まどかのSF(少し・不思議)体験

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第三話 ラッキーガールの不思議

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 こんにちわ。
 私、朝岡まどか、二十歳です!
 誰が何と言っても二十歳なのです!

 ところで、世の中には「運がいい人」「運が悪い人」なんて言われることがよくあるよね?
 私も、よく「運がいいね」って言われるんだけど……。

 運がいい人って、抽選によく当たったり、宝くじに当たったりする人の事じゃない?
 私は、そんなことないのよね。
 それなのになぜ、「運がいい」って言われるかって言うと……。

 例えば、小さい頃の事故の話……見つかった時の状態、一歩遅ければ死んでたかも、運がよかったね!とか。
 ちょっと前に、車運転していて、堤防から落ちたのね。
 これもガソリンとかに引火して爆発!にならずに助かって運がよかったね!とか……。
 
 まぁ、所謂「不幸中の幸い」って事での「運がいい」って事なんだろうけど……。
 そもそも、運がいい人って、そう言う事に巻き込まれないんじゃないかなぁって思うのよ。

 今日はそんな「運がよかった」お話です。

 
 「おはよー……ふわぁー……ございまふぅ……」
 「おはよ……まどかちゃん、眠そうね……大丈夫?」
 「……昨晩、寝付けなくて。」
 美並先輩が挨拶を返しながら気遣ってくれる。
 よく出来た人だよぉ。

 「お、来たな。おはよう。カメラマンたる者、いつでもどこでも、すぐ寝れるスキルは必須だぞ!」
 「おはようございます。」
 美並先輩に比べてこっちは……。
 私はジト目で、三宅先輩を見る。
 腕はいいんだけど性格がねぇ……まぁ、あっち系の人はそんなもんか……。

  
 「ところで、二人に相談があるんだけど・・・・・・、お昼奢るからその時話を聞いてくれないか?」
 三宅先輩がそんな事を言ってくる。
 
 まぁ、時期が時期なので何となく想像がつくけどね。
 お昼ご馳走してもらえるのは有り難いな。
 私は、チラッと美並先輩を見る。
 
 「まぁ、それ話を聞くだけならね。」
 「OK!じゃぁ昼は、隣のアンブロアで。」
 そう言って三宅先輩は仕事に戻っていく。

 「じゃぁまどかちゃん。私たちも始めよっか。」
 「ハイ、今日もよろしくお願いします。」
 この時期は、比較的仕事が少ない。
 その代わり、秋になると急に忙しくなるの。

 だから私みたいな新人は、今の内に色々覚えなきゃいけないの。
 でも、長期の休暇が控えているから、あまり余裕はない・・・・・・休み返上するなら別だけどね。
 取りあえず、夏休みを楽しむ為にも、今は目の前の仕事に集中ね。

 
 「で……、だ。二人とも、お盆の時期何か予定入ってる?」
 お昼……三宅先輩のおごりで、「アンブロア」特製パスタを頼むと、そう切り出してきた。
 「ある様な無い様な……、センパイはどうですか?」
 正直、幼馴染の樹美尾 卓也から、頼まれていることはあるのだが……。
 「私は、家族の付き合いで親戚周りなんだけど、面倒だから、何か予定を入れちゃおうかなって思ってるところ。」
 美並先輩がそう言うと、ここぞとばかりに身を乗り出す三宅先輩。
 「だったら、13~15の3日間バイトしないか? 報酬は3日間で1万5千円だけど、その代わり、現地までの交通費・前乗りで3泊分の宿泊代・3日分の食事がついてくる。また制服貸与……というか、終わったら差し上げます……どう、なかなかいい条件だろ?」
 そう言いだす三宅先輩を私はジト目で見る……
 ……はぁ、やっぱり、こっちもかぁ……。
 
 「仕事内容は何なの?」
 ……美並先輩乗り気みたいだけど……それ聞いちゃう?
 「……聞かないほうがいいと思いますけどねぇ。」
 私がぼそりと呟いたのを無視して三宅先輩が話し出す。
 ちなみに、私に向かって「シィーッ」っていうゼスチャーをしたのは美並先輩には見えなかったみたい。

 「簡単に言えば、売り子かな?知り合いが、イベントで物販するんだけど、人手が足りなくてね。
 まぁ、お客さんに笑顔で商品を渡してお金を受け取るだけの簡単な仕事だよ。
 ……一応商品のイメージに合った服を着てもらうのが条件になるけど、それは用意してもらえるし、イベント終わったら持って帰っていいよ。
 後は、それなりに見栄えのいい子って言われてるけど、二人なら全く問題なし……というよりもったいないぐらいだな。」
 ……嘘は言ってないし、最後は持ち上げる所なんて策士ですね。
 ほら、美並先輩その気になっちゃってるよ。

 「そうねぇ……それならいいかも。」
 「美並先輩……本気ですか?」
 ちらりと三宅先輩を見ると「余計な事を言うな!」って顔をしている。
 ……正直、美並先輩が来てくれれば私も気が楽なんだけど……騙す様で気が引けるのよ。

 「ちょっと、まどかちゃん……。」
 三宅先輩が呼んでいる。
 はぁ……ココで機嫌損ねると後々の仕事に差し支え出るしなぁ……。
 私は三宅先輩の側に行くと……
 「まどかちゃん、わかってるみたいだけど余計な事を言うのは無しだよ。」
 「はぁ……私、デザートにビックパフェDX食べたいです。」
 「……いいだろう!商談成立だ。」
 ちなみにビックパフェDXというのは、ここアンブロアの名物デザートでお値段、なんと1500円もする代物だ。
 吹っ掛けておいてなんだけど……ゴメン、美並先輩。

 「そうね、やってもいいわよ……まどかちゃんはどうする?」
 「あー、ちょっと保留で。先方と交渉するから。」
 「先方?」
 先輩の頭にはてなマークが見えるようだった。


 「あー、もしもし、タク? 例の3日間、先輩からもお誘い受けて……だって、しょうがないじゃん、私入ったばかりなんだよ!」
 横で聞いてる三宅先輩が「先約があるなら……」と言ってくるが、私は「しぃーっ!」ってゼスチャーをして黙らせる。
 「それに、こっちは宿泊代に食事持ちだって……どうする?……うん……ウン……もう一声!……んー、仕方がないか……それで交渉してみる。うん、じゃぁ、夜にまた……。」

 電話を切る……何が起きているのかわからないって顔で美並先輩が見ているが、とりあえずスルー。
 「三宅先輩……私は2日目の後半から合流でもいいですか?、後、行きの交通費はいりませんけど、13日と14日の宿泊はお願いします。
 後、日当は向こうは7千5百だすっていってるんですけど?」
 どうしますか?って顔で訊ねる。
 ・・・・・・まぁ、ちょっと無茶言ってるかな?とは思うけど、安売りする気はないのよ。
 とは言っても、私相場知らないから、これでも安いのかも知れないけどね。

 「うーむ・・・・・・」
 悩んでるなぁ・・・・・・もう一押ししておこうかな?
 「向こうは撮影OKが条件です。」
 「いいのか?」
 「NGポーズはありますけどね。」
 「・・・・・・よし、美並もOKなら、3日で3万、まどかちゃんは1日半だけど2万だそう!
 「じゃぁ、交渉成立ってことで。」
 「うむ」

 「えっと、まどかちゃん、何の話?」
 私と三宅先輩の会話の内容が分からなかった美並先輩が訊ねてくる。
 「報酬の値上げの話です。・・・・・・結論から言えば、撮影OKなら3日で3万出してくれるそうですが、どうします?」
 「えーと、撮影ってどういう事?」
 「美並先輩、モーターショーってわかります?」
 「えぇ、新車の発表とかする奴よね?写真なんかをよく見るわ。」
 「そうです。あのコンパニオンのお姉さん達いるじゃないですか?今回のバイトってあんな様なものなんですよ。
 かわいい女の子に、可愛い服着せて呼び込む。・・・・・・お客さんがこないことには売れませんからね。
 で、当然そういう子を写すのを目当てに来る人もいるってわけです。」
 そういって、チラッと三宅先輩の方に視線を向ける。
 「そういう事ね。」
 視線の意味が分かってくれたみたいで、美並先輩が頷いてくれる。
 「まぁ、皆さん紳士ですから、無理なことは殆ど言ってこないから、そのあたりは安心していいですよ。・・・・・・でどうします?嫌なら無理しない方がいいですよ。」

 その言葉を聞いて、三宅先輩が目を剥く。
 説得してくれるんじゃないのか!と言いたそうな形相だ。
 わかるけどねぇ。
 美並先輩は抜群のプロポーションを誇っている。
 私より背が高くて、私より出てるところ出てて・・・・・・言ってて涙が出そうになるわ。
 正直言えば私も美並先輩のコス、みてみたいよぉ。
 でも無理強いは良くないからね。

 「まどかちゃんはどうするの・・・・・・その・・・・・・撮影とか・・・・・・。」
 「私はどちらにしても、幼なじみの付き合いで行くことになりますし、そっちでは撮影OKで去年やってるし。・・・・・・正直に言えば先輩が居てくれれば心強いですけど・・・・・・。」

 「そうね・・・・・・まどかちゃん一人だと大変そうだし・・・・・・私もやるわ。」
 「いいんですか?衣装の事もあるし、後で辞めるってことできないですよ?」
 「えぇ、大丈夫よ。やるといったからには、しっかりとやるわ。」
 隣で、三宅先輩が親指を立てている。
 ……しーらないっと。

 「じゃぁ、一緒に頑張りましょう。あ、そうそう、三宅先輩が、お礼にってビックパフェDX頼んでいいって。……あ、店員さーん。」

 ビックパフェDXは人気というのがわかると思うぐらいには美味しかったよ。

 
 「えっ、服ってこれなの?」
 美並先輩が衣装を手にして固まった。
 ここは私の部屋……三宅先輩から衣装を受け取ったので、早速着てみようと先輩の誘ったの。
 サイズが合わなかったら直してもらわないといけないからね。

 「モーターショーのコンパニオンみたいにきわどくないと思いますよ?」
 先輩が着るのは、とあるゲームのメインヒロインが戦闘時に変身した時のものだ。
 まぁ、ああいうゲームのお約束で、露出が多いって程ではないがボディラインは分かるし、ギリギリを攻める感じ……美並先輩なら十分着こなせると思うんだけどね。
 ちなみに私のは、お約束の変身魔法少女……ふわふわな衣装にステッキ付き・・・・・・
卓也の方もそうだけど、私のイメージって……。

 美並先輩は、衣装を手にしてまだ苦悩している。
 だから言ったのに・・・・・・
 「どうしてもダメなら、今からでも断りますか?
 迷惑はかけますが、無理強いするものでも無いですし。
 所詮は単なるお祭り・・・・・・いやな思いする人が居たら却って気を使っちゃいますから。」

 「ううん、やると言ったからには最後までやり通します。」
 美並先輩は意外と頑固だった。

 人生初のコスを経験した美並先輩。
 正直ヤバい。
 あの着る人を選ぶとまで言われた衣装を難なく着こなし、惜しげもなく晒されたボディライン。
 羞恥のため真っ赤に染まる顔と体。
 ぎこちないながらも一生懸命さが伺える初々しさ。
 
 私はパシャパシャと写真を撮る。
 恥じらう姿がかわいすぎて、一眼レフまで取り出しましたよ。
 仕事用の奴ですよ?
 問題ありますか?

 「美並先輩・・・・・・可愛い・・・・・・付き合って!」
 思わず告白しちゃうぐらい先輩は可愛かった。
 美並先輩専用のフォルダを作って永久保存よね。


 しかし・・・・・・コレはヤバすぎる。当日恐ろしいことになりそう。
 「あ、三宅先輩ですか?・・・・・・ハイ、・・・・・・ハイ、OKです。ハイ・・・・・・大丈夫です。
 あ、当日は美並先輩用のバリケードの用意お願いします。後、警護にあたれる人出来るだけ・・・・・・イエ、マジヤバイですって。もう私の嫁決定です。・・・・・・そんなにです!・・・・・・案件になりますよ。・・・・・・ハイ、お願いします。」
 丁度、三宅先輩から電話がかかってきたのでしっかりとお願いをしておいたよ。


 「タクの奴……人を呼びつけておいて待たせ過ぎじゃないの。」
 約束の時間はもう30分以上過ぎている。
 スマホにメッセージを送っても電話をしても、全く反応がない。
 私がここに来てから1時間半……そろそろお店の人の目が痛いよぉ……。
 ……タクとの約束が待ち遠しくて、予定の1時間も前に来てたわけではない。
 断じてそれはない!

 私は、昔から時間に細かい。
 それはもう、神経質なぐらいに……自分でも、ちょっと異常かなぁとは思うんだけど、性格だから仕方がないよね?
 とくに「時間に遅れる」事に関してはすっごく嫌だ。
 遅れるくらいなら、早めに行って待ってる方がマシというちょっと矛盾した性格なのよね。
 だから、約束の時間に遅れるというのは……特に自分が遅れるのは許せないのよ。
 そのせいか、私はいつも時間に余裕を見る癖がついている。
 それはもう余裕すぎるほどに……
 なぜ、そんな性格になったのかはよくわからないけど……「遅れる」事が凄く怖いのだから仕方がない。

 今日も30分ぐらいの余裕を見てたんだけど、タイミングが良すぎて、当初予定していた電車より、1本早い電車に乗れちゃったのよ。
 しかも快速だったから、乗ってる時間も短くて……結局1時間も早く着いちゃった。
 まぁ、余裕があって、待ってる分には問題ないんだけどね。
 
 こんな私なので、よく知っている人は、待ち合わせにはカフェか本屋など、時間を潰せるところを選んでくれる。
 加えて早めに来てくれる。
 学生時代には「まどか時間」なんてのがあったくらいなんだよ。

 ちなみに「まどか時間」というのは本当の時間より30分遅れを指すの。
 私が大体30分ぐらい早く来るから決まったんだって……。
 友達の間では「まどか時間5時半集合ね」と言えば、実際は「5時集合」って事らしいのよ。
 まぁ、こんな難儀な性格の私に付き合ってくれるんだから、友達には恵まれたと思うわ。

 ン……?窓の外からこっちに向かって走ってくるタクの姿が見える。
 やっと来たぁ……遅いよ全くっ!
 とりあえず、手を振って場所を伝える。
 私を見て、凄い気負いで走ってくる。
 
 「タク、おそ……」
 「バカヤロー!無事ならなんで連絡しないんだっ!」
 すごい勢いで怒られた……なんで?待たされたの私なのに!
 「はぁ?30分も待たしておいて、何よその言い方!そっちこそ、何の連絡もよこさなかったくせに!」
 「俺は何度も電話したんだ!なんで出ないんだよ!」
 タクの言い方に、カチンとくる……来るが、落ち着こう……タクは何だかんだと言っても優しい……余程のことがない限り怒鳴ったりしない……それくらいは分かってる。
 「ごめん、タク……一度おちつこ。……店員さんも困ってるから注文先にしよ。」
 「あぁ……そうだな。」
 
 私は、店員さんに、タクの分のブレンドのホットと、私のカフェオレのお代わりを注文する。
 タクは席に座り、水を煽るとちょっとは落ち着いたみたいだ。
 コーヒーがすぐに運ばれてくる。
 私はタクにコーヒーをすすめる。

 「ブラックでよかったよね?……とりあえず一口飲んで落ち着いて。」
 「あぁ……。」
 タクはゆっくりと深呼吸をして、息を整える。
 
 「ふぅ……。」
 「落ち着いた?」
 「あぁ、怒鳴って悪かった。」
 「いいよ、別に。……それより何があったの?私、何度も連絡したんだよ?」
 「俺だって何度も連絡したさ、でもつながらなくて……心配したんだぞ……。」
 後半の方は小声でよく聞き取れなかった。
 私とタクはお互いの履歴を見せ合う。
 私もタクも発信の履歴は残っているけど、着信の履歴はない。
 メッセージアプリの方も相手にメッセージが表示されていなかった……。

 「キャリア会社の不具合か?」
 「でも、そんな連絡来てないよ?」
 メールや通話のアンテナやサーバに異常があれば、メンテナンスやお詫びの連絡が入るのが普通だけど……。
 「それより、私の顔見て慌てていたけど……何があったの?」
 「説明するより、見せた方が早いか?」
 そう言って見せてくれたのはニュースサイト。
 電車が脱線事故を起こしたというものだ。……私がよく使う線……というより、今日私が乗ってきた1本後の電車だよ、コレ。
 結構大きな事故ですでに死傷者が100人を超えているって。

 「電車が中々来なくてな、イライラしてた時に、そのニュースが入ったんだよ。……待ち合わせ時間から考えると、お前がその線に乗ってるんじゃないかって、心配で心配で……電話も通じないし……。」
 タクがうつむく……涙ぐんでいるのは分かっていたが、ここはスルーしてあげよう。
 「確かに、その電車に乗るつもりだったけど、駅に着いたとき、1本前のに丁度間に合ったから、それに乗ったのよ。」
 「そうか……運がよかったな。」
 「そうね……。」
 タクは運がよかったと言う……確かに運がよかったのかもしれないけど……今までにもこういう事がよくあった……私って運がいいのかな?

 「運がいいっていうけどさ……なんか怖くない?」
 「何が?」
 「ほら、よく言うじゃない、「幸せと不幸のバランスはとれている」とか「幸せか不幸せかは運命の神様がダイスを振って決めている」とか……どこかで大きな不幸がまとめて来そうで……怖くない?」
 「うーん、なんかまどか見てると「不幸」という言葉が似合いそうにないんだなぁ……不幸が振ってきても、まどかを避けていくみたいな?」
 「えー、大きな事故に巻き込まれて、みんなすごい重症なのに、私だけかすり傷みたいな?」
 「そう、それ!」
 「それはそれでかえって怖いよぉ」

 私もタクも、時間がたって落ち着いてきたのか、いつもの冗談の応酬が始まる。
 うん、深刻な話は似合わない。
 こういう馬鹿な話をできる関係が心地いいよ。

 「っと、忘れる所だった。これ夜行バスのチケットな。……本当にそれでいいのか?一応新幹線代ぐらいは予算に入れてあるんだぜ?」
 「贅沢は敵!どうせ道中暇なんだし、寝てる間に着く方が楽でいいわ。」
 「ま、いいならいいさ……それより、なんで明日なんだよ。今日いっしょに行けると思って楽しみにしてたんだぜ?」 
 「私、明日の予定何もないのに、今日行ってどうすんのよ。」
 「ゆっくりと観光するとか?」
 「それで、夜は一緒の部屋とか言い出すんでしょ、バーカ。」
 「そ、それは……今の時期一人部屋なんて取れないし……それに……」
 タクは真っ赤になってモゴモゴ言ってる……どうやら図星だったみたい。
 ……タクの事は嫌いじゃないけどね……いいとこキスどまりだよねぇ。
 「まぁ、私のコスを見せてあげるんだから、それで我慢しなさいな。」

 その後、タクト他愛もない会話を続け、夜行に乗るというタクを見送って帰路に就く。
 ……1本違いか……
 「……運がよかったね。」
 誰?
 私は、さっと振り向くが、そこには誰もいない……
 でもさっき確かに聞こえた……どこかで聞いた事のある声……思い出せない。
 ……気の所為ね。
 私は急ぎ足で帰ることにした。


 「……でね、でね、お台場にはフジテレビがあるのよ!まどかちゃん知ってた?」
 「ハイ……。」
 「それでね……今レインボーブリッジがみえるバーで飲んでるのよ!なんでまどかちゃん一緒に来ないかなぁ?」
 「アハハ……三宅先輩とのデートが楽しかったんですね。」
 「楽しくなかった……っていえばウソになるけど……誰があんな奴……。」
 「あ、そろそろ出発の時刻が近づいているので、切りますね。……三宅先輩にお持ち帰りされないように飲み過ぎないでくださいね。」
 ツー……。
 私は電話を切ると夜行バスに乗り込む……えーとD-1……あっとここね。
 荷物を棚に上げて座席に座る。
 美並先輩楽しそうでよかった。
 東京初めてって言ってたから嬉しかったんだろうけど……なんかチョロくて心配だわ。

 「……から、変えろって言ってんだよ!」
 「そうは申されましても……。」
 「最初に窓際っつてんだろ!」
 前方で、係の人と言い合う女の人がいた……言葉使い悪いなぁ……。
 どうやら窓際がよかったのに通路側だから空いてるところに座らせろって揉めてるらしい。
 今相手ても、この後乗り込んでくるんだけどねぇ。
 ……関わり合いになりたくないけど……今、隣は空席だ。
 誰が乗って来るかわからない……けど、今喚いている人の席の横は女性だし……。
 「あの……他の方に迷惑ですし、よかったら席変わりますよ?」
 私がそう言うと、女の人は満面の笑みに、係の人はほっとした表情になった。
 私は、そのまま荷物を移動させ、席を変わる。
 
 「隣、失礼しますね。」
 私は隣人に声をかけておく。
 「ごめんな、ウチが変わったら良かったんやろうけど……。」
 あいつがどっか行ってくれた方がいいってボソッと呟く。
 「お知り合いなんですか?」
 「まぁ、一応……。」
 あまり触れられたくない話題のようだ。
 「じゃぁ、朝までよろしく……」
 そう言ってフードを下ろす。

 出発時刻が近づくにつれて、ゾロゾロと乗り込んでくる。
 私が座るはずだった席の横には、チャラい男が座っていた。
 ……席変わってよかった。

 「では、40名全員お揃いになりましたので出発いたします。途中……」
  
 そろそろ出発ね。
 スマホを見るとメッセージが3つ。
 タクからは「無事に出発したか?」という確認メッセージ。

 美並先輩からは「明日の夜は寝かせないわよぉー」という酔っ払い丸出しのメッセージ。

 三宅先輩からは、「南も、あと半分若ければなぁ……」という謎メッセージ。
 というか、完全に犯罪やん。

 私はそれぞれにメッセージを返す。
 「もうすぐ出発だよ、明日会場でね」とタクに。
 「お姉さまとなら、私……*ぽっ*」と美並先輩へ。
 「おまわりさーん、この人です!」と三宅先輩にも。

 そして、私は眠ることにする……明日は体力使うからね。
 休める時に休んでおかないと。

 ……夜中、ふと目が覚める。
 バスの揺れが激しくて、目が覚めてしまった。
 スマホを見ると午前2時になる少し前……イヤな時間だな。
 「あ、やっぱり起きたん?」
 隣から声がかかる。
 「あ、おはようございます……というのも変ですね。」
 「せやな。それより、見てみぃ。やけに揺れるおもーたら、山道や。結構スピードだしてんで。」
 私は、言われて窓の外を見る。
 確かに速度が……て。
 キキッーッ!
 急ブレーキの音に続き急ハンドルを切ったため傾く車内。
 一瞬ふわっと浮き上がる感じがした。
 そして、急に目の前が真っ暗になり、後の記憶は定かじゃないわ……。
 
 私が気づいたときには、無数の呻き声とつまるような血の匂い……前方で赤々と燃え上がる炎。
 とにかく逃げなきゃって、それだけしか考えられなかったわ。

 外に出ると、遠くの方でサイレンの音が聞こえた気がしたんだけど……私は、また気を失ったようであまり覚えていないのよ。
 
 次に気が付いたときは病院のベットの上だった。
 と言ってもね、私はちょっとした擦過傷と打ち身程度なんだけどね。
 一応頭打ってるからって、精密検査はされたけどね。

 警察の人や病院の人から聞いた話では、バスの乗員2名と乗客15人が死亡、他21人が全治3か月以上の重傷、私を含む3人が全治3週間以内の軽傷っていう、大きな事故だったらしいわ。
 原因はバスの運転手のスピードの出し過ぎ。……居眠りだったんじゃないかと調べている所なんだって。

 落ちた時に岩にぶち当たったらしく、バスの中央部分が大きくへしゃげ、その付近に座ってた人達は即死だったらしい。
 その話を聞いて私はゾッとした……。
 なぜなら、へしゃげた中心の席が、私が元々座るところだったから。

 あとね、病院に居た時に聞いた話だと、バスに残っていたカメラの映像では、事故が起こる前、ドライバーの顔が恐怖にひきつって見えたそうなのよ。
 バスの運転手が事故の前に何を見たのかって、病院内では一時噂になっていたわ。
 結局、公式にはその様な事はなかったかのように一切触れられなかったけどね。

 あと一つ気になるのは……公式発表では「乗客39名を乗せた深夜バスの事故」となってるけど……乗客は40名いたはずなのよ。

 あと一人って……

 まぁ、私はまたもや「運よく」助かったのよ。
 ただね?……運がいい人って、そもそもこんな事故にあわないんじゃないかしらね?
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