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引きこもり聖女と遺跡探索その2
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「ちょ、ちょっと待てよ。つまり、何か?ユウちゃんの親友のシルヴィアちゃんが生きているってことなのか?」
「そこまでは分からないわ。遺跡が存在するのは確かだけど、その機能がどこまで生きているか……最悪、シルヴィアの意識はなく、ただ装置を動かす為だけの存在となっている可能性もあるし。」
「どこにあるの?」
黙って聞いていたユウが、ミヤコ鋭い視線を向ける。
エルザに捕まってなければ、今にも飛び掛からんばかりの勢いだ。
「ごめんなさい。場所までは分からないの。だけど現存する遺跡を調べて行けば、ここのようにフェイクコアが生きている場所もあるはず。それらの情報を集めれば手掛かりはつかめると思うの。」
ミヤコはそう言ってユウの前に1枚の資料を見せる。
「これが教会のコアから取り出した情報の中で、判読不明だったものよ。ユウちゃんならわかるかと思って。」
その資料にはいくつかの地名と、数字や文字、それから図形などが描かれている。
数字はともかくとして、地名は聞き覚えのないものばかりだし文字も文章としての体を保っていない。
図形に至っては意味不明としか言いようがない。
「クックック……。」
資料を見ていたユウが、小刻みに体を震わせる。
「ユウ?」
エルザが心配そうにユウを覗き込むと、ユウはたまらなくなったのか、大声で笑いだす。
「ユウどうしたの?」
「あ、エルたん。これ見て。」
そう言って資料をエルザに見せる。
「これが何なの?」
しかしエルザにはそれを見せられても何のことかさっぱりわからない。
「暗号ごっこ。昔シルヴィとよく遊んでた。」
いつものごとく少ない言葉ではあるが、ユウの言わんとしていることは分かる。
つまり、これはシルヴィアからユウだけにあてたメッセージという事なのだ。
「なんて書いてあるの?」
「ん。……大いなる宝。見つけたらあげる。後は場所。」
「場所がわかるのっ?」
ユウの言葉にミヤコが食いついてくる。
遺跡の事を知り、昨日一晩かけて調べても何の手掛かりも見つけられなかったのだ。
それが分かるのであれば、と、ミヤコはユウに教えてくれるように催促する。
「説明しにくい。地図欲しい。」
「地図かぁ。難しいねぇ。それこそ国王様ぐらいじゃないともってないかもね。」
土地の周辺の地形や、街道の位置、森や川などの位置は、その場所を知る者にとっての重大な情報であり、国に高く売れる。
詳細な地図があれば、それだけ攻めやすくなるからだ。
逆に言えば、詳細な敵対国の周辺地図があれば攻めるのに易くくなる。
だから詳細な地図になるほどその情報は秘匿され厳重な管理下に置かれる。
なので地図の類は出回っておらず、逆に敵国のスパイを欺くために偽物迄出回っているというのがこの世界の現状である。
「そう言えば、王様こっちに来るんだよね?」
イーリスたちが出て行ったのは、この会議が始まる前。
イーリスの速さであればそろそろ王都に着くころであり、上手くいけばもう半刻も経たないうちにガリアの国王がこの地へやってくることになる。
「タイミングがいいな。」
カズトがそういうがエルザは少し難しい顔をする。
「エルたん、何か心配事?」
「あ、うん。王様ってクーデターで追われたんだよね?そんな人が地図を持ち歩くかなぁって。」
「とりあえずどこにあるかぐらいは教えてくれるでしょ?ダメなら最悪ハルピュイア達にお願いして上空から見た図を作ればなんとかなるんじゃない?」
どのみち、詳細な場所など分かりはしないのだ。
ユウの解読した場所周辺で、ある程度探索しなければならないのは織り込み済みだから、地図が絶対に必要というわけでもない。
ミヤコはそう言って、一度休憩を挟むことにする。
後は王様への対処をどうするか?という問題だけだが、これはユウの一言でほぼ決まった。
「ん?王様がいい人ならここに住めばいい。」
「住むって、簡単に言うけど……。」
「どうせ王宮に戻るのに時間がかかる。私たちはここを離れる。だったらだれか管理してくれる人がいた方がいい。」
「まぁ確かに私たちが遺跡探索に行っている間の事を考えるとね……。」
「違う。そういう事じゃない。」
ミヤコの言葉をユウが遮る。
「どういうこと?」
「推測だけど、シルヴィが残したものを調べれば、向こうの大陸へ帰れる。」
「あ、そっか、そうだよね……。」
忘れかけていたが、この大陸へは事故で辿り着いたものであり、元の大陸へ戻る手段があれば、もちろん戻るに決まっている。
ただ、その手段によっては、こちらに来ることが出来なくなる可能性だってあるのだ。
「とりあえず、そのことは帰る手段が見つかってから考えましょ?」
思い悩むミヤコにエルザが優しく声をかける。
帰るまでにガリア王国のゴタゴタは片づけておきたい。
それまでの間は国王一族にはここで暮らしてもらう事は決定だ。
ユウの言ったことは、あくまでも一つの方針であって、後の事はそれこそ本人たちに任せるしかない。
「そうね。とりあえずは国王様を迎える準備でもしましょうか?」
ミヤコはそういうと、メイドちゃん達に指示を出していくのだった。
◇
「あー、そなたが聖女殿か?」
「違いますわお父様!」
転移によって移動してきた国王夫妻と、それに付き添うアルベルト、そして転移石を持ったミアンが、便宜上「転移の間」としてある教会の奥の部屋に戻ってきたのは少し前。
とりあえず聖女に挨拶したいという国王の意向を受けて、サロンへと案内したのだ。
サロンには第一王子のアルベルトと王女のオリビアも呼んでいるので、国王一家が勢ぞろいしたこととなる。
そして、エルザを見た国王の第一声を王女のオリビアが即座に遮り否定する。
「こちらは巫女であらせられるエルザ様ですわ。聖女様はユウ様と申しまして、エルザ様より美しく気品に溢れ、それはもう女神様と呼んでも差し支えがない、いえ、女神様とお呼びして崇め奉るべきですわ。そもそも、女神ユウ様と言えば、その仕草が何とも可愛らしく、かと思えば、ちょっぴり意地悪で、そこがもう……。」
オリビアのユウへの賛美が延々と続く中、国王は、カインに視線を向けるが、カインは首を振る……。どうしようもない、という事だろう。
まだまだしゃべり続けるオリビアを、メイドちゃん達がそっと片隅へのテーブルへ連れていく。
そのテーブルには大小さまざまなぬいぐるみが置かれ、自分の語りに陶酔しているオリビアは、そんなぬいぐるみたちに向かって、延々とユウのすばらしさを語り続けるのだった。
「ウム、巫女殿。この度は我らをお救い下さり、誠にかたじけない。」
そんなオリビアの様子を、何か怖いもんでも見るような表情をしていた国王だったが、改めてエルザに向き直ると、姿勢を正し頭を下げる。
「頭をお上げください。国王たるものが軽々しく頭を下げるものではないのでしょう?後、私の事はエルザとお呼びくださいませ。それより何があったか話していただけますでしょうか?こちらのカイン殿下も、すごくご心配なされておられたのですよ?」
エルザは貴族向けの口調でそう言い、一歩下がりカインを前面に押し出す。
「そうだな、何から話せばよいか……。まずおぬしらがこの村に向かった直後からだな……。」
そう言って国王が話し出す。
国王の話を一言でまとめると「お家騒動」だった。
アルベルトの素養、中でもカインを凌ぐほどの武勇を示したのがよくなかったらしい。
軍務卿を始めとする武闘派にとって、武勇のないカインは廃嫡にし、アルベルトを次期国王にするのだという機運が盛り上がった。
まぁ、純粋にそう思っているのは軍務卿とその一派だけで、他は、今の体制ではあまりおいしい思いが出来ない寄生虫のような貴族ばかりだったが。
それでも、今までは、国王がカインを次期国王と正式に認めていたこともあり、アルベルトはが表立って何かをすることはなかった。
精々、アルベルトの武勇を盛って喧伝し、外堀を埋めていくぐらいだったが、ガリア王国は勇者が建国したという成り立ちもあり、アルベルトの武勇伝は多くの国民に好意的に受け入れられていたため、一歩足元を崩せば、カインの代わりにアルベルトが次期国王になることもあり得る、と思わせるぐらいにはなっていた。
アルベルトもそのあたりについては理解していたため、王位に興味ない放蕩王子を演じていたのだが、その行く先々で何故かトラブルに巻き込まれることが多く、それを自らの力で解決してしまうために、結果としてアルベルト人気は上昇する一方だった。
そんな折、アルベルトが大きなミスをするという情報が宮廷内に流れる。
このタウの村でのことだ。
事実としてはスパイ容疑で丁重に追い出されただけなのだが、これを第一王子派はアルベルトの人気を落とすために情報操作をする。
つまり、「敵国の辺境の村に攻め入った第二王子は成す術もなく撃退され、更には人質として王女を差し出す約束までさせられた」という噂を流したのだ。
更に、カイン王子がタウの村へいく事も利用し、「第二王子の失態をカイン王子が取り戻すために、自ら出征することになった。カイン王子の威光はすでに彼の地にも届いており、無条件に受け入れることを確約している」という噂も併せて流したのだ。
そして、形勢が不利になった第二王子派は、タウの村への攻撃の意思のない国王を「軟弱な無能者」として弾劾しクーデターを起こした。
……というのがこれまでの経緯らしかった。
「あほらし。」
ミヤコがボソッと呟く。
「そう言わないでくれ。」
ミヤコの態度を咎めることもなく、国王は苦笑する。
「わしにとっては面倒なだけな役割も、他の者には羨ましく思うらしい。儂にとって、あの玉座は国王という名に縛り付ける拘束具にしか見えないが、他の者には黄金を生み出す金の椅子に見えるのだそうだ。」
自嘲するようにそう漏らす国王に対し、エルザは優しく言う。
「そういう考えを持つ王様ですから、国民は安心して日々を暮らすことが出来るのです。ガリアの国民は良い王をもって幸せですわ。」
「しかし、結局は民を危険に晒してしまった。」
「そうですわね。でも、過ぎたことに悩むより、これからのことに悩む方が建設的ですわよ。」
エルザはそう言って国王に微笑みかける。
「ウム、そうじゃな。……そなたは素晴らしい女性だ。どうだ側室にならぬか?」
バシっ!
国王の言葉にエルザが答えるよりも早く、ハリセンが国王を打ちのめす。
「エルたんは私の嫁!手を出すなら潰す!」
「ユウっ!どうしたの?休んでなくていいの?」
ハリセンを抱えたユウにエルザが問いかける。
「邪な波動をキャッチした。……じゃなくてイーリスから連絡があった。」
「イーリスから?なんて?」
「イーリスが……。……あ、うん問題ない、大丈夫。」
なにかを言いかけたユウが口籠る。
「邪魔した。」
「待ちなさい。」
踵を返して出て行こうとするユウをエルザが捉える。
今のユウはなにか都合の悪いことを隠しているときの挙動をしている。付き合いの長いエルザにはそれがわかる。
「何があったのかな?正直に言わないと、今夜からユウ一人よ?」
「うぅ、言うとエルたん怒る。」
「言わないともっと怒るわよ。」
「……ミヤコガード!」
ユウはそう言うとミヤコの後ろに隠れる。
……が、当のミヤコによって、エルザの前に突き出される。
「勝手にガードに使わないで。私だってエルちゃんに怒られるの嫌なんだからね。」
「うぅ、孤立無援……。」
進退窮まるユウだが、カズトの姿を認めるとすぐさま駆け寄る。
「カズト、助けて。助けてくれたら今夜一緒に寝る。」
「マジかっ!」
思わず叫ぶカズトだが、エルザとミヤコの視線を受けて、戦略的撤退を余儀なくされる。
「あー、急用を思い出した。ゴメンな。」
そう言って部屋から飛び出していくカズト。
ユウは他に助けてくれる人がいないかと部屋の中を見回すが、みんな目を合わせようとしない。
「ユウ?」
エルザの冷たい声が響き、ユウは観念する。
「怒らないで聞いて。」
「内容によるわ。」
「……ガリアの王宮、なくなちゃった。テヘッ。」
精一杯の努力だろう。ユウは可愛らしくそういった。
「そこまでは分からないわ。遺跡が存在するのは確かだけど、その機能がどこまで生きているか……最悪、シルヴィアの意識はなく、ただ装置を動かす為だけの存在となっている可能性もあるし。」
「どこにあるの?」
黙って聞いていたユウが、ミヤコ鋭い視線を向ける。
エルザに捕まってなければ、今にも飛び掛からんばかりの勢いだ。
「ごめんなさい。場所までは分からないの。だけど現存する遺跡を調べて行けば、ここのようにフェイクコアが生きている場所もあるはず。それらの情報を集めれば手掛かりはつかめると思うの。」
ミヤコはそう言ってユウの前に1枚の資料を見せる。
「これが教会のコアから取り出した情報の中で、判読不明だったものよ。ユウちゃんならわかるかと思って。」
その資料にはいくつかの地名と、数字や文字、それから図形などが描かれている。
数字はともかくとして、地名は聞き覚えのないものばかりだし文字も文章としての体を保っていない。
図形に至っては意味不明としか言いようがない。
「クックック……。」
資料を見ていたユウが、小刻みに体を震わせる。
「ユウ?」
エルザが心配そうにユウを覗き込むと、ユウはたまらなくなったのか、大声で笑いだす。
「ユウどうしたの?」
「あ、エルたん。これ見て。」
そう言って資料をエルザに見せる。
「これが何なの?」
しかしエルザにはそれを見せられても何のことかさっぱりわからない。
「暗号ごっこ。昔シルヴィとよく遊んでた。」
いつものごとく少ない言葉ではあるが、ユウの言わんとしていることは分かる。
つまり、これはシルヴィアからユウだけにあてたメッセージという事なのだ。
「なんて書いてあるの?」
「ん。……大いなる宝。見つけたらあげる。後は場所。」
「場所がわかるのっ?」
ユウの言葉にミヤコが食いついてくる。
遺跡の事を知り、昨日一晩かけて調べても何の手掛かりも見つけられなかったのだ。
それが分かるのであれば、と、ミヤコはユウに教えてくれるように催促する。
「説明しにくい。地図欲しい。」
「地図かぁ。難しいねぇ。それこそ国王様ぐらいじゃないともってないかもね。」
土地の周辺の地形や、街道の位置、森や川などの位置は、その場所を知る者にとっての重大な情報であり、国に高く売れる。
詳細な地図があれば、それだけ攻めやすくなるからだ。
逆に言えば、詳細な敵対国の周辺地図があれば攻めるのに易くくなる。
だから詳細な地図になるほどその情報は秘匿され厳重な管理下に置かれる。
なので地図の類は出回っておらず、逆に敵国のスパイを欺くために偽物迄出回っているというのがこの世界の現状である。
「そう言えば、王様こっちに来るんだよね?」
イーリスたちが出て行ったのは、この会議が始まる前。
イーリスの速さであればそろそろ王都に着くころであり、上手くいけばもう半刻も経たないうちにガリアの国王がこの地へやってくることになる。
「タイミングがいいな。」
カズトがそういうがエルザは少し難しい顔をする。
「エルたん、何か心配事?」
「あ、うん。王様ってクーデターで追われたんだよね?そんな人が地図を持ち歩くかなぁって。」
「とりあえずどこにあるかぐらいは教えてくれるでしょ?ダメなら最悪ハルピュイア達にお願いして上空から見た図を作ればなんとかなるんじゃない?」
どのみち、詳細な場所など分かりはしないのだ。
ユウの解読した場所周辺で、ある程度探索しなければならないのは織り込み済みだから、地図が絶対に必要というわけでもない。
ミヤコはそう言って、一度休憩を挟むことにする。
後は王様への対処をどうするか?という問題だけだが、これはユウの一言でほぼ決まった。
「ん?王様がいい人ならここに住めばいい。」
「住むって、簡単に言うけど……。」
「どうせ王宮に戻るのに時間がかかる。私たちはここを離れる。だったらだれか管理してくれる人がいた方がいい。」
「まぁ確かに私たちが遺跡探索に行っている間の事を考えるとね……。」
「違う。そういう事じゃない。」
ミヤコの言葉をユウが遮る。
「どういうこと?」
「推測だけど、シルヴィが残したものを調べれば、向こうの大陸へ帰れる。」
「あ、そっか、そうだよね……。」
忘れかけていたが、この大陸へは事故で辿り着いたものであり、元の大陸へ戻る手段があれば、もちろん戻るに決まっている。
ただ、その手段によっては、こちらに来ることが出来なくなる可能性だってあるのだ。
「とりあえず、そのことは帰る手段が見つかってから考えましょ?」
思い悩むミヤコにエルザが優しく声をかける。
帰るまでにガリア王国のゴタゴタは片づけておきたい。
それまでの間は国王一族にはここで暮らしてもらう事は決定だ。
ユウの言ったことは、あくまでも一つの方針であって、後の事はそれこそ本人たちに任せるしかない。
「そうね。とりあえずは国王様を迎える準備でもしましょうか?」
ミヤコはそういうと、メイドちゃん達に指示を出していくのだった。
◇
「あー、そなたが聖女殿か?」
「違いますわお父様!」
転移によって移動してきた国王夫妻と、それに付き添うアルベルト、そして転移石を持ったミアンが、便宜上「転移の間」としてある教会の奥の部屋に戻ってきたのは少し前。
とりあえず聖女に挨拶したいという国王の意向を受けて、サロンへと案内したのだ。
サロンには第一王子のアルベルトと王女のオリビアも呼んでいるので、国王一家が勢ぞろいしたこととなる。
そして、エルザを見た国王の第一声を王女のオリビアが即座に遮り否定する。
「こちらは巫女であらせられるエルザ様ですわ。聖女様はユウ様と申しまして、エルザ様より美しく気品に溢れ、それはもう女神様と呼んでも差し支えがない、いえ、女神様とお呼びして崇め奉るべきですわ。そもそも、女神ユウ様と言えば、その仕草が何とも可愛らしく、かと思えば、ちょっぴり意地悪で、そこがもう……。」
オリビアのユウへの賛美が延々と続く中、国王は、カインに視線を向けるが、カインは首を振る……。どうしようもない、という事だろう。
まだまだしゃべり続けるオリビアを、メイドちゃん達がそっと片隅へのテーブルへ連れていく。
そのテーブルには大小さまざまなぬいぐるみが置かれ、自分の語りに陶酔しているオリビアは、そんなぬいぐるみたちに向かって、延々とユウのすばらしさを語り続けるのだった。
「ウム、巫女殿。この度は我らをお救い下さり、誠にかたじけない。」
そんなオリビアの様子を、何か怖いもんでも見るような表情をしていた国王だったが、改めてエルザに向き直ると、姿勢を正し頭を下げる。
「頭をお上げください。国王たるものが軽々しく頭を下げるものではないのでしょう?後、私の事はエルザとお呼びくださいませ。それより何があったか話していただけますでしょうか?こちらのカイン殿下も、すごくご心配なされておられたのですよ?」
エルザは貴族向けの口調でそう言い、一歩下がりカインを前面に押し出す。
「そうだな、何から話せばよいか……。まずおぬしらがこの村に向かった直後からだな……。」
そう言って国王が話し出す。
国王の話を一言でまとめると「お家騒動」だった。
アルベルトの素養、中でもカインを凌ぐほどの武勇を示したのがよくなかったらしい。
軍務卿を始めとする武闘派にとって、武勇のないカインは廃嫡にし、アルベルトを次期国王にするのだという機運が盛り上がった。
まぁ、純粋にそう思っているのは軍務卿とその一派だけで、他は、今の体制ではあまりおいしい思いが出来ない寄生虫のような貴族ばかりだったが。
それでも、今までは、国王がカインを次期国王と正式に認めていたこともあり、アルベルトはが表立って何かをすることはなかった。
精々、アルベルトの武勇を盛って喧伝し、外堀を埋めていくぐらいだったが、ガリア王国は勇者が建国したという成り立ちもあり、アルベルトの武勇伝は多くの国民に好意的に受け入れられていたため、一歩足元を崩せば、カインの代わりにアルベルトが次期国王になることもあり得る、と思わせるぐらいにはなっていた。
アルベルトもそのあたりについては理解していたため、王位に興味ない放蕩王子を演じていたのだが、その行く先々で何故かトラブルに巻き込まれることが多く、それを自らの力で解決してしまうために、結果としてアルベルト人気は上昇する一方だった。
そんな折、アルベルトが大きなミスをするという情報が宮廷内に流れる。
このタウの村でのことだ。
事実としてはスパイ容疑で丁重に追い出されただけなのだが、これを第一王子派はアルベルトの人気を落とすために情報操作をする。
つまり、「敵国の辺境の村に攻め入った第二王子は成す術もなく撃退され、更には人質として王女を差し出す約束までさせられた」という噂を流したのだ。
更に、カイン王子がタウの村へいく事も利用し、「第二王子の失態をカイン王子が取り戻すために、自ら出征することになった。カイン王子の威光はすでに彼の地にも届いており、無条件に受け入れることを確約している」という噂も併せて流したのだ。
そして、形勢が不利になった第二王子派は、タウの村への攻撃の意思のない国王を「軟弱な無能者」として弾劾しクーデターを起こした。
……というのがこれまでの経緯らしかった。
「あほらし。」
ミヤコがボソッと呟く。
「そう言わないでくれ。」
ミヤコの態度を咎めることもなく、国王は苦笑する。
「わしにとっては面倒なだけな役割も、他の者には羨ましく思うらしい。儂にとって、あの玉座は国王という名に縛り付ける拘束具にしか見えないが、他の者には黄金を生み出す金の椅子に見えるのだそうだ。」
自嘲するようにそう漏らす国王に対し、エルザは優しく言う。
「そういう考えを持つ王様ですから、国民は安心して日々を暮らすことが出来るのです。ガリアの国民は良い王をもって幸せですわ。」
「しかし、結局は民を危険に晒してしまった。」
「そうですわね。でも、過ぎたことに悩むより、これからのことに悩む方が建設的ですわよ。」
エルザはそう言って国王に微笑みかける。
「ウム、そうじゃな。……そなたは素晴らしい女性だ。どうだ側室にならぬか?」
バシっ!
国王の言葉にエルザが答えるよりも早く、ハリセンが国王を打ちのめす。
「エルたんは私の嫁!手を出すなら潰す!」
「ユウっ!どうしたの?休んでなくていいの?」
ハリセンを抱えたユウにエルザが問いかける。
「邪な波動をキャッチした。……じゃなくてイーリスから連絡があった。」
「イーリスから?なんて?」
「イーリスが……。……あ、うん問題ない、大丈夫。」
なにかを言いかけたユウが口籠る。
「邪魔した。」
「待ちなさい。」
踵を返して出て行こうとするユウをエルザが捉える。
今のユウはなにか都合の悪いことを隠しているときの挙動をしている。付き合いの長いエルザにはそれがわかる。
「何があったのかな?正直に言わないと、今夜からユウ一人よ?」
「うぅ、言うとエルたん怒る。」
「言わないともっと怒るわよ。」
「……ミヤコガード!」
ユウはそう言うとミヤコの後ろに隠れる。
……が、当のミヤコによって、エルザの前に突き出される。
「勝手にガードに使わないで。私だってエルちゃんに怒られるの嫌なんだからね。」
「うぅ、孤立無援……。」
進退窮まるユウだが、カズトの姿を認めるとすぐさま駆け寄る。
「カズト、助けて。助けてくれたら今夜一緒に寝る。」
「マジかっ!」
思わず叫ぶカズトだが、エルザとミヤコの視線を受けて、戦略的撤退を余儀なくされる。
「あー、急用を思い出した。ゴメンな。」
そう言って部屋から飛び出していくカズト。
ユウは他に助けてくれる人がいないかと部屋の中を見回すが、みんな目を合わせようとしない。
「ユウ?」
エルザの冷たい声が響き、ユウは観念する。
「怒らないで聞いて。」
「内容によるわ。」
「……ガリアの王宮、なくなちゃった。テヘッ。」
精一杯の努力だろう。ユウは可愛らしくそういった。
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