世界を破滅させる聖女は絶賛引き籠り中です

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引きこもり聖女の籠城戦

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「あーあ、無駄な死者が出るねぇ。」
ミヤコが労し気にそう呟く。
「警告を無視した。自業自得。」
ユウがボソッという。
眼のまえには大きな水晶のスクリーン。
そこには第一の城壁をよじ登ったものの、そのまま堀に落ちてサーペントの餌になっている兵士たちが映っている。

「ねぇねぇ、今どんな気持ちぃ?アンタの無駄な命令で、アンタを助けようとして死にゆく兵士たちだよぉ。どんな気持ちぃ?」
サキュバスのみぃが、捕まって磔にされている女性の頬をぺちぺちと叩きながら言う。

「言い方っ!」
嬉しそうにぺちぺちしている、みぃの頭を軽く叩きながら、ミヤコは女性に向かって再度声をかける。
「でも、みぃのいう事はほんとですよ。あなたが一言降伏する、と宣言してくれれば無駄な犠牲はなくなるんです。素直になってもらえませんかエリーネさん。」
「断る。彼らも兵士だ。兵士は死ぬのが仕事だ。お前らこそ、私を早く解放して降伏しここを明け渡すがよい、今なら命の保証はしよう。この妃将軍エリーネ・ロア・リリアードの名に懸けて。」
その答えに、ミヤコは頭を抱える。
これだから脳筋って種族は困るのよ、と。

事の起こりは、隣国のガリア王国に、このタウの村が属するべリア王国が敗戦したことだ。
中央から遠く離れたこの辺境の村では、精々税を納める先と税率が変わるぐらいで、大した影響はない、と村人たちは思っていたのだが、この辺り一帯を治める領主の下に唯一生き延びた王女が逃げ込んだのがいけなかった。
領主は、我が領地を反撃の拠点に選んでいただいた、と狂喜乱舞し、軍備を整えるために、近隣の町や村から、食料と、兵士となる男手を臨時徴収していった。

ガリア王国としても、これ以上の争いな無駄に国力を疲弊するだけだから大人しく王女を引き渡して降伏するように、という勧告を何度も送っているのだが、領主は聞く耳を持たないどころか、かえって意固地になって軍備を進める始末。
ガリア王国も、仕方がなく、領界線まで兵を進め、今は双方ともに睨み合ったまま小康状態を保っている。
それをいいことに領主は次々と村から強制的に徴収を続ける。
徴収された村には碌に食料も残らず、若い男は全て兵士にとられ、若い女も見目麗しいものを中心に何十人と前線に送られる。
兵士たちの慰安の為と、戦況が思わしくなくなった時に、置き去りにして敵兵士を足止めするために使われるのだ。
村に残っているのは老人と小さな子供たちだけ……。奴隷として売られないだけマシというだけで、これではどっちが敵なのかわかったものじゃない。

そして、このタウの村にも領主の一軍がやってきた。
しかし、ユウの先読みのお陰で村の防護は完璧、普通であれば、諦めて次の村に向かうのだが、指揮していたのが、領主の孫娘にあたるエリーネ。
近隣には、その武勇から『妃将軍』と噂されるほどではあるが、何分実戦経験に乏しく、今回の事を何としても実績にしたかったので、諦めて撤退するという考えは端からなかった。

仕方がないので、ハルピュイアとクーちゃんの連係プレイによって将軍を捕縛、身代金代わりに撤退を要求したのだが、このエリーネ将軍は「自分構わず、砦を攻略せよ。逆らう者はその場で切り捨てる」と言い切った。
それでも、と兵たちが躊躇していると、背後から剣を構えた一団がバサリとその兵を切り捨てる。
この将軍があらかじめ編成していた督戦隊の仕業だった。

そして引くに引けなくなった領主軍の兵士たちは、今もこうして無駄に命を散らしているのだ。

「どうするのエルちゃん。」
「んー、あまりやりたくないけど、あの人の心を折るしかないわね。」
「心を折るって?」
「ん、簡単なんだけどね……。ユウ、いいよ。好きにして。」
「ねぇねぇ、私がやってもいい?」
エルザの言葉に反応してみぃが聞いてくる。
「……やり過ぎなければね。」
「わーい、やったぁ。ほらカズト、ご飯の時間だよぉ。」
みぃが大喜びでカズトを呼びに行く。

「なんなんだよ、一体。」
みぃに引きずられるようにしてカズトが入ってくる。
「んー、今からねぇ、この人を犯しちゃっていいよ。もう徹底的にやっちゃっていいからね、うまく調教できたら、コレをアンタの奴隷にしてもいいって。」
「マジかよ……。しかしこんなところじゃぁ……。」
カズトは周りを見る。
周りはエルザ、ミヤコを始めメイドちゃん達も揃っている。
心なしか視線が冷たい気がする。

「これくらいで何言ってるのよ。状況によっては魔術具であの兵士たちにも見せつけるのよ。それを考えたらこれくらいのギャラリーどうってことないわよ。」
「いやいやいや……。」
カズトは首を振ってからエリーネの前に立つ。
「なぁ、悪い事は言わんから、早く降伏した方がいいぞ。でないとお前さん、全兵士たちの前で公開凌辱されるぞ?あいつらはやると言ったらマジでやるんだからな。」
「くっ、殺せっ!お前みたいなゴミムシに犯されるぐらいなら死んだ方がマシだっ!」
エリーネが吐き捨てる様に言うと、みぃとユウが大声で楽しそうに笑いだす。
「ほらほら、あれが「くっころ」だよ。私も初めて見たけど、ほんとに言うんだぁ。あぁ、おかしぃ。」
「むぅ、あれが「くっころ」……確かにそそるモノがある。」
「きゃはは、さしずめカズトはオークだねぇ。」

みぃはエリーネの前に行って揶揄う様に声をかける。
「殺してあげないよぉ?これからずっと、アンタがゴミムシと呼んだ男に犯され続けるんだからぁ。これで私はご飯の度に、ペットカズトのお世話をしおなくても済むし、カズトは大喜び。これがWIN-WINってやつだよね?」
エリーネはクッと唇をかむ。
「あっと、ダメだよ、おいたしちゃぁ。」
みぃが指をパチンと鳴らすと、エリーネの口が開く。

「言ったでしょ死なせないって。後、あっちのユウはエクストラヒールが使えるから、即死で且つ遺体が残らないぐらいバラバラにならない限り、どれだけでも癒してくれるから安心していいよ。あとね、アンタがカズトの事ゴミムシ呼ばわりしたから、助けてあげてって言おうとしていたメイドちゃん達全員を敵に回したの。バカだねぇ、あんなこと言わなければ、今頃はあの娘達が、アンタの助命の為にユウに懇願してたのにねぇ。」
みぃに言われて、自由が利かなくなった顔を少しだけメイドたちに向けるが、視線が合うと、プイと逸らされる。

「まぁ、取り敢えずオードブルからね。」
みぃは再び指を鳴らすと、カズトの身体がエリーネの前まで移動される。
「オイ、ちょっと待て……って無駄か……。」
みぃはカズトのズボンを下ろして剥き出しになったソレを、まだ空いたままのエリーネの口に突っ込む。
「うふっ、今日はお腹いっぱい食べられそう。カズト頑張ってね。」
みぃが嬉しそうに言う。

「あのね、みぃ。別のところ連れていっていいから他所でやってもらえない?」
長くなりそうだと判断したエルザはみぃを追い出すことにする。
何で好き好んで、真昼間から凌辱プレイを鑑賞しなければいけないのか?と頭を抱えたくなる。
「はぁい、じゃぁ行くよ。」
みぃはエリーネの首に縄を付けると、カズトにその綱を引かせて、引きずるように部屋を出て行った。

に任せていたら1週間はあのままよ?」
「大丈夫。ユウが後で行くから。まぁ、朝までかからないと思うわよ。」
「そう?じゃぁ、これ以上の犠牲が出ないように、第一城壁に雷を流しておくわね。」
ミヤコがスイッチを押す。
すると、城壁を登っていた兵士たちが、突然、ビクッと身体を震わせ、そのまま落ちていった。



翌朝。
「隊長、このようなものが。」
先程ハルピュアが落としていったものだ。
「これは、魔道具?」
隊長はその道具を調べる。
四角い枠の中に、魔石を使った水晶が薄く張られていて、枠の横に魔力を流すための魔石がある。

「こんな魔道具見たこともないが……。誰か、知ってるか?」
隊長は魔導師達に声をかける。
あれこれと調べていた魔導師のうち一人が「これは記録の魔道具です。」と言った。

「記録の魔道具?」
「ハイ、今の状態を記録しておける魔道具です。魔石が一つしかないところを見ると、記録されたものを見るだけの機能しかないようです。おそらく敵からのメッセージが入っていると思われます。」
「そうか、どう使うんだ?」
「横にある魔石に魔力を流せば動くはずです。やってみましょう。」
魔導師が横の魔石に魔力を流す。
すると……

『ァン、ぁぁん……も、もうダメェ……。イかせて、お願いよぉ。』
『だぁめ、兵士の皆さんアンタのために戦ってるのよ?なのにアンタはこんなところでおねだり?淫乱ね。』
全裸で女に弄られ、男のモノを咥えながら懇願しているエリーネ。
そのエリーネ御いたぶるように言葉で攻め続ける少女。
そんな姿が魔道具に大写しされる。

『もう、いいの、いいの。降伏でも何でもするからぁ……、お願い、これ以上焦らさないでぇ……。』
『じゃぁ、あっちに向かって、降伏するから戦闘をやめる様に言いなさい。この姿、みんな見てるからそれで伝わるわ。』
『えっ、見られてるの……いあっ、見ないでっ……ァン、そこはダメなのぉ……。』
『ほらほら、見られてると分かって興奮するヘンタイさん、ちゃんと言いなさい。』
そこで、エリーネの顔が大写しになる。

『くすん……。兵の皆さん、見てますか。私は見られて喜ぶヘンタイのエリーネです。私は降伏しますから、この戦いはおしまいです。……ぁんっ……み、皆さんも、ど、どうか……イっ……ダ……降伏してくだ……さい。に、逃げる者は、追わないと……約束してもらえてます。……あぁっぁ……、皆さん、わかりましたか……降伏です……だ、ダメェ……。』
『ハイ、よく言えました。』

画面が切り替わり、女の子の姿に切り替わる。
背後ではエリーネのものと思われる嬌声がひときわ高く鳴り響いている。
『反乱軍の皆さん。お聞きの通りですので、撤収してくださいね。1刻後にまだそこにいたら戦闘の意志アリと見て反撃します。勿論命の保証はしませんし、捕虜はみんな奴隷送りです。それが嫌なら……さっさと帰れっ!バカ者どもっ!』
プチっと、映像が途切れ、ボンッと音を立てて魔道具が粉々になる。

隊長と、その周りにいた者達はしばらくの間、誰も動けず、何も話すことはなかった。
やがて、混乱から復帰した隊長が声を上げる。

「総員、退却!」

兵士たちは、その声を聴いて、我先にと逃げ出すのだった。



「一応……成功かな?」
「最後の最後まで胸糞悪い戦いだけどね。」
「エルちゃんにそんな言葉に合わないよ。」
「ミヤコはあれを見てもそう言える?」
エルザは城壁の外を指さす。
そこには動けなくなった兵士と、女たちが置き去りにされている。

「罠かな?」
「その可能性もあるけど、多分時間稼ぎね。」
残された兵たちを見ると、その身なりから、徴兵された村人だということが伺える。
「助けるにしても殺すにしても、あの兵たちに係っている間は時間が稼げる……そういう事ね。」
「そういう事よ……はぁ。」
「エルちゃん、ガンバ、だよ?」
「わかってるわ。これくらい大したことじゃないわ……。ハルピュイア、外の女性と兵士たちを第二と第三の城壁の間に集めて。……ユウ、怪我人と女性たちに癒しをお願い。カチュア、セレン、難民たちの誘導をお願い、シア、ミアン、炊き出しの用意。カズト、その娘と遊ぶのは後にして、青年団とともに周りの警戒を。みぃ、かねてからの手筈通りにお願い。」
エルザは、きっ、と姿勢を正すと、それぞれに指示を出していく。
その姿を見て、ミヤコは「これが人の上に立つ人なんだねぇ。真似できないわぁ。」などと考えていた。

「えっと、エルちゃん、私はどうする?」
「村人たちと調整をお願い。最悪あの人たちを受け入れることになるかもしれないから。」
「ん、わかった。エルちゃん、落ち着いたら少し休みなよ。顔色かなり悪いわよ。」
「大丈夫よ。もう少しすれば、ユウが、面倒、とか言って引き籠るから、その時一緒に休むわ。」
「……その時こそいて欲しいんだけどね。」
ミヤコの言葉にエルザは苦笑で返すのだった。
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