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引きこもり聖女と隣国の王子と王女 その1
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『爆烈風!』
爆風が、城壁を登ろうとしていた兵士たちを吹き飛ばす。
「ん-、朝ぁ?」
「おはよ、ユウ。もう昼よ。」
「んー、じゃぁ寝る。」
寝ぼけ眼でふらふらと見張り台にやってきたユウが、またふらふらと戻っていく。
「何しに来たんだ?」
「さぁ?ユウなりに気にしてるのよ……きっと。」
カズトの疑問に答えるエルザ。
「……カズトも休んできていいよ。疲れてるんでしょ?……毎晩励んでいるようだから。」
エルザがそういうと、カズトは気まずそうに顔を背ける。
「……まぁ、みぃの食事の為だ。」
「そんなこと言いながら、喜んで腰を振ってるんですよ、この駄犬は。」
丁度、お茶を持ってきたカチュアが、ケダモノを見る目でカズトを睨みながら言う。
「カチュアさん、カズトさんにそんな口を聞いたらダメですよ。メッ、です。」
一緒に来たシアが、カチュアを咎める。
シアは、少なからずカズトに好意を抱いているらしいので、カズトに甘い。
それがカチュアには面白くないのだ。
尚、カチュアが憎まれ口をたたくのはユウが許しているので、みんなスルーしている。
カチュアが失言すると、それをネタにユウが一晩可愛がるので、どちらかと言えば推奨している節がある。
「あんたが望んでいた「奴隷ハーレム」でしょ。ご感想は?」
ミヤコが、ジト目で見ながら言う。
「……なんか思ってたのと違う。」
「ハンッ、領主の娘と孫娘、亡国の王女たち、更にはその側近まで含めて総勢20名のハーレムのご主人様が何をおっしゃいますやら。母娘丼だ、姉妹丼だって喜んでたの知ってますわよ。」
カズトの答えに、更に軽蔑した視線でカズトを見るミヤコ。
「そうは言うけどなぁ、全部、あのエロリサキュバスっ娘の指示でやるんだぜ?しかもあの人数、身体が持たねぇっつうの。」
実際、一晩で10人とか無理だから、っと、最近ではジョグ達青年団に手伝ってもらっているのが現状だ。
お陰で、カズトの知らないところで、青年団員たちのカズトへ対する忠誠心はうなぎ上りで、若い連中は「ずっとカズトさんに着いて行くっす!」などと言って、連絡や指示、有事の際の連携の向上にも役立っていたりする。
「あー、とにかくだっ!俺はあいつら蹴散らしてくるわ。」
そう言って、カズトは城壁目指して飛び出していった。
「逃げましたわ。」
カチュアがそう呟く。
「逃げちゃいました。」
「逃げ足だけは速くなったのね、あのヘタレ。」
シアがカチュアの言葉に頷き、ミヤコがやれやれと首を振る。
「そう言えば、アレはどうなったの?」
ミヤコが話題を変える様にエルザに話を振る。
「あ、うん、ユウが丁重に送り返したわよ。そのついでに「お土産」と言って王女をお持ち帰りしてきたから……。」
「あぁ、だからあんなに眠そうなのね。」
ミヤコが納得がいったという様に頷く。
「あのぉ、差し出がましいようですが、アレとは一体……。」
シアがおずおずと聞いてくる。
ここに来た当初は、おどおどしていたメイドちゃん達だが、ユウ以外は無理難題を言わないことを理解し、またエルザたちがもう少し気楽に接してほしいと願ったため、最近では比較的気軽に話してくれるようになり、今みたいに気になることがあったら、遠慮がちながらも口を出してくるようになってきた。
その傾向はエルザにとって好ましいものであり、頑張っているシアの為にも現状を教えることにする。
「あ、うん、あのね、三日前に探索者の一団が迷い込んできたでしょ?」
「えぇ、あの見るからに怪しい……。」
この村の立地上、そしてユウによる地形改造によって、街道以外を通ろうとした場合、それが無意識だろうが、恣意的だろうが、どのように進んだとしても街道に出るようになっている。
そして、それらの者が行きつく街道のポイントは、向こう側にあるアルベタの街が見える場所に出るようになっている。
つまり、この付近で迷った者が、街道に出て最初に目にするのはアルベタの街であり、本当に迷っているものであれば、やっと見つけた街に向かうのが必然だ。
確固たる意志をもってタウの村を目指さない限り、この村に着くことはなく「迷い込んでくる」ことはあり得ないのだ。
それなのに、三日前に現れた探索者たちは門の前で「道に迷った。」「もう三日も水しか口にしていなくて倒れそうだ。」「迷惑はかけないから村に入れてくれ。」などと喚いていたのだ。
三日も食事をしていないと言いながら、彼らの肌にはつやがあり、顔色も悪くない。体調を崩している振りをしている者もいたが、その足取りはしっかりとしていて、とても弱っているようには見えなかった。
彼らを村の中に入れた後、彼らの行動は迅速だった……が、かなり間抜けでもあった。
何といっても、村に入るなり、人を呼び止めては、目につく物、城壁や堀について、この村の中心人物はだれか?などと直接的な事を聞きまくっているのだ。
多分彼らは、バレても構わない、万が一バレなければラッキーぐらいに考えていたのだと思う。
その証拠に、誰が聞いているかわからない場所で、リーダーの事を平気で「殿下」と呼ぶぐらいなのだから。
もし、本当に自分たちの演技が通用して騙しとおせていると思っているのならば、そのお気楽な性根を誰かが叩き直してあげなければいけないだろう。
「最初はね、何か別の行動を隠すためのカモフラージュかと思たのよ。だからね、3日ほど泳がせてみた見たんだけどね。」
結局、裏で不審な行動をとっている様子は全くなかった。
それだけに、あれだけ目立つ行動を何故していたのか謎だけが残る。
「まぁ、だからと言って、いつまでも置いとけないでしょ?だから昨晩、ユウが送り返したの。」
「送り返したって……どこへですか?」
「それは、もちろん、彼らのお家……、ガリア城よ。」
探索者を装った集団のリーダーが、ガリア国の第二王子、アルベルト=フォン=ルクセンブルクだという事は、早々に分かっていた。
問題は、何故第二王子がこの村に来たのか?という事だが、それだけはどうしてもわからなかった。
「でね、ユウは、王子を送り届けた時に彼の枕元に『今度は正面から正式に尋ねてくるがよい。』という書置きを残してきたらしいのよ。」
「それって朝起きたらとっても怖い奴ですよね。」
カチュアがガクブルしている。
「それだけならよかったんだけどね……。」
「いいんだ?」
カチュアが唖然とする。
「ユウだからね……。それより、その手紙の追伸に『妹君が可愛いので、お前たちの滞在費代の担保として預かる』と書き残して、王女様を連れて帰ってきたのよ。」
「あぁ、それがさっきの話に繋がるのね。納得いきましたわ。」
カチュアが言うと、シアもその横でウンウンと頷いている。
「でも、それって、完全に『王女誘拐犯』だよね、いいの?」
「……ユウだからね。」
最近のエリザの口癖になりつつある「ユウだから」と言う言葉。
それでいいのか?と思わなくもないが、これ以上ないくらいの説得力があるので何も言えない。
「まぁ、一応『探さないでください』って、王女のベットに書置きを残してきたらしいから、大丈夫かなって思うんだけど。」
「「「いやいやいや。」」」
ミヤコたち三人が揃って首を振る。
むしろ、それで探さないものがいるなら見て見たいものである。
「とにかく、もう少ししたらガリア王国が何らかの動きを見せるから、それまではみんなゆっくりしててね。ユウもしばらくは引きこもって部屋から出てこないだろうから、食事の世話と……王女が壊れないように見張っててね……シアちゃん。」
「えーっ、無理無理無理、無理ですぅ。エロ女神モードのユウ様には逆らえませんっ!」
この娘も大分言うようになったなぁ、などとエルザは思いつつ、一言告げる。
「ヤバそうだったら、カチュアを差し出せば大丈夫だから。」
「え~~~~っ!」
カチュアが反対の大声を上げるが、誰も聞いてはいなかった。
◇
「うぬぅ、オリビアはまだ見つからぬのか!」
「ハッ、何分真夜中の事でございまして……。」
「ぬぅぅぅ……せめて何か手掛かりがあれば……。」
ガリア王国の国王、ゲリル=フォン=ルクセンブルグ=ガリアンは苛立ちを持っている王笏にぶつける。
壁に向かって投げつけられた錫杖が、カランカランと、乾いた音を立てて床に転がる。
「父上、物にあたるのは良くないですぞ。」
丁度、ドアを開けて入ってきた第一王子のカイン=フォン=ルクセンブルクが、王笏を拾い上げ、近くに控えていた侍従に渡す。
「カインか……そうだな。儂としたことが取り乱した様じゃ。」
国王は、深く息を吐くと侍従から王笏を受け取り、玉座に座り直す。
「して、カインよ、お主の方で何かわかったか?」
「えぇ、手掛かりになるかどうかわかりませんが、オリビアは城を抜け出そうと画策していたことは間違いないようです。」
カインはそう言って、オリビアの側近の侍女から聞いた話を国王に伝える。
「ふむぅ……アレが、それほどまでに『神託』とやらに拘っているとはのぅ。」
国王の神託というのは、3か月ほど前に神殿の巫女が受けた『近いうちに聖女が現れ、女神様が降臨成されるであろう。女神様を怒らせてはいけない。カギとなるのは『王女』……。』というものだ。
この神託を受けた時、ガリア王国は、隣国べリアと戦争の最中だったため、後回しにして、そのまま忘れかけていたのだが、戦局が肥大化し、敵地の奥深く迄踏み入るようになると、べリアの辺境で聖女様が現れたという噂が目立つようになってきて、その時ガリア王国の首脳陣はようやく神託の事を思い出す。
たさ、その首脳陣の間で、このまま一気に王都に攻め込み、戦争を終わらせるべきだ、そうすれば、女神様を怒らせる前にケリがつく、という好戦派と、これ以上攻め入って女神様を怒らせるわけにはいかない。ここまででも十分な戦果を挙げたのだから、交渉に入るべきだ、という和平派に二分してしまった。
このことが戦争を膠着状態に陥らせ、べリア側に回復させる時間を与えてしまったがために、早期終戦が遠のいてしまったことは、好戦派にとっても和平派にとっても、好ましくない結果となったのは皮肉な事であるが、ある意味自業自得と言えなくもない。
そして、カギとなる当の王女であるオリビアは、何とかして聖女様の下に赴き、女神様に騒がせたことを謝罪しなくては、と思い悩み、城を抜け出して、聖女様が終わすと言われている辺境へ行こうとしていたらしい。
そんな無茶はおやめください、と、側近たちが代わる代わる説得し、自分でも無茶だという事を理解していて、城を抜け出すのを諦めたのが昨夜の事。
王女と一番仲のいいマリエという侍女が、朝になったら王子に報告を、と思っていた矢先の王女失踪事件であり、どうしてよいかわからずパニックを起こしていたところを、カインが宥め、何とか聞き出したのが、以上の事柄だった。
「まさか、諦めたと思わせておいて、その隙を突くとは……我が妹ながら中々の策士ですな。」
「兄上、それは間違っております。」
そこに、飛び込んできた第二王子アルベルトが口を挟む。
「アルベルト、お前いつ帰ってきた?この大事な時に、ふらっと居なくなるなんて、王族としての自覚が足りないのではないか?」
カインは顔をしかめながら弟にそう声をかける。
カインは弟のアルベルトの事を好ましく思っているが、周りの状況がそれを許さないため、公の場では敢えて冷たく振舞っている。
カインの立場は第一王子で王位継承権1位を持つ正統なる皇太子だ。
しかし、母親が第二正妃の為、第一正妃との間に生まれた5歳年下の第二王子アルベルトを皇太子にするべきでは?との声も少なからずある。
王子二人の与り知らぬところで、お家騒動の種がばらまかれている状況を苦々しく思っているのは、アルベルトも同じだった。
だからアルベルトは、あえて破天荒な振る舞いをし、「皇太子には相応しくないんじゃないか」という自分の評判を下げるような行動を多々起こしている。
それが分かっているだけに、カインとしてもあまり強く責めたくはない、というのが本音なのだが、ここで強く出なければ、アルベルトが身を張って作ってくれた状況を崩すことになる。
カインは心の中であるベルトに頭を下げながら、口うるさくアルベルトに注意と諫言をするのだった。
「カイン、そこまでにしろ。それよりアルベルト、間違っておるとはどういう事じゃ?何か知っておるのか?」
「ハッ、父上、これを……。」
アルベルトは枕元に突き刺さっていた書置きを、国王へと見せる。
「ウムぅ……これは……。アルベルトよ、詳しい話を聞かせてもらおうか。」
ゲリルは、頭を抱えながら席を立つ。
これはあまり公にしてはいけない内容だと、ゲリルの中の何かが告げていたのだ。
爆風が、城壁を登ろうとしていた兵士たちを吹き飛ばす。
「ん-、朝ぁ?」
「おはよ、ユウ。もう昼よ。」
「んー、じゃぁ寝る。」
寝ぼけ眼でふらふらと見張り台にやってきたユウが、またふらふらと戻っていく。
「何しに来たんだ?」
「さぁ?ユウなりに気にしてるのよ……きっと。」
カズトの疑問に答えるエルザ。
「……カズトも休んできていいよ。疲れてるんでしょ?……毎晩励んでいるようだから。」
エルザがそういうと、カズトは気まずそうに顔を背ける。
「……まぁ、みぃの食事の為だ。」
「そんなこと言いながら、喜んで腰を振ってるんですよ、この駄犬は。」
丁度、お茶を持ってきたカチュアが、ケダモノを見る目でカズトを睨みながら言う。
「カチュアさん、カズトさんにそんな口を聞いたらダメですよ。メッ、です。」
一緒に来たシアが、カチュアを咎める。
シアは、少なからずカズトに好意を抱いているらしいので、カズトに甘い。
それがカチュアには面白くないのだ。
尚、カチュアが憎まれ口をたたくのはユウが許しているので、みんなスルーしている。
カチュアが失言すると、それをネタにユウが一晩可愛がるので、どちらかと言えば推奨している節がある。
「あんたが望んでいた「奴隷ハーレム」でしょ。ご感想は?」
ミヤコが、ジト目で見ながら言う。
「……なんか思ってたのと違う。」
「ハンッ、領主の娘と孫娘、亡国の王女たち、更にはその側近まで含めて総勢20名のハーレムのご主人様が何をおっしゃいますやら。母娘丼だ、姉妹丼だって喜んでたの知ってますわよ。」
カズトの答えに、更に軽蔑した視線でカズトを見るミヤコ。
「そうは言うけどなぁ、全部、あのエロリサキュバスっ娘の指示でやるんだぜ?しかもあの人数、身体が持たねぇっつうの。」
実際、一晩で10人とか無理だから、っと、最近ではジョグ達青年団に手伝ってもらっているのが現状だ。
お陰で、カズトの知らないところで、青年団員たちのカズトへ対する忠誠心はうなぎ上りで、若い連中は「ずっとカズトさんに着いて行くっす!」などと言って、連絡や指示、有事の際の連携の向上にも役立っていたりする。
「あー、とにかくだっ!俺はあいつら蹴散らしてくるわ。」
そう言って、カズトは城壁目指して飛び出していった。
「逃げましたわ。」
カチュアがそう呟く。
「逃げちゃいました。」
「逃げ足だけは速くなったのね、あのヘタレ。」
シアがカチュアの言葉に頷き、ミヤコがやれやれと首を振る。
「そう言えば、アレはどうなったの?」
ミヤコが話題を変える様にエルザに話を振る。
「あ、うん、ユウが丁重に送り返したわよ。そのついでに「お土産」と言って王女をお持ち帰りしてきたから……。」
「あぁ、だからあんなに眠そうなのね。」
ミヤコが納得がいったという様に頷く。
「あのぉ、差し出がましいようですが、アレとは一体……。」
シアがおずおずと聞いてくる。
ここに来た当初は、おどおどしていたメイドちゃん達だが、ユウ以外は無理難題を言わないことを理解し、またエルザたちがもう少し気楽に接してほしいと願ったため、最近では比較的気軽に話してくれるようになり、今みたいに気になることがあったら、遠慮がちながらも口を出してくるようになってきた。
その傾向はエルザにとって好ましいものであり、頑張っているシアの為にも現状を教えることにする。
「あ、うん、あのね、三日前に探索者の一団が迷い込んできたでしょ?」
「えぇ、あの見るからに怪しい……。」
この村の立地上、そしてユウによる地形改造によって、街道以外を通ろうとした場合、それが無意識だろうが、恣意的だろうが、どのように進んだとしても街道に出るようになっている。
そして、それらの者が行きつく街道のポイントは、向こう側にあるアルベタの街が見える場所に出るようになっている。
つまり、この付近で迷った者が、街道に出て最初に目にするのはアルベタの街であり、本当に迷っているものであれば、やっと見つけた街に向かうのが必然だ。
確固たる意志をもってタウの村を目指さない限り、この村に着くことはなく「迷い込んでくる」ことはあり得ないのだ。
それなのに、三日前に現れた探索者たちは門の前で「道に迷った。」「もう三日も水しか口にしていなくて倒れそうだ。」「迷惑はかけないから村に入れてくれ。」などと喚いていたのだ。
三日も食事をしていないと言いながら、彼らの肌にはつやがあり、顔色も悪くない。体調を崩している振りをしている者もいたが、その足取りはしっかりとしていて、とても弱っているようには見えなかった。
彼らを村の中に入れた後、彼らの行動は迅速だった……が、かなり間抜けでもあった。
何といっても、村に入るなり、人を呼び止めては、目につく物、城壁や堀について、この村の中心人物はだれか?などと直接的な事を聞きまくっているのだ。
多分彼らは、バレても構わない、万が一バレなければラッキーぐらいに考えていたのだと思う。
その証拠に、誰が聞いているかわからない場所で、リーダーの事を平気で「殿下」と呼ぶぐらいなのだから。
もし、本当に自分たちの演技が通用して騙しとおせていると思っているのならば、そのお気楽な性根を誰かが叩き直してあげなければいけないだろう。
「最初はね、何か別の行動を隠すためのカモフラージュかと思たのよ。だからね、3日ほど泳がせてみた見たんだけどね。」
結局、裏で不審な行動をとっている様子は全くなかった。
それだけに、あれだけ目立つ行動を何故していたのか謎だけが残る。
「まぁ、だからと言って、いつまでも置いとけないでしょ?だから昨晩、ユウが送り返したの。」
「送り返したって……どこへですか?」
「それは、もちろん、彼らのお家……、ガリア城よ。」
探索者を装った集団のリーダーが、ガリア国の第二王子、アルベルト=フォン=ルクセンブルクだという事は、早々に分かっていた。
問題は、何故第二王子がこの村に来たのか?という事だが、それだけはどうしてもわからなかった。
「でね、ユウは、王子を送り届けた時に彼の枕元に『今度は正面から正式に尋ねてくるがよい。』という書置きを残してきたらしいのよ。」
「それって朝起きたらとっても怖い奴ですよね。」
カチュアがガクブルしている。
「それだけならよかったんだけどね……。」
「いいんだ?」
カチュアが唖然とする。
「ユウだからね……。それより、その手紙の追伸に『妹君が可愛いので、お前たちの滞在費代の担保として預かる』と書き残して、王女様を連れて帰ってきたのよ。」
「あぁ、それがさっきの話に繋がるのね。納得いきましたわ。」
カチュアが言うと、シアもその横でウンウンと頷いている。
「でも、それって、完全に『王女誘拐犯』だよね、いいの?」
「……ユウだからね。」
最近のエリザの口癖になりつつある「ユウだから」と言う言葉。
それでいいのか?と思わなくもないが、これ以上ないくらいの説得力があるので何も言えない。
「まぁ、一応『探さないでください』って、王女のベットに書置きを残してきたらしいから、大丈夫かなって思うんだけど。」
「「「いやいやいや。」」」
ミヤコたち三人が揃って首を振る。
むしろ、それで探さないものがいるなら見て見たいものである。
「とにかく、もう少ししたらガリア王国が何らかの動きを見せるから、それまではみんなゆっくりしててね。ユウもしばらくは引きこもって部屋から出てこないだろうから、食事の世話と……王女が壊れないように見張っててね……シアちゃん。」
「えーっ、無理無理無理、無理ですぅ。エロ女神モードのユウ様には逆らえませんっ!」
この娘も大分言うようになったなぁ、などとエルザは思いつつ、一言告げる。
「ヤバそうだったら、カチュアを差し出せば大丈夫だから。」
「え~~~~っ!」
カチュアが反対の大声を上げるが、誰も聞いてはいなかった。
◇
「うぬぅ、オリビアはまだ見つからぬのか!」
「ハッ、何分真夜中の事でございまして……。」
「ぬぅぅぅ……せめて何か手掛かりがあれば……。」
ガリア王国の国王、ゲリル=フォン=ルクセンブルグ=ガリアンは苛立ちを持っている王笏にぶつける。
壁に向かって投げつけられた錫杖が、カランカランと、乾いた音を立てて床に転がる。
「父上、物にあたるのは良くないですぞ。」
丁度、ドアを開けて入ってきた第一王子のカイン=フォン=ルクセンブルクが、王笏を拾い上げ、近くに控えていた侍従に渡す。
「カインか……そうだな。儂としたことが取り乱した様じゃ。」
国王は、深く息を吐くと侍従から王笏を受け取り、玉座に座り直す。
「して、カインよ、お主の方で何かわかったか?」
「えぇ、手掛かりになるかどうかわかりませんが、オリビアは城を抜け出そうと画策していたことは間違いないようです。」
カインはそう言って、オリビアの側近の侍女から聞いた話を国王に伝える。
「ふむぅ……アレが、それほどまでに『神託』とやらに拘っているとはのぅ。」
国王の神託というのは、3か月ほど前に神殿の巫女が受けた『近いうちに聖女が現れ、女神様が降臨成されるであろう。女神様を怒らせてはいけない。カギとなるのは『王女』……。』というものだ。
この神託を受けた時、ガリア王国は、隣国べリアと戦争の最中だったため、後回しにして、そのまま忘れかけていたのだが、戦局が肥大化し、敵地の奥深く迄踏み入るようになると、べリアの辺境で聖女様が現れたという噂が目立つようになってきて、その時ガリア王国の首脳陣はようやく神託の事を思い出す。
たさ、その首脳陣の間で、このまま一気に王都に攻め込み、戦争を終わらせるべきだ、そうすれば、女神様を怒らせる前にケリがつく、という好戦派と、これ以上攻め入って女神様を怒らせるわけにはいかない。ここまででも十分な戦果を挙げたのだから、交渉に入るべきだ、という和平派に二分してしまった。
このことが戦争を膠着状態に陥らせ、べリア側に回復させる時間を与えてしまったがために、早期終戦が遠のいてしまったことは、好戦派にとっても和平派にとっても、好ましくない結果となったのは皮肉な事であるが、ある意味自業自得と言えなくもない。
そして、カギとなる当の王女であるオリビアは、何とかして聖女様の下に赴き、女神様に騒がせたことを謝罪しなくては、と思い悩み、城を抜け出して、聖女様が終わすと言われている辺境へ行こうとしていたらしい。
そんな無茶はおやめください、と、側近たちが代わる代わる説得し、自分でも無茶だという事を理解していて、城を抜け出すのを諦めたのが昨夜の事。
王女と一番仲のいいマリエという侍女が、朝になったら王子に報告を、と思っていた矢先の王女失踪事件であり、どうしてよいかわからずパニックを起こしていたところを、カインが宥め、何とか聞き出したのが、以上の事柄だった。
「まさか、諦めたと思わせておいて、その隙を突くとは……我が妹ながら中々の策士ですな。」
「兄上、それは間違っております。」
そこに、飛び込んできた第二王子アルベルトが口を挟む。
「アルベルト、お前いつ帰ってきた?この大事な時に、ふらっと居なくなるなんて、王族としての自覚が足りないのではないか?」
カインは顔をしかめながら弟にそう声をかける。
カインは弟のアルベルトの事を好ましく思っているが、周りの状況がそれを許さないため、公の場では敢えて冷たく振舞っている。
カインの立場は第一王子で王位継承権1位を持つ正統なる皇太子だ。
しかし、母親が第二正妃の為、第一正妃との間に生まれた5歳年下の第二王子アルベルトを皇太子にするべきでは?との声も少なからずある。
王子二人の与り知らぬところで、お家騒動の種がばらまかれている状況を苦々しく思っているのは、アルベルトも同じだった。
だからアルベルトは、あえて破天荒な振る舞いをし、「皇太子には相応しくないんじゃないか」という自分の評判を下げるような行動を多々起こしている。
それが分かっているだけに、カインとしてもあまり強く責めたくはない、というのが本音なのだが、ここで強く出なければ、アルベルトが身を張って作ってくれた状況を崩すことになる。
カインは心の中であるベルトに頭を下げながら、口うるさくアルベルトに注意と諫言をするのだった。
「カイン、そこまでにしろ。それよりアルベルト、間違っておるとはどういう事じゃ?何か知っておるのか?」
「ハッ、父上、これを……。」
アルベルトは枕元に突き刺さっていた書置きを、国王へと見せる。
「ウムぅ……これは……。アルベルトよ、詳しい話を聞かせてもらおうか。」
ゲリルは、頭を抱えながら席を立つ。
これはあまり公にしてはいけない内容だと、ゲリルの中の何かが告げていたのだ。
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「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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