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引きこもり聖女、王都へ その4

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「ねぇ、エル、今日もお出かけしないの?と言うかそろそろ出ないとふやけるよ?」
湯船につかるエルザに声を掛けるユウ。その声音は明らかに不満気だった。
「いーの。ユウだって私とこうしてノンビリしたいんでしょ。」
それに対して、少し拗ねたような投げやりっぽい返事をするエルザ。
しかし違うのだ。ユウが求めているのは、エルザの可愛い反応があってのイチャイチャであり、エルザの困った顔を見るのを含めた引き籠もりなのだ。
間違っても、お胸を触っても「あーはいはい、どうぞ。」などと冷たくあしらわれたり、エルザの方から「今日は出かけないから好きにして」などと言われたいわけでは無いのだ。

「エルたんがその気なら、私にも考えがある。」
ユウはどこからもなく取り出したロープを持って近づいてくる。
その様子に不穏な空気を感じたエルザは、少し顔をひきつらせ、いつでも逃げ出せるように、そっと湯船から出ながら訊ねてみる。
「えっと、一応聞くけど、その手に持ってるのは何?」
「ただのロープ。」
「いや、それはわかるけど、それでどうするのかなぁ、って。」
エルザはソロリソロリと、風呂場の入り口に向けて移動する。焦ったらヤられる……そんな気がした。
「それはもちろん…………こうするのっ!」
一瞬の隙をついて逃げ出そうとしたエルザの脚をロープが絡め取り、倒れそうになったところをユウに抱き留められる。
「ふふん、エルたんがいけないんだゾ。」
あっと言う間に縛られ、寝室へと運ばれるエルザ。
「エルたんを好きにしていいんだよね?どうせ出かけないんだもんね。」
「えっと、好きにして良いとは言ってないけど……。」
そう言っている間に、ベッドの上で完全に拘束されるエルザ。手と足を一緒に縛られ、身体を抑えつけられているため全く身動きがとれない。
しかも、お風呂場から直行したため、その身を隠す物は何もなく、全てをユウの前にさらけ出している。これはさすがに恥ずかしい。
「そうそう、その顔が見たいの。」
「私をどうする気?」
「エルたんがずっと引きこもるって言うなら、調教しようかと。」
「調教!?」
ユウの口からとんでもない単語が飛び出す。
「うん、エルたんに快楽の限りを教えてあげる。私なしじゃ生きられない様にしてアゲル。」
「なにをっ!…。外しなさいよっ!今なら冗談で許してあげ……っ、ぁんっ。」
「……エルたんは素直におねだり出来るようになろうね。」
エルザの文句を聞き流して、優しく胸の先を舌で転がす。
「ぁんっ、それ、ダメェ……。」
「今日は本気でいくよぉ。」
ユウはそう言いながら様々な道具を取り出す。
見たこともなく、どの様に使用するかもわからない物ばかりだったが、エルザは直感的にヤバいと悟る。
「ひぃっ!ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、許して、ユウ様………。」
アレを使われたらエルザの人生は終わる。
そう思ったら恥も外聞もなく、謝り倒すエルザだった。



「うぅ、ユウひどい……。もぅお嫁にいけない。」
「エルたんは私の嫁。どこにもやらない。」
「………ユウのばかぁ。」
「エルたんきゃわわ~。」
あれから何度も赦しを乞い、ユウが満足するまで弄ばれた後、ようやく許してもらい、今はテーブルに突っ伏しているエルザ。

……ヤバかった。本当にヤバかった。あれ以上続けられたら、冗談抜きでユウがいないと生きていけなくなるところだった。

「それで、これからの予定は?」
「取り敢えず街中に行きましょ。学園とか見に行くのも良いかも。」
ユウの問いかけに反射的に答えるエルザ。
特に予定を立てているわけではないが、それは動きながら考えよう。
先ずはとにかく部屋を出ることだ。
いつまでも部屋にいては、いつまたユウがさっきの続きといい出すかわからない。
まだ少し疼く身体を宥めつつ、そんなことを考えるエルザだった。


「これ美味しい。」
「ユウは何でもおいしそうない食べるねぇ……確かに美味しいわ。」
満足げに忙しなくスプーンを口に運ぶユウを見ながら、目の前にあるパフェから自らの分を掬い取り口元に運ぶエルザ。
……さすが王都で有名と言われるだけの事はあるわね。
ユウとエルザがいるのは、王都にある学園のすぐ近くにあるカフェだ。
立地の関係上、学園生が多く入っているが、とりわけ女生徒が目に付くのは、この店のデザートが絶品という噂のせいだろう。
そして、噂にたがわず目の前にあるパフェはとても美味しい。
二人が頼んだのは『ジャイアント・ビックパフェ』というとにかく大きさを強調したような名前のパフェだったが、出てきたときには目を見張った。
何といっても、受け皿の直径が80cm近くありそれだけでテーブルをはみ出してしまいそうなほどである。
そして、驚くべきはその高さ。なんと1m近くあるのだ。その周りには山盛りのフルーツの数々。よく崩れないものだと感心をする。
こういうものは、大抵が見た目のインパクトだけで、味は大したことがないというのがお約束だが、ここのパフェは、ベースになるクリームやフルーツの味付けなどしっかり丁寧に作られており、はっきり言って、これほどのものは領都でも食べたことがないほどの味わいであった。
……まぁ、銀貨1枚もするんだから、それぐらいはねぇ。
ちょっと悔しく感じたエルザはそんな負け惜しみを呟くのだった。

「ねぇ、エル。みんななんで同じ服着てるの?流行り?」
パフェを食べながらユウが聞いてくる。
ユウの視線の先には、おしゃべりしつつも、噂のジャンボパフェに興味津々と言った感じで、チラッチラッと時折視線を向けてくる学園生たちの姿があった。
「あぁ、あれは学園の『制服』よ。」
「せいふく?」
「うーん、何て説明すればいいかな?学園生であるという証明をするための正装?」
「認証装置があんなに?」
ユウは驚く。これまで見聞きしたことで、今の時代はかなり文明が衰退していることが分かっていた。それなのに認証証明の魔道具を組み込んだ衣装をあれほどそろえることが出来るなんて……。
認証装置そのものはそれほど手間がかかるものではなく、今の時代でもたやすく作成できるものではあるが、それを衣装などの装備に組み込むとなると、難易度が跳ね上がる。
というのも、組み込む際に使用する触媒の素材が非常に希少なものであり、また取り扱いがデリケートなものだからだ。
カチューシャに簡単に組み込んでしまうユウがおかしいのであって、ユウが生きていた時代でも、その扱いの難しさから装備に組み込むことはせず、指輪とかネックレスなどに嵌め込む石代わりに使用されるのが普通だった。
エルザに聞いたところによると、学園生は300人以上いるという。それだけの数を賄う触媒を用意する国力と技術者の多さに戦慄を覚えるユウだった。
「あー、違う違う。認証装置とかじゃなくて、ただそう言うものってだけ。」
「へっ?」
「だからね、衣装そのものには何の効果もないの。ただ衣装そのものが「着ているのは学園生」と広く認識されているだけ。」
「え?でもそれじゃぁ、偽物が紛れ込んでててもわからないよ。」
「うーん、そうねぇ。確かにその通りだけど、偽物が紛れ込んでいても余り意味はないかなぁ?」
「??????」
エルザの言葉に、訳が判らないと頭を抱えるユウ。
それを見て、エルザは、そもそも学園とは何か?という所から説明することにした。

学園……各国にある教育機関の総称で、国によって様々な違いはあるが、エルザーム王国の場合、ほとんどの国民が6歳になると学園に所属するというのが、他の国に比べて特徴的である。
これは、列強国に囲まれ苦労していた数代前のエルザーム王国の国王が「国を守るためには国民一人一人の力が必要である」と訴え、身分や貧富の差がなく教育を受けられるように、学園に対して大きく支援していることが関係している。
国民は、例え辺境の村の農夫の子であっても教育が受けられるように、学園にかかる費用は一切国が負担している。そのため、貧しい家程子供が6歳になるのを待ち望んでいた。
子どもが学園に通っている間は、子供が飢える心配もなく、また、年に2回わずかではあるが教育支援金というものが配給されるからだ。
この支援金は、本来であれば働き手となる子供たちが、教育の為に働けないことを嫌がって、学園に出さないというような事態を抑えるために出来た制度であり、この制度によって子供の就学率がほぼ100%に近くなっている。
この数字は「学術王国」として名高い東のメルヴィーラ王国でも就学率が68.2%であることからしても、異常なくらい高いというのが判るだろう。

学園は幼年部、初等部、中等部と別れていて、幼年部では簡単な読み書きと算術、それに集団生活を学ぶ場となっている。
初等部では幼年部より高度ではあるが、基礎的な教育全般と、将来に向けて各種職業の基礎的な事を学ぶことが出来る。
中等部になればそれぞれの職業に就くべく、専門的なコースに分かれての教育を受け、そして身分差というものも同時に学ぶようになる。
成人したのち、さらに専門的な事を学ぶため高等部に進む者もいるが、その殆どは貴族階級に属する者であり、平民は初等部、もしくは中等部で卒業していくのがふつうである。

ただ、何事にも例外があるもので、魔術科と冒険者課程だけは別枠となっている。
魔法に関しては幼い頃から訓練すればするほど、その魔法力の伸びしろが大きいという事が分かっており、魔法の才能が認められたものは、幼年部だろうが中等部だろうが、途中から魔術科に転向することが出来、希望すれば高等部の賢者養成課程に進むことも出来る。
そこまで進むことが出来れば、宮廷魔導士の道が開け、将来は安泰であり、平民が夢見る憧れの職業でもある。

冒険者課程は墓とは少し趣が変わっていて、10歳から受けることが出来るが、他のコースと大きく異なるのは、成人してから入ってくるものも数多くいるという所だった。
冒険者を目指すものは必ずしも子供ばかりではなく、むしろ、成人してから冒険者を目指すものも多く、そう言う者たちを対象にしているため、冒険者コースだけは、下は10歳から上は30近い大人まで様々な年代が入り混じっているのも大きな特徴だった。

「……と言った感じで、一口に学園って言っても様々な……って寝てるしっ!」
エルザの話が長かったのか、ユウはテーブルに突っ伏して寝ていた。
しかも、いつの間にかパフェの皿は空になっている。
「……どうせ、最初の方しか聞いていないんだろうけどね。」
エルザは仕方がなく、寝ているユウを背負ってカフェを出ていくのだった。



「……ん……ここは?」
「あ、起きた?もうすぐ宿に着くよ。」
「エルたんの背中、柔らか~。」
「ハイハイ、明日は街でお買い物に行くからね。学園に入る準備をそろそろしないといけないからね。」
「……引きこもらないの?」
「引きこもりませんっ!」
引きこもって、またユウに襲われてはたまらない、とエルザは固く決意した声でそう告げるのだった。
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