世界を破滅させる聖女は絶賛引き籠り中です

Red

文字の大きさ
上 下
9 / 88

神話の実態とエルの帰還

しおりを挟む
「お二人は今どうしているのですか?」

「施設に入って治療中だ。長年の薬が体に染み込んでいるからね。簡単には体から抜けないみたいだ」

「そうですか……」

「カレン、今まですまなかった」

 兄様は頭を深々と下げた。

「助け出してくれた時に謝罪は受け入れたわ。それにもう説明は要らないわ。ほとんどキャサリン様が説明してくれたもの」

 兄様に前世の記憶の話はしていない。
 と言うかどう説明したらいいのかわからないもの。

 オスカー殿下がわたしの息子のミハインだったなんて……

 彼は前世の記憶がある人をはっきり把握していた。わたしなんてあの場にいなければまだ思い出すこともなかっただろう。ただ王都はあまり居たくない場所で、飛び降りる夢はいつも見る悪夢でしかなかったはず……

 頭の中はぐるぐる。考えがあっちに行ったりこっちに行ったりして、自分自身でもどうしていいのかわからない。

「俺は王太子殿下に相談していたんだ。両親の行動は異常過ぎた。さらにキャサリンの言動もおかしい。それに俺自身もキャサリンといるとカレンに対して悪感情が湧いてくる。
 それで調べ始めたんだ、キャサリンの実家のことを……そしたら怪しい香油を外国から手に入れていたことがわかった」

「カレンの知らない両親の過去なんだーーー」

 そう言って両親の『真実の愛』の話を語られた。

 なんて馬鹿らしい話を聞かされるのだろう。そう思いながらも前世の記憶の陛下とセリーヌ様のことを思い出した。
 お二人もまた『真実の愛』で結ばれていたのかもしれない。



「キャサリンは男爵家の養女なんだ。たぶん公爵家に出入りさせるために明るくて可愛らしい向上心の高い女の子を養女にしたんじゃないかと思っている」

「そう」
 ーーーそんなこともうどうでもいいわ。

「ダルト男爵は大切な幼馴染を亡くしているんだ。それが父上の元婚約者なんだよ」

「それは?」

 その言葉には驚いた。
 ーーーあの二人は他人を不幸にしてまで結ばれていたの?

「王太子殿下に聞いたんだが両親の結婚は自殺者まで出しての結婚だったからその当時はかなり問題視されたらしい。それにその揉め事の中生まれたのが俺だったんだ。
 男爵がどんな気持ちでそんなことをしたのかは今捕まえて取り調べているから後日わかると思う」

 兄様は大きな溜息をついた。そして一口だけ紅茶を飲むと話を続けた。

「『魅了の香油』はあの二人にだけ効いたみたいなんだ。カレンに罪悪感を抱きながらも今更素直に娘と向き合えずにいたからつけ入りやすかったんだと思う」


「ふふっ、我が子に愛情すらかわかない親だから?産まれてきた我が子が嫌いな義母に似ているから可愛くなかったから?罪悪感を抱く?あり得ないわ」

「それは……確かにそうかもしれないが、なんとか修復しようとしてはいたと思うんだ……」

 そして香油の話になり、

「その香油がこの国に出回ると困るから色々調べることになった。王太子殿下も協力してくれたんだ。カレンへの仕打ちは酷いものだったけど君が領地へ行ってくれたのでとりあえず要観察になったんだ。
 それから俺は殿下の協力のもと、青い薔薇の香油について調べる事になった」

 ーーー青い薔薇?
 前世でも見たことがある。確か離宮でセリーヌ様が大切に育てていたわ。

「そして今年になってカレンは一年に一度だけ王都に来ていただけだったのに両親が王都の学校へ通わせると言い出した。
 それは魅了されているからか、魅了が解けている時にそう思ったのかよくわからなかった。
 俺はこの香油の魅了を解くための薬を探して回っていたから、屋敷にはあまり近寄らなかったんだ。
 両親は長年の香油で、ほとんどキャサリンを愛して娘のように扱ってカレンを嫌っていた。
 嫌っているのに会いたがり、嫌っているのにそばに置きたがる。完全に魅了されているわけではない。
 キャサリンに会わない時には、カレンの写真をじっと見つめている姿を何度となく見ていたからね。だけどキャサリンに会うと、またカレンに対して憎悪が湧くようだった。
 そんな二人を俺はどうすることもできなかった」

「兄様……キャサリン様の魅了の所為だけじゃないわよね?公爵夫婦はわたしが嫌いだった。そこが根底にあるから二人がわたしを嫌い疎んじた。それだけの話だと思います」

 ーーー今更なのよ。

 そして前世での青い薔薇の記憶も今更だわ。

 あの青い薔薇はもう王城にはないのだろう。あれば王太子殿下も兄様も何か言ったはずだもの。

 陛下はもしかしたら………魅了されていたの?

 もう今になってはわからない。ただの憶測でしかないわ。

 兄様の話は最後の方はうわの空で聞いていた。

 キャサリン様のしたことはもうどうでもいい。もちろんマキナ様としては考えないといけないかもしれないけど。

 それよりも……ううん、もう前世のこと。今更なのよ。

 だけど、わたしはこれからどう生きたらいいのだろう。

 カレンとして生きてきた。前世なんて関係ない?そうは思えない。だってずっと北の塔のこと夢で見てきたもの。この王都にいるのが嫌だったのも前世の記憶の所為だったし。

 エマが心配して何度か部屋を覗いてくれた。

「心配しないで」

 わたしはそう言って作り笑いで返すしかなかった。

 明日の学校、セルジオとオスカー殿下に会いに行こう。

 そう決心して眠れぬ夜を過ごした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...