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ユウとエル
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「……と言う訳なの………って寝てるしっ!」
長々と語り終えたエルザだったが、目の前の少女はスヤスヤと寝息をたてていた。
「起きなさいよっ!ひとが折角話してるのにぃっ!」
エルザは少女の肩に手をかけ激しく揺さぶる。
「ん、あ、……終わった?」
「終わったわよ。って言うか何で寝ちゃうのよ!」
「んー、長かったから。もう1週間経った?」
「長っ!そんなに経つ訳ないでしょっ。だいたいどこまで聞いてたのよ。」
「んー、お家が高くて借りれないよぉ、って泣いてる辺り?」
「泣いてないわっ!ってか殆ど冒頭じゃないのよっ。」
「………そんなに叫んで疲れない?お水飲む?」
「誰のせいよっ!……ありがと。」
エルザは差し出された水を受け取りゴクゴクと一気に飲み干す。
「なんか変わった味ね。」
「そう?寝る前に用意していたものだから、少し古くなってたかも?」
「そうなの?でも腐ってるわけじゃないし大丈夫じゃない?」
エルザは空になったボトルを少女に返す。
「それで、えっとあなたのお名前は?」
「私?私の名前はユ……ユウって呼んで。」
エルザはユウと名乗る少女を改めて見てみる。
腰より下まで伸びている長い銀髪に藍色の瞳。
年の頃は自分と同じぐらいか少し年下だろうか?
その白い肌に整った顔立ち、あまり変わらない表情などから、動かなければ人形と見間違えそうだった。
「ん、分かった。それで何でこんなところで寝てるの?」
「んーと……えーと……えー…………ぐぅ……。」
「寝るなぁっ!」
「うぅ……中途半端に起こされたからまだ眠いの。」
「あ、ごめん。」
ユウの恨めしそうな視線に、エルザはつい謝ってしまう。
「でも、ちょっとだけ頑張ってもらえないかなぁ。色々聞きたいことあるし、私も困ってるのよ。」
「ふわぁぁぁ……。ん、頑張る。」
そう言ってユウは眠そうな目を擦りながら体を起こす。
「……イスとテーブルがない。」
「いやいや、こんなところにあるわけないでしょ。」
「むぅ……。仕方がないから用意する。」
ユウはそう言って虚空に何やら文様を描くと、宙に魔法陣が浮かび上がりそこからテーブルと椅子が落ちてきた。
「椅子用意した。座る。」
「あ、うん……。って、今の何よっ!」
「何って?」
「何で何もないところからテーブルが出てくるのよ。」
「しまってあったのを出しただけ……おかしい?」
「おかし……くはないかぁ。」
エルザはおかしいと言いかけて、よく考えればアイテム袋も似たようなものだと気づき黙り込む。ユウは「取り出した」と言っていたからアイテム袋と同じ原理なのだろう。
エルザが考えこんでいる間にも、ユウは虚空からティーセットなどを取り出しお茶を入れている。
「はい、どうぞ。お茶請けはないけど。」
「あ、ありがとう。」
エルザは差し出されたお茶を、勧められるがままに口をつける。
「毒が入ってる。」
「ブフッッ!」
ユウの言葉に、エルザは盛大に噴き出す。
「……って言ったらどうする?」
「……入ってるの?」
「入ってないよ?」
「…………。」
エルザは黙って粗相した後始末をし、再びお茶に口をつける。
「……疑わないんだね、変な人。」
「だって、こんな美味しいお茶に毒入れるなんてもったいないでしょ?」
「ホント、変な人。」
ユウがクスリと笑う。
……あ、笑うとそんな顔するんだ。
エルザは、初めてユウの人間らしい表情を見た気がして、何故か判らないが嬉しくなる。
「それで、エルはなんでこんなところにいるの?」
「いきなり愛称呼びっ!……別にいいけど。」
「だって、長いんだもの。」
「いやいやいや、一文字しか違わないよね。」
「で、エルはなんでこんなところにいるの?」
「……聞いてないしっ!」
ツッコむのにも疲れてきたエルザは、もう一杯お茶を所望する。
……なんか、急に態度が変わった気もするけど……悪い感じじゃないしいいか。
「私がここにいる理由は、さっき話したじゃないの……って寝てたんだっけ。」
「さっきまで、アレ引っ張ってたけど楽しいの?」
「話題の転換早っ!……楽しいとかじゃなくて、アレ伝説の剣だよね?抜けないかなって思ったんだけど。」
「あんなおもちゃが欲しいの?……はいどうぞ。」
ユウが、剣の元へ行き、すっと引き抜くと、その剣をエルザの前に置く。
「えっ、あふぇっ、……なんで?アッサリ……。あれ?」
どれだけ力を込めてもビクともしなかった剣が、目の前で何の抵抗もなくあっさりと引き抜かれたことにショックを受け言葉もでない。
「……いいの?」
しばらくアタフタしてからエルザは本当に貰ってもいいのか?と訊ねる。
「いいよ。オチカヅキノシルシ、って言うんだっけ?」
「ありが………危ないっ!」
エルザは剣を掴むとユウを突き飛ばすようにして前に出る。
いつの間にか、あの巨大な銀色の魔獣が迫っていた。
……私の力じゃ少し時間を稼ぐことぐらいしか出来ないけど、ユウが逃げる時間ぐらいはっ!
さっきもエルザの剣では傷一つつけることが出来ずに、ただ追い回されるだけだったのだ。
「えいっ!」
エルザは牽制になれば、と言う気持ちで剣を振るう。
「今のうちに逃げてっ!」
エルザは叫ぶ。
「何で?」
「何でって、見れば分かるでしょっ!」
「だから聞いてるんだけど?」
ユウはエルザの背後を指さす。
「えっ?」
エルザは振り返る。
そこには真っ二つに切り裂かれ活動を停止している銀色の魔獣の姿があった。
「嘘っ、なんで………。」
無我夢中ではあったが、自分の技量が上がったわけではないという事ははっきりしている。だとすれば、剣の力以外にはあり得ない。
「伝説の剣……凄い。」
「そう?お店で普通に売ってる鉄の剣をちょっと使い易くして、後は実験に使っただけの玩具みたいなものよ。」
「玩具って………。」
そのあまりにな言い様に愕然とするエルザ。
長剣なのにエルザでも扱いやすい軽さといい、先程の魔獣を切り裂いた切れ味と言い、あれほどのモノを斬ったのに刃こぼれ一つ無い頑丈さと言い、どれ一つとっても、最高級品と変わらぬ物を玩具だと言い捨てる少女に対して多大な興味とほんの僅かな不信感を憶える。
「そんなことより、あなた相当疲れて居るみたいよ?ちょっと休んだら?」
「いやいやいや、休めないでしょっ!」
休息を薦めるユウに、エルザは周りを指さして反論する。
いつの間に集まってきたのか、先程と同じ大型の銀色魔獣が周りを取り囲んでいた。
「大丈夫よ。結界を張ったから近付いて来れないわ。」
「だからと言って……。」
エルザは魔獣の方をみる。ユウの言うとおり結界があるらしく、魔獣はなにもない空間をガリガリと引っかいていて、それ以上近寄ってはこない。
「あ、ごめんね。ベッドがないと寝れないよね?」
「いやいやいや、そう言う問題では………。」
エルザはユウが用意したベッドを見た途端に急速な眠気を感じる。
「疲れてるんでしょ?今までよく頑張ったね。」
ヤバい、と思ったときにはもう遅かった。ユウの言葉に完全に緊張が解け、身体に力が入らなくなる。
気付けばベッドの上に横たわっていて、そのまま意識が遠のいていく……。
「ゆっくり休んでね。」
そんな言葉が聞こえた気がした……。
◇
……ようやく寝てくれた。
ユウはホッと一息つく。
意識が完全に覚醒してからは、彼女の事をじっくり観察していたが、取り敢えず敵意がないことだけは分かった。敵意が無いどころか、見知らぬ場所と見知らぬ人を前にして警戒心が薄すぎると却って心配になったものだ。
そんなとこがユウの記憶の中にある彼女を思い出させ、ユウも警戒心を解く事にした。
警戒を解いた目で改めてエルを観察すると、とても酷い状態なのが分かる。
体内を巡る方魔力の流れ、気の流れがぐちゃぐちゃで、よくこの状態で元気そうにしていられると逆に感心する。いつ疲労で倒れて動けなくなってもおかしくない状態だ。
だから、リラックス及び誘眠作用のあるお茶を飲ませたり、弱めの睡眠魔法をかけたりしていたのだが、なかなか寝てくれなかったので、強制睡眠《スリープ》をかけようかとおもっていた所だった。
「余程精神力が強いのね。」
そんなとこも彼女そっくりだと、やはり彼女を思い出させる少し赤みがかった金髪にそっと触れる。
……私の前に姿を見せる彼女もよく無理をしていたよね。
疲れているのに、そんな素振りを見せない彼女を、あの手この手を使って休ませるまでが見一連の流れだったあの頃を思いだしながら、エルザの髪をなでる。
「それはそうと、かなり臭うわね……冒険者って言ってたけど洗浄の魔法使わないのかしら?」
ユウはそう言いながら、エルザの装備を脱がし、洗浄の魔法をかける。
脱がした装備は遠くへ放り投げて置く。
「さて、と。今のうちに確認しないと……『アクセス』」
ユウは状況確認のために、神殿を管理するコマンドを唱える。
ユウの頭の中に今の状況が流れ込んでくる。
「うわぁっ、マジですかぁ。まさか10万年も寝てたとは……。」
送られてきた情報をまとめると、ユウが眠りについた時から10万年の時が経ち、現在では神殿のコア部分を保存する最小限の機能以外、全てが稼働していないこと。
防御機構《ガーディアン》が辛うじて稼働しているが既にコマンドを受け付けなくなって久しいこと。
その他、レスポンスがないことと、経年から推測し、この神殿の機能が総て死んでいるだろうと推測される……と言うようなことが分かった。
ユウとしては、千年ぐらい寝る予定だったのだ。それぐらいであればこの神殿も十分に稼動可能であったし、何よりそれだけ経てば、変に絡まったしがらみもなくなって、彼女と仲直りできるだろうと思ったから………。
「ははっ………いくら魔導機械と融合していても、さすがに生きていないよね。」
ユウの瞳からあふれた滴が、ぽたり、ぽたりと床に落ちる。
ユウはフラフラとエルの眠るベッドに近づき、彼女の横に潜り込む。
エルの身体をぎゅっと抱き締めると少し安心する。
「暖かいね……。」
今はなにも考えたくない、と、ユウはエルにしがみついたまま眠りに落ちていった。
長々と語り終えたエルザだったが、目の前の少女はスヤスヤと寝息をたてていた。
「起きなさいよっ!ひとが折角話してるのにぃっ!」
エルザは少女の肩に手をかけ激しく揺さぶる。
「ん、あ、……終わった?」
「終わったわよ。って言うか何で寝ちゃうのよ!」
「んー、長かったから。もう1週間経った?」
「長っ!そんなに経つ訳ないでしょっ。だいたいどこまで聞いてたのよ。」
「んー、お家が高くて借りれないよぉ、って泣いてる辺り?」
「泣いてないわっ!ってか殆ど冒頭じゃないのよっ。」
「………そんなに叫んで疲れない?お水飲む?」
「誰のせいよっ!……ありがと。」
エルザは差し出された水を受け取りゴクゴクと一気に飲み干す。
「なんか変わった味ね。」
「そう?寝る前に用意していたものだから、少し古くなってたかも?」
「そうなの?でも腐ってるわけじゃないし大丈夫じゃない?」
エルザは空になったボトルを少女に返す。
「それで、えっとあなたのお名前は?」
「私?私の名前はユ……ユウって呼んで。」
エルザはユウと名乗る少女を改めて見てみる。
腰より下まで伸びている長い銀髪に藍色の瞳。
年の頃は自分と同じぐらいか少し年下だろうか?
その白い肌に整った顔立ち、あまり変わらない表情などから、動かなければ人形と見間違えそうだった。
「ん、分かった。それで何でこんなところで寝てるの?」
「んーと……えーと……えー…………ぐぅ……。」
「寝るなぁっ!」
「うぅ……中途半端に起こされたからまだ眠いの。」
「あ、ごめん。」
ユウの恨めしそうな視線に、エルザはつい謝ってしまう。
「でも、ちょっとだけ頑張ってもらえないかなぁ。色々聞きたいことあるし、私も困ってるのよ。」
「ふわぁぁぁ……。ん、頑張る。」
そう言ってユウは眠そうな目を擦りながら体を起こす。
「……イスとテーブルがない。」
「いやいや、こんなところにあるわけないでしょ。」
「むぅ……。仕方がないから用意する。」
ユウはそう言って虚空に何やら文様を描くと、宙に魔法陣が浮かび上がりそこからテーブルと椅子が落ちてきた。
「椅子用意した。座る。」
「あ、うん……。って、今の何よっ!」
「何って?」
「何で何もないところからテーブルが出てくるのよ。」
「しまってあったのを出しただけ……おかしい?」
「おかし……くはないかぁ。」
エルザはおかしいと言いかけて、よく考えればアイテム袋も似たようなものだと気づき黙り込む。ユウは「取り出した」と言っていたからアイテム袋と同じ原理なのだろう。
エルザが考えこんでいる間にも、ユウは虚空からティーセットなどを取り出しお茶を入れている。
「はい、どうぞ。お茶請けはないけど。」
「あ、ありがとう。」
エルザは差し出されたお茶を、勧められるがままに口をつける。
「毒が入ってる。」
「ブフッッ!」
ユウの言葉に、エルザは盛大に噴き出す。
「……って言ったらどうする?」
「……入ってるの?」
「入ってないよ?」
「…………。」
エルザは黙って粗相した後始末をし、再びお茶に口をつける。
「……疑わないんだね、変な人。」
「だって、こんな美味しいお茶に毒入れるなんてもったいないでしょ?」
「ホント、変な人。」
ユウがクスリと笑う。
……あ、笑うとそんな顔するんだ。
エルザは、初めてユウの人間らしい表情を見た気がして、何故か判らないが嬉しくなる。
「それで、エルはなんでこんなところにいるの?」
「いきなり愛称呼びっ!……別にいいけど。」
「だって、長いんだもの。」
「いやいやいや、一文字しか違わないよね。」
「で、エルはなんでこんなところにいるの?」
「……聞いてないしっ!」
ツッコむのにも疲れてきたエルザは、もう一杯お茶を所望する。
……なんか、急に態度が変わった気もするけど……悪い感じじゃないしいいか。
「私がここにいる理由は、さっき話したじゃないの……って寝てたんだっけ。」
「さっきまで、アレ引っ張ってたけど楽しいの?」
「話題の転換早っ!……楽しいとかじゃなくて、アレ伝説の剣だよね?抜けないかなって思ったんだけど。」
「あんなおもちゃが欲しいの?……はいどうぞ。」
ユウが、剣の元へ行き、すっと引き抜くと、その剣をエルザの前に置く。
「えっ、あふぇっ、……なんで?アッサリ……。あれ?」
どれだけ力を込めてもビクともしなかった剣が、目の前で何の抵抗もなくあっさりと引き抜かれたことにショックを受け言葉もでない。
「……いいの?」
しばらくアタフタしてからエルザは本当に貰ってもいいのか?と訊ねる。
「いいよ。オチカヅキノシルシ、って言うんだっけ?」
「ありが………危ないっ!」
エルザは剣を掴むとユウを突き飛ばすようにして前に出る。
いつの間にか、あの巨大な銀色の魔獣が迫っていた。
……私の力じゃ少し時間を稼ぐことぐらいしか出来ないけど、ユウが逃げる時間ぐらいはっ!
さっきもエルザの剣では傷一つつけることが出来ずに、ただ追い回されるだけだったのだ。
「えいっ!」
エルザは牽制になれば、と言う気持ちで剣を振るう。
「今のうちに逃げてっ!」
エルザは叫ぶ。
「何で?」
「何でって、見れば分かるでしょっ!」
「だから聞いてるんだけど?」
ユウはエルザの背後を指さす。
「えっ?」
エルザは振り返る。
そこには真っ二つに切り裂かれ活動を停止している銀色の魔獣の姿があった。
「嘘っ、なんで………。」
無我夢中ではあったが、自分の技量が上がったわけではないという事ははっきりしている。だとすれば、剣の力以外にはあり得ない。
「伝説の剣……凄い。」
「そう?お店で普通に売ってる鉄の剣をちょっと使い易くして、後は実験に使っただけの玩具みたいなものよ。」
「玩具って………。」
そのあまりにな言い様に愕然とするエルザ。
長剣なのにエルザでも扱いやすい軽さといい、先程の魔獣を切り裂いた切れ味と言い、あれほどのモノを斬ったのに刃こぼれ一つ無い頑丈さと言い、どれ一つとっても、最高級品と変わらぬ物を玩具だと言い捨てる少女に対して多大な興味とほんの僅かな不信感を憶える。
「そんなことより、あなた相当疲れて居るみたいよ?ちょっと休んだら?」
「いやいやいや、休めないでしょっ!」
休息を薦めるユウに、エルザは周りを指さして反論する。
いつの間に集まってきたのか、先程と同じ大型の銀色魔獣が周りを取り囲んでいた。
「大丈夫よ。結界を張ったから近付いて来れないわ。」
「だからと言って……。」
エルザは魔獣の方をみる。ユウの言うとおり結界があるらしく、魔獣はなにもない空間をガリガリと引っかいていて、それ以上近寄ってはこない。
「あ、ごめんね。ベッドがないと寝れないよね?」
「いやいやいや、そう言う問題では………。」
エルザはユウが用意したベッドを見た途端に急速な眠気を感じる。
「疲れてるんでしょ?今までよく頑張ったね。」
ヤバい、と思ったときにはもう遅かった。ユウの言葉に完全に緊張が解け、身体に力が入らなくなる。
気付けばベッドの上に横たわっていて、そのまま意識が遠のいていく……。
「ゆっくり休んでね。」
そんな言葉が聞こえた気がした……。
◇
……ようやく寝てくれた。
ユウはホッと一息つく。
意識が完全に覚醒してからは、彼女の事をじっくり観察していたが、取り敢えず敵意がないことだけは分かった。敵意が無いどころか、見知らぬ場所と見知らぬ人を前にして警戒心が薄すぎると却って心配になったものだ。
そんなとこがユウの記憶の中にある彼女を思い出させ、ユウも警戒心を解く事にした。
警戒を解いた目で改めてエルを観察すると、とても酷い状態なのが分かる。
体内を巡る方魔力の流れ、気の流れがぐちゃぐちゃで、よくこの状態で元気そうにしていられると逆に感心する。いつ疲労で倒れて動けなくなってもおかしくない状態だ。
だから、リラックス及び誘眠作用のあるお茶を飲ませたり、弱めの睡眠魔法をかけたりしていたのだが、なかなか寝てくれなかったので、強制睡眠《スリープ》をかけようかとおもっていた所だった。
「余程精神力が強いのね。」
そんなとこも彼女そっくりだと、やはり彼女を思い出させる少し赤みがかった金髪にそっと触れる。
……私の前に姿を見せる彼女もよく無理をしていたよね。
疲れているのに、そんな素振りを見せない彼女を、あの手この手を使って休ませるまでが見一連の流れだったあの頃を思いだしながら、エルザの髪をなでる。
「それはそうと、かなり臭うわね……冒険者って言ってたけど洗浄の魔法使わないのかしら?」
ユウはそう言いながら、エルザの装備を脱がし、洗浄の魔法をかける。
脱がした装備は遠くへ放り投げて置く。
「さて、と。今のうちに確認しないと……『アクセス』」
ユウは状況確認のために、神殿を管理するコマンドを唱える。
ユウの頭の中に今の状況が流れ込んでくる。
「うわぁっ、マジですかぁ。まさか10万年も寝てたとは……。」
送られてきた情報をまとめると、ユウが眠りについた時から10万年の時が経ち、現在では神殿のコア部分を保存する最小限の機能以外、全てが稼働していないこと。
防御機構《ガーディアン》が辛うじて稼働しているが既にコマンドを受け付けなくなって久しいこと。
その他、レスポンスがないことと、経年から推測し、この神殿の機能が総て死んでいるだろうと推測される……と言うようなことが分かった。
ユウとしては、千年ぐらい寝る予定だったのだ。それぐらいであればこの神殿も十分に稼動可能であったし、何よりそれだけ経てば、変に絡まったしがらみもなくなって、彼女と仲直りできるだろうと思ったから………。
「ははっ………いくら魔導機械と融合していても、さすがに生きていないよね。」
ユウの瞳からあふれた滴が、ぽたり、ぽたりと床に落ちる。
ユウはフラフラとエルの眠るベッドに近づき、彼女の横に潜り込む。
エルの身体をぎゅっと抱き締めると少し安心する。
「暖かいね……。」
今はなにも考えたくない、と、ユウはエルにしがみついたまま眠りに落ちていった。
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