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引きこもり聖女のサバイバル その4
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何処か無機質な、広がる空間。
そこに来た時、ミヤコが目にしたその光景は、既視感を覚えるものだった。
「似てるわね。」
「あぁ、あのダンジョンに合ったのと同じ……に見える。」
カズトも同じことを考えていたのか、ミヤコの呟きに頷く。
「つまり、学園のダンジョンも、マリア・シルヴィア様と関係があるって事ね。……不思議ではないけど。」
「何故?」
「学園は国の管理下にあるのよ?そしてエルザーム王国の王家はマリア・シルヴィア様の血脈だって言い伝えがあるのよ。小さな国でもそれなりに権威があるのは、そのおかげもあるの。」
「血脈って、シルヴィアちゃん結婚してたの?」
「してない。シルヴィは処女。それは間違いない。」
「うーん、ユウちゃんが知らないだけで実は……って事はない?他に、ユウちゃんが眠ってから、とか?」
「それはない。シルヴィが処女なのは確認してる。その後シルヴィは魔導ネットワークのコアになったから、そう言う事はしたくても出来なくなった。」
ミヤコの言葉にユウが強く反発する。
「じゃぁ、王家がシルヴィアちゃんの血を引いてるって事は嘘なの?」
「……分からない。エルたん、シルヴィに似すぎてる。」
「なんでエルちゃんが此処に出てくるの?」
「エルたん、王家の一族。」
「「えっ!!」」
ユウの爆弾発言にミヤコとカズトは思わず大声を上げる。
「魔力の流れにもシルヴィに似た懐かしい感じがする。エルたんとシルヴィには何かの関係があっても不思議じゃない。」
しかし、ユウは、ミヤコ達の驚きを無視して話を続ける。
「えっ、それ私初耳なんだけど?」
初めて告げられる事実にエルザも驚く。
「言っても混乱させるだけだから言わなかった。それにシルヴィはシルヴィ、エルたんはエルたん。」
「それはそうだけど、でも……。」
「ちょ、ちょっとストップ!」
ユウとエルザの会話にミヤコが割り込んでストップをかける。
「エルちゃんが王族ってどういう事よ。ちゃんと説明してっ。」
「……言ってなかったっけ?」
エルザが考え込むように天を見上げる。
「どうでもいい。」
「よくないわよっ、聞いてないよっ!」
「アハッ、ゴメンね、話したつもりでいたよ。」
エルザがミヤコを宥めるように言う。
「って事は、エルちゃんが王族っていうのはマジなのか?」
「うーん、王族って言っていいのかな?血のつながりはあるけど、継承権がないからね。」
カズトの質問に苦笑しながら答えるエルザ。
「どういうこと?」
「んッと、私のお父様が現国王様の弟なのね。だから血縁って意味ではそうだけど、この国の法律では王族っていうのは王位継承権を持つ者に限られるのよ。で、お父様は継承権第7位、お兄様が継承権第10位なんだけど、私に関しては色々あって、継承権が与えてられてないのよ。まぁ、そのおかげで、気楽な冒険者をやっていても、見逃してもらえてるんだけどね。」
「そうなんだ。共、王家の血を引いてるって事は間違いなくて、ユウちゃんが言うにはシルヴィアちゃんと関わりがあるかも?って事なんだよね?だけど、当のシルヴィアちゃんには子供がいなかったみたい、と。どういうことなの?」
「うーん、王家にも詳しい事は伝わってなくて……。一応、王家に残された正史では、人の姿に化身して人間界を見守っていたマリア・シルヴィア様が、ある男性と恋に落ちて結ばれて、生まれた子供にそのお力を惜しみなく注がれた。やがてその子供が大きく成長し、混乱の最中にあった大陸を知恵と武力によって平定して一大王国を築き上げた。それがエルザーム王国の前身であり、その後幾つかの戦乱を経て、王国は分割されたけど、その中心であるエルザーム王国は今もなお健在である。ってなってるんだけどね。後、他には、神となったマリア・シルヴィア様には妹君がいて、その妹君に人間界の統治を任せたの。その中心となった国がエルザ―無王国だっていう説もあるわ。」
「うーん、神話は時として本当の事を伝えてるって話もあるけど、時の権力者が、自らの権力を強大に見せるために神話を利用するっていう実例もあるよね。実際の所はどうなのかなぁ?」
ユウちゃん、わかる?とミヤコはユウに話を振る。
「シルヴィに子供はいないし、妹の子供というのもあり得ない。でも、エルたんの話を聞いて一つの可能性を思い出した。」
「どういうの?」
「シルヴィのクローンの可能性。」
「クローン?可能なの?」
「難しい話じゃない。10万年前にはクローン体を生成して、老化した部分を取り換えることで、長寿が可能になっていた。シルヴィは自らの身体を魔導ネットワークのコアにしたことで身動きが取れなくなったけど、自分の代わりに自由に動けるユニットとしてクローン体を使用していた可能性がある。」
「そのクローン体の子孫が今の王家ってわけ?」
「その可能性が高い。それなら、エルたんとシルヴィの類似性にも説明はつく。……偶然の産物というよりもよほど納得できる。」
「えっと、そろそろいいかニャ?」
ユウの説を聞いて色々と考えている所に、足元から不意に声がかかる。
「誰っ!」
思わず飛び退き、声のした場所に視線を向けるミヤコ。
そこには1匹の黒猫がちょこんと座っていた。
「いつの間に。」
「いつの間って……ずっといたニャ。無視されてたけど。」
そう言って悲しそうに顔を伏せる。
「あ、アハハ、ゴメンね。無視してたんじゃなくて、気付かなかったのよ。それより、あなたはいったい何者なの?」
ミヤコは黒猫にそう声をかける。
「ボク?ボクはココのガーディアンであり、試験管理者《アドミニストレータ》であり、この先を導く者ニャ。」
「えっと、それは私達の敵、って事かな?」
ミヤコが少し距離を取り警戒を強める。
「それはキミたち次第ニャ。」
「私たち次第?」
「そうニャ。ここのシステムは、マスターがただ一人に向けたものニャ。キミたちにその資格があるかどうかを見極めるのがボクの仕事…………ふみゃっ!」
「グチグチ煩い。」
ユウが黒猫を踏みつけていた。
「ユウ、ちょっと可哀想だよ。……大丈夫?」
エルザが、ユウの足元から黒猫を救い上げ、優しくなでる。
「ふみゃぁ。アンタ……あなた様は天使様ニャ。マスターと同じ匂いがするニャ。」
ゴロゴロと喉を鳴らしてエルザの胸に頭を掏りつける黒猫。
「いい加減にする。エルたんの胸は私のもの。」
「私の胸は私のだよっ!」
エルザの胸から無理やり黒猫を引きはがすユウに、エルザが反論を返す。
「あー、話を戻していい?資格があるかどうかって、どういうこと?」
「そうニャ!キミたちの中に『ユースティア』はいるかニャ?」
黒猫が、身体を捻って、ユウから距離を取り、少し威嚇するように告げる。
「いなかったらどうするって?」
ユウが黒猫を睨む。
「この施設はマスターがユースティア様の為に残したものニャ。お前みたいな乱暴者には勿体ニャい代物ニャ。資格のない奴らは、ボクが排除するニャ!」
黒猫がそう言うと、その身体からおびただしい魔力が膨れ上がる。
「えっと、クロちゃん。」
「クロって、ボクの事かニャ?」
「あ、うん、そうだけど、他に名前あった?」
「ニャいにゃ……天使様が付けてくれた『クロ』でいいニャ。」
「天使じゃないんだけど……。それより、今あなたの目の前にいるのが『ユースティア』よ?」
エルザの言葉に黒猫の動きが止まる。
「う、うそニャ………、ありえニャいにゃ。」
「ホントよ?」
「だって、だって、マスターはユースティア様は、気高く美しく、そして優しい女神様だって言ってたニャ。」
「気高いかどうかわからないけど、ユウは優しいよ?」
「うそニャ、うそニャ、うそニャっ!……じゃぁ、テストするニャっ!本物のユースティア様ならマスターの質問に答えられるはずニャ。」
「何かわからないけど、受けて立つ。」
少しパニック江を起こしているクロをバカにするように、ユウが目の前に立ちふさがる。
「うぅー、行くにゃ。第一問、ユースティア様は休みは何をしてるニャ?」
「部屋でゴロゴロしてる。」
「……当たりニャ。次ニャ!第二問、ユースティア様は長い髪と短い髪、どっちが好きニャ?」
「長い髪」
「クッ、これも当たりニャ。でも次は分からニャいはず。ユースティア様は右のおっぱいと左におっぱい、どっちが感じるニャ?」
「……右。」
「うーーーー、ニャんであたるニャ。次ニャ、次……。」
その後も、セクハラまがいのクロの質問が続く。
あそれはあまりにも赤裸々でユウの性癖を晒す者であり、ユウの事をよく知っていなければできない質問の数々だった。
因みに、質問が際どくなってきた辺りで、ミヤコはカズトに遮音結界をかけ隔離した。そうでなければ、カズトは今頃興奮のあまり、そのリビドーを暴発させていたに違いない。
「うぅ……これで最後ニャ……この問題を用意したマスターの名前は?」
「こんなバカな質問するのはシルヴィしかいない。ノルキア帝国の第三王女シルヴィア・ノルエ・ランスリットがあなたのマスター。違う?」
「うぅ、正解にゃ……認めたくニャいけど、認めるニャ。今から、ここの権限はユースティア様に移譲するニャ。」
クロががっくり項垂れてそう言うと、あたりが光に包まれる。
そして光が収まった後には一つの石が転がっていた。
「それに魔力を流すニャ。」
クロに促されて、ユウは石を拾い上げ、魔力を流す。
すると、辺り一面に光が広がり、今まで沈黙を保っていた魔導機械が光を灯し動き始める。
「これでこの施設はユースティア様のものニャ。」
「……クロ。一つ聞く。シルヴィは生きてるの?」
「……分からニャい。ボクもユースティア様がここにきて目覚めたから。施設に侵入者が来たときに目覚めるようにインプットされてたニャ。」
「眠ったのはいつ?」
「計算するニャ・……今から2万5千年前ニャ。」
「古代文明の時代ね。」
エルザが呟く。
「シルヴィアちゃんがどこにいるかとか分からないの?」
ミヤコがクロに訊ねる。
「分からニャい。ボク達は与えられた使命を果たすだけニャ。」
「使命?」
「ユースティア様に施設を渡し伝言を伝える事。」
クロはそう言ってくるりと一回転すると、少女の姿に変わる。
「髪色以外シルヴィそっくり。」
ユウが思わずつぶやく。
「ユースティア様に申し上げるニャ。我がマスターシルヴィア様からの伝言ニャ。」
ユウはコクリと頷く。
『ユウ、もし、あなたが生きているなら、私に会いに来て。絶対に謝らせてあげるわ。いつまでも待ってるから。』
クロはそう告げると、元の黒猫の姿に戻る。
「今ユースティア様が手にしているのは『闇魔石』ニャ。マスターに会うにはあと6つのキーストーンが必要ニャ。」
「キーストーン?」
「『闇魔石』『光魔石』『火魔石』『風魔石』『水魔石』『土魔石』『聖魔石』の7つのキーストーンニャ。これを集めてマスターシステムにアクセスすれば、マスターの居る『グランド・ガーデン』に辿り着けるニャ。」
「そのキーストーンってどこにあるの?」
「知らニャいニャ。自分で頑張って探すニャ。」
クロはそう言うと、ポンとジャンプしエルザの腕の中に納まる。
「とりあえず、ボクの仕事終わりニャ。後は女神様の胸でゆっくりするニャ。」
「……女神様はユウの方なんだけど?」
「ボクは認めニャい。女神様はあなただけニャ。」
「うー、その性格、シルヴィの使い魔だって事がよくわかる。」
「えっと、つまりは……どういうこと?」
ミヤコが混乱した頭を整理するかのように訊ねてくる。
「うーん、要は、この遺跡はユウに残されたもので、後に多様なのが6つあって、マリア・シルヴィア様に会うためにはそれを探さなきゃいけない……って事かな?」
「ぶぅ……逢いたいならそっちから会いにくればいい。」
「アハッ、そう拗ねないの。私も協力してあげるから。……ほんとは会いたいんでしょ。」
「…会いたくない…………わけでも……ない。」
「素直になりなよ。よし、これで私達の目的も決まったね。」
素直じゃないユウにミヤコが声をかける。
「そうと決まったら、まずはここを脱出して色々と情報集めないとね。……カズト、働きなよっ!」
結界に閉じ込められて動けずにいるカズトの元へ駆けていくミヤコ。
「シルヴィのバカ……。」
まだブツブツ言っているユウにエルザが近づいてそっと囁く。
「よかったね。シルヴィア様に会えるね。」
ユウは何も答えず、ただ小さく頷くだけだった。
そこに来た時、ミヤコが目にしたその光景は、既視感を覚えるものだった。
「似てるわね。」
「あぁ、あのダンジョンに合ったのと同じ……に見える。」
カズトも同じことを考えていたのか、ミヤコの呟きに頷く。
「つまり、学園のダンジョンも、マリア・シルヴィア様と関係があるって事ね。……不思議ではないけど。」
「何故?」
「学園は国の管理下にあるのよ?そしてエルザーム王国の王家はマリア・シルヴィア様の血脈だって言い伝えがあるのよ。小さな国でもそれなりに権威があるのは、そのおかげもあるの。」
「血脈って、シルヴィアちゃん結婚してたの?」
「してない。シルヴィは処女。それは間違いない。」
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「それはない。シルヴィが処女なのは確認してる。その後シルヴィは魔導ネットワークのコアになったから、そう言う事はしたくても出来なくなった。」
ミヤコの言葉にユウが強く反発する。
「じゃぁ、王家がシルヴィアちゃんの血を引いてるって事は嘘なの?」
「……分からない。エルたん、シルヴィに似すぎてる。」
「なんでエルちゃんが此処に出てくるの?」
「エルたん、王家の一族。」
「「えっ!!」」
ユウの爆弾発言にミヤコとカズトは思わず大声を上げる。
「魔力の流れにもシルヴィに似た懐かしい感じがする。エルたんとシルヴィには何かの関係があっても不思議じゃない。」
しかし、ユウは、ミヤコ達の驚きを無視して話を続ける。
「えっ、それ私初耳なんだけど?」
初めて告げられる事実にエルザも驚く。
「言っても混乱させるだけだから言わなかった。それにシルヴィはシルヴィ、エルたんはエルたん。」
「それはそうだけど、でも……。」
「ちょ、ちょっとストップ!」
ユウとエルザの会話にミヤコが割り込んでストップをかける。
「エルちゃんが王族ってどういう事よ。ちゃんと説明してっ。」
「……言ってなかったっけ?」
エルザが考え込むように天を見上げる。
「どうでもいい。」
「よくないわよっ、聞いてないよっ!」
「アハッ、ゴメンね、話したつもりでいたよ。」
エルザがミヤコを宥めるように言う。
「って事は、エルちゃんが王族っていうのはマジなのか?」
「うーん、王族って言っていいのかな?血のつながりはあるけど、継承権がないからね。」
カズトの質問に苦笑しながら答えるエルザ。
「どういうこと?」
「んッと、私のお父様が現国王様の弟なのね。だから血縁って意味ではそうだけど、この国の法律では王族っていうのは王位継承権を持つ者に限られるのよ。で、お父様は継承権第7位、お兄様が継承権第10位なんだけど、私に関しては色々あって、継承権が与えてられてないのよ。まぁ、そのおかげで、気楽な冒険者をやっていても、見逃してもらえてるんだけどね。」
「そうなんだ。共、王家の血を引いてるって事は間違いなくて、ユウちゃんが言うにはシルヴィアちゃんと関わりがあるかも?って事なんだよね?だけど、当のシルヴィアちゃんには子供がいなかったみたい、と。どういうことなの?」
「うーん、王家にも詳しい事は伝わってなくて……。一応、王家に残された正史では、人の姿に化身して人間界を見守っていたマリア・シルヴィア様が、ある男性と恋に落ちて結ばれて、生まれた子供にそのお力を惜しみなく注がれた。やがてその子供が大きく成長し、混乱の最中にあった大陸を知恵と武力によって平定して一大王国を築き上げた。それがエルザーム王国の前身であり、その後幾つかの戦乱を経て、王国は分割されたけど、その中心であるエルザーム王国は今もなお健在である。ってなってるんだけどね。後、他には、神となったマリア・シルヴィア様には妹君がいて、その妹君に人間界の統治を任せたの。その中心となった国がエルザ―無王国だっていう説もあるわ。」
「うーん、神話は時として本当の事を伝えてるって話もあるけど、時の権力者が、自らの権力を強大に見せるために神話を利用するっていう実例もあるよね。実際の所はどうなのかなぁ?」
ユウちゃん、わかる?とミヤコはユウに話を振る。
「シルヴィに子供はいないし、妹の子供というのもあり得ない。でも、エルたんの話を聞いて一つの可能性を思い出した。」
「どういうの?」
「シルヴィのクローンの可能性。」
「クローン?可能なの?」
「難しい話じゃない。10万年前にはクローン体を生成して、老化した部分を取り換えることで、長寿が可能になっていた。シルヴィは自らの身体を魔導ネットワークのコアにしたことで身動きが取れなくなったけど、自分の代わりに自由に動けるユニットとしてクローン体を使用していた可能性がある。」
「そのクローン体の子孫が今の王家ってわけ?」
「その可能性が高い。それなら、エルたんとシルヴィの類似性にも説明はつく。……偶然の産物というよりもよほど納得できる。」
「えっと、そろそろいいかニャ?」
ユウの説を聞いて色々と考えている所に、足元から不意に声がかかる。
「誰っ!」
思わず飛び退き、声のした場所に視線を向けるミヤコ。
そこには1匹の黒猫がちょこんと座っていた。
「いつの間に。」
「いつの間って……ずっといたニャ。無視されてたけど。」
そう言って悲しそうに顔を伏せる。
「あ、アハハ、ゴメンね。無視してたんじゃなくて、気付かなかったのよ。それより、あなたはいったい何者なの?」
ミヤコは黒猫にそう声をかける。
「ボク?ボクはココのガーディアンであり、試験管理者《アドミニストレータ》であり、この先を導く者ニャ。」
「えっと、それは私達の敵、って事かな?」
ミヤコが少し距離を取り警戒を強める。
「それはキミたち次第ニャ。」
「私たち次第?」
「そうニャ。ここのシステムは、マスターがただ一人に向けたものニャ。キミたちにその資格があるかどうかを見極めるのがボクの仕事…………ふみゃっ!」
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「ユウ、ちょっと可哀想だよ。……大丈夫?」
エルザが、ユウの足元から黒猫を救い上げ、優しくなでる。
「ふみゃぁ。アンタ……あなた様は天使様ニャ。マスターと同じ匂いがするニャ。」
ゴロゴロと喉を鳴らしてエルザの胸に頭を掏りつける黒猫。
「いい加減にする。エルたんの胸は私のもの。」
「私の胸は私のだよっ!」
エルザの胸から無理やり黒猫を引きはがすユウに、エルザが反論を返す。
「あー、話を戻していい?資格があるかどうかって、どういうこと?」
「そうニャ!キミたちの中に『ユースティア』はいるかニャ?」
黒猫が、身体を捻って、ユウから距離を取り、少し威嚇するように告げる。
「いなかったらどうするって?」
ユウが黒猫を睨む。
「この施設はマスターがユースティア様の為に残したものニャ。お前みたいな乱暴者には勿体ニャい代物ニャ。資格のない奴らは、ボクが排除するニャ!」
黒猫がそう言うと、その身体からおびただしい魔力が膨れ上がる。
「えっと、クロちゃん。」
「クロって、ボクの事かニャ?」
「あ、うん、そうだけど、他に名前あった?」
「ニャいにゃ……天使様が付けてくれた『クロ』でいいニャ。」
「天使じゃないんだけど……。それより、今あなたの目の前にいるのが『ユースティア』よ?」
エルザの言葉に黒猫の動きが止まる。
「う、うそニャ………、ありえニャいにゃ。」
「ホントよ?」
「だって、だって、マスターはユースティア様は、気高く美しく、そして優しい女神様だって言ってたニャ。」
「気高いかどうかわからないけど、ユウは優しいよ?」
「うそニャ、うそニャ、うそニャっ!……じゃぁ、テストするニャっ!本物のユースティア様ならマスターの質問に答えられるはずニャ。」
「何かわからないけど、受けて立つ。」
少しパニック江を起こしているクロをバカにするように、ユウが目の前に立ちふさがる。
「うぅー、行くにゃ。第一問、ユースティア様は休みは何をしてるニャ?」
「部屋でゴロゴロしてる。」
「……当たりニャ。次ニャ!第二問、ユースティア様は長い髪と短い髪、どっちが好きニャ?」
「長い髪」
「クッ、これも当たりニャ。でも次は分からニャいはず。ユースティア様は右のおっぱいと左におっぱい、どっちが感じるニャ?」
「……右。」
「うーーーー、ニャんであたるニャ。次ニャ、次……。」
その後も、セクハラまがいのクロの質問が続く。
あそれはあまりにも赤裸々でユウの性癖を晒す者であり、ユウの事をよく知っていなければできない質問の数々だった。
因みに、質問が際どくなってきた辺りで、ミヤコはカズトに遮音結界をかけ隔離した。そうでなければ、カズトは今頃興奮のあまり、そのリビドーを暴発させていたに違いない。
「うぅ……これで最後ニャ……この問題を用意したマスターの名前は?」
「こんなバカな質問するのはシルヴィしかいない。ノルキア帝国の第三王女シルヴィア・ノルエ・ランスリットがあなたのマスター。違う?」
「うぅ、正解にゃ……認めたくニャいけど、認めるニャ。今から、ここの権限はユースティア様に移譲するニャ。」
クロががっくり項垂れてそう言うと、あたりが光に包まれる。
そして光が収まった後には一つの石が転がっていた。
「それに魔力を流すニャ。」
クロに促されて、ユウは石を拾い上げ、魔力を流す。
すると、辺り一面に光が広がり、今まで沈黙を保っていた魔導機械が光を灯し動き始める。
「これでこの施設はユースティア様のものニャ。」
「……クロ。一つ聞く。シルヴィは生きてるの?」
「……分からニャい。ボクもユースティア様がここにきて目覚めたから。施設に侵入者が来たときに目覚めるようにインプットされてたニャ。」
「眠ったのはいつ?」
「計算するニャ・……今から2万5千年前ニャ。」
「古代文明の時代ね。」
エルザが呟く。
「シルヴィアちゃんがどこにいるかとか分からないの?」
ミヤコがクロに訊ねる。
「分からニャい。ボク達は与えられた使命を果たすだけニャ。」
「使命?」
「ユースティア様に施設を渡し伝言を伝える事。」
クロはそう言ってくるりと一回転すると、少女の姿に変わる。
「髪色以外シルヴィそっくり。」
ユウが思わずつぶやく。
「ユースティア様に申し上げるニャ。我がマスターシルヴィア様からの伝言ニャ。」
ユウはコクリと頷く。
『ユウ、もし、あなたが生きているなら、私に会いに来て。絶対に謝らせてあげるわ。いつまでも待ってるから。』
クロはそう告げると、元の黒猫の姿に戻る。
「今ユースティア様が手にしているのは『闇魔石』ニャ。マスターに会うにはあと6つのキーストーンが必要ニャ。」
「キーストーン?」
「『闇魔石』『光魔石』『火魔石』『風魔石』『水魔石』『土魔石』『聖魔石』の7つのキーストーンニャ。これを集めてマスターシステムにアクセスすれば、マスターの居る『グランド・ガーデン』に辿り着けるニャ。」
「そのキーストーンってどこにあるの?」
「知らニャいニャ。自分で頑張って探すニャ。」
クロはそう言うと、ポンとジャンプしエルザの腕の中に納まる。
「とりあえず、ボクの仕事終わりニャ。後は女神様の胸でゆっくりするニャ。」
「……女神様はユウの方なんだけど?」
「ボクは認めニャい。女神様はあなただけニャ。」
「うー、その性格、シルヴィの使い魔だって事がよくわかる。」
「えっと、つまりは……どういうこと?」
ミヤコが混乱した頭を整理するかのように訊ねてくる。
「うーん、要は、この遺跡はユウに残されたもので、後に多様なのが6つあって、マリア・シルヴィア様に会うためにはそれを探さなきゃいけない……って事かな?」
「ぶぅ……逢いたいならそっちから会いにくればいい。」
「アハッ、そう拗ねないの。私も協力してあげるから。……ほんとは会いたいんでしょ。」
「…会いたくない…………わけでも……ない。」
「素直になりなよ。よし、これで私達の目的も決まったね。」
素直じゃないユウにミヤコが声をかける。
「そうと決まったら、まずはここを脱出して色々と情報集めないとね。……カズト、働きなよっ!」
結界に閉じ込められて動けずにいるカズトの元へ駆けていくミヤコ。
「シルヴィのバカ……。」
まだブツブツ言っているユウにエルザが近づいてそっと囁く。
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【お知らせ】6/22 完結しました!
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※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
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