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引き籠り聖女 VS スカイドラゴン その2

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「ユウ……。」
エルザがヨロヨロと起き上がり、空を見上げる。
「エルちゃん大丈夫っ!?」
ミヤコがカズトを突き飛ばし、エルザの下に駆け寄る。

「……えっと、いい雰囲気……だったよな?」
「ん、まぁ、種の生存本能ってところね。」
「みぃ……今までどこにいたんだよ。」
突然現れて、カズトの呟きに、夢も希望もない事実を告げるサキュバスの娘に、カズトは軽い苛立ちをぶつける。
「ユウの傍よ。さすがにドラゴン相手じゃ、ユウの力無しでは勝ち目がないからね。」
「お前が呼んできてくれたのか?」
「そうよ、感謝してよね。」
「あぁ、感謝する。お礼に一杯抱いてやろうか?」
「それはノーサンキュー。だけど、あの娘とイチャイチャするときには参加させてね。」
みぃは、軽く舌を出して、地ロリと舐めながらミヤコの方に視線を向ける。
「……そんな日が来るといいな。」
カズトは、どこか遠いところを見ながら呟くのだった。

「ユウ……。」
「そうよ、ユウちゃんが来てくれたのよ。」
「……空飛んでる……ズルい。」
「そこっ!?」
ミヤコは、エルザのピント外れな言葉に軽く突っ込みながら、エルザを抱えて、後ろへと下がる。

ユウが来てくれたことで、勝機は見えてきたが、ドラゴンとユウがぶつかり合って、この辺り一帯が無事で済むわけがない。
それでもユウの事だから、エルザだけは守ろうとするだろう。
つまり、安全圏はエルザの周りのみ、という事だ。
だから、カズトと、いつの間にか来ていたみぃの許へと急ぐ。そうしなければあの二人が危険だからだ。

みぃも、そんなミヤコの意図を汲んでくれたのだろう。
カズトを引きずってミヤコの許へやってくる。

「ミヤコ、何とか間に合ったみたいね。」
「みぃ、あなたがユウちゃんを?」
「うん、苦労したわよ。」
「ありがとうね。でももう少し早く来て欲しかった。」
……そうすれば、カズトと抱き合ってキスをしなくてもよかったのに……と、今更ながらに恥ずかしくなり、顔を赤く染める。
「無茶言わないでよ。あの子が引き籠ると、何をやっても反応がないのよ。本気で引き籠ったあの子をどうにかできるのはこの娘だけなのよ?」
みぃは、エルザにポーションを飲ませながらそう言う。
「結局、『エルたんが危ないよ』って言う一言で何とか出てきたんだからね。」
「そうね。私が悪かったわ。そしてありがとうね。」
「わかればいいのよ、わかれば。」
素直に謝罪するミヤコに少し照れを感じて、みぃは空にいるユウを見上げる。
そこには、対峙したまま動かない、一人の少女と、一頭の龍の姿が、先程と変わらないままあった。


「エルたん虐めた。」
『小娘の癖に……この圧は何だ……。』
「エルたん虐めた!」
『くぅ……。おのれの力を顧みず向かってきた方が悪いのだ。』
「エルたん虐めたっ!!」
『それがどうしたっ!』
スカイドラゴンは、気圧されている自分を奮い立たせるように大声で叫ぶ。
しかし、事この場においては、悪手と言わざるを得ないだろう。

ピュンッ!

スカイドラゴンの叫びが終わらないうちに、ユウの指先が一瞬光る。
その直後、ドラゴンの翼に穴が穿たれる。
『っつ!小娘何を……ッ!!」

ピュンッ!ピュンッ!

ユウが小刻みに指先を動かし、ドラゴンの翼に穴を穿ち続ける。

「えっと、『エ・ル・た・ん・L・O・V・E』……遊んでるわね。」
下でその様子を見ていたミヤコが呆れたように呟く。
近くで見れば、無造作に穿たれた穴だが、離れてみると、その穴が文字になっていることが分かる。

『ちょっ、ちょっと、マテ……。』
「待たない。」
ユウが腕を振り落とすと、天空より大きな隕石が降り注ぎ、スカイドラゴンの身体を掠めていく。
「エルたん虐めた罪は万死に値する。そう簡単には殺さない。」
無数の光の矢が降り注ぐ。
ドラゴンの身体を掠め、貫いていくが、どれも致命傷となる部分は見事に避けられている。

『ちょっ、まっ……』
「即死はさせない。死にそうになったら回復してあげるから安心する。」
ユウの手から放たれた紅蓮の炎が、尻尾や翼など、末端を焼き尽くす。

「えげつないわね。傷つけて再生しての無限ループってことでしょ?」
みぃが魔族もひくわーと、顔を背ける。

『ちょっ……その魔力、その性格、まさか、破壊神……。』
「うるさい。」
ユウが腕を振ると風の刃が、ドラゴンの翼を切裂く。
揚力を失ったスカイドラゴンは、バランスを崩して地表へと落ちてくる。

『クッ……。』
スカイドラゴンは大きく口を開けブレスを吐こうと試みる。
『グボッ……』
その口の中に、ユウは水の玉を叩き込み、更には氷の槍で貫いていく。

『ま、待て、話を……。』
「エルたん虐めた。」
爆炎が、ドラゴンの右前脚を跡形もなく吹き飛ばす。

『ま、待って……』
「エルたん虐めたっ!」
立て続けに爆炎が起き、ドラゴンの足を吹き飛ばす。

『……待って、謝る、謝るからっ!』
慌てて、早口で言い切るドラゴン。
「態度がなってないっ!」
尻尾を吹き飛ばすユウ。

『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。私が悪かったですっ。ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。』
ドラゴンは惨めに地面に転がったまま謝罪を口にする。
「頭が高い」
ユウは、そのドラゴンの頭を踏みつける。
『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。何でも言うこと聞きますから、許して。』
「許すのは私じゃない。エルたん。」
『エルたん様、どうかお慈悲をっ!』
唯一動く頭部を、地面にめり込む勢いで下げ、許しを請うスカイドラゴン。
ここまで来ると、かえって罪悪感が募る。

「エルたん様言うなっ!」
エルザは体力が回復していないのに思わずツッコむ。
そのせいで、ふらっと倒れそうになったところを、ユウが慌てて抱きかかえる。
「エルたん虐めた?」
『ちょ、今のは私の所為じゃないですってばっ!』
「とりあえず殴る」
『ちょっ!』
殴ると言いながらユウが放った風の刃が、再生しかけていた翼を再度切り落とす。

『あのぉ……マジで痛いんですよ。勘弁してください、ホント。』
ユウが手加減しているとはいえ、なんだかんだ言ってもタフなスカイドラゴンだった。

「えっと、少し疲れるから、出来れば人の姿になってくれない?」
座り込んでいるエルザがそうドラゴンに告げる。
地に付しているとはいえ、巨大なドラゴンと目を合わせるのには、かなり見上げる必要があり、回復中のエルザにとっては、それだけでも一苦労なのだ。
『えっと、そうしたいのはやまやまなんですが、手足がもげている今、人の姿になると、かなり見た目がよろしくないかと……』

「メガヒール!」
人型になるのを躊躇うドラゴンに、ユウが回復魔法をかけると、ドラゴンの欠損部位が、見る見るうちに再生していく。
「エルたんのお願いは最優先事項。さっさと人型になる。」
『あっ、はい。』
ユウに足蹴にされたドラゴンが人化の魔法を唱える。

「これで如何でしょう?」
「いいけど……あなた、さっきは男性の姿じゃなかった?」
エルザが疑問を口にする。
当初、エルザたちの前に現れたのは、少し渋めのダンディな男性だった。
しかし、今目の前にいるのは、メイドちゃんのシアよりやや幼いくらいの見た目の少女だった。

「あー、あの姿は私を助けてくれたお嬢様の希望だったんですよ。」
話を聞けば、ドラゴン族に性別の概念はないらしく、相手に合わせて自由に変えるとの事だった。
「それに、破壊神様の前なら、こっちの姿の方がマシじゃないかと。」
「却って、そっちの方がマズい気もするけどねぇ。」
ミヤコがドラゴンの言葉を聞いて、ボソッと呟く。

「あの……って、ユウのこと知ってるの?」
エルザは、ミヤコの言葉をスルーしてドラゴンに訊ねる。
「あ、私の事はイーリスとお呼びください、エルたん様。」
「エルたんヤメロ。」
「ヒ、ヒィっ……失礼しました。エル・・・・・・様?」
「……まぁ、いいわ。それで?」
「あっ、はい。あのお方は破壊神ユースティア様で間違いないですよね?」
「破壊神って言うのは語弊があるけど、あの娘はユースティアよ。……昔のあの娘のこと知ってるの?」
「え、えぇ……。昔はユースティア様に脅され……じゃなくて、お願いされて、馬車馬……じゃなく、奴隷……でもなく、手足、そう、手足のようにこき使われていました。」
焦りながら、言い繕うイーリス。

「ユウはそのこと知ってるのかしら?」
エルザは、少し離れた場所で、みぃと戯れているユウに視線を向ける。
「多分、覚えていらっしゃらないかと。当時のあの方にとって、我々など、塵芥に等しい存在でしたから。」
「塵芥って……ユウはそんな娘じゃないわよ?」
「それはエル……様が、昔のあの方を知らないからそう思われるのですよ。当時のあの方と言えば、まさしく破壊神の名に相応しい……。」
エキサイトして、色々と語り出すイーリスの頭を、背後によっていたユウの手がガシッと掴む。

「あの時の生き残り?」
「あわわっ、いつのまにっ!」
「エルたん、虐めた?」
「虐めてないですっ。むしろこっちが虐められてますぅ。エル……様には忠誠を捧げていますぅ……。エル……様からも、何とかとりなしてくださいよぉ。」
「とりなすって……別にいいけど、それよりあなた、渡世の義理、とかはいいの?」
「痛たた……そんなのどうでもいいですぅ……。い、痛いですっ……。それに、義理を果たす相手もいませんし。」
ユウに頭を締め上げられながら、そう答えるイーリス。

「居ないって……。」
訝し気に周りを見回すエルザ。
イーリスのブレスと、ユウの放った魔法の余波で、辺り一面は荒野となっていて見晴らしがいい。
ところどころ大きなクレーターが空いているが、数年もすれば豊かな湖となっているに違いない。
タウの村はエルザたちが背にしていたため、城壁に一部が破壊されている以外は無事なようだが、逆に言えば、それ以外はすべて焼き尽くされている……。つまり、あのバカ元領主も、跡形もなく消し炭になったという事だ。

「……復興が大変ね。」
エルザは、予想以上の被害から目を逸らし、そんなことを呟く。
「ついカッとしてやった。反省も後悔もしてない。」
「反省しなさいっ!」
悪びれもせずに言うユウを、エルザは「正座」と言って座らせ、説教を始める。
何故か、その横でイーリスも正座をして項垂れていた。



「とりあえず、これからしばらくは復興作業よ。イーリスにも手伝ってもらうからね。」
小一時間ほどの説教を終えたエルザは、そう言って、一度タウの村に戻ることにする。
これからの事をみんなと相談しなければならないのだ。
特に、大至急取り掛からなければならないのは、食糧の自給についてだ。
荒野になったため、自然が戻るまでの間の食糧確保手段を考えなければいけない。
と言っても、現状で出来るのは、荒野を耕して農地を広げることぐらいだが。

「それならば、任せて下され。自分の不始末は自分でつけまする。」
イーリスはそういうと、ドラゴンの姿に戻り、空高く舞い上がる。
そして、少し周りを見回した後、クレーターの一つに身を沈めると、天に向かって吠える。

「龍の詩……。」
ユウが、その咆哮を聞きながらそう呟く。
確かに、独特の節があり、聞き様によっては歌と言えなくもない。
「ねぇねぇ、ユウちゃん。その『竜の詩』ってなんなの?」
「……古に伝わる龍族の再生魔法。実在したのね。」
ユウが答える前に、みぃがそう呟く。
何でも、竜族の超回復を利用した、周りに恵みを与える、龍族のみに伝わる魔法だそうだ。
「龍の周りに慈愛の泉が溢れ、恩恵を受けた大地は大いなる恵みを芽吹かせる……と言われてるわ。」
みぃの説明のように、イーリスがいるクレーターはなみなみと水を湛え、そこを中心に緑が広がっていく。

「ねぇ、エルザ。あそこは恵みの森になるわ。だけど、それを巡って争いの種にもなるの。だから管理者が必要だと思わない?」
「……何が言いたいの?」
「あそこを管理する種族を私が勧誘してくるから、あそこを頂戴。」
「……即答は出来ないわ。色々条件をお互いにクリアできるのなら?ってことでどう?」
「ん、今はそれでいいかな。じゃぁ、早速行ってくるね。」
みぃはそう言って、空高く飛んでいく。

「はぁ、なんか色々大変なことになりそうね。」
「うん、取り敢えず、一度村に戻りましょう。エルちゃん忘れてるかもしれないけど、王子様たち置き去りよ?」
「今の騒ぎで消えていたりは……。」
「しないから。」
「……今なら、王子一行が消えても、全部、ドラゴンの所為に出来るよね?」
「出来るけどっ!ダメだからね。エルちゃん、最近思考が物騒だよ。」
「消す?」
「消さないからっ!……エルちゃんがそんなんだからユウちゃんが本気にするでしょ。これ終わったら休んでていいから。ユウちゃんと一緒に引き籠ってていいからっ。」
今だけは頑張れ、とミヤコが言う。
「うぅー、気が重い。」

そんなことを言いながら村に戻ったエルザたちを出迎えたのは、カイン達ガリア王国の使節団一行と、その後ろにいる村人たち全員による、土下座での出迎えだった。
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