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引きこもり聖女とある転移者の悲哀
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「はぁ……、皆可愛い………。あんなに居るんだから一人ぐらい俺に惚れてくれてもいいのに。」
俺は広場で治癒行為をしている仲間達を見ながら呟く。
中心にいるのはロリ可愛いユウちゃん。
あんな成りでサキュバスも真っ青のエロリだ。
はっきり言って、俺の周りにいるのは、みんなユウちゃんのハーレムメンバーであり、俺だけが浮いてる………と言うか、多分番犬程度の扱いじゃないだろうか?
男性には特に冷たく、今も治療にきた青年にポーションをぶつけている。
正直、それはどうかと思うんだが、ぶつけられた男が喜んでいるので、問題ないのだろう。
当然、パーティーメンバーと言っても、男である俺の扱いは酷いのだが……妙に話が合うときもあるし、極稀に優しいときもある。
その時のユウちゃんは、聖女というより女神様と言った方が相応しく、正体を知っている俺でさえ、心を奪われそうになるのだから、あそこに群がっている奴らが騙されるのも仕方がない。
そして、その横でサポートしている巫女服姿の女の子がエルちゃん。
俺達のパーティーの実質的なリーダーだ。
ユウちゃんがよく「私の嫁」と言っているが、話を聞くと、マジに嫁らしい。
何でもユウちゃんは、神話に出てくる女神様………しかも、一度は文明を滅ぼした破壊の女神様なんだと。
まさか、とは思うけど、その話が本当なら、あの力も頷けると言うものだ。
エルちゃんは俺が召喚された国の、王族に連なる大貴族の娘で、巫女の素養があり、ユウちゃんを目覚めさせた張本人だ。
その責任と、王国の繁栄、滅亡への抑止のため、神であるユウちゃんの許へ嫁ぐ事になったと、苦笑しながら話してくれたことがある。
まぁ、エルちゃんがユウちゃんの一番の理解者で親友だってことは見てれば分かるけど、まさか嫁になってるとは思いも寄らなかった……異世界は謎に満ちている。
ユウちゃんから少し離れた場所で、メイドちゃん達に炊き出しの指示をしているのは、ミヤコ。俺と同じ転移者だ。
割としっかり者で、ボケたおすユウちゃんと、ユウちゃんが絡むと時々ポンコツになるエルちゃんのツッコミ役だ。
ただしっかりしているように見えて、内面では脆いところがあるのを俺は知っている。
パーティー内で俺の扱いが酷いのを同情してくれているが、同情するだけで止めないあたり、結構酷い奴でもある。
そんな彼女だが、実は以前、事に及ぶ寸前までいったことがある。
堅く抱き合い、熱い口付けを交わし、いざ本番、と言うところで邪魔が入った。
以来何の進展もしておらず、彼女の態度にも代わりはない。
もっとも、あれはただの傷の舐めあいのようなモノだったので、彼女は何とも思っていないのかもしれない。
そして、一生懸命働くメイドちゃん達。
カチュア、セレン、シア、ミアンの四人は、先日街で購入した奴隷だ。
彼女達がこの村に来て2週間、その可愛さと働き振りに、村人達の誰もが、奴隷だと蔑まず、好意的に接している。
もっとも、村にきた直後、奴隷相手ということで無礼を働こうとした男を、ユウちゃんが返り討ちにし、さらにはエルちゃんが見せしめのように晒し者にしたのも影響があるかもしれない。
カチュアは隣国の伯爵家の娘だったそうだが、戦争の煽りを受け、領地が襲われ、その時に捕らえられて奴隷に身を落としたらしい。
もと貴族のせいか、生来の性格なのかはわからないが、気が強く、プライドが高い。
そんな彼女みたいな、気の強い娘を従順に躾けるのが趣味、という顧客が一定以上いるそうで、奴隷としては何もできない彼女だったが、その売価はかなり高かった。
ユウちゃんのお気に入りで、よく連れまわしている……今も、癒しを終えたユウちゃんがカチュアに近づき、何やら話している。
……ん?カチュアの様子がおかしい。
動きがぎこちなくなり、顔が段々と赤くなっている。
ユウちゃんに何か酷い事言われたのか?
……いや違う。
ユウちゃんがさり気ない仕草でカチュアの大事な所を弄っている。
他からは見えないだろうが、俺の位置からだとバッチリ見える。
与えられる刺激と、バレた時の羞恥心がせめぎ合い、あんなに顔を赤くしているのだろう。
不意にユウちゃんが俺の方を向き、空いている手で親指を立ててみせる。
アレは、俺に見せるために、わざとやってるんだ、と理解した。
クッソぉ、俺が手を出せないのをいいことに、やりたい放題かよっ!
声を出しそうになり、必死に堪えているカチュアの表情が……もう、堪らん!
俺は思わず移動しようと腰を浮かす。
その時、ユウちゃんがカチュアの耳元に何やら囁く。
カチュアは驚いた表情で、そっとこっちを見る。
……バッチリと目が合う。
その瞬間、カチュアの顔が一気に真っ赤に染まる。
更にユウちゃんが刺激を強くしたのか、カチュアがその場に崩れ落ちた。
慌てて駆け寄るが、すでにユウちゃんがカチュアをお姫様抱っこで抱きかかえている。
クッソ、無駄にイケメンだ。
「カチュアは大丈夫か?」
息も絶え絶えに、はぁはぁ、と小さく息をしているカチュア。
傍から見れば、熱があるように見えるが……俺だけは知っている。
「ん、ちょっと休ませる。」
そう言いながら、ユウちゃんは俺の耳元でそっと囁く。
「カチュアと楽しいことしてくる。混ざる?」
俺は、蕩けた表情のカチュアを見た後、思いっきり首を縦に振る。
「フフン、ダメ。」
「だったら言うなっ!クッソ。」
ユウちゃんに毒づくと、「これあげるから、好きにするといい」と言って、金貨を投げてよこし、笑いながらカチュアを連れていく
「あの……カチュアさ……んは大丈夫でしょうか?」
背後から声を掛けられる。
メイドちゃんの中で最年少のシアだ。
最年少ではあるが、奴隷落ちする前は大貴族の下でメイドとして仕えていたので、メイドちゃんたちの中では一番キャリアがあり、一番役立っている。
ちなみに俺の超好みの娘だ。
「あ、あぁ、なんか熱が急に出たみたいで、今ユウちゃんが休ませに連れて行った。」
「大変ですっ。看病に……あぁ、でもここから勝手に離れれません……どうしよう……。」
シアがオロオロし出す。
実は、シアが以前使えていたというのがカチュアの家であり、シアはカチュア付きの専属メイドであり、年も近いことがあって、大変仲が良かったらしい。
そんな元ご主人様が同僚のメイドとなり、自分が色々と教える立場になってしまったのは、色々と複雑な心境だろうが、それでも、カチュアの事が心配で心配でしょうがないらしい。
「あ、大したことないって。少し休めばよくなるらしいよ。念のために聖女様が付いていったんだ。安心してここの作業してればいいよ。」
俺はそう言ってシアを安心させると同時に、カチュアの下に行かせないように誘導する。
今ここでシアが顔を出したら、ユウちゃんの餌食になることは間違いない。
そんなことは俺が許さん。
ユウちゃんの餌食にされるぐらいなら、いっそこの俺が……。
シアに手を伸ばしかけて自制する。
一応、シアはユウちゃんの所有物だ。
ここで許可なく手を出せば、死んだ方がマシ、という目に遭わされるのは目に見えている。
ここはユウちゃんの御機嫌を取って、下げ渡してもらえることに期待するしかないのだ。
クッソ……イケメンじゃなく、女の子に嫉妬する日が来るとは思ってもなかったぜ。
俺はシアに、カチュアが戻ってくるまで、彼女の分も働く方が喜ぶと言い含めて別れる。
これ以上傍にいると自分を抑えきれなくなりそうだからだ。
「はぁ……。今夜みぃちゃん来てくれないかなぁ。」
「みぃって誰だ?ひょっとして彼女が出来たんか?」
俺の呟きに反応する声がある。
「なんだ、ジョグか。見回りはいいのか?」
俺は振り返り、目の前に立つ男に声をかける。
「オイっ!ジョグさんになんて口の利き方だっ!」
ジョグの後ろから男が飛びだしてきて、いきなり俺の胸ぐらを掴み上げる。
「大体、お前ぇは大して強くもないくせに、あんな可愛い娘たちを侍らかせやがって。」
俺は胸ぐらを掴まれたまま、ジョグを見る。
すると、ジョグの横にいた男が、俺を掴んでいる男の手を掴み引き離す。
青年団副団長のハンスだ。
「オイ、よせっ。カズトさんに失礼だろ。」
「しかし副団長……。」
「ケーン。俺はよせと言った。」
「……わかりました。」
「カズトさんにも謝罪するんだ。」」
「……さぁっせんでしたっ!」
ケーンと呼ばれた男は渋々謝罪して後ろに下がる。
どうでもいいけど、頭下げてないよな?……どうでもいいけど。
「カズトさん、悪いな。最近入ったばかりで、カズトさんたちの事よくわかってないんだよ。」
「気にしてないよ。」
「そうか、でもまぁ、奴らの気持ちもわかるんだよ。」
ジョグとハンスが横に座る。
「俺が弱いって?」
「いやいやいや、何謙遜しているんですか、ビックボアを片手で絞めるお人が。」
ジョグの言葉に、後ろにいる青年団の何人かが訝しげな表情になる。
多分、そいつらが最近入った、メンバーなのだろう。
「大した事じゃないだろ?でも、そうじゃないなら何なんだ?」
「いや、十分大したことだけど……。そうじゃなくて、アレだよアレ。」
ジョグが前方を指さす。
そこには一生懸命炊き出しをしているメイドちゃんたちが居る。
「ただでさえ、カズトさんは聖女様、巫女様、保母さんといった美女と一緒に暮らしてるんだろ?そこに加えて、あの可愛いメイドさん達だ。どうせ毎晩酒池肉林なんだろうって、羨ましいのさ。」
ジョグが恨めしそうな表情で言う。
かなり本気が入っているらしい。
ちなみに、ジョグのいう聖女様というのはユウちゃんで、巫女様はエルちゃん。そして保母さんというのはミヤコの事だ。
誰彼隔てなく優しくて面倒見のいいところからそう呼ばれているらしい。
「あー、そうだな。傍から見ればそう見えるよなぁ。」
俺は遠い目をしながらそう言う。
俺だって、実情を知らなければ同じように思うから、彼らの事を責める気はない。
「まぁ、この辺りで誤解といておくのもいいか。」
「誤解?」
「あぁ、誤解だ。最初に言っておくが、お前らの想像しているような「いい目」なんか見たことも聞いたこともない。」
「またまた~。カズトさんは冗談もお上手で。」
ハンスが、茶化したように言うが、これは冗談でも何でもないのだ。
「お前ら、あれが何に見える?」
俺は教会の広場の片隅の小屋を指さす。
「何って……犬小屋?」
「うん、ちょっと大きいけど、ジェットウルフとかだとあれぐらいあってもいいよな。魔物でも飼い出したのか?」
ジョグとハンスがそう答えるが……。
「アレはなぁ、俺の家だ。」
「「「「はぁ?」」」」
ジョグだけでなく、背後の青年団たちからも一斉に声が上がる。
「冗談じゃなく俺が寝泊まりしてるのはあそこだ。一応食事の時だけは教会の中に入れてもらえるが、それも入り口傍の共同食堂まで。それ以上中に入ろうとすると、容赦なくユウちゃんの殺人光線が降ってくる。……男だけに反応するそういうトラップが教会のいたるところに仕掛けてあるんだよ。」
「マジ?」
「遺憾ながらな。そして、あの娘たちを含めた女の子は全員ユウちゃんのモノだ。本人がそう宣言している。」
「聖女様って、マジに女の子スキー?」
「あぁ、普段の行動見てれば分かるだろ?男に容赦なく、女にとことん甘い。それが聖女様とお前らが崇めているユウちゃんの正体だ。」
「ん、まぁ、それならいいや。」
「あぁ、問題ないな。」
「むしろそれがイイ!」
「「「それだっ!」」」
なぜか盛り上がる青年団たち。
「それだけじゃないんだぞ。ユウちゃんはこともあろうに、俺の目のまえで、あの娘たちを弄ぶんだぜ。そして、ここから、という所で締め出すんだよ。わかるか、この辛さがっ!」
「「「「「「…………。」」」」」
青年団の男たちはもはや言葉も出なかった。
ジョグとハンスが、ポンポンと肩を叩き、軽く首を振る。
同情してくれるのは嬉しいが、今はそんなのは欲しくないんだよ。
「俺だってなぁ、色々やってみたさ。頭を下げて、一人だけでもってお願いしたこともある。そうしたらどうなったと思う?」
「ゴクリ……。」
青年団の皆が息をのむ。
「コレだよ。」
俺はさっきユウちゃんから貰った金貨を見せる。
「どういうことだ?」
訳が分からないといった顔でジョグが聞いてくる。
「つまり、街に行って、これで娼館に行けってことだよ。」
俺はユウちゃんから時々金貨をもらうが、娼館になんか行ったことがないので、どうしていいかわからず悶々としている。
一度、この金貨をためて奴隷を買おうと、奴隷商の許へ赴いたこともあったが、ユウちゃんが先に手を打っていた。
奴隷商曰く、俺が奴隷を買ってもユウちゃん所有になるという契約が交わされているらしい。
いつの間に、とも思ったが、相手は破壊の女神様だ。こんな事で怒らせる訳にはいかない、とすごすごと引き下がったのだ。
「あー、その、なんだ。俺たち誤解していたみたいだ。」
ジョグが頭を下げると、先程のケーンが前に出てきて、深々と頭を下げる。
「カズトさん、すみませんでしたっ!俺、何も知らなかったっす。カズトさんは、マジパネェっす。」
「あーいいからいいから。それよりジョグ、みんなで街に行かないか?色々教えてくれると助かるんだが?」
俺は金貨を数枚取り出してみせる。
「そりゃぁ、構わねぇけど、……マジ、いいんですか?」
「あぁ、金は任せておけ。その代わり……わかってるよな?」
「あぁ、任せろっ!……オイ、お前ら。これから見回りにでるぞ。遠出をするから帰りは明日の朝だ!」
「「「「「「おぉーっ!」」」」」」
広場に雄たけびが上がる。
俺と、村の青年団たちとの間に、真の友情が芽生えた瞬間だった。
俺は広場で治癒行為をしている仲間達を見ながら呟く。
中心にいるのはロリ可愛いユウちゃん。
あんな成りでサキュバスも真っ青のエロリだ。
はっきり言って、俺の周りにいるのは、みんなユウちゃんのハーレムメンバーであり、俺だけが浮いてる………と言うか、多分番犬程度の扱いじゃないだろうか?
男性には特に冷たく、今も治療にきた青年にポーションをぶつけている。
正直、それはどうかと思うんだが、ぶつけられた男が喜んでいるので、問題ないのだろう。
当然、パーティーメンバーと言っても、男である俺の扱いは酷いのだが……妙に話が合うときもあるし、極稀に優しいときもある。
その時のユウちゃんは、聖女というより女神様と言った方が相応しく、正体を知っている俺でさえ、心を奪われそうになるのだから、あそこに群がっている奴らが騙されるのも仕方がない。
そして、その横でサポートしている巫女服姿の女の子がエルちゃん。
俺達のパーティーの実質的なリーダーだ。
ユウちゃんがよく「私の嫁」と言っているが、話を聞くと、マジに嫁らしい。
何でもユウちゃんは、神話に出てくる女神様………しかも、一度は文明を滅ぼした破壊の女神様なんだと。
まさか、とは思うけど、その話が本当なら、あの力も頷けると言うものだ。
エルちゃんは俺が召喚された国の、王族に連なる大貴族の娘で、巫女の素養があり、ユウちゃんを目覚めさせた張本人だ。
その責任と、王国の繁栄、滅亡への抑止のため、神であるユウちゃんの許へ嫁ぐ事になったと、苦笑しながら話してくれたことがある。
まぁ、エルちゃんがユウちゃんの一番の理解者で親友だってことは見てれば分かるけど、まさか嫁になってるとは思いも寄らなかった……異世界は謎に満ちている。
ユウちゃんから少し離れた場所で、メイドちゃん達に炊き出しの指示をしているのは、ミヤコ。俺と同じ転移者だ。
割としっかり者で、ボケたおすユウちゃんと、ユウちゃんが絡むと時々ポンコツになるエルちゃんのツッコミ役だ。
ただしっかりしているように見えて、内面では脆いところがあるのを俺は知っている。
パーティー内で俺の扱いが酷いのを同情してくれているが、同情するだけで止めないあたり、結構酷い奴でもある。
そんな彼女だが、実は以前、事に及ぶ寸前までいったことがある。
堅く抱き合い、熱い口付けを交わし、いざ本番、と言うところで邪魔が入った。
以来何の進展もしておらず、彼女の態度にも代わりはない。
もっとも、あれはただの傷の舐めあいのようなモノだったので、彼女は何とも思っていないのかもしれない。
そして、一生懸命働くメイドちゃん達。
カチュア、セレン、シア、ミアンの四人は、先日街で購入した奴隷だ。
彼女達がこの村に来て2週間、その可愛さと働き振りに、村人達の誰もが、奴隷だと蔑まず、好意的に接している。
もっとも、村にきた直後、奴隷相手ということで無礼を働こうとした男を、ユウちゃんが返り討ちにし、さらにはエルちゃんが見せしめのように晒し者にしたのも影響があるかもしれない。
カチュアは隣国の伯爵家の娘だったそうだが、戦争の煽りを受け、領地が襲われ、その時に捕らえられて奴隷に身を落としたらしい。
もと貴族のせいか、生来の性格なのかはわからないが、気が強く、プライドが高い。
そんな彼女みたいな、気の強い娘を従順に躾けるのが趣味、という顧客が一定以上いるそうで、奴隷としては何もできない彼女だったが、その売価はかなり高かった。
ユウちゃんのお気に入りで、よく連れまわしている……今も、癒しを終えたユウちゃんがカチュアに近づき、何やら話している。
……ん?カチュアの様子がおかしい。
動きがぎこちなくなり、顔が段々と赤くなっている。
ユウちゃんに何か酷い事言われたのか?
……いや違う。
ユウちゃんがさり気ない仕草でカチュアの大事な所を弄っている。
他からは見えないだろうが、俺の位置からだとバッチリ見える。
与えられる刺激と、バレた時の羞恥心がせめぎ合い、あんなに顔を赤くしているのだろう。
不意にユウちゃんが俺の方を向き、空いている手で親指を立ててみせる。
アレは、俺に見せるために、わざとやってるんだ、と理解した。
クッソぉ、俺が手を出せないのをいいことに、やりたい放題かよっ!
声を出しそうになり、必死に堪えているカチュアの表情が……もう、堪らん!
俺は思わず移動しようと腰を浮かす。
その時、ユウちゃんがカチュアの耳元に何やら囁く。
カチュアは驚いた表情で、そっとこっちを見る。
……バッチリと目が合う。
その瞬間、カチュアの顔が一気に真っ赤に染まる。
更にユウちゃんが刺激を強くしたのか、カチュアがその場に崩れ落ちた。
慌てて駆け寄るが、すでにユウちゃんがカチュアをお姫様抱っこで抱きかかえている。
クッソ、無駄にイケメンだ。
「カチュアは大丈夫か?」
息も絶え絶えに、はぁはぁ、と小さく息をしているカチュア。
傍から見れば、熱があるように見えるが……俺だけは知っている。
「ん、ちょっと休ませる。」
そう言いながら、ユウちゃんは俺の耳元でそっと囁く。
「カチュアと楽しいことしてくる。混ざる?」
俺は、蕩けた表情のカチュアを見た後、思いっきり首を縦に振る。
「フフン、ダメ。」
「だったら言うなっ!クッソ。」
ユウちゃんに毒づくと、「これあげるから、好きにするといい」と言って、金貨を投げてよこし、笑いながらカチュアを連れていく
「あの……カチュアさ……んは大丈夫でしょうか?」
背後から声を掛けられる。
メイドちゃんの中で最年少のシアだ。
最年少ではあるが、奴隷落ちする前は大貴族の下でメイドとして仕えていたので、メイドちゃんたちの中では一番キャリアがあり、一番役立っている。
ちなみに俺の超好みの娘だ。
「あ、あぁ、なんか熱が急に出たみたいで、今ユウちゃんが休ませに連れて行った。」
「大変ですっ。看病に……あぁ、でもここから勝手に離れれません……どうしよう……。」
シアがオロオロし出す。
実は、シアが以前使えていたというのがカチュアの家であり、シアはカチュア付きの専属メイドであり、年も近いことがあって、大変仲が良かったらしい。
そんな元ご主人様が同僚のメイドとなり、自分が色々と教える立場になってしまったのは、色々と複雑な心境だろうが、それでも、カチュアの事が心配で心配でしょうがないらしい。
「あ、大したことないって。少し休めばよくなるらしいよ。念のために聖女様が付いていったんだ。安心してここの作業してればいいよ。」
俺はそう言ってシアを安心させると同時に、カチュアの下に行かせないように誘導する。
今ここでシアが顔を出したら、ユウちゃんの餌食になることは間違いない。
そんなことは俺が許さん。
ユウちゃんの餌食にされるぐらいなら、いっそこの俺が……。
シアに手を伸ばしかけて自制する。
一応、シアはユウちゃんの所有物だ。
ここで許可なく手を出せば、死んだ方がマシ、という目に遭わされるのは目に見えている。
ここはユウちゃんの御機嫌を取って、下げ渡してもらえることに期待するしかないのだ。
クッソ……イケメンじゃなく、女の子に嫉妬する日が来るとは思ってもなかったぜ。
俺はシアに、カチュアが戻ってくるまで、彼女の分も働く方が喜ぶと言い含めて別れる。
これ以上傍にいると自分を抑えきれなくなりそうだからだ。
「はぁ……。今夜みぃちゃん来てくれないかなぁ。」
「みぃって誰だ?ひょっとして彼女が出来たんか?」
俺の呟きに反応する声がある。
「なんだ、ジョグか。見回りはいいのか?」
俺は振り返り、目の前に立つ男に声をかける。
「オイっ!ジョグさんになんて口の利き方だっ!」
ジョグの後ろから男が飛びだしてきて、いきなり俺の胸ぐらを掴み上げる。
「大体、お前ぇは大して強くもないくせに、あんな可愛い娘たちを侍らかせやがって。」
俺は胸ぐらを掴まれたまま、ジョグを見る。
すると、ジョグの横にいた男が、俺を掴んでいる男の手を掴み引き離す。
青年団副団長のハンスだ。
「オイ、よせっ。カズトさんに失礼だろ。」
「しかし副団長……。」
「ケーン。俺はよせと言った。」
「……わかりました。」
「カズトさんにも謝罪するんだ。」」
「……さぁっせんでしたっ!」
ケーンと呼ばれた男は渋々謝罪して後ろに下がる。
どうでもいいけど、頭下げてないよな?……どうでもいいけど。
「カズトさん、悪いな。最近入ったばかりで、カズトさんたちの事よくわかってないんだよ。」
「気にしてないよ。」
「そうか、でもまぁ、奴らの気持ちもわかるんだよ。」
ジョグとハンスが横に座る。
「俺が弱いって?」
「いやいやいや、何謙遜しているんですか、ビックボアを片手で絞めるお人が。」
ジョグの言葉に、後ろにいる青年団の何人かが訝しげな表情になる。
多分、そいつらが最近入った、メンバーなのだろう。
「大した事じゃないだろ?でも、そうじゃないなら何なんだ?」
「いや、十分大したことだけど……。そうじゃなくて、アレだよアレ。」
ジョグが前方を指さす。
そこには一生懸命炊き出しをしているメイドちゃんたちが居る。
「ただでさえ、カズトさんは聖女様、巫女様、保母さんといった美女と一緒に暮らしてるんだろ?そこに加えて、あの可愛いメイドさん達だ。どうせ毎晩酒池肉林なんだろうって、羨ましいのさ。」
ジョグが恨めしそうな表情で言う。
かなり本気が入っているらしい。
ちなみに、ジョグのいう聖女様というのはユウちゃんで、巫女様はエルちゃん。そして保母さんというのはミヤコの事だ。
誰彼隔てなく優しくて面倒見のいいところからそう呼ばれているらしい。
「あー、そうだな。傍から見ればそう見えるよなぁ。」
俺は遠い目をしながらそう言う。
俺だって、実情を知らなければ同じように思うから、彼らの事を責める気はない。
「まぁ、この辺りで誤解といておくのもいいか。」
「誤解?」
「あぁ、誤解だ。最初に言っておくが、お前らの想像しているような「いい目」なんか見たことも聞いたこともない。」
「またまた~。カズトさんは冗談もお上手で。」
ハンスが、茶化したように言うが、これは冗談でも何でもないのだ。
「お前ら、あれが何に見える?」
俺は教会の広場の片隅の小屋を指さす。
「何って……犬小屋?」
「うん、ちょっと大きいけど、ジェットウルフとかだとあれぐらいあってもいいよな。魔物でも飼い出したのか?」
ジョグとハンスがそう答えるが……。
「アレはなぁ、俺の家だ。」
「「「「はぁ?」」」」
ジョグだけでなく、背後の青年団たちからも一斉に声が上がる。
「冗談じゃなく俺が寝泊まりしてるのはあそこだ。一応食事の時だけは教会の中に入れてもらえるが、それも入り口傍の共同食堂まで。それ以上中に入ろうとすると、容赦なくユウちゃんの殺人光線が降ってくる。……男だけに反応するそういうトラップが教会のいたるところに仕掛けてあるんだよ。」
「マジ?」
「遺憾ながらな。そして、あの娘たちを含めた女の子は全員ユウちゃんのモノだ。本人がそう宣言している。」
「聖女様って、マジに女の子スキー?」
「あぁ、普段の行動見てれば分かるだろ?男に容赦なく、女にとことん甘い。それが聖女様とお前らが崇めているユウちゃんの正体だ。」
「ん、まぁ、それならいいや。」
「あぁ、問題ないな。」
「むしろそれがイイ!」
「「「それだっ!」」」
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「それだけじゃないんだぞ。ユウちゃんはこともあろうに、俺の目のまえで、あの娘たちを弄ぶんだぜ。そして、ここから、という所で締め出すんだよ。わかるか、この辛さがっ!」
「「「「「「…………。」」」」」
青年団の男たちはもはや言葉も出なかった。
ジョグとハンスが、ポンポンと肩を叩き、軽く首を振る。
同情してくれるのは嬉しいが、今はそんなのは欲しくないんだよ。
「俺だってなぁ、色々やってみたさ。頭を下げて、一人だけでもってお願いしたこともある。そうしたらどうなったと思う?」
「ゴクリ……。」
青年団の皆が息をのむ。
「コレだよ。」
俺はさっきユウちゃんから貰った金貨を見せる。
「どういうことだ?」
訳が分からないといった顔でジョグが聞いてくる。
「つまり、街に行って、これで娼館に行けってことだよ。」
俺はユウちゃんから時々金貨をもらうが、娼館になんか行ったことがないので、どうしていいかわからず悶々としている。
一度、この金貨をためて奴隷を買おうと、奴隷商の許へ赴いたこともあったが、ユウちゃんが先に手を打っていた。
奴隷商曰く、俺が奴隷を買ってもユウちゃん所有になるという契約が交わされているらしい。
いつの間に、とも思ったが、相手は破壊の女神様だ。こんな事で怒らせる訳にはいかない、とすごすごと引き下がったのだ。
「あー、その、なんだ。俺たち誤解していたみたいだ。」
ジョグが頭を下げると、先程のケーンが前に出てきて、深々と頭を下げる。
「カズトさん、すみませんでしたっ!俺、何も知らなかったっす。カズトさんは、マジパネェっす。」
「あーいいからいいから。それよりジョグ、みんなで街に行かないか?色々教えてくれると助かるんだが?」
俺は金貨を数枚取り出してみせる。
「そりゃぁ、構わねぇけど、……マジ、いいんですか?」
「あぁ、金は任せておけ。その代わり……わかってるよな?」
「あぁ、任せろっ!……オイ、お前ら。これから見回りにでるぞ。遠出をするから帰りは明日の朝だ!」
「「「「「「おぉーっ!」」」」」」
広場に雄たけびが上がる。
俺と、村の青年団たちとの間に、真の友情が芽生えた瞬間だった。
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幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
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