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フォンブラウ領、反乱!? その2
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「女神の御力を、今ここに顕現せよ……ヒール!」
少女が何度も癒しの魔法をかける。
「エル、それじゃダメ。」
「ユウっ、でもっ!」
「私がやる。エルはそのまま手をかざしていて。」
ユウは、エルザの肩を抱き、魔力をエルザに流し込むようにして解放する。
「万物の根源たるマナよ。生命の元になりて活性化し、癒しの力へとならん。我、ユースティアの名において命じる。その魂をつなぎ止め、不浄なるものを浄化せよ。今一度、我の声に従いて目覚よ……『アル・キュア・ヒーリング』!」
ユウの魔力がエルザの身体の中を駆け巡り、膨大な光となって、手の先から放たれ、男の身体を包み込む。
「くっ、うん……これは……一体……。」
「あ、あなたっ………エメルッ!」
握っていた手に力が戻るのを感じて、ミリアルドが叫ぶ。
「ミリィ……これはどうしたことだ………身体が軽い。」
男は状態を起こす。
「もしや、ここが天国なのか?」
「お父様、ボケるには早いですわ。」
思わずエルザはつっこむ。
「むっ、ま、まさか、エルリーゼなのか?」
「エル………どういうこと?」
ベッドの上の領主とユウが同時に口を開く。
「まさか……そんな……有り得ない。あの毒は解毒出来ない筈だ………。」
入り口付近で、ドアに挟まれていた男の呟きを、エルザは聞き逃さない。
「それはどういう事?」
エルザは男に詰め寄ろうとするが、男の行動の方が早かった。
「くっ、こうなれば仕方がないっ!お前ら、領主の首を取るのだ!奴は私利私欲のため領民を迫害する悪の領主だ!」
男が叫ぶと、室内にいた半分の人間が武器を抜く。
そして部屋の外からわらわらと兵士が入ってくる。
ガキンッ!
切りかかってきた兵士の剣を、双剣で受け止め横へ流す。
バランスを崩した男の腹を剣の柄で思いっきり殴る。
「エト兄様は、お父様とお母様を護って下さいましっ!」
エルザはアイテム袋から長剣を取り出して、エトルシャンヘ放り投げる。
エトルシャンはそれを宙で受け止めると前へでる。
「アホッ。女は下がってろ。父上は任せた。」
そう言って、襲いかかってくる兵士を切り倒していく。
「オルドっ!入り口まで押し返せっ!まずはこの部屋の確保だ!」
「合点でさぁ、坊ちゃん!」
「坊ちゃん、言うなぁっ!」
近衛隊長であるオルドレアとその部下数名、そしてエトルシャンによって室内にいた反乱兵は駆逐されていく。
………ハァ、相変わらずね。
エルザはため息をつきつつ、ベッドを護るように背を向け、あたりを警戒する。
「ねぇ?」
「ユウ、なぁに?」
「エルたんは悪徳令嬢?」
「な訳ないでしょっ!あのハゲオヤジと私、どっちの言葉を信じるのよ?」
「エルたん。」
「よろしい。取り敢えず後で説明するから、大人しく待ってて。」
「ん。……ところで、こっちにいるのはエルたんのお母さん?」
「そうよ。」
オルド達をかいくぐってくる反乱兵を斬り伏せながら答える。
「そう……。」
ユウは一言そう言うと、ミリアルドの前までやって来る。
「こんにちわ。」
「はい、こんにちわ。………エルリーゼのお友達?」
「エルリーゼと言うのがエルたんのことなら、そう。」
「そうなのね。……エメルを助けてくれてありがとう。」
中空をさまようミリアルドの手を、側にいた侍女が掴み、ユウの手許へと誘導する。
ミリアルドはその手をしっかりと握りもう一度頭を下げる。
「助けたのはエルたん。」
ユウはそう言うが、ミリアルドはゆっくりと首を振る。
「誤魔化さなくてもいいのよ。私はこんなんだから、その分魔力の流れと識別にはちょっと自信あるのよ。」
「そうなんだ………。ちょっとだけ目を開けてみて。」
「開けても見えないのよ。」
ミリアルドは小さく頭を振るが、ユウは諦めず再度願う。
「分かったわ。少しだけよ。」
根負けしたミリアルドはゆっくりとその目を開く。
翡翠色のその瞳は、残念ながら光を写していない。本来であれば、ミリアルドの意志の強さと優しさの光を浮かび上がらせているはずだ。
「やっぱり……。…………シルヴィと同じ瞳……。」
ユウはゆっくりと手を伸ばし、ミリアルドの瞳を覆い隠す様に手のひらで塞ぐ。
「……万物の根源たるマナよ。我、ユースティアが命じる。彼の理を今一度紐解き、この瞳に輝きを取り戻さんことを願うものなり。我が名はユースティア。理を紡ぐものなり……光よ……デウス・エクス・マキナ………!」
ユウが呪文を唱え手の平から光がゆっくりと、ミリアルドの瞳へと吸い込まれていく。
光が収まり、暫くしてからユウが手を離す。
「ん、ゆっくりと、目を開けてみて。」
ミリアルドは言われた通りゆっくりと……こわごわと目を開いていく。
「っ!………見えるっ!見えるわっ!………エメルッ!」
ミリアルドはベッドで半身を起こしたままのエメロードに抱き付く。
「ミリィ、見えるのかっ!この俺が見えるのかっ!」
「えぇ、ハッキリと見えますわ。……少し……いえ、かなりお太りになられた事まで。」
「………。エルリーゼ、俺にも剣を貸せっ!少し運動してくる。」
「はいはい、無理しないでね。」
エルザは、アイテム袋から銀色に輝く一振りの剣を取り出すと、それを渡す。
「それ、ゴブリンキングが持っていた剣に、ユウが実験と称して色々やらかしたのだから、取り扱いに気をつけてね。」
「分かっておる。………皆のもの、我に続けぃ!」
飛び出していく、先ほどまで死にかけていた領主と、その後を追う近衛の騎士達。
……絶対分かってないよね?
エルザは大きなため息をつくと、ミリアルドとユウの元に向かうのだった。
◇
屋敷内の喧騒がやみ、静かになってからしばらくすると、領主を先頭に戦いに赴いたものたちが戻ってくる。
「あなた、お身体は……?」
ミリアルドが心配そうに駆け寄る。
「ウム、まったく問題ない。それどころか若返った気さえするぞ。」
がははと笑う領主を見ながらユウがそっと呟く。
「細胞全体が活性化した。若返ったと言っても間違いじゃない。」
その呟きを聞いていたミリアルドが、ガシッ!っとユウの腕を掴む。
「ユウちゃんって言ったわよね?そのあたり詳しく。」
「ちょ、ちょっとお母さまっ!ユウが困ってるでしょっ。」
「何言ってるのっ!エルちゃんは若いから分からないかもしれないけどね、アンチエイジングは乙女の一生の課題なのよ。」
「乙女って、お母様そう言う年じゃないでしょうが。」
「あー、小娘の癖に行ってはいけない事を言いましたねっ!」
「小娘って言ったっ、小娘ってっ!」
エルザとミリアルドが揉めていると、ユウが「クスッ」と笑う。
「ん、ユウどうしたの?」
「ん-ん、なんでもない。エルとお母さんは仲良しさんだなって。」
「私の可愛い娘ですからね。勿論、今日からはユウちゃんもっ。」
ユウの呟きを聞いたミリアルドが二人をガバッと抱きしめる。
「ちょ、ちょっと、お母様、苦しぃ……。」
口では文句を言いながらもされるがままになっているエルザ。
その様子をぽかんとした表情で見ている、領主を始めとした人々。
「ごほんっ、あー、そろそろいいかな?これからの事について話し合いたいのだが?」
「あっと、ごめんなさい。そうでしたわね。」
ミリアルドは、先程迄の柔和な笑顔から、キリっとした表情へと変える。
「そ、それより、父上、母上の目は、その……。」
「うむ、俺を助けてくれた、そこの……ユウという娘が治した。」
その言葉を聞き、周りが騒然となる。
「そんなっ!母上の眼は呪いによって二度と見えることはないと、国中の医者も神官も諦めていたではないですか!!それなのに……。」
エトルシャンは、視線をユウに向けると、つかつかと歩み寄ってくる。
「オイ、娘っ!お前は一体何をっ……ぐぶっ!」
今にも掴みかかろうとするエトルシャンの腹をエルザが思いっきり殴る。
「お兄様っ!無礼ですよ。ユウはお父様とお母様の恩人であり、私の客人でもあります。たとえお兄様でも、無体な真似は許しませんっ!」
「クッ……。」
「エト、下がれ。今はそれどころではないことくらい、お前でもわかるであろう。」
「クッ、わかりました父上。……オイ、そこの娘っ。」
わたし?とユウが首を傾げる。
「その……父上と母上を助けて事は感謝する。」
エトルシャンはそう言って、近衛隊長のオルドレアと共に部屋の外へ出ていった。
「ゴホンっ。まぁ、そのなんだ、ユウとやら。息子が失礼をした。そして、この俺を助けてくれたこと、妻の眼を治して貰ったことは、どれだけ感謝してもしきれないほどだ。今は、このような有様ではあるが、落ち着いたら、金でも地位でも望むままの褒美を与えよう。」
「お金も地位もいらない。」
「ウムぅ、しかしそれでは……。」
領主が言うには、領主の暗殺を防いだ勲功は大きく、信賞必罰の理からも、ここで褒美を与えないというのは士気に係るという。
特に、屋敷から不穏分子を追い出したとはいえ、まだ領都内に反乱兵がいて、これから掃討に向かう今、士気を上げておきたいという事らしい。
「じゃぁ、エルたん頂戴。」
「「はっ?」」
領主とエルザの声が重なる。
「エルたんは私の嫁。誰にも渡さない。だから頂戴。」
……この娘ガチだ。
エルザは恐ろしいものを見る目でユウを見る。
「……ウム、よかろう。」
「お父様っ!」
「とはいっても、現状では詳しいことを取り決められぬ。それに何より本人の意志もある。なので、この反乱騒ぎが終わってから詳細を詰めるという事でどうだろうか?」
「ウン、それでいい。だったら早くこの騒ぎを終わらす。そのためなら手伝う。」
「おぉ、それはありがたい。」
「それで何すればいい?この街に隕石落とす?」
「はっはっはっ、それならあっという間に片付いて楽だろうな。」
領主のエメロードはユウの言葉を冗談と受け取ったらしく、豪快に笑う。
「じゃぁ、そう言う事で。」
「そういう事で、じゃなぁいっ!」
エルザは、魔力を集めかけているユウを取り押さえるが、それくらいではユウの行動は止まらない。
「もぅっ!」
ユウが魔力を集中させるのを止めるには、意識を乱すしかない。
そう思って、エルザはユウの唇を見る槍奪う。
ユウの身体から魔力が拡散していく。それを見て取ってからエルザは唇を離す。
「隕石落とすのダメだからっ!……って、お父様、お母様?」
ユウを𠮟りつけ、周りを見回すと、父と母が、なんとも言えないような生暖かい目で二人を見守っているのに気付く。
「えっと、まぁ、その、なんだ……。」
「そうね、私は二人がいいならいいんじゃないかと思うのよ。」
父と母が盛大な誤解をしているのに気付き、その誤解を解くため、必死になって言葉を紡ぐエルザだった。
少女が何度も癒しの魔法をかける。
「エル、それじゃダメ。」
「ユウっ、でもっ!」
「私がやる。エルはそのまま手をかざしていて。」
ユウは、エルザの肩を抱き、魔力をエルザに流し込むようにして解放する。
「万物の根源たるマナよ。生命の元になりて活性化し、癒しの力へとならん。我、ユースティアの名において命じる。その魂をつなぎ止め、不浄なるものを浄化せよ。今一度、我の声に従いて目覚よ……『アル・キュア・ヒーリング』!」
ユウの魔力がエルザの身体の中を駆け巡り、膨大な光となって、手の先から放たれ、男の身体を包み込む。
「くっ、うん……これは……一体……。」
「あ、あなたっ………エメルッ!」
握っていた手に力が戻るのを感じて、ミリアルドが叫ぶ。
「ミリィ……これはどうしたことだ………身体が軽い。」
男は状態を起こす。
「もしや、ここが天国なのか?」
「お父様、ボケるには早いですわ。」
思わずエルザはつっこむ。
「むっ、ま、まさか、エルリーゼなのか?」
「エル………どういうこと?」
ベッドの上の領主とユウが同時に口を開く。
「まさか……そんな……有り得ない。あの毒は解毒出来ない筈だ………。」
入り口付近で、ドアに挟まれていた男の呟きを、エルザは聞き逃さない。
「それはどういう事?」
エルザは男に詰め寄ろうとするが、男の行動の方が早かった。
「くっ、こうなれば仕方がないっ!お前ら、領主の首を取るのだ!奴は私利私欲のため領民を迫害する悪の領主だ!」
男が叫ぶと、室内にいた半分の人間が武器を抜く。
そして部屋の外からわらわらと兵士が入ってくる。
ガキンッ!
切りかかってきた兵士の剣を、双剣で受け止め横へ流す。
バランスを崩した男の腹を剣の柄で思いっきり殴る。
「エト兄様は、お父様とお母様を護って下さいましっ!」
エルザはアイテム袋から長剣を取り出して、エトルシャンヘ放り投げる。
エトルシャンはそれを宙で受け止めると前へでる。
「アホッ。女は下がってろ。父上は任せた。」
そう言って、襲いかかってくる兵士を切り倒していく。
「オルドっ!入り口まで押し返せっ!まずはこの部屋の確保だ!」
「合点でさぁ、坊ちゃん!」
「坊ちゃん、言うなぁっ!」
近衛隊長であるオルドレアとその部下数名、そしてエトルシャンによって室内にいた反乱兵は駆逐されていく。
………ハァ、相変わらずね。
エルザはため息をつきつつ、ベッドを護るように背を向け、あたりを警戒する。
「ねぇ?」
「ユウ、なぁに?」
「エルたんは悪徳令嬢?」
「な訳ないでしょっ!あのハゲオヤジと私、どっちの言葉を信じるのよ?」
「エルたん。」
「よろしい。取り敢えず後で説明するから、大人しく待ってて。」
「ん。……ところで、こっちにいるのはエルたんのお母さん?」
「そうよ。」
オルド達をかいくぐってくる反乱兵を斬り伏せながら答える。
「そう……。」
ユウは一言そう言うと、ミリアルドの前までやって来る。
「こんにちわ。」
「はい、こんにちわ。………エルリーゼのお友達?」
「エルリーゼと言うのがエルたんのことなら、そう。」
「そうなのね。……エメルを助けてくれてありがとう。」
中空をさまようミリアルドの手を、側にいた侍女が掴み、ユウの手許へと誘導する。
ミリアルドはその手をしっかりと握りもう一度頭を下げる。
「助けたのはエルたん。」
ユウはそう言うが、ミリアルドはゆっくりと首を振る。
「誤魔化さなくてもいいのよ。私はこんなんだから、その分魔力の流れと識別にはちょっと自信あるのよ。」
「そうなんだ………。ちょっとだけ目を開けてみて。」
「開けても見えないのよ。」
ミリアルドは小さく頭を振るが、ユウは諦めず再度願う。
「分かったわ。少しだけよ。」
根負けしたミリアルドはゆっくりとその目を開く。
翡翠色のその瞳は、残念ながら光を写していない。本来であれば、ミリアルドの意志の強さと優しさの光を浮かび上がらせているはずだ。
「やっぱり……。…………シルヴィと同じ瞳……。」
ユウはゆっくりと手を伸ばし、ミリアルドの瞳を覆い隠す様に手のひらで塞ぐ。
「……万物の根源たるマナよ。我、ユースティアが命じる。彼の理を今一度紐解き、この瞳に輝きを取り戻さんことを願うものなり。我が名はユースティア。理を紡ぐものなり……光よ……デウス・エクス・マキナ………!」
ユウが呪文を唱え手の平から光がゆっくりと、ミリアルドの瞳へと吸い込まれていく。
光が収まり、暫くしてからユウが手を離す。
「ん、ゆっくりと、目を開けてみて。」
ミリアルドは言われた通りゆっくりと……こわごわと目を開いていく。
「っ!………見えるっ!見えるわっ!………エメルッ!」
ミリアルドはベッドで半身を起こしたままのエメロードに抱き付く。
「ミリィ、見えるのかっ!この俺が見えるのかっ!」
「えぇ、ハッキリと見えますわ。……少し……いえ、かなりお太りになられた事まで。」
「………。エルリーゼ、俺にも剣を貸せっ!少し運動してくる。」
「はいはい、無理しないでね。」
エルザは、アイテム袋から銀色に輝く一振りの剣を取り出すと、それを渡す。
「それ、ゴブリンキングが持っていた剣に、ユウが実験と称して色々やらかしたのだから、取り扱いに気をつけてね。」
「分かっておる。………皆のもの、我に続けぃ!」
飛び出していく、先ほどまで死にかけていた領主と、その後を追う近衛の騎士達。
……絶対分かってないよね?
エルザは大きなため息をつくと、ミリアルドとユウの元に向かうのだった。
◇
屋敷内の喧騒がやみ、静かになってからしばらくすると、領主を先頭に戦いに赴いたものたちが戻ってくる。
「あなた、お身体は……?」
ミリアルドが心配そうに駆け寄る。
「ウム、まったく問題ない。それどころか若返った気さえするぞ。」
がははと笑う領主を見ながらユウがそっと呟く。
「細胞全体が活性化した。若返ったと言っても間違いじゃない。」
その呟きを聞いていたミリアルドが、ガシッ!っとユウの腕を掴む。
「ユウちゃんって言ったわよね?そのあたり詳しく。」
「ちょ、ちょっとお母さまっ!ユウが困ってるでしょっ。」
「何言ってるのっ!エルちゃんは若いから分からないかもしれないけどね、アンチエイジングは乙女の一生の課題なのよ。」
「乙女って、お母様そう言う年じゃないでしょうが。」
「あー、小娘の癖に行ってはいけない事を言いましたねっ!」
「小娘って言ったっ、小娘ってっ!」
エルザとミリアルドが揉めていると、ユウが「クスッ」と笑う。
「ん、ユウどうしたの?」
「ん-ん、なんでもない。エルとお母さんは仲良しさんだなって。」
「私の可愛い娘ですからね。勿論、今日からはユウちゃんもっ。」
ユウの呟きを聞いたミリアルドが二人をガバッと抱きしめる。
「ちょ、ちょっと、お母様、苦しぃ……。」
口では文句を言いながらもされるがままになっているエルザ。
その様子をぽかんとした表情で見ている、領主を始めとした人々。
「ごほんっ、あー、そろそろいいかな?これからの事について話し合いたいのだが?」
「あっと、ごめんなさい。そうでしたわね。」
ミリアルドは、先程迄の柔和な笑顔から、キリっとした表情へと変える。
「そ、それより、父上、母上の目は、その……。」
「うむ、俺を助けてくれた、そこの……ユウという娘が治した。」
その言葉を聞き、周りが騒然となる。
「そんなっ!母上の眼は呪いによって二度と見えることはないと、国中の医者も神官も諦めていたではないですか!!それなのに……。」
エトルシャンは、視線をユウに向けると、つかつかと歩み寄ってくる。
「オイ、娘っ!お前は一体何をっ……ぐぶっ!」
今にも掴みかかろうとするエトルシャンの腹をエルザが思いっきり殴る。
「お兄様っ!無礼ですよ。ユウはお父様とお母様の恩人であり、私の客人でもあります。たとえお兄様でも、無体な真似は許しませんっ!」
「クッ……。」
「エト、下がれ。今はそれどころではないことくらい、お前でもわかるであろう。」
「クッ、わかりました父上。……オイ、そこの娘っ。」
わたし?とユウが首を傾げる。
「その……父上と母上を助けて事は感謝する。」
エトルシャンはそう言って、近衛隊長のオルドレアと共に部屋の外へ出ていった。
「ゴホンっ。まぁ、そのなんだ、ユウとやら。息子が失礼をした。そして、この俺を助けてくれたこと、妻の眼を治して貰ったことは、どれだけ感謝してもしきれないほどだ。今は、このような有様ではあるが、落ち着いたら、金でも地位でも望むままの褒美を与えよう。」
「お金も地位もいらない。」
「ウムぅ、しかしそれでは……。」
領主が言うには、領主の暗殺を防いだ勲功は大きく、信賞必罰の理からも、ここで褒美を与えないというのは士気に係るという。
特に、屋敷から不穏分子を追い出したとはいえ、まだ領都内に反乱兵がいて、これから掃討に向かう今、士気を上げておきたいという事らしい。
「じゃぁ、エルたん頂戴。」
「「はっ?」」
領主とエルザの声が重なる。
「エルたんは私の嫁。誰にも渡さない。だから頂戴。」
……この娘ガチだ。
エルザは恐ろしいものを見る目でユウを見る。
「……ウム、よかろう。」
「お父様っ!」
「とはいっても、現状では詳しいことを取り決められぬ。それに何より本人の意志もある。なので、この反乱騒ぎが終わってから詳細を詰めるという事でどうだろうか?」
「ウン、それでいい。だったら早くこの騒ぎを終わらす。そのためなら手伝う。」
「おぉ、それはありがたい。」
「それで何すればいい?この街に隕石落とす?」
「はっはっはっ、それならあっという間に片付いて楽だろうな。」
領主のエメロードはユウの言葉を冗談と受け取ったらしく、豪快に笑う。
「じゃぁ、そう言う事で。」
「そういう事で、じゃなぁいっ!」
エルザは、魔力を集めかけているユウを取り押さえるが、それくらいではユウの行動は止まらない。
「もぅっ!」
ユウが魔力を集中させるのを止めるには、意識を乱すしかない。
そう思って、エルザはユウの唇を見る槍奪う。
ユウの身体から魔力が拡散していく。それを見て取ってからエルザは唇を離す。
「隕石落とすのダメだからっ!……って、お父様、お母様?」
ユウを𠮟りつけ、周りを見回すと、父と母が、なんとも言えないような生暖かい目で二人を見守っているのに気付く。
「えっと、まぁ、その、なんだ……。」
「そうね、私は二人がいいならいいんじゃないかと思うのよ。」
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