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引きこもり聖女の伝説 その3

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「ん……。」
目覚めは爽快だった。しかし身体が動かない。
どうしたのだろうと視線を動かすと、ユウに抱きしめられていた。
そしてなぜかエルザもユウも裸だった。
「えっとね、ユウ、離れてくれないと、起きられないんだけど。」
そう言いながら、ユウから逃れようと身動ぎをする。
「ん~、いやぁ……。」
離れる気配を悟ったのか、ユウは腕に力を込めてエルザを引き寄せ、その胸に顔を埋める。
「えっとね、………ってあんっ……ちょ、ちょっと……あっ、イヤ……。」
「あむあむあむ………。」
ユウは寝ぼけているのか、エルザのふくよかな胸に顔を埋めるだけでは飽きたらず、かぷっと咥えてくる。
「あんっ、それダメェ………。」
何かの料理と間違えているのだろうか?膨らみを口に含み、その先の突起を、味わうように舌先で転がす。
エルザはくすぐったいだけではない何ともいえない感覚に、段々思考が麻痺してくる。
「ダメェ、もう………。」
ユウを押し離そうとするが、体勢が悪いのか思うように力が入らない。そしてエルザが抗おうとする度に、ユウはエルザの動きを阻害し…執拗に胸を責めたてる。
「ダメェ、ダメだってばぁ………。」
抗う声が段々と艶を帯びてくる。押し寄せる快感の波に流されたエルザは、ユウが目覚めるまで甘い声を上げ続けるのだった。


「エル、疲れ取れてない?」
ベッドの上でぐったりとしているエルザに心配そうな声をかけるユウ。
「誰のせいよっ!」
「昨日の男?燃やす?」
「違うから燃やさないでっ!」
「むぅ………。」
「とりあえず、真面目な話していい?」
むくれているユウの頭を撫で、服を着ながらユウに問いかける。
「面倒じゃなければ。」
「昨日のことだよ。ユウ、何かした?」
「ん、魔力が上手く練れて無かったから手伝った。ダメだった?」
「ううん、逆よ。ありがとうね。私だけだったら助けられなかった。」
「そう?よかった。」
「それでね、私考えたんだけど、他の人たちを助けるのに力を貸してほしいの。私だけじゃライトヒールしか使えないけど、ユウが手伝ってくれるなら……。」
「……面倒。なんでエルは面倒なことするの?」
「だって、ここの人たちが苦しんでるのって、私たちのせいじゃない?だから……。」
「それ違う。」
「えっ?」
「神殿の技術は下手に渡せない。だから壊した。壊すとき警告出してる。崩れるから離れてって。非難する時間は充分。欲に目が眩んで自業自得。」
「それでも、私が迷い込まなかったら……。」
「それも違う。神殿が見つかった以上、崩壊は必然。そうなっている。」
「でも……。」
「エルは考え過ぎ。……燃やす?面倒なくなるよ?」
「それはやめてっ!」
そんなことはないとは思うが、いまにも飛び出しそうに見えたので、慌ててユウを抱き留めるエルザ。
「エル……苦しい。」
「いーい、面倒だからって、何でもかんでも燃やしたり破壊したりしないのっ!」
「でも……。」
「でもじゃないっ!」
「……うぅ……エルが言うなら……そうする。」
「うん、アリガト。」
エルザはもう一度ギュッと抱きしめてから、ユウから離れる。
「それでね、ユウの言う事を聞いた上で考えたんだけど、……やっぱり、助けられるなら助けたいの。ユウはここにいて。これは私のわがままだし。」
「……置き去り?」
「違うわよっ!人聞きが悪い。……よく考えれば、私のわがままなのに手伝ってだなんて甘えてると思っただけよ。」
「……ホントそっくり。仕方がないから手伝ってあげる。」
「いいの?」
「ん、その代わり、今夜も一緒に寝る。」
「うっ……わ、分かったわよ。変なことしないでね。」
「変な事?」
キョトンと首を傾げるユウを見て、エルザは「わからなければいいわ」と言って朝食を準備するために立ち上がった。



……ホント、シルヴィにそっくり。
朝食の支度をしている後姿を見ながらユウは思う。
10万年も眠っていたと知った時は、正直びっくりしたけど、それ以上に彼女を見た時の方が驚いた。
彼女と同じ髪色、同じ瞳の色、どこか彼女を思わせるような顔つき……そして、ふとした時に見せる表情や仕草、そして言動が、彼女を思い出させる。
「面倒だけど……あんな顔されちゃ手伝うしかないじゃないの。」
……シルヴィもよく、面倒なことに顔を突っ込んでは傷ついていたっけ。
あの頃の私は、シルヴィのそんな顔を見たくなくて、少しでも彼女の助けになれば、と思って言われるがままに行動していた結果がアレだ。
……今度は間違えない。
言われるままじゃなく、自分の目で見て感じて行動する、それがシルヴィに対する贖罪だと思っている。私がこの時代に目覚めたのがシルヴィの願いだとするならば、私はそれに答えなきゃいけない。
……ホント、面倒。いっそのこと、何もかも壊しちゃえば早いと思うんだけどね。シルヴィとそっくりなあの子が傷つく顔は見たくないからなぁ。

ユウは、そんなことを考えながらエルザの背中に声をかける。
「エル、目玉焼きは半熟がいい。」
「今っ!今それを言うっ!?」
どうやら目玉焼きは作り終えた後だったらしい。



「……エリアヒール!」
ユウの掌から光が溢れ、その場にいた者達を癒していく。
「お、おぉっ!傷がふさがった。」
「痛くない、痛くないぞっ!」
「おぉ……聖女様だ。聖女様のお陰だ!」
「聖女様!聖女様!」
周りから歓喜の声が上がる
「……うるさい。」
ユウは煩わしさのあまり、エルザの陰に隠れる。
エルザはしょうがないという顔をしながら、ユウとその場から立ち去ろうとするが、その前を塞がれる。みんなユウに感謝の言葉を伝えたいのだ。それは分かっている、いるのだが、こうも邪魔されるとユウじゃなくても煩わしく思ってしまう。
どぉーーんっ!
突然爆風が起き、目の前の群衆が吹き飛ばされる。
「吹っ飛ばしていい?」
「吹っ飛ばしてから聞かないでよっ!」
ユウの魔法だった。それにより出来た道を使ってエルザは逃げるようにして抜け出すのだった。

「何てことするのっ!」
「だって、煩わしい。それにあのままじゃ抜け出せなかった。」
「それはそうだけど……他に方法が……。」
「あるの?」
「……ないです、ゴメンナサイ。」
エルザは素直に頭を下げる。
あのままでは混乱が起きて収拾がつかなかったことは確かなので、一概にユウを責める気にはなれない。
「とりあえず、逃げた方がいいと思う。」
唐突にそんなことを言い出すユウ。
「へっ、何で?」
「人は欲深い。目の前に起きた奇跡に群がってくる。奇跡が何度も起きれば、それは当たり前になって、自らの欲求を満たすための要求を突き付けてくるようになる。そしてそれは果てがない……人とはそう言う業を持っている生き物。」
「えっと、ユウ?」
「……ゴメン。余計な差し出口だった。」
「あ、ううん。今回はユウがいなければ何もできなかったし、ユウがそう言うなら……。」
元々エルザが人々にヒールをかけて回る予定だったのに、ユウに任せてしまったのは、ひとえにエルザの魔力が戻っていなかったためだ。
エルザが自分の身に余る魔法を使った代償は少なくなかったらしく、ユウの見立てでは10日程は魔法が使えない状態になっているらしい。
そんな状態だからあきらめようとしていたエルザだったが、ユウが代わりにやると言い出して……。
……今回はユウのお陰。だからユウの言うとおりにする。だけど、ユウの言うことは大げさなんじゃないかな?

……そう思ってた時もありました。

「にゃぁぁぁぁ~~~~!なんでこうなってるのよぉ~!」
「エルがのんびりしてるから。逃げた方がいいって言ったのに。」
「言ってたけどっ!」
エルザは森の中を逃げまどいながら叫ぶ。
事の起こりは、ケイトとキルファの意識が戻ったことだった。
瀕死の状態だったケイトの意識が戻り、ボロボロだった身体から傷跡が一切消えていた。
そして一緒にいたキルファという少女。彼女はケイトが庇ったものの、岩石の破片が眼球に突き刺さり、その左目は永遠に光を失った……筈だった。
しかし、ケイトとともに意識を取り戻した時、彼女の左目もまた光を取り戻していたのだ。

ユウが施したエリアヒールで、重篤の患者はいなくなったものの、完全に癒すものではなかった。
とはいっても数日安静にしているなど、無理さえしなければ数日で治る者であり、普段であれば感謝こそすれ、文句などあるはずもなかった。
しかし、部位欠損ですら完全に治す聖女の奇跡。それを目の当たりにした冒険者なら、自分も今すぐ完治して貰おうと押しかけるのは当然であり、冒険者でなくてもなぜ、あっちは完治して、こっちはしないんだ、と文句が飛び交うようになった。
そして「聖女の奇跡を我々にも」と近隣の村人までが集まってきて、こうして「魔女狩り」ならぬ「聖女狩り」が行われているのだった。

「うぅ、なんでこうなるのよ。治してあげただけなのに。」
「言ったでしょ、人は欲深くて愚かなの。……10万年たっても変わらないのね。」
「そんな人ばっかりじゃないよ。現に逃げることが出来たのもケイトさんたちのお陰じゃない。」
「今こうやって追われてるのも、彼女たちのせいでもあるけどね。」
「うっ、でもそれは私がやり過ぎちゃったから……。」
「だから面倒っていった。」
「悪かったわよ……でもどうしようか?」
「この辺り一帯にメテオ落とす?」
「やめてっ!もっと平和的な方法はないの?」
「そう言うのはシルヴィが得意だったから……あ、っそうか、なくはないか。」
ユウは何か考え込み、やがて一つの案を出してきた。



ドォォォォーーンッ!
激しい音が辺り一面に響き渡り、聖女を探していた人々が、一斉に音のした方を注目する。
その直後、大きな火柱が上がり、森が炎に包まれる。
「火事だ!やばいぞっ!」
「人を呼んで来いっ!延焼したら大変なことになるっ。」
口々に騒ぐ人々だが、その直後一斉に黙り込むことになる。
人々の目の前に光の柱が立ち上り、聖女と騒いでいた少女の姿が浮かび上がる。
その少女が手を天にかざすと、空が薄暗くなり、大粒の雨が降り出し豪雨となる。
その豪雨は森の大火を一瞬にして消し去り、それを確認した後少女の姿は光に包まれ、天へと昇っていく。

「女神さまだ……。」
その一連の光景を呆然として眺めていた群衆だったが、そのうちの一人がぼそりと呟く。
「そうだ、あれはまさしく女神様だ。」
「聖女様は女神さまの御使いだったに違いない。」
「そうだ、女神さまは俺たちの窮地を見かねて助けて下さり、そして還っていったんんだ。」
「女神様、女神様……。」
瞬く間に広がる女神コール。
誰もが、追いかけていた聖女の事を女神の化身だと信じて疑わず、いつまでも点を見上げ、感謝を述べていた。

「……なんか居た堪れない。」
「だったら、今からあそこに行く?」
ユウの言葉にエルザは激しく首を振る。
「じゃぁ、今のうちに逃げる。」
「うん……そうだね。」
いまだ興奮冷めやらぬ人々に見つからないように、そっと森を抜けていくエルザとユウ。
ユウの自作自演により、あの人々の中では、聖女は天に帰ったということになっている。これで終われることもないだろうが、なんとなく後ろめたい気分になるエルザだった。

「それでどこへ行くの?」
「うん、とりあえず、私が出てきた街かな?色々と手続きもあるし。」
「そう。じゃぁそこまでは一緒。」
「そこまでって……その後はどうするの?」
「……考えてない。ただ一緒にいると迷惑かかる。」
さみしそうに言うユウを見て、エルザは一つの提案をする。
「だったら、私と一緒に冒険者しようよ?それでね、お金をためてお風呂付の家を借りるの。きっと楽しいよ?」
「……面倒?」
「面倒じゃないよっ!大体、其処はにっこり笑って頷くところだよっ。」
「……迷惑じゃないなら、一緒でいい。」
「決まりねっ!じゃぁ、急いで街まで行くよぉっ!」
笑顔で走り出すエルザ。
「……まいっか。」
呆れたようにそう言うユウだったが、その顔は知らず知らずのうちに笑みがこぼれていた。
「なにやってんのぉー、おいていくよぉっ!」
かなり離れたところまで行ったエルザが、元気よく叫ぶ。
そのエルザに笑顔を帰しながら叫び返すユウ。
「エル、街に行くなら、こっちだと思うよぉっ!」
「……早く言ってよぉ!」
慌てて駆け戻ってくるエルザの赤い顔を見て、こういうのも悪くないかも、と思うユウだった。
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