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フォンブラウ領、反乱!? その3

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「それで、今の状況はどうなってますの?」
あれから、両親の説得を試みたにもかかわらず、結局生暖かい視線を向けられたままのエルザは、この場での説得を諦め、話題転換と、今後の行動の指針の為に領主へ質状況の確認をすることにした。
「ウム、まぁ、ここではなんだから場所を移すとしようか。」
エメロードはそう言って、部屋を出る。その後に続く、ミリアルドとエルザたち。
部屋を出た廊下の壁や天井には、派手に血糊が張り付いていて、まだ片付けられていない兵士や反逆者たちの遺体が転がっていた。

エメロードに案内されたのは、寝室からそれほど遠くない執務室だった。
エメロードが執務机をなにやら操作すると、テーブルがひっくり返り領都の地図が現れる。
「これは?」
「エルリーゼは始めてみるだろう。これはロストテクノロジーの装置で『指揮台』と言うものだ。これで街の様子が分かる。」
エメロードが指揮台の操作をすると領主館の前の広場の様子が浮かび上がる。
広場の中央に、エトルシャンとオルドレアを中心とした近衛の兵達が周りを取り囲む反乱兵達を相手に奮闘していた。
「屋敷内の反乱勢力は一掃したが、他にもいたらしくてな、今この屋敷は反乱勢力に取り囲まれておる。とはいっても反乱を煽っていたガーズ伯爵は捕らえたのでな、残りは残党のみで大したことはないはずだが……思ったより数が多いな。」
エルザ達が、アンチエイジングだ、嫁だとのほほんとしている間にも、外ではシリアスな状況が広がっていたらしい。
見ると、エトルシャンが敵方の若い騎士と対峙している。何かしゃべっているようだが、あいにくと音声迄は聞こえない。

「あいつは……。」
エトルシャンと対峙している騎士は、エルザも顔見知りであった。
「知ってるの?」
ユウが覗き込んでくる。
「あ、うん、まぁ、一応……。」
……いえない。あいつがだなんて。ユウが知ったら、この領都がアイツ毎灰になるに違いない。
「何話してるのかな。声が聞こえればいいのに……まぁ、そこまで便利じゃないか。」
話を逸らすつもりで、エルザは言ったのだが……。
「出せるよ、音声。」
「何っ、誠かっ?」
ユウの言葉に反応したのは、領主のエメロードだった。
「うん、これ壊れてるからね。治せば、ちゃんと動くよ。」
ユウはそう言って、指揮台の裏に側を覗き込む。
「ホント、これでよく動いてる。」
「ユウ、本当に直せるの?」
「うん、これ、私が作ったものだから。」
「え”っ……。」
エルザはびっくりしてユウを見る。
確かにユウが錬金術師で、昔は色々な魔道具を作っていたとは聞いていたが、まさか、こんなところで、その実物を見るとは思いもよらなかった。
「これは、試作型指揮テーブル・プロト3号。初期の頃に作った玩具。耐久力だけが取り柄だったから今でも動いているのね。」
ユウは、何やらゴソゴソと指揮台を弄りながら、作成した時の事を離してくれる。
「プロト1号は、どれだけ鮮明に情報を送れるか、プロト2号はどれだけの距離をカバーできるかが課題。そしてこのプロト3号は、どれだけ劣悪な環境に耐えれるかが課題だったの。それ以外の試作型も色々試して、出来上がった指揮台が、当時は普通に普及していたの。……っと、後は魔力をチャージすればOK。」
ユウは、指揮台からみんなを遠ざけ、手のひらから魔力を放出する。

「本格的な修理は素材がないから無理だけど、当面はこれでOKなはず。」
ユウが、指揮台の横のボタンを押すと、先程より鮮明な映像が浮かび上がる。
そして、同時に声が聞こえてくる。
『なぜだっ!なぜお前が反乱軍に与するっ!ガーズ伯爵に弱みでも握られているのかっ!答えろっ、ギルッ!』
『エト、お前は相変わらず血の巡りが悪いようだな。この俺が、本気であんな小者《ガーズ》の下に降ったと思うのか?』
『じゃぁ、何故だっ!』
『本当に分からないのか?この反乱の主導を握っているのはあんな小者《ガーズ》じゃない。この俺様だよ。』
『なんだってっ!』
『お前らはガーズを捕らえて安心してるかもしれないが、あんなのは囮さ。本隊は街中に潜んでいる。俺の合図で、一斉に蜂起するってわけさ。わかるだろ?お前らじゃ勝ち目はないのさ。俺だって、無辜な領民を傷つけたいわけじゃねぇ、俺様の領民になるんだからな。だから、お前らがさっさと降伏してくれないかな?』
『クッ……、お前はエルの許嫁になる筈だった。俺との友情もあった……それがすべて偽りだったというのか?』
『ハンッ、確かにな。領主の娘を娶り、次期領主の親友というポジションというのもよかったさ。適当に話を合わせて、隙を見てお前を追い落とし、合法的に領主の座を奪うことも考えていたさ。』

「やっぱり腹黒だったんじゃない。」
エルザはギルの言葉を聞いて、あんな奴と距離を置いて正解だった、と胸を撫で下ろす。
エルザが街を出たのは、神託による胸騒ぎもあったのだが、それ以上に、このまま街に留まればギルと結婚させられるかもしれない、と思ったからだ。
街を出て冒険者になれば、神託の謎も追いかけることが出来るし、ギルからも逃げられる、そう思ったからこそ街を出たのだ。
結果として、ユウにも出会えたし、そのおかげで両親を助けることも出来たのだから、選択は正しかったと思える。

「……ねぇ、エルたん。どういうこと?」
ユウの顔が怖い。
「それは、その……、あっ、ほら、まだ何か言ってるよ?」
エルザは慌てて話を逸らすべく、映像に視線を向けさせる。
そこでは、勝ち誇った顔でエトルシャン相手にしゃべっているギルの姿が映っている。

『……お前のバカな妹が、いきなり失踪したせいで、俺の計画は狂わされたよ。』
『だから直接手を下そうとしたわけか?』
『まさか。そんなことしたら大騒ぎになるだろ?今みたいにさ。だから次善の策を練ったのさ。』
ギルはバカにしたような顔でエトルシャンを見る。
『あのガーズバカが今の領主の政策に反感を募らせていたのは分かっていたからな。しかも、横領がバレそうになっていた。だから嗾けたのさ。この辺りじゃ手に入らない、無味無臭の毒薬を渡して、後は協力する振りをしてやるだけで、面白いように、予想通りに動いてくれたよ。本来なら、領主が毒殺された後、証拠をもってあのバカを追い詰める予定だったんだよ。後は、父親を亡くして消沈するお前の代わりに、政務を掌握し、適当なところでお前には退場してもらう……そんな平和的な計画だったんだがな。』

「どこが平和的よっ!」
エルザが憤慨する。
余りにもバカにしている。バカにしているが、エルザたちが、1日でもこの街に着くのが遅れていれば、もしくは、エルザがユウと知り合っていなければ、あのギルの思った通りに計画は進んでいたことは間違いなかった。
「もうっ!ユウやっちゃって!」
「いいの?」
「いいよっ、見てるだけで腹が立つわ。あんなのが許嫁だったなんて、汚点よ、汚点。」
「許嫁……エルたんの許嫁……あんなことやこんなことまで……許せない。」
「あ、許嫁って言っても、何もないからね?本当だからねっ。だから、お兄様たちまで巻き込まないように……。」
ユウの瞳からハイライトが消える。ヤバいと思ったエルザは、フォローを入れるが、ユウが聞いているかどうかはわからなかった。
「……システムオン。……マーク、セット反乱軍……完了。ガード、領主軍……ブルーマーク……。」
ユウがブツブツ呟きだすと、指揮台の画面が変わり、平面的な地図に代わる。
そして、画面上に色分けされたマーカーが次々と出現する。
「セットOK……魔法発動、レディ……。」
「ちょ、ちょっと……大丈夫なの?」
「……心配ない、……多分。」
「多分ってっ!多分って何っ!!」
「問題ない、殺しはしない。……『メテオ・ストライク』セット。」
指揮台が魔力に包まれて光り輝く。
これはヤバイ、とエルザは直感的に悟り、思わず叫ぶ。
「みんな、逃げてっ!」



……なんて奴だ。
エトルシャンはギルを前にして歯噛みする。
……親友だと思っていたのに……奴になら、大事な妹を任せられると信じていたのに……。
裏切られた、その思いがエトルシャンの胸中を占める。
だから、ギルの初動に対応するのが遅れた。

「茶番はそろそろ終わりだ。エト、俺のために死ねっ!」
ギルの持つ長剣の刃が光る。
虚を突かれたせいで、受け止めるのが遅れる……が、辛うじて止めることが出来た。
普段使っている剣だったらこうはいかなかった。
エルリーゼが貸してくれた剣には強化魔法が掛かっているのか、自分の思った通りに操ることが出来る上に、素早く滑らかに動く。
しかも、この件を握っているだけで疲労がどこかへ飛んでいくように、疲れを感じることがない。
「俺はっ、俺は負けないっ!」
エトルシャンは、ギルの剣を弾き返す。
「俺は負けないっ!お前に打ち勝って、勝手の正しい道へと導いてやるっ!」
「はんっ!出来るものならやってみなっ!」
ギルとエトルシャンが再び剣を打ち合おうとした瞬間、天から声が降ってくる。

『みんなっ、逃げてっ!』

「これは、エルの声……。」
何事かと思う間もなく、、ゴゴゴ……と、うなりを上げる音が天より降ってくる。
その音につられ、空を見上げたエトルシャンは、大きな岩の塊が降り注いでくるのが見えた。
……その光景を最後に、エトルシャンは意識を失った。



「「「…………。」」」
静寂が執務室を占める。あまりにもの出来事に誰も声が出なかった。
「えーと、うん。終わったね。」
最初に沈黙を破ったのはエルザだ。
この辺りは、ユウとの付き合いの長さがモノを言った。ユウのやることに一々驚いていたら身が持たないからだ。
「まだ終わってない。」
「えっ?」
「魔物が向かってきている。このままだと街に被害が出るよ。」
「なんだとっ!兵士たちは何をしているっ!」
「反乱軍の掃討に追われている。情報が錯綜しているから、誰も動けない。」
「クッ、俺が出るっ!」
「待っ……て……って行っちゃったよぉ。あのバカ親父ぃ。」
父親の行動の速さに、思わず口が悪くなるエルザ。行動が早いのはいいが、誰かが指揮をとらなければどうしようもないだろう。それが判っているのか、と問い詰めたくなるのだ。

「ユウちゃん、ここから声を届けることが出来るのね?」
今までの経緯を黙ってみていたミリアルドが、ユウに訊ねる。
「うん、元々、そう言うものだから。」
「わかったわ。使い方を教えてくれる?」
「うん。」
「エル、あなたは外に行ってエト達に癒しをかけて。その後の事は追って指示を出すわ。」
「わかりました、お母様。」
一抹の不安が残るが、ここでこうしていても意味がないと思い、エルザは言われたとおりに外へと飛び出す。


「……女神よ、彼の者に癒しの奇跡を……エリア・ヒール!」
気を失っているエトルシャンを中心にオルドレアを始めとした近衛兵たちをまとめて癒す。
「クッ、っつ……。」
「オルド、動ける?動けるなら、そこらに転がってる反乱兵を拘束する指示を出してっ!」
最初に意識を回復した近衛隊長のオルドレアに指示を出す。
「姫様、これは……。」
「急いでっ!時間がないのよ。魔物たちがこの街に向かっているわ。」
「それは大変でさぁっ!……オイ、お前らっ!そこらの反乱兵を縛り上げるんだっ!」
オルドは、次々と意識を回復していく兵士たちに指示を出す。
ユウが放ったメテオストライクによる衝撃で、この場の皆が意識を失っていたが、味方には加護をかけていたのか、軽傷すらなく、意識を取り戻した後は、きびきびと動いていた。

「ん、っつ……。ハッ、ギルはっ!」
意識を取り戻すなり、剣を構えるエトルシャン。
「エト兄様、落ち着いてください。ギルはそこに転がっていますわ。」
エルザは、縛られ身動きが取れずにいるギルを指さす。
「後で尋問しますので、エト兄様は見張っててくださいね。間違っても怒りに任せて殺してはダメですよ。……まぁ、ここで死んだ方がマシだと思うかもしれませんが。」
エトルシャンは、妹のエルリーゼがボソッといった言葉を聞き違いだと思った。あの優しく大人しい妹が、そんな物騒な言葉を吐くとは思えなかったからだ。
「待てっ、お前はどこへ行くんだ。」
「街中ですよ。魔物がこの街目掛けて迫ってきてるんです。街の人たちを護らないと。」
「そんなことは、他の兵たちに任せておけばいい。お前は屋敷に戻ってろっ!」
エトルシャンが叫ぶ。
言葉は悪いが、大切な妹の事を思っての事だった。

『あー、あー、聞こえますか?フォンブラウの忠誠高い兵士達。今、この街は未曽有うの危機に晒されています。前線に出た我が夫、エメロードに成り代わり、このミリアルド・フォンブラウが指揮を執ります。私の言葉は領主の言葉、そのつもりで従ってくださいませ。』
天からミリアルドの声が響く。

ガーズによる領主暗殺未遂から始まったフォンブラウの街の反乱騒ぎは、最終局面へと向かおうとしていた。
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