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フォンブラウ領、反乱!? その5

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「……聞いてるの、ユウ!大体あなたは……。」
エルザが、ユウにお説教をしている間に、エメロードたちが立ち上がり身体を伸ばす。
「お、お前ら、この無礼者を捕らえよっ!」
自由を取り戻したエトルシャンがオルド達に命令するが、オルドは困ったようにエメロードとミリアルドを見る。
しかし、エメロードたちが何か言う前に、エトルシャンがエルザによって殴り飛ばされる。

「はぁ?何言ってるんですか、この馬鹿兄は?」
倒れたエトルシャンの胸ぐらを掴んで上体を引き起こしながら、説教を始めるエルザ。
「いいですか?ユウは遺跡迷宮に閉じ込められて死にそうになっていた私を助けてくれた恩人なのですよ。しかも毒によって死にかけていたお父様を助け、呪いによって一生光を奪われたお母様に光を取り戻してくれた恩人なのですよ。さらに言えば、お兄様やお父様が、あの魔物の大群に立ち向かえたのも、ユウの武器のお陰でしょうがっ!それにユウは街を護るために自らも戦ってくれたのですよ。指揮台だって直してくれなければ、お母様がいくら優秀でも、あれだけ短期間に魔物を追い払う事なんかできないですよねっ!」
「し、しかし、あいつのせいで、次期領主の俺が……。」
「まだ言いますかっ!」
ピシっ!パシっ!とエトルシャンの両頬を張る。
「あれは、お母様の護衛にってユウがつけてくれたものですよ。聞けば碌に確認もせずに先に襲い掛かったのは兄様だというじゃありませんかっ!いきなり襲い掛かられれば、誰だって反撃します。それが護衛を任されたものならば、相手が誰であろうと無力化するのは当然じゃありませんかっ!」
エルザの言葉に、ウンウンと頷くオルドレア達近衛兵。
「しかし、あいつはお前を……。」
「あれはユウのいつもの冗談ですっ!ユウは私の恩人であり大事な友人なのですよ。私もユウの事大好きですし、そんなユウが、冗談でもあんなこと言ってくれるなんて嬉しいだけですよ。それに私たち一族は、ユウに一生かかっても返しきれない恩を受けているんですよ。私一人を捧げたぐらいじゃ全然足りないぐらいにっ!それを捕らえろってどの口が言うんですかっ!」
「冗談じゃないのにぃ……。」
ユウが呟くが、今は無視することにするエルザ。
「あー、エルリーゼ、もうその位で勘弁してやってくれないか。エトも反省しているようだし。」
パシッ!パシッ!とエトルシャンにビンタを繰りかえすエルザを見て、エメロードが声をかける。

「はぁ、何言ってるんですかっ!大体お父様もお父様ですっ!」
エトルシャンを投げ飛ばし、エメロードに詰め寄るエルザ。
「お父様の教育がしっかりしてないから、エト兄様があんなんになるんですよ!それに、何簡単に暗殺されそうになってるんですかっ!エメル・デストロイの名は伊達ですかっ!」
「エルリーゼ、どこでその名を……。」
「今はそんなことはどうでもいいですっ!大体、お父様は見る目がないですっ!あのガーズ伯爵がお父様の言う事を聞かずに何かしようとしてるなんて、一目瞭然じゃないですかっ!あの腹黒ギルを私の婚約者候補にって言った時もそうですよっ!どう見たって、何か企んでいるようにしか見えないじゃないですかっ!お父様がそんなんだから、エト兄様だって騙されるんですっ!」
「あ、あのな、エルリーゼ。落ち着こう、なっ、なっ。」
必死に娘を宥めようとするエメロードだが、聞く耳を持たないエルザ。
「何言ってるんですかっ!そんなこと言う暇があればもっと気を張ってくださいっ。お父様は最近、気が緩み過ぎじゃないですかっ!そのうちお母様にも愛想をつかされますよ。」
エルザの言葉にエメロードは視線をミリアルドに向けるが、ミリアルドは愛想笑いを浮かべたまま、そっと視線を逸らす。
「ミリィ、そんな……。」
「お母様ぁ~!」
エルザはエメロードを突き飛ばして、ミリアルドの胸に顔を埋めて泣き出す。
「本当に、本当に心配したんだからっ!お父様もお母様もいなくなるんじゃないかって……間に合わなかったらどうしようかって……。」
泣きじゃくる娘の頭を撫で、優しくあやすミリアルド。

「エルたん、気が緩んだみたい。」
ユウがボソッと呟く。
「そうね、ずっと気を張ってたのね。助けてくれてありがとね、エル。」
「お母様ぁ……。」
泣きじゃくるエルザを見守るユウとミリアルド。その様子に居た堪れなくなるエメロードとエトルシャン。
そして、その場から離れ持ち場に着くように、と、そっと指示を出すオルドレアと、その指示を受け、音を立てずにその場から去る近衛兵たち。
結局、エルザが泣き止んで、次の行動に移れるようになるまで、1時間の時間を費やしたのだった。



「……と、まぁ、こういうわけだ。」
エメロードが話を締めくくる。
とりあえず、いきなりの出来事で、目の前のことに対処してきたのだが、エルザにとっては何が何だか分からない。逆にエメロードたちにしてみれば、いきなり家を飛び出したエルリーゼが、何故戻ってきたのか?それに、ユウと名乗る少女は何者なのか?
お互いに分からないことだらけなので、とりあえずは、食事でもしながら情報の共有をしようという事になり、まずは今回の事件の顛末をエメロードが話し終えたところだった。

エメロードの話をまとめると、事の起こりは国王の打ち出した外交政策にあるらしい。
エルザーム王国は、周りを大小様々に国に取り囲まれている比較的小さな国だ。
そんな国が身を護るためには、外交がとても重要になる。
そして今回、国王が打ち出したのは、隣国の亜人を中心とした国との融和を図る、というものだった。
その昔、色々あったせいで、いまだに亜人を毛嫌いする者は多く、ある国では亜人に限り奴隷とすることを認めるという法律があるくらいだった。
そのため、人族に迫害された亜人たちは、身を護るために種族の垣根を越えて身を寄せ合い、ついには一つの国を作るまでに至った。
亜人たちの中には、今まで受けた迫害の為、人族を嫌うものもいるが、逆に人族とうまく共存しようというものもいる。どちらにしても根は強直だが真っすぐな気性の為、旨く付き合っていければ、これ以上ない頼もしい味方になる。
そのためにも、まずはお互いを知ることから、とエルザーム王国国王シュトルフは亜人の国エルヴィン連邦首長国と大々的に交流を図ることにしたのだった。
しかし、エルザーム国内にも亜人排斥者はいて、国王の政策をよく思わないものが、今回の計画、つまり、エルヴィン連邦と境界を接しているフォンブラウ領で亜人を排斥しようとしたのだ。そのためには国王の弟である領主が邪魔になるので、人知れず暗殺、領主に成り代わり亜人を排斥、と考えたらしい。

「……ユウちゃん、美味しい?」
エメロードが話している間、我関せずと一心不乱に食事をしていたユウにミリアルドが訊ねる。
「うん、美味しい。でもエルたんのがもっと美味しい。」
「こっちは私が作ったのだから、もっと食べてよ。」
暗殺未遂に反乱騒ぎのせいで、いつもの料理人が館におらず、エルザの持っていた食材でエルザとミリアルドが、この夕食を作ったのだ。
魔物由来の食材が多かったが、ユウとエルザは普段から食べている物であり、エメロードとミリアルドにしても、冒険者時代にはよく食していた馴染の深いものばかりだったので、味付けにはそれなりの自信があった。
最も、普段魔物由来の食材を口にしたことのないエトルシャンだけは、微妙な顔つきではあったが。

「オィ、聞いてるのか?」
「聞いてるよ。要は、亜人との仲を悪くさせようとして、そのために邪魔なお父様を排斥しようとしたんでしょ?……はい、ユウ、あーん。」
「あーん……もぐもぐ。美味しい。」
「それはそうなんだが……しかも、俺の暗殺の犯人を、逗留している亜人の大使に被せようと目論んでいたらしくてなぁ。そっちのフォローも大変なんだよ。」
情報のすり合わせと言いながら、自分の話を聞いてくれない娘の姿に、がっかりと肩を落とすエメロード。

「ふーん。それは大変ねぇ。」
ちっとも大変じゃなさそうに言うエルザ。
「亜人って言っても私たちと変わらないのにね。そう言えば、エルちゃんのさっきの格好可愛かったわね。」
「言わないでぇ~。」
エルザは身もだえる。可愛い恰好は好きじゃない、と言いながら、こっそりと可愛い服を着ているのを、見つかった時のような気恥ずかしさがあるのだ。
「エルたんは可愛い。私もお揃い。」
ユウがネコミミカチューシャを取り出して自分の頭に装着する。
「きゃー、可愛い。これどうしたの?」
「ん、作った。」
「自分で作ったの?ユウちゃんって細工師?」
「んー、錬金術師?」
「オイ、ちょっと待てっ!錬金術師が何でこんなもの作れるんだよっ!」
今まで黙っていたエトルシャンが、ユウからもらった剣を取り出して叫ぶ。
さっきの戦いのときにエメロードとエトルシャンに貸した剣だったが、二人とも気に入ったみたいだったので、ユウが暇つぶしに作った玩具だから、と言ってあげたものだった。
ちなみに、エトルシャンにあげた白銀の剣には軽量化と切れ味向上、耐状態異常及び疲労回復の効果が付いている。
また、領主に上げた黒鋼の剣には、魔力コーティングによって、通常の切れ味向上だけでなく、魔法やアストラル体など通常切れないものまで切れるようになっている。他にも、魔法抵抗力上昇、耐状態異常、自動修復などの効果が付いていて、どちらも今の時代で再現することは出来ない神話級の逸品である。
流石に本当のことは言えないので、付随している効果については何も言っていないのだが、それでも、普通の業物じゃないことぐらいはエトルシャンも気づいていたようだった。

「ふむ、それは俺も気になるところだ。こっちの状況は話したことだし、そろそろそちらの話も聞かせてもらえるか?」
エメロードは笑顔ではあるが真剣な眼差しでエルザとユウを見る。
「そちらのお嬢さんは何者で、どうやってエルリーゼと出会ったのかを。」
気づけば、ミリアルドも正面へと移り、真面目な表情で二人を見つめている。
「……わかったわ。でもちょっと待ってね。」
エルザはそう言って、一瞬でいつもの装備に変更する。
「これから話すことは、信じられないこともあるかもしれないけど全て本当の事。そしてユウにとっては大事な事でもあるの。話を聞いた上で、ユウにとって都合の悪いことを考えるのなら、ユウに何かするのなら、私はユウとこの国を出て二度と戻らない……それだけの覚悟はあるってことを覚えておいて。」
エルザがそう言うと、ユウが近づいてきて、エルザの膝の上に座る。
「大丈夫、何があってもエルたんは私が護る。」
そう言うユウに頷き、エルは両親と兄を見る。

「まずは私がこの街を出るきっかけになったことからね……。」
そう言って、エルザは数か月前の出来事を話し出すのだった。
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