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引きこもり聖女と隣国の王子と王女 その2

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「さて、ここならいいだろう。アル、お前は何を知っている?」
「父上、兄上、……怒らないで聞いてもらえますか?」
「……ってことは、また怒られるようなことをしたってことか?お前なぁ、いつも言ってるだろ?大体……。」
カインのお説教が始まる。
しかし、先ほどの玉座の間でのことと違い、その言葉の端々には、本気でアルベルトを心配する気持ちが溢れていた。

「兄上、お説教は後で聞くよ。それより今はオリビアの事だろ?」
「……ウム、そうだな。それで?」
「あぁ、うん。俺、実は昨日まで東の辺境にある「タウの村」ってところにいたんだよ。」

アルベルトは、べリアの兵から漏れ聞こえてくる『聖女』の噂に興味を持ち、独自に色々と探っていた。
そんな折、べリアの王女が逃げ込んだ領地の領主と、領内の村で諍いが起きていることを耳にする。

べリアの王都を抑え、王族の殆どを捕らえ処刑したのに、べリアの各地でいまだに争いが起きているのは、「王女」という旗がまだあるからであり、各地の領主たちの欲望と思惑が、未だに戦乱を引き起こしている。

そもそも、べリアの各地の領主の殆どは、王家の事などどうでもよかった。
王家を隠れ蓑として、私腹を肥やす為に利用しているだけに過ぎなかったのだ。

しかし、王家が敗北した今となっては、下手なことは出来ない。
かといって素直に敗北を認めれば、せっかく蓄えた財を失ってしまう事にもなりかねない。

そこに飛び込んできた「王女」という切り札。
王女を旗印に、徹底抗戦を叫びつつ、逃げ出すための時間を稼ぐ、もしくは王女をガリア王国に差し出し、自分の安全と財を護ることも出来る……かもしれない。
様々な思惑が蠢くが、結局は判断に迷っているため、今もなお中途半端な争いが各地で起きている。

だから、王女の身柄を押さえてしまえば、この無駄な小競り合いにも終止符を打てるのでは?と考えたアルベルトは王女に絞って情報をさらに集めさせた。
その結果、王女を保護しているという辺境の領主の存在が浮かび上がった。

この領主、評判としては下の上。ろくでもない奴ではあるが、やっていることは、税収を微妙に上げ、私腹を肥やしたり、商人からの賄賂の額で融通の範囲を決めるという程度のもの。
王家や他の貴族に対しても、強者には媚び諂い、弱者には横暴に振舞うという、典型的な長い物には巻かれろを地で行く人物だ。

そんな人物なので、王女を手に入れたとしても、うまく扱えるわけがない。
精々、他の領主、もしくはガリア王国に高値で売りつける事しか念頭になかったようだ。

そして、どう転ぶにしても目先の兵力と資金は必要という事で、近隣の村や街から強制徴収を始めた、との事だった。

「……聞けば聞くほど、クズな領主だな。」
カインが、アルベルトの話を聞きつつ、ボソッと感想を漏らす。
「まぁ、そういうクズな領主しかいないから、俺たちがあっさり勝てたんだろ?」
「いや、そもそも、王家がしっかりとそのクズ共の手綱を握っていれば、戦争なんて起こらなかっただろ?」
「まぁね。」
カインの言葉に丸ベルトは渋々頷く。

今回の戦争、もとをただせば、国境を接しているべリアの領主が、ガリア側の村を略奪して回っているところから始まった。
ガリア王国としても、大きな問題にはしたくないので、国境の防衛を強化しつつ、べリア王国に遺憾の書状を出したのだが、返事は、のらりくらりとかわすようなものばかり。

それどころか、そのことに味を占めた近隣の領主が、こぞって、国境を侵し始めたのだ。
ガリア王国は、反撃して国境を押し戻しつつ、戦争がお望みか?と書状を送ると、べリアからは、

『此度の事、誠に遺憾である。ガリア兵の横暴な振る舞いにより、我が国の臣民たちは非常に怯えておる。武装解除し、素直に国境を20カートル引き直すことに同意し、今回の被害総額白金貨1000枚を5年にわたり、支払うのであれば、今回の事は水に流そう。』

といった、どの口がっ!という内容の返事が来たことにより、普段温厚で知られているゲイル国王がキレたのだ。

「それで、そのクズ領主がどうしたのじゃ?」
「あ、父上、それなんですが、その領主の収める更に辺境にある村に、聖女様が現れたという噂が立ったんですよ。」
「聖女か……。」
神託の中にも出てきた言葉だ。
しかし、教養のない民たち程、ちょっとした癒し魔法が使えるというだけで、聖女だ、神童だと崇めだすモノなので、貴族の間では、気にする者は皆無に近い。

「それで、そのクズ領主は、徴収ついでに聖女も抑えようとしたんでしょうね。兵を500ばかり送ったそうです。」
「たかが村一つに大げさな。」
国王はやれやれとため息を吐く。
小さな村一つを制圧するだけであれば50人の兵で片がつく。安全マージンを多めにとったとしても100もあれば事足りる。150も送れば兵の無駄使いというものなのに、事もあろうか500とは……。
そんな単純な事すらわからない相手と戦争をしなければならないと考えるだけで、ゲイル国王の気は重くなるのだった。

「父上のおっしゃりたいことはよく分かります。私も同じように考えていましたから。しかし、この場合においては、500でも少なかったようで、その500人、成す術もなく逃げ帰っております。」
「そんな馬鹿な。」
「でも事実なのですよ兄上。それだけではありません。そのクズ領主の孫娘ですが、べリア王国内では『妃将軍』と呼ばれ、中々腕の立つお嬢さんだそうですが、その世間知らずのお嬢さんが、3000の兵を引き連れ再度その村を襲たそうです。」
「ふむ、そこまで来るとバカとしか言いようがないな。何を考えておるのだ?」
「しかしですね、その妃将軍は聖女に捕らえられ、3000の兵はほぼ壊滅。領主の下に生きて戻った兵は100にも満たたなかったようです。」
父王の言葉に頷きながらも、アルベルトは、見聞きしたことを話す。
正直、アルベルト自身、信じられない事ではあるが、あの村の現実を見た身としては、受け入れるしかない。

「アルベルトよ、焦らすな。その村には何があるのだ?」
「……最初に断っておきますが、今から話すことは、私自身がこの目で見て体感したまごう事なき事実です。」
「あぁ、お前が俺たちに対し、虚偽を申し立てる奴ではないことぐらい、理解しているさ。」
「兄上……ありがとうございます。まず、その村ですが、強固な城壁に囲まれています。村を覆うようにぐるっと強大な城壁があり、その内側にはかなり幅広な堀が掘られていますので、普通のやり方では、そこを突破することはかなり難しいでしょう。」

「ウム。……アルベルト、そなたの見立てでは、攻略するのにどれだけの兵が必要だと思う?」
国王は、実際、その場を見てきた王子に問いかける。
「……そうですね、最初から兵を犠牲にする前提で2万から3万ですね。そのうちの1万人は確実に第一の城壁で犠牲になります。というか、1万の犠牲の上で乗り越えるしか手はないでしょう。」
「フム、そなたの事を信じぬわけではないが、……そこまでのモノなのか?」
アルベルトの、戦における兵の運用に関しては、兄のカインを凌ぐとゲイル国王も認めている。
内政のカイン、武のアルベルト……この二人が仲良く国を治めて行ってくれるのならば、安心して王位を譲れる、と、ゲイルは腹心たちにひそかに自慢していたりする。
そのアルベルトが3万必要というのであれば、その通りなのだろう。
ただし、それを素直に認めるには「たかが村を攻めるのに3万もの大軍が必要か?」という常識が邪魔をするのだった。

「ちょっと待て。アルベルト、お前はさっきといったな?という事は……。」
カインが口を挟んでくる。
「さすがは兄上。その通りですよ。だいいちのじょうへきを越えた後には第二の城壁が、それを越えても第三の城壁が立ち塞がります。」
「なんと……3重の城壁とな。」
「むぅ……。」

「それだけじゃありません。第二の城壁を越た広場は一面の地雷原で、宙に浮かぬ限り、第三の城壁に辿り着くことは出来ません。」
「それでは、村人も通れんではないか?」
「そうですね。だから平時は地雷原の上に結界が張ってあるそうです。有事の際にはその結界を解くそうですが、村が襲われている時に外へ出ようとする者は、裏切り者ぐらいですから問題ないそうですよ。ちなみに、先程の兵のうち更に1万をここで犠牲にすることによって、道を作り、残った1万の兵で第三の城壁を突破する。これが私の考えた中で、最も成功率の高い攻略法です。……まぁ、そこまでしても村に入れるかどうかは5分5分ですが。」

「成程のぅ。しかし、そこまでの大掛かりな作業に、領主は気づかなかったのか?」
「気づかなかったみたいですねぇ。」
「無能にもほどがあるな。」
「いえ、父上、兄上、これに関しては領主を責めるのは可愛そうです。私が聞き及んだところによると、3か月程度しかかかってないそうですから。しかも城壁に関しては1ヶ月もかかってないらしいです。」
「そんな馬鹿な。」
「それが事実だとすれば……相手はいったい何者なのだ?」
「だから聖女ですよ。それも、途方もない力を秘めた……ね。」
「にわかには信じられぬが……。」
「全て事実です。私がにその村の中に入り、直に集めた情報です。しかも、には聖女様ご本人にお会いして話をいたしました。」

「ちょっと待て。アルベルト、お主何を言っておる?」
「事実です。私は、タウの村にいました。」
「そんな……アルの言った場所が本当なら、ここから1か月はかかる場所じゃないか。」
かなり動揺しているらしく、カインの口調が崩れている。
「兄上、その通りです。実際私が国境から村に向かうまででも3週間はかかりましたので、この城からなら急げば1ヶ月で辿り着けるでしょう。」
「なのに、昨晩村にいたアルベルトが今ここにいる、と?」
「まさか『転移術』……「失われし大いなる魔術ロスト・マジック」を使えるというのか。」
「村の中には、他にもロストテクノロジーの産物と思われる物がゴロゴロしていました。」

「むぅ……。」
国王は頭を悩ませる。
全てが本当の話では敵対するわけにもいかない。また、敵の手に渡ることも避けねばならない。
幸いにも、べリア王国は残党を残すのみで脅威にならず、その残党も、聖女の村と敵対しているのであれば、まだ目はある、と思う。

「父上、差し出がましいようですが、一度交渉の使者を送ってみてはいかがでしょうか?置手紙にも正面から来いと書いてありますので、少なくとも受け入れてはもらえるでしょう。オリビアの事もありますので私が使節代表として赴くつもりです。」
カインがそう言うと、即座にアルベルトが口を挟む。
「兄上、使節なら私が参ります。兄上は、次期国王となる大事なお身体。そう簡単に出かけられては困ります。」
「アル、お前ばかりズルいぞ。私だってロストテクノロジーを見たいのだ。」
「兄上、本音が駄々洩れです。」
うーと睨みあう二人の王子を見て、国王はある決断をする。

「よい、二人で行って来い。」
「「よろしいのですかっ?」」
二人の声が重なる。
「あぁ、カインも、外を見てきた方が良い。それにアルベルトだけでは交渉に不安があるのも事実じゃからな。……本当は儂が行きたいぐらいじゃ。」
「「父上はダメですっ!」」
やはり声が重なる、仲の良い兄弟であった。
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