来る場所なのだ。

そこに誘うという事は……。

俺はゴクリ、と喉を鳴らす。

……いや、落ち着け、落ち着くんだ俺。

妄想に溢れそうになる頭の中を必死に空にしようとする、俺の中の天使ちゃん。

……いやいや、これはもう、アレしかないだろ?いざという時に慌てないようにシミュレーションをするんだ。

逆に妄想を拡大させようとする俺の中の悪魔君。

天使ちゃんと悪魔君の戦いに決着がつかないまま、俺はカフェの2階の部屋へと入る。


「あ、えっ。あ……。」

俺がどうしていいか分からずにいると、受付のお姉さんはくすっと笑って、ベッドに腰掛け、俺にもその横に座るように促す。

俺はふらふら―と誘われるように、その横に座ると、お姉さんが優しく俺の頭を自分に胸に埋めるようにして抱いてくる。

……くぅ……柔らかい。これが伝説のぱふぱふ?

おねえさんの大きくやわらかな双丘の谷間に顔を埋め、この世の天国を味わっていた俺の頭上から、お姉さんの声が降ってくる。

「そのままで聞いてね。ミィナちゃんを狙っている貴族が、大規模な森狩りを画策しているわ。名目は「街の安全のための魔物狩り」だけどね、狙いはミィナちゃんよ?」

俺はそれを聞いてばッと飛び退きかけたが、お姉さんがギュッと抱きしめ俺を抑える。

「慌てないの。ちゃんと最後まで聞きなさい。こうしていれば、他に聞かれることもないからね。」

受付のお姉さんの言葉に、ハッとする。

貴族の狙いが、ミィナなら、それを買った俺の事は当然調べがついているはずだし、見えないところで、俺が監視されていてもおかしくはない。

街に着くまで、もしくは町を出る時は気配探知を常時作動させているから、怪しい気配がないと言い切れるけど、街中では、他の気配に紛れて、気配探知も役に立たない。

街中限定で監視されているという事は十分あり得る話だった。

おねえさんはそこまで考えて、俺を誘う振りをして、こうして情報を伝えてくれているのだ。

「森狩りの部隊が出るのは早くて三日後、遅くても5日後には出発するわ。そこで見つかったら……わかるでしょ?」

俺は、お姉さんの胸の中で軽く頷く。

俺達は現在『移動中の冒険者』として扱われている。
一度街を出て、その後、どこの街にも入っていないからだ。

しかし、「移動中」の筈のものが、一定場所に留まっているとすれば?それは敵国のスパイ行為と取られても仕方がない……と言うか貴族はそれを理由に、ミィナをスパイとして仕立て上げ、犯罪奴隷として自分の好きにする気なのだ。

ミィナを狙っている貴族については、割と早くに、このおねえさんから事情を聴いている。

ミィナが売られることになった事件も、実は裏でこの貴族が糸を引いていた。

ミィナを就労者に堕とし、夜の奉仕をさせる条件で合法的に手に入れるつもりだったのだそうだ。

しかし、ミィナは夜の奉仕に頷かなかったために、貴族は手を回し、ミィナの評判を落とし買い手がつかないように画策した。

当然奴隷商……いや、ハローワーカーか……にも手を回していた。

そして、貴族の狙い通りに、ミィナは夜の奉仕も受けざるを得ない所まで追いつめられたのだが、あと少し、という所で俺が横からかっさらっていったという訳だ。

貴族としては当然面白くなく、どうにかして俺を亡き者にしようかと画策しようとしていた矢先、俺達は街を出てしまう。

あまりにもの素早い動きに、貴族は一旦諦めたのだが、最近になって、俺達が週1回街へ出入りしていることが、貴族の耳に入ってしまった。

それを知った貴族は、スパイという、少し強引な設定を作り上げ、俺達を狩りだすことにした……という訳だった。


「……帰る前にね『ピーノの鍛冶屋』に顔を出しなさい。合言葉は『ミスリルのナイフをくれ』よ?」

「……分かった。色々ありがとな。」

俺は顔を胸から引き……引き剥がして、受付のお姉さんに礼を言う。
と言うか、引き剥がすのに全身全霊を使った……。

「ん~服脱がないの?」

おねえさんは悪戯っぽく言いながら上着を脱ぐ。

その孤高なツンとした頂が、プルンっと、顔を出しそうになる。……見えそうで見えないその頂の先にあるもの……あっ、今ピンクの色の何かが……

「カズトちゃん、……いいのよ?」

おねえさんの声に、俺は、ハッと我に返る。

「えっ、あっ、その…………ゴメンっ!用事を思い出したっ!」

俺は脳内の悪魔君をねじ伏せて、脱兎のごとく部屋を飛び出していく。

下の会計で、季節のフルーツタルトを2個お土産に、お姉さんに渡すことを伝えると、急いでカフェを飛び出した。

フルーツタルト2個は、かなり痛い出費ではあるが、それだけのものは得れたと思う。

尚、2個なのは、口止め料を含んでいるからなのだが……分かってもらえるだろうか?

……って言うか、惜しい事をした。

あのままコトをすすめれば、今頃は……。

悪魔君の妄想劇場が脳内で始まろうとしていたが、それを打ち消す天使ちゃん。

……そうだ、それより今は。

俺は、悪魔君の誘惑を振り払うように、街外れにある「ピーノの鍛冶屋」を目指すのだった。

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