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第七話 ナビにまつわる不思議 その2

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 お久しぶりです、まどかです。
 朝岡まどか20歳、みんな大好き、合法ロリのまどかちゃんでぇ~す。
 ……なんて、バカなこと言っていないと、正気が保てないくらいに気分が落ち込んでいるのですよ。
 それもこれも、みんなナビが悪いのよ。もう、ナビなんていやっ!
……でも、ナビがないと道に迷うしぃ……どうすればいいんでしょうね?


「あら、わかりやすいくらいに落ちこんでるわね。どうかしたの?」
机に突っ伏している私に声をかけてきたのは、美並先輩。
綺麗で可愛くて、優しくて、それなのに仕事も出来る、まさに「私の嫁No.1」な先輩なのよ。

「うぅ、聞いてくださいよぉ。三宅センパイがするんですよぉ。」
「ハラスメントは大問題ね。でもオカハラ?」
ですよっ!おかげで最近帰るのが怖くて。」
「あー、オカルトね。……でもそれって、私結構まどかちゃんにされてる気もするけど?」
「気の所為です。美並先輩が可愛いので……それに知らないんですか?セクハラでも同性ならOKなんですよ?」
「いや、あのね、同性でもセクハラはダメだからね。……そんなこと言うなら私もしちゃおうかな?」
「何をです?」
「ん?オカハラだっけ?いつもやられてるお返し。」
美並先輩が茶目っ気たっぷりに言う。
……幼稚園の先生が準備する園児向けのお化け屋敷でさえ、涙目でプルプル震えていた美並先輩が、どんなオカルトを仕掛けてくるのか俄然興味が湧く。

「いいですよぉ。受けて立ちますよぉ。」
「あー、その態度ぉ。怖くて泣きだしても知らないからねぇ。」
自信たっぷりに言う美並先輩だけど……そんなに怖いなら、先に泣き出すのって美並先輩なんじゃぁ?
そう思ったけど、あえて口に出さない私は、なんてセンパイ思いなのでしょう。

「まどかちゃん、心の準備はいい?」
「いつでもどうぞ~。」
「まどかちゃんは気づいていないかもしれないけど、ウチの会社、社員は5人なのよ。」
「……えーと、ソレが何か?」
「だから社員が人なの。」
「あ、はい5人ですよね。社長と岩田部長、星野課長に三宅センパイ、後、美並先輩と……私……あれ?」
「ふふん、気付いた様ね。間違いじゃないのよ。うちの会社の社員は5なの。」
「それって……まさか私が、実は社員じゃなかった!なんてオチでは……。」
なにそれ、怖い!てっきり社員だとばかり思いこんでたけど……オカルトと関係なく怖すぎる話だわ。

「大丈夫よぉ。まどかちゃんは、しっかりと社員としてカウントされているから。後、社長は社長だから社員じゃない、なんてこともないからね。」
言おうとしていたことを先に言われちゃったよ。
でもそうすると、どういう事なんだろう?社長も社員としてカウントされるなら、私を含めて6人。少なくとも私が入社してからずっとこのメンバー……まさか……。」
私の頭の中にある単語がよぎる。

「ねぇ、まどかちゃん。スクエアって知ってる?」
にこやかに言う美並先輩の笑顔がなぜか怖く感じる。
「あ、はい、ゲーム会社の……。」
「そのネタ、前やったよね?」
「あ、はいゴメンナサイ。」
「本来4人しかいない筈の室内に、いつの間にか一人増えている。みんな知っている顔で、でも、始める前は確かに4人だった……この中の誰かが、実際に居る筈の……居る筈のない……。」
美並先輩の声が震えている。どうしたんだろう?
よく見れば身体もプルプルと震えている。

「まどかちゃぁぁぁん、怖いよぉ……。」
美並先輩はそう言うとしがみ付いてくる。
「あー、ハイハイ。怖くないよぉ。大丈夫だよぉ。」
さっき一瞬感じた怖さはどこへ行ったのかと思えるぐらい、いつもの美並先輩だった。
「自分で話していて怖くなっちゃったんですねぇ。よしよし。」
コクコクと頷く美並先輩の背を撫でて、落ち着くまであやす。
でも、一体どういう事なんだろう?

「美並先輩、落ち着きました?」
「ウン、取り乱しちゃってごめんね。」
「それはいいんですけど、で、結局どういう事なんです?まさか本当にオカルトってわけじゃないんですよね?」
作り話をしようとするだけでここまで怖がる美並先輩が、社の中で本当にオカルトがあるのなら、ここに居ないだろうという事だけははっきりとしている。
「あ、うん、社員が5人なのは間違いないの。間違ってるのはまどかちゃんの認識の方ね。」
「へっ?私の?」
「うん、社員は社長を含めて5人。社長と岩田部長、三宅君に私とまどかちゃん。」
「えっと、あれっ?って事は星野課長は?」
「星野さんはもう課長じゃないのよ。先月退職してね、今は嘱託なの。いわばパートさんね。」
「えっ、あれっ?」
えっとどういう事?
頭の中がパニックになる。
「まどかちゃん、いまだに『星野課長』って呼んでるからきっとわかってないんだろうなぁって。」
「あ、うん、正直、今も混乱してます。」
「アハッ、やっぱりまどかちゃん可愛いわぁ。」
むぎゅ……美並先輩の胸がぁ……。

「おーい、百合百合しているところ悪いんだけどなぁ、そろそろ会議始めるぞー。」
私が美並先輩に抱きしめられていると、三宅先輩の声が聞こえてくる。
「「はーい。」」
私と美並先輩はの声が揃って室内に響き渡る。



「それで?俺がハラスメント、いつしたって?」
お昼時、いつものお店「アンブロア」で三宅先輩の尋問を受けている私。
「きゃぁぁ、美並先輩、助けてぇ。三宅先輩がぁ。」
棒読み口調で言いながら隣の美並先輩に抱きつく。
「はいはい、三宅君もそんな子w氏顔で荒廃脅しちゃダメでしょ。」
メッと三宅先輩に言う美並先輩は、やっぱり可愛い。
三宅先輩も同じことを思ったのか、顔を赤らめ、視線を外しながらブツブツと文句を言う。
「だってなぁ、俺がハラスメントしてるって冤罪を黙って聞いてるわけには……。」
「いーえ、ハラスメントです、オカハラですっ!」
「だから何なんだよ、そのオカハラってのはっ!」
「オカルトハラスメントですよっ!もう怖くて怖くて……。」
「三宅君?」
「知らねえって。おい、朝岡。分かるように説明しろよ。」

「うぅ……。先日、新しいナビを三宅先輩にお願いしたじゃないですかぁ。」
「あぁ、あれな。いいナビだろ?部長おすすめの店にあった掘り出し物だぜ?あの機能と使い勝手で、あれだけの値段って、絶対一桁間違えてるよなぁ……って、あれっ、まさか……?」
ナビを見つけた時の自慢話を始める三宅先輩だったが、私のジト目に気付いて、急に声のトーンが下がる。
「ハイ、そのまさかです。」

「私、食べ終わったから戻るね。」
そう言って逃げだそうとする美並先輩を、しっかりとホールドする。
「ダメですよぉ。先輩は逃がしません♪」
ギュッと抱きしめ、可愛くいってみる。
「うー、そんなに可愛く言っても……。」
「私が、この自称紳士の餌食になってもいいんですかぁ?そんな事になったら、まどか泣いちゃうよぉ。」
上目遣いで見上げ、少し心細そうなトーンで話しかける。
私のあざとさは卓也のお墨付きなので、美並先輩相手でも効果抜群のはず。
「うぅ、仕方がないわね。まどかちゃんを置いてくわけにもいかないか。」
「なぁ、その扱い、酷くね?」
三宅先輩が何か言ってるが、無視だ無視。最近の出来事は本当に怖いんだからね。

「で、何があったんだよ。」
気を取り直した三宅先輩が聞いてくる。
「えっとですね、三宅先輩にナビを取り付けてもらってから1週間ほどは何もなかったのですが……。」
があったのは1週間ほど前。
「私のアパートに帰る途中、橋があるじゃないですか。」
「あ、うん、境橋さかいばしね。」
「そう、その橋です。」
私は美並先輩の方を向いて喋る。
三宅先輩は私のアパートを知らないから、だからなんだけど、怯える美並先輩を見たいという方が本音なのよ。
ほら、あるじゃない?自分より怖がる人がいたら、逆に気分が落ち着くっていうアレよ。
美並先輩には悪いけど、私の心の平穏の為に、犠牲になってもらおう。
勿論、お礼は後でデザートでも奢ってあげればいいよね。……奢るのは三宅先輩だけどね。
そんな事を計算しながら話を続ける。

「1週間ほど前からね、帰るとき、あの橋の前に来ると『300m先、走行車線にご注意ください』ってメーッセージが流れるようになったのよ。」
「何だ、そんな事か。工事でもしてるんじゃねえのか?」
呆れたように言う三宅先輩だけど……。
「ここ三か月、あの橋付近1㎞付近で工事はしてませんし、年末まで工事する予定も入ってないですよ。」
「そうなのか?じゃぁ、誤報かな?」
「誤報ならいいんですけどぉ……。」
「そうよ、きっと誤報よ。そのナビ安かったんでしょ?だから壊れてるのよきっと。」
美並先輩が力説している。手の先がプルプル震えて可愛いわぁ。
「一応、補足しておきますけど、ナビの示す『300m先』っていうのが丁度橋の中心で川の中心です。ナビのアナウンスが流れるのは帰る時……夜だけです。会社に来るときも橋を渡りますが、そんなメッセージは流れません。先日、お昼に帰った時もメッセージは流れてません。……コレって誤報ですかね?」
私がそう告げると三宅先輩は黙り込んでしまった。
美並先輩はぷるぷるふるえてるので、ぎゅっと抱きしめてあげる。あー、センパイ可愛いなぁ。

「よし、とりあえずこれから行ってみようか。」
何やら考え込んでいた三宅先輩がそんな事を言い出した。
「行くってどこへ?」
「そんなの現場に決まってるだろ?」
「いきなり言われても……仕事はどうするんですか?」
「これも仕事だ。この後撮影会の会場のロケハンに行く。今そう決めた。美並はモデル、朝岡はアシスタント兼ドライバーな。部長に言ってくるから二人は準備しておけよ。」
「えっ、私も行くの?」
美並先輩が驚いた声を上げる。
「当り前だ。狭い車内で朝岡と二人っきりで、俺が襲われたらどうする?」
「それは私のセリフですっ!」
私が大声で反論した時には、すでに三宅先輩の姿はなかった。素早い奴め。
「うぅ、私も行くの?」
「大丈夫ですよ。昼間はナビちゃんも反応しませんから。」
「でもでも……。今夜おトイレいけなくなったらどうしよ。」
ぼそぼそっとしゃべる美並先輩の言葉は聞かなかったことにする。私は出来た後輩なのよ。


「この辺りか?」
「そうですね、もうすぐです。」
橋の手前に差し掛かると三宅先輩が聞いてくる。
いつもなら、もうすぐナビからメッセージが流れるのだが、結局何の音沙汰もなく、橋を渡り終えてしまう。
「何もなかったな。」
「だから言ったじゃないですか、昼は何も起きないって。メッセージが流れるのは決まって帰る時、夜だけなんですよ。」
「いや、疑ってるわけじゃないんだが……現時点で何のメッセージもない事は理解したからな。特にナビがおかしいってわけでもなさそうだ。とりあえずそれが分かれば十分だ。じゃぁ、現場に行くぞ。この先を左だ。」
三宅先輩の言葉に従って車を動かす。
「現場って、本当に行くの?外に出る口実だったんじゃないの?」
「当たり前だろ?むしろ朝岡の話の方が口実で……っと、とにかく、撮影会の企画に関しては、お前らも参加してるって事になってるから、ちゃんと手伝えよ。」
「いい様に使われてる気もするけど……。」
「なんか、ごめんなさい。私の所為で……。」
ボソッと呟く美並先輩に、とりあえず謝っておく。
まぁ、美並先輩を撮影会のモデルに使いたいっていうのが三宅先輩の本音なんだろうけど、一応私の事も心配してくれてるみたいだからね、お仕事だし、頑張るよ。

そこからは気持ちを切り替え、午後の仕事をこなしたのよ。
美並先輩があまりにも可愛すぎて、つい三宅先輩と「どっちが萌える写真を撮れるか」勝負につい我を忘れてしまったわ。
因みに、勝者は三宅先輩。見てるだけでキュン死しそうなほどの美並先輩でした。ゴチソウサマデス。


「では、お先です~。」
「あ、ちょっと待って。」
挨拶して帰ろうとしたところで、三宅先輩に呼び止められる。
「ハイ、なんでしょう?」
「お前ん家の近くに食事できるところあるか?」
「ハイ?……近くって程でもないですが、遅くまでやってるファミレスはありますよ?」
「分かった、じゃぁ、今夜はそこで飯を食おう。奢ってやるから少しだけ待ってろ。」
「はい?あの……。」
「(夜にメッセージが出るんだろ?……美並にも声かけておけよ。)」
三宅先輩が小声で囁く。
「あ、はい、わかりました。」
私はそれだけを言って美並先輩の方へ向かう。

「あら?まどかちゃんどうしたの?もう帰るんじゃぁ?」
「三宅先輩からデートのお誘いですよ。私と美並先輩を。」
私がそう言うと、後方でガタッと大きな音がする。
どうやら三宅先輩が椅子から転げ落ちたらしい。
二股はいかんぞ、と部長が三宅先輩に言っているが気にしない。
「三宅先輩抜きでセンパイとデートしたいですけどぉ、とりあえずご飯代払ってくれるっていうからぁ、食事位はいいですよねぇ。」
美並先輩の腕に自分の腕を絡ませながら甘えた声で言う。
背後では、「苦労してるなぁ。」と三宅先輩の肩を叩く部長の姿がある。

「ハイハイ、で、今日は何のおねだりなの?」
そう言いながら手早く帰り支度を整えて、席を立つ美並先輩。
「それは二人っきりの時にですぅ。……じゃぁお先です~。」
振り返りざまに挨拶をして、美並先輩と腕を組みながら、事務所のドアをくぐる。
その後を三宅先輩が追いかけてくる。
何か言いたそうな顔をしているが、美並先輩に視線を向けた後、何も言わずに黙って駐車場までついてくる。

「ハイ、助手席はセンパイねー。」
「ちょっと、私、車……」
「いいから、いいから。後でセンパイのおうちまで送っていきますよぉ。何ならお泊りして朝も送りますぅ。」
有無を言わさず車に押し込む私。
なんか、悪人のような気分だけど……まぁ、これからの事を考えたらあながち間違ってないかも。
だって、ねぇ。美並先輩の苦手なオカルト体験に無理やり突き合わせるんだからね。
その間に、何も言っていないのに後部座席に乗り込む三宅先輩。
私は、助手席のドアを閉めると運転席に座り、車を発進させる。
「えっと、まさか、ひょっとして……止めてっ!帰るっ!帰るのぉっ!」
車が走り出して暫くしてから、ようやく事態に気付いた美並先輩が騒ぎ出す。

「ヘッヘッヘっ!嬢ちゃん叫んでも誰も来ないぜ。」
「何よっ、あなた達何が目的なのっ!」
「決まってるだろ?その90cm、Eカップの身体が目的さ。」
「やめてぇぇ。私の身体を奪っても、心までは奪えないわよっ。」
「その強がりがいつまでつづくかなぁ。」
「あぁー、れぇー……。」
「……なぁ、その下手な小芝居いつまで続くんだ?」
私と美並先輩がノリで喋っていたら、背後からボソッと声が聞こえる。
「あ、ひょっとしてチンピラ役、三宅先輩がやりたかったですか?」
「そうなのっ?三宅君、私の身体が目的なのっ!」
「ちげぇよっ!」
「……センパイ90のEカップはマジ情報ですよ?」
「っつ……そ、それは……。」
「やっぱりっ!」
言いよどむ三宅先輩を見て、わざとらしく胸を隠す仕草をする美並先輩。
「だからちげえって。それより、もうそろそろだろっ!」
三宅先輩の言う通り、この先が例の場所だ。
「うっ、忘れたかったのに……やっぱりそうなのね。」
「あー、三宅先輩の所為で現実に戻っちゃいましたよぉ。折角怖いの紛らわせてたのにねぇ。」
「あー、悪かった、俺が悪かったよっ。今夜の飯にデザートつけていいから、前見て運転しろ。もうすぐ現場だろうが。」
「そうですね、いつもなら、あの信号越えてすぐ、です。」
声にも緊張が伝わるのが分かる。
昼間と同じ道を通って来てるのは三宅先輩も分かっているだろう。
昼と同じであれば、ナビも反応するはずはないのだが……。
こういうオカルトは、再現しようとするときに限って何も起きないっていうのが定番なのよねぇ。だからといってオカルト現象が起きるのも困るし。
そんな事を考えながら信号を通り過ぎる。
いつもなら、ここで……。

『300m先、走行車線にご注意ください』

「悪いっ、止めてくれっ!」
ナビからメッセージが流れると同時に三宅先輩から声がかかる。
私は、慌ててハザードを出し、脇道に車を止める。
その横を大型のトラックが凄い勢いで追い越していった。

「急に声かけないでください。ビックリしました。」
「あぁ、悪い、ちょっとナビを……。」
三宅先輩が言いかけた時、前方で、ドォォォンっと大きな音がする。
車のを降りて、橋を駆けのぼっていく。
前方に炎と煙が見え、後ろから来た車が途中で立ち往生し、後方に長い渋滞の列を作っていく。
「これは……。」
「お前ら、車に戻ってろ。俺は少し確認してくる。」
三宅先輩は、そう言って橋の側道を走って行った。

「えっと、センパイ、言われた通り戻りましょ。」
私は震えている美並先輩の手を握り、来た道を戻ることにした。


後日……。

「居眠り運転の乗用車、トラックを巻き込んで川底へ……だってよ。」
ウェブニュースを見ていた三宅先輩が呟く。

追い越し車線を走っていた乗用車が、後ろからトラックが迫っているにもかかわらず、急に車線変更をし、驚いたトラックの運転手は急ハンドルを切るが間に合わず激突。
そのままの勢いで車道を逸れ橋の欄干へと激突。
偶々老朽化していた箇所だったため、物かった勢いで破損し、支えるものが無くなったトラックと乗用車はそのまま川底へ転落。
トラックのすぐ後ろを走っていた乗用車は、トラックの挙動に対し急ブレーキを踏むが、スピードが出ていた為にスピンし、後続車がそこに激突、4台の玉突き事故が起きた。
それが、あの夜の事故の全容……らしい。

トラックを含む計6台の大事故として、今も現場検証が行われ世間を騒がせている。

「はぁ、怖いわねぇ。でも私達運がよかったわね。」
その時の事を思い出したのか、震える身体を止めるように自らを抱きしめる美並先輩。
「そうですねぇ。あの時三宅先輩が止めてって言わなかったら、完全に巻き込まれてましたもんね。」
そう、。あのまま走っていれば、乗用車にぶつかられていたか、トラックに押しだされていたか……もっとも、すぐ後ろで事故が起こって、ギリギリ逃れているという可能性も捨てられないけどね。

「結局、ナビの謎も解けないまま……か。ひょっとしてまどかちゃんに警告してたりして。……なんてね。」
美並先輩は努めて明るく言う。
「そうかもしれませんね。あの道、今閉鎖されているから行ってませんけど、今通っても何も反応しない、そんな気がします。……なんで警告してくるのかって謎は残ってますけどね。」
「そうね。……でも、今思ったんだけど、嫌がる私を無理やり車に連れ込んで……コレって立派なオカルトハラスメント、じゃない?」
「何の話でしょ?オカルトハラスメントって初めて聞きますけど、センスのいい言葉ですねぇ。それにあお番は、三宅先輩に連れ出すように頼まれただけで、私は何も知りませんよ。」
とりあえず都合の悪い事は三宅先輩に押し付けておく。
私の美並先輩を奪おうとするならば、これくらいの苦労は当然よね。

「まったく、この子は……。はぁ、画像処理、300枚今日中に終わらせるから、手伝いなさい。」
「はぁーい。」
私は美並先輩に従って、写真の処理を始める。
画像の処理をしながらも、頭の中には様々な単語や考えがよぎる。

ナビの警告場所は川の中心……。
境川にかかる境橋……さかいねぇ。境界って意味があるのよねぇ。
古くから伝わる名前には必ず意味がある。
境川が境界を示していたのだとすれば……それはどことどこの境なのだろう?
考えても答えが出ない事は分かり切っているのに、何故か私の頭から、『境』という言葉が離れなかった。





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