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引きこもり聖女と隣国の王子と王女 その5

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私の名前はセレンです。
自慢ではありませんが、私は幼き頃からそれなりに整った容姿をしていました。
だからでしょう、父は私を貴族に嫁がせて、今の商売をもっと手広くしよう、お貴族様のお抱えになろう、と考えていたようでした。
なので、私は幼少の頃から、読み書きに算術、商人に必要な経理関係だけでなく、お貴族様の前に出ても相応しくあるために、礼儀作法などを教え込まれました。

そのことについて恨みを持っているわけではありません。
むしろ、よくそこまでお金をかけてくれたものだと感謝さえしています……たとえそれが、将来への投資だったとしても。

そして、父の期待通りに美しく育った私は、当然のごとく、他の商人からも目を付けられることになります。
私を手に入れるため、父へ表から裏から圧力がかかるようになりました。
父は商人としては善良過ぎました。
目的の為ならあらゆる手段を取る大商人に対して何の抵抗が出来ましょうか?

結局、父は借金まみれになり、その借金を返すために、大きな行商に手を出し、その途中野盗に襲われて亡くなりました。
全ては私を手に入れようとした大商人が仕組んだ罠だと思っています。
父が亡くなり、借金だらけの商会を抱えた私を妾にして、尚且つ父の商会を傘下に入れる……そう考えていたのでしょう。

ただ、その商人の思惑は父の機転により外されることとなりました。
父は、自分が留守の間に私が攫われることを恐れたのでしょう。
その時に限って、私も行商に同行することになったのです。

そしてその結果、私は悪徳商人の妾になることを逃れることは出来ましたが、代わりに夜盗によって奴隷商に売り飛ばされたのです。

父が殺され、野盗に捕まった時、私は貞操の危機を覚悟しました。
しかし、その野盗を率いるボスが、それなりに知恵が回るらしく、また、かなりお金に困っていたのでしょう。
手下どもに手を付けさせず、生娘のまま売った方が、高く売れるという事で、私は凌辱されずに済んだのです。

商人の妾として飼い殺しにされるか、性奴隷としてやはり飼い殺しにされるか……どちらの人生がよかったのか、今となっては分かりません。

ただ言えることは、私は運がいい。
それだけは胸を張って言えるかもしれません。
何といっても、奴隷商の下で、初お披露目で、すぐに買い手がついたのですから。
しかも、ご主人様は可愛らしい少女。
脂ぎった嫌らしい助平親父共に買われるより、よほどマシな待遇が約束されると、その時は思いました。

……まぁ、待遇は悪くありませんでしたよ。
お仕事はメイドとしてご主人様たちの身の回りのお世話をすること。
後、私は経理も出来るので、ご主人様の一人、エルザ様の秘書のような役割も任されるようになりました。
不満など一つもありません。一般的な奴隷の扱いからすれば天国にいるような待遇です。
まぁ、強いてあげるのであれば、ご主人様のユウ様のお相手をすることでしょうか?

他のご主人様に買われていたら、その日の内に散らされていた筈の私の貞操がいまだに保たれているのも、ユウ様が買ってくれたおかげ……それは理解してるのですが、そのユウ様の、……その、……お相手などは、生娘の私にとってはハードルが高すぎます。
ユウ様は、その、なんと言いますか、その……。
少女の様な成りで、とってもエロいのです。
それは、もう!
サキュバスのみぃ様でさえ逃げ出すほどのエロさ。
ちまたで言うエロリとは、きっとユウ様の事を指すのでしょう。

さらに言えば、ユウ様は、殊、伽に関してはかなりの嗜虐性をお見せになられます。
今はカチュアがお気に入りで、大半をカチュアが引き受けてくれていますが、私の貞操がユウ様によって散らされるのも時間の問題だと思われます……。
最も、初めては男の人の方が良かったのか?と問われると、私自身よくわからないのですが。
一応ユウ様は、そのあたりの事は考えてくださっていて、望むならカズト様を呼ぶ、ともおっしゃってくださっているのですが……何か違うんですよね。

っと、話がそれました。
長々と私の事を語ってしまいましたが、何が言いたいかというと、私は運がいい、という事です。

今、私は、ご主人さまたちがおっしゃられる『バカ領主』の人質となっています。
そして大事に温めてきた貞操を散らされようとしていて、私の幸運もここまでですかか?と諦めかけたところで、助けが入りました。

私を掴んでいたクズの手がゴロンと床に転がったのです。
……えっと、助かったし、私の幸運もまだまだ捨てたものじゃないですが……そのまま放置って言うのはないと思いますわ、エルザ様。

エルザ様は、その場にいた男たちの手足を切裂くと、すぐさま出て行ってしまいました。
残されたのは、私と同じく人質になっていた数人の村人たちと、痛みに喚きながら転げまわる領主の部下のみ。

「えっと、取り敢えず逃げましょう。」
私は自由になった手を使い、村人たちの戒めを解き放ちます。
「小屋を出たら真っすぐ村を目指すのです。」
私は村人たちにそう指示を出します。
最後の一人を解き放ち、裏口から逃がした後、私は、表の入り口からそっと外へ出ます。
大した理由はありませんが、私が表から出れば、裏口から逃げた人たちの陽動になり時間が稼げるかも?と思っただけなのですが……。
結論から言えば、私は大人しく裏口から逃げるべきだったのです。

がしっ!

外に出た私の腕が背後から捕まえられます。
そのまま太い腕が私の首に回されます。
「やい、小娘!こいつがどうなってもいいのかっ!大人しく武器を捨てて降参するなら命だけは助けてやるぜ。」
私を捕らえたのは、どうやらバカ領主のようです。
そして、私は運がいいと思っていたのは、単なる思い上がりだったかもしれません。
姿を現したエルザ様を見て、私は死を覚悟しました。
ハイ、ユウ様が常々仰られています。
『キレたエルたんはとても怖い』
と。
私もそう思います。

◇ ◇ ◇ ◇

ズシャッ!
男たちの腕が、脚が、一撃の許に切り落とされていく。
残酷なようではあるが、襲撃者の心を折るにはちょうどいい。
自分の腕や足が目の前に転がるのを見て、それでも立ち向かってこれるような剛の者は中々居ない。ましてや、金や女など、目先の欲に目が眩んだような者では話にならない。

「おしまいよ。降伏しなさい。」
「クッ、小娘がっ!いい気になるなよっ。これでも大きな口が叩けるのかっ!」
元領主が逃げた先に、タイミング悪くメイドちゃんの一人、セレンの姿があった。

元領主がそんな好機を逃すはずもなく、セレンを背後から捕らえ、その首にナイフをあてがう。
「ヘッ、形勢逆転だな。大人しく武器を捨てて降伏しな。俺の言うことを聞くなら、命だけは助けてやるぜ。」
「……とことん下衆ね。」
「へへっ、何とでもいいな。勝てば正義なんだよ。さぁ、武器を捨てな。」
「セレン、ごめんね。」
セレンも、元領主も、エルザの言葉の意味を理解することは出来なかった。
エルザの手から双剣が離れ地面に落ちる。
元領主は、ついその双剣を目で追ってしまう。
その隙を突いてエルザは小さなナイフを2本立て続けに投げる。

片方は、元領主のナイフを握った腕に、もう片方は元領主の太ももに深々と突き刺さる。
その痛みに、元領主はナイフを取り落とし、セレンを掴む腕の力が緩む。
それだけの隙があればエルザには十分だった。
あっという間に距離を詰めたエルザは、セレンを奪い取り、村の方へ向かって放り投げる。

「おっとと。大丈夫か?」
落ちてくるセレンを受け止めたのはカズトだった。
エルザの後を追って、ミヤコたちと共に出てきたのはいいが、エルザの、あまりにもキレっぷりと、素早さに、手が出せなかったのだ。

その間にも、エルザは、地面に落ちた双剣を拾い上げ、元領主へ止めを刺すべく襲い掛かる。
……が、剣を振るう直前、エルザは思いっきり後方へとジャンプする。
その直後、先程迄エルザのいた場所で爆風が上がる。
元領主は、その余波を受けて後方へ吹き飛ばされる。

「フフフ、今のを避けるとは……面白いですね。」
「誰っ!」
「遅いぞっ!!そいつらを殺ってしまえ!……女は殺すなよ。身動きできなくすればいいからな。」
エルザの誰何する声と、元領主の声が重なる。

「先生、お願いしますってか?」
「はぁ、テンプレよね。……でもかなり強いわよ。」
その成り行きを見ていたカズトとミヤコが呟く。

「あなた方に恨みはありませんが、これも渡世の義理ってやつですので。せめて苦しまずにして差し上げますのでご勘弁を。」
新たに出てきた男は、ひょうひょうとそんなことを言ってのける。
「一応聞くけど、あの元領主《バカ》がどれだけクズな奴かわかって手を貸してるの?」
エルザは男の動きを警戒しつつ、声をかける。

エルザにも、その男が只者でないことはすぐに分かった。
何といっても、その男から溢れる圧が違うのだ。
気の弱い人間なら、その圧力だけで腰が砕けるだろう。
だから、エルザは会話で気を逸らしながら、ジリジリと、立ち位置をずらす。

「それは私には関係のない事ですよ。いったでしょ、渡世の義理だと。私だって好き好んで弱い者いじめをしたいとは思いませんよ。血沸き肉躍るようなバトルを楽しみたいのですよ。」
「そう、弱い者いじめ……ね。」
エルザは目的の場所に辿り着く、ここからなら周りの被害は最小限に抑えられるはず。
「弱いものかどうかその目で確かめるがいいですよっ!」
エルザは収納から巨大なバリスタを取り出し引き金を引く。
セットされていた巨大な矢が勢いよく男に向かって飛んでいく。
そして男に着弾すると同時に内包されていた魔力が解放され大爆発を起こす。

その爆発の威力はエクスプロージョン5発分にも及ぶ。
元々攻城兵器として試作したものを、ユウが面白がって破壊力を上げ過ぎ、危ないからと、エルザが取り上げてしまっておいたものだ。
間違っても人に向けて使用していいものではないのだが……。

「くはははっ!面白い、面白いぞ。たかだか人間の小娘と侮っていたが、我に傷をつけるとは。実に面白い。」
爆炎が収まると、そこには平気な顔をした男が立っている。
『傷をつけた』と男は言っているが、見たところ碌なダメージを受けていないようだ。

「あれを喰らって平気って……マジかよ。」
すでに戦闘態勢に入り、いつでも援護に行けるように、と状況を伺っていたカズトが呟く。
「普通の人間じゃないことは確かね。」
同じく戦闘態勢に入っているミヤコも頷く。
ミヤコは何頭かの召喚獣をすでに呼んでいて、セレンを始めとした非戦闘員を村の中へと誘導させている。

「クックック、おぬしらの蛮勇に敬意を表して、我の本気を見せてやろう!」
男はそういうと、大きく息を吸い込み、エルザに向かって大きく吠える。

『グォォォォっ!』
その咆哮に、大気が震え、大地が揺らぐ。
「クッ……まさか、『竜の咆哮ドラゴニック・ロア』?」
エルザは双剣を体の前でクロスし、聖魔術の障壁と風の障壁を2重に張って、何とか耐える。

永遠に続くかとも思われた長い咆哮も、やがて鳴りを潜める。
辛うじて耐えきったエルザが顔を上げると、そこには巨大なドラゴンが姿を現していた。
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