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有栖川悠の日常……衣替えと調理実習
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夏がやってくると、教室の雰囲気が一変する。
制服が冬服から夏服へと変わるその瞬間、まるで風が吹き抜けるような爽やかな感覚が広がる。
女生徒たちが軽やかな夏服をまとって教室に現れると、何かが変わったんだと男子たちは一斉に気づく。
その白いブラウスが陽の光を受けて透き通るように見えたり、薄い生地が彼女たちの肩のラインをかすかに映し出す瞬間、なんとも言えないドキドキが胸に広がる。
普段は見えない腕や足首の肌が少しだけ見えるようになると、それだけでまるで新しい発見をしたような気分になる。
夏服は軽やかで、見る者の心も軽くする。
それまで隠れていた少女たちの魅力が、一気に目の前に現れるような感覚だ。
風が吹くたびに、スカートの裾が揺れる様子に目が奪われる。
ちょっとした動きが、いつもよりも鮮明に感じられる。
それは、ただの「制服」なのに、そこに込められた夏の魔法のようなものだ。
そして何よりも、夏服を着た彼女たちの笑顔が、いつもよりも眩しく感じる。
少し汗ばむ季節の中で、頬を染めた彼女たちの表情は、純粋で、ちょっとだけ色っぽくも見える。
そんな何気ない瞬間が、たまらないほど特別で、心を奪われてしまうのだ。
夏服は、季節の変わり目を教えてくれるだけでなく、同じ教室で毎日顔を合わせる仲間たちを、ほんの少しだけ違った目で見させてくれる。
その魅力に気づいてしまうと、夏の到来が待ち遠しくなるのは、自然なことなのだ!
……修介の熱い語りに、クラスの男子たちが一様に頷き、拳を振り上げて歓喜の雄たけびを上げている。
「……このクソ暑いのに、更に暑苦しい真似して。」
都が、教壇を見ながらそう吐き捨てる。
今教室では、生徒が2分されている。
片側は、教壇で夏服(女生徒に限る)の素晴らしさを熱弁し、それに同調する男子生徒と、それらの視線からそらすように、腕で自らの身体を隠している女生徒達だ。
そして、それを、教室の隅で見ている都と明日香、そしてユウの姿がある。
「あははっ、隠れてコソコソみられるよりは、まだマシじゃないかな?それに気持ちはわかるかも?」
そう言ってユウに目を堕とす明日香。
「まぁ……ね。」
同じようにユウを見る都。
「何でボクを見るのさっ。」
「だって……。」
「ねぇ?」
都と明日香が互いに顔を見合わせて、改めてユウを見る。
「反則……よね?」
「うん、男の子なのに……可愛い。」
「え、えっと、都や明日香ちゃんの方が可愛い……よ?」
ユウは二人の不思議な圧力に、少しだけ後ずさりしながらそんな事を言う。
「この際、男の子でも女の子でも関係無く、嫁にしちゃいたいわぁ。」
「うん、気持ちよくわかるっ!」
「わかんないよっ!」
「ねぇ?今夜泊まりに行ってもいいかなぁ?」
都が怪しい目つきでそう誘ってくる。
伸ばされた指先が、ユウの顎を軽く捕らえる。
「あ、みやこずるぃ。私も泊まりに行くぅ。」
そんな風に、キャッキャとやり合う姿を、クラスの女子たちがほっこり見ている事には気づいていない。
そんな一面を見せながら過ぎていく初夏のある日のこと……
「えっと、都、これは?」
明日香は目の前の光景に驚き、隣にいた都に声をかける。
実習を終えて教室に戻ってきたら、男子生徒が皆土下座して待ち構えていたのだ。
「あぁ、いつもの事よ……。野郎どもっ!配給が欲しくば一列に並べぇっ!」
男子生徒が、都の指示に従い、整然と並ぶ。
話を聞けば、このクラスはユウがいるため、調理実習での出来栄えが凄いという事らしい。
また、調理実習の内容がアレなので、生徒の殆どは、好きなものを思い思い作っているため、かなり余るから、そのおすそ分けを男子は狙っているとの事だった。
もっとも、それを見越して多く作っているらしいけど……ユウちゃん以外は。
明日香は、先程目にした光景を思い出す。
・
・
・
明日香が初めて見る、この学園の調理実習の教室は、活気に満ちた香りと音で溢れていた。
生徒たちはエプロンをつけ、包丁を握りながら、真剣な眼差しで料理に取り組んでいる。
今日の授業では、クラス全員がオムライスを作ることになっていましたが、悠が食材を選んでいると、いきなり教師が卵を掴んで悠に告げるのです。
「ふっ、今日はオムライスだ。まさか逃げはしないだろうな?」
教師が不敵に笑うと、ユウは困ったような顔をしながらも、その勝負に乗る。
その時点で、ユウと教師の料理バトルが始まりました。
悠は、自分の個性を反映したオムライスを作ろうとしているみたいで、皆と違う手順で調理を進めていきます。
解説してくれる都によると、ユウは、米を炒める際に特製のスパイスを使い、独自の味付けを施しているらしい。
一方、教師はクラシックなオムライスを作り、伝統に裏付けされた究極の逸品を目指しているのだとか。
それには、見た目と味のバランスを完璧に保つことが大事だっていう……けど、都詳しいね?あと、そのマイクどこから出したのよ?
悠がふわふわの卵をフライパンに流し込み、慎重に包む様子を見て、教師は、フッと微笑みながら自分の仕上げに取り掛かる……。
お互いにちらりと視線を交わし、競争心が火花を散らす様子が、いかにもバトル、って感じだけど……あ、はい、自分の分進めるんですね。
明日香は、班員の子に言われて玉子をひたすら割り、かき回せつづける。
そうこうしている間にも、二人の勝負は、いよいよ最後の瞬間が迫り、悠は鮮やかな赤いケチャップでオムライスに文字を書き、笑顔を浮かべます。
教師は、自分の作品に繊細なハーブを飾り、完成させました。
「さぁ、審査だっ!」
いつのまにか作られていた審査員席。
そこには調理実習担当の教師二人と、どこかで見たような……って、理事長っ!?
……うん、理事長を含むオトナ三人に、生徒代表として都と……なんで生徒会長がいるんでしょう?
……色々と突っ込みたいことが満載だったけど、審査が始まります。
クラスメイトたちが二人のオムライスを見比べ、どちらが勝つかを真剣に考えています。
料理の味、見た目、そして創造性が審査のポイントなのだとか。
審査員が一口ずつ食べ比べます。
明日香達クラスメイトにも、それぞれ配られ、皆が一口、二口、と口に運びます。
そのうちに一人の生徒が声を上げる。「これは…決められない!」と。
二人の料理はどちらも素晴らしく、勝者を選ぶのが難しいと感じたのです。
明日香も、その意見には同意する。
……うん、美味しすぎる。
それは審査員も同様だったようで、5人の審査員が皆両方の札を掲げていました。
つまり、引き分けです。
悠と教師は互いに笑い合、「次は負けないからな!」と教師がいいユウと固い握手を交わしました。
……そこで終ると思うよね?普通は。
そこに空気を読んだのか読まないのか、別の声が上がります。
「フハハハ!奴は四天王の中でも最弱の存在よ!」
彼は教室全体に響き渡るような声で言い放ちます。
教室内の全員が驚きとともにその姿を見つめます。悠も含めて、一瞬の静寂が教室を包みました。
「次は私が相手をしてやろう、有栖川!」
新たな教師は悠を指差しながら、自信満々に言い放ちます。
「和食勝負だ!私に勝てると思うなら、かかってこい!」
悠はその挑発に微笑を浮かべ、「面白いですね、先生。受けて立ちます!」と答えます。
彼はすでに勝負を楽しんでいる様子で、手元の包丁を軽く握り直しました。
「こうなったら、止められないわね。」
都はそう言いながら、他のクラスメイトに、余った食材で好きなモノを作るように指示を出します。
そうでした。今は調理実習の時間なのです。
「では、勝負開始だ!」と教師が叫び、ユウと教師の和食対決が始まりました。
クラスメイト達は二人の対決に興味津々で、自分たちの調理は二の次にして、二人の挙動に注目します。
次に何が起こるのか目が離せないのでしょう。
明日香はそう考えつつも、自分も何時しか二人を凝視していることに気づき、慌てて自分の調理を再開します。
後、玉子を焼いてチキンライスを包めば、自分のノルマは終わるので、さっさと済ませることにしました。
その間にも、二人は調理を続けています。
教師は、見事な包丁さばきを披露し、繊細な刺身を作り始めます。
彼の手は迷いなく動き、本場の板前さながら、まるで芸術作品を生み出しているかのようです。
聞いたところによれば、彼は京都の老舗旅館で板長をしていたそうです。その長年の修練に裏付けされた腕前は一級品と言っていいそうです。
一方、悠は、鮭を捌きながら、茶碗蒸しや煮物を丁寧に仕上げ、和食の基本に忠実でありながら、独自のアレンジを加えた料理を作り上げていきます。
二人の技術が火花を散らし、教室内は緊張感で満ちています。
教師は時折悠に挑発的な言葉を放ち、挑戦的な視線を送ります。
悠はそれを受け流しながらも自分の料理に集中しています。
最後に、二人は自信たっぷりにそれぞれの料理を教室中央のテーブルに並べました。
新たな教師は「この和食こそが本物だ!」と自信満々に宣言します。
並べられたのは、見事な懐石料理。これほどの物は、ごく限られた高級店でしか目にすることは出来ないと、理事長が唸っていました。
対する悠もまた「先生、これがボクの全力です」と静かに言います。
ユウが作ったのは、古き良き日本の家庭料理……いわゆる「おばんざい」と呼ばれるものだった。
審査員たちは再び審査に入り、クラスメイトもお相伴にあずかります。
どちらの料理も見事であり、決着をつけるのが難しい状況でした。
明日香も一口食べ、甲乙つけがたい、と思いました。
しかし、どちらかと言うなら……。
「うーん…どちらも美味しいけど、ユウちゃんの料理はなんだかほっこりするよね?」
あるクラスメイトの言葉に、他の生徒たちもうんうんと頷きます。
そう、高級料理もいいけど、なんだか気後れしてしまうのです。
審査の結果は、教師がそれぞれ1票づつ、都と生徒会長もそれぞれ教師とユウに票を入れて、票が別れました。
そして、最後の理事長の票は……教師に入り、ユウの負けが確定しました。
「フハハハ!四天王の私をここまで追い詰めるとは、さすがだな悠!いつでも再戦してくるがいい!」と新たな教師は大笑いしながら、教室を出て行きました。
悠が苦笑しながら「次は負けないよ」と意気込んでいい、ようやく教室内は普通の調理実習へ……と、そこで修行のチャイムが鳴り、担当の教師が慌てました。
「いけないっ!調理実習がっ!」
「先生、大丈夫ですよ。みんな作り終わってます。」
都が何事も無かったかのように、そう言って調理台に視線を向けます。
そこには、山のようになったオムライスと、その他諸々の料理たち。
「はい、今日も問題なくよく出来ましたね。」
教師は一言そう言って実習の終了を告げました。
……うん、アレは調理実習なんてものじゃなかったよね?
教師が生徒にマジに料理バトルを挑むって、ちょっとおかしいよ?
明日香は、「常識ってなんだろ?」と思いながら、嬉しそうに料理を受け取る男子たちを見守るのだった。
制服が冬服から夏服へと変わるその瞬間、まるで風が吹き抜けるような爽やかな感覚が広がる。
女生徒たちが軽やかな夏服をまとって教室に現れると、何かが変わったんだと男子たちは一斉に気づく。
その白いブラウスが陽の光を受けて透き通るように見えたり、薄い生地が彼女たちの肩のラインをかすかに映し出す瞬間、なんとも言えないドキドキが胸に広がる。
普段は見えない腕や足首の肌が少しだけ見えるようになると、それだけでまるで新しい発見をしたような気分になる。
夏服は軽やかで、見る者の心も軽くする。
それまで隠れていた少女たちの魅力が、一気に目の前に現れるような感覚だ。
風が吹くたびに、スカートの裾が揺れる様子に目が奪われる。
ちょっとした動きが、いつもよりも鮮明に感じられる。
それは、ただの「制服」なのに、そこに込められた夏の魔法のようなものだ。
そして何よりも、夏服を着た彼女たちの笑顔が、いつもよりも眩しく感じる。
少し汗ばむ季節の中で、頬を染めた彼女たちの表情は、純粋で、ちょっとだけ色っぽくも見える。
そんな何気ない瞬間が、たまらないほど特別で、心を奪われてしまうのだ。
夏服は、季節の変わり目を教えてくれるだけでなく、同じ教室で毎日顔を合わせる仲間たちを、ほんの少しだけ違った目で見させてくれる。
その魅力に気づいてしまうと、夏の到来が待ち遠しくなるのは、自然なことなのだ!
……修介の熱い語りに、クラスの男子たちが一様に頷き、拳を振り上げて歓喜の雄たけびを上げている。
「……このクソ暑いのに、更に暑苦しい真似して。」
都が、教壇を見ながらそう吐き捨てる。
今教室では、生徒が2分されている。
片側は、教壇で夏服(女生徒に限る)の素晴らしさを熱弁し、それに同調する男子生徒と、それらの視線からそらすように、腕で自らの身体を隠している女生徒達だ。
そして、それを、教室の隅で見ている都と明日香、そしてユウの姿がある。
「あははっ、隠れてコソコソみられるよりは、まだマシじゃないかな?それに気持ちはわかるかも?」
そう言ってユウに目を堕とす明日香。
「まぁ……ね。」
同じようにユウを見る都。
「何でボクを見るのさっ。」
「だって……。」
「ねぇ?」
都と明日香が互いに顔を見合わせて、改めてユウを見る。
「反則……よね?」
「うん、男の子なのに……可愛い。」
「え、えっと、都や明日香ちゃんの方が可愛い……よ?」
ユウは二人の不思議な圧力に、少しだけ後ずさりしながらそんな事を言う。
「この際、男の子でも女の子でも関係無く、嫁にしちゃいたいわぁ。」
「うん、気持ちよくわかるっ!」
「わかんないよっ!」
「ねぇ?今夜泊まりに行ってもいいかなぁ?」
都が怪しい目つきでそう誘ってくる。
伸ばされた指先が、ユウの顎を軽く捕らえる。
「あ、みやこずるぃ。私も泊まりに行くぅ。」
そんな風に、キャッキャとやり合う姿を、クラスの女子たちがほっこり見ている事には気づいていない。
そんな一面を見せながら過ぎていく初夏のある日のこと……
「えっと、都、これは?」
明日香は目の前の光景に驚き、隣にいた都に声をかける。
実習を終えて教室に戻ってきたら、男子生徒が皆土下座して待ち構えていたのだ。
「あぁ、いつもの事よ……。野郎どもっ!配給が欲しくば一列に並べぇっ!」
男子生徒が、都の指示に従い、整然と並ぶ。
話を聞けば、このクラスはユウがいるため、調理実習での出来栄えが凄いという事らしい。
また、調理実習の内容がアレなので、生徒の殆どは、好きなものを思い思い作っているため、かなり余るから、そのおすそ分けを男子は狙っているとの事だった。
もっとも、それを見越して多く作っているらしいけど……ユウちゃん以外は。
明日香は、先程目にした光景を思い出す。
・
・
・
明日香が初めて見る、この学園の調理実習の教室は、活気に満ちた香りと音で溢れていた。
生徒たちはエプロンをつけ、包丁を握りながら、真剣な眼差しで料理に取り組んでいる。
今日の授業では、クラス全員がオムライスを作ることになっていましたが、悠が食材を選んでいると、いきなり教師が卵を掴んで悠に告げるのです。
「ふっ、今日はオムライスだ。まさか逃げはしないだろうな?」
教師が不敵に笑うと、ユウは困ったような顔をしながらも、その勝負に乗る。
その時点で、ユウと教師の料理バトルが始まりました。
悠は、自分の個性を反映したオムライスを作ろうとしているみたいで、皆と違う手順で調理を進めていきます。
解説してくれる都によると、ユウは、米を炒める際に特製のスパイスを使い、独自の味付けを施しているらしい。
一方、教師はクラシックなオムライスを作り、伝統に裏付けされた究極の逸品を目指しているのだとか。
それには、見た目と味のバランスを完璧に保つことが大事だっていう……けど、都詳しいね?あと、そのマイクどこから出したのよ?
悠がふわふわの卵をフライパンに流し込み、慎重に包む様子を見て、教師は、フッと微笑みながら自分の仕上げに取り掛かる……。
お互いにちらりと視線を交わし、競争心が火花を散らす様子が、いかにもバトル、って感じだけど……あ、はい、自分の分進めるんですね。
明日香は、班員の子に言われて玉子をひたすら割り、かき回せつづける。
そうこうしている間にも、二人の勝負は、いよいよ最後の瞬間が迫り、悠は鮮やかな赤いケチャップでオムライスに文字を書き、笑顔を浮かべます。
教師は、自分の作品に繊細なハーブを飾り、完成させました。
「さぁ、審査だっ!」
いつのまにか作られていた審査員席。
そこには調理実習担当の教師二人と、どこかで見たような……って、理事長っ!?
……うん、理事長を含むオトナ三人に、生徒代表として都と……なんで生徒会長がいるんでしょう?
……色々と突っ込みたいことが満載だったけど、審査が始まります。
クラスメイトたちが二人のオムライスを見比べ、どちらが勝つかを真剣に考えています。
料理の味、見た目、そして創造性が審査のポイントなのだとか。
審査員が一口ずつ食べ比べます。
明日香達クラスメイトにも、それぞれ配られ、皆が一口、二口、と口に運びます。
そのうちに一人の生徒が声を上げる。「これは…決められない!」と。
二人の料理はどちらも素晴らしく、勝者を選ぶのが難しいと感じたのです。
明日香も、その意見には同意する。
……うん、美味しすぎる。
それは審査員も同様だったようで、5人の審査員が皆両方の札を掲げていました。
つまり、引き分けです。
悠と教師は互いに笑い合、「次は負けないからな!」と教師がいいユウと固い握手を交わしました。
……そこで終ると思うよね?普通は。
そこに空気を読んだのか読まないのか、別の声が上がります。
「フハハハ!奴は四天王の中でも最弱の存在よ!」
彼は教室全体に響き渡るような声で言い放ちます。
教室内の全員が驚きとともにその姿を見つめます。悠も含めて、一瞬の静寂が教室を包みました。
「次は私が相手をしてやろう、有栖川!」
新たな教師は悠を指差しながら、自信満々に言い放ちます。
「和食勝負だ!私に勝てると思うなら、かかってこい!」
悠はその挑発に微笑を浮かべ、「面白いですね、先生。受けて立ちます!」と答えます。
彼はすでに勝負を楽しんでいる様子で、手元の包丁を軽く握り直しました。
「こうなったら、止められないわね。」
都はそう言いながら、他のクラスメイトに、余った食材で好きなモノを作るように指示を出します。
そうでした。今は調理実習の時間なのです。
「では、勝負開始だ!」と教師が叫び、ユウと教師の和食対決が始まりました。
クラスメイト達は二人の対決に興味津々で、自分たちの調理は二の次にして、二人の挙動に注目します。
次に何が起こるのか目が離せないのでしょう。
明日香はそう考えつつも、自分も何時しか二人を凝視していることに気づき、慌てて自分の調理を再開します。
後、玉子を焼いてチキンライスを包めば、自分のノルマは終わるので、さっさと済ませることにしました。
その間にも、二人は調理を続けています。
教師は、見事な包丁さばきを披露し、繊細な刺身を作り始めます。
彼の手は迷いなく動き、本場の板前さながら、まるで芸術作品を生み出しているかのようです。
聞いたところによれば、彼は京都の老舗旅館で板長をしていたそうです。その長年の修練に裏付けされた腕前は一級品と言っていいそうです。
一方、悠は、鮭を捌きながら、茶碗蒸しや煮物を丁寧に仕上げ、和食の基本に忠実でありながら、独自のアレンジを加えた料理を作り上げていきます。
二人の技術が火花を散らし、教室内は緊張感で満ちています。
教師は時折悠に挑発的な言葉を放ち、挑戦的な視線を送ります。
悠はそれを受け流しながらも自分の料理に集中しています。
最後に、二人は自信たっぷりにそれぞれの料理を教室中央のテーブルに並べました。
新たな教師は「この和食こそが本物だ!」と自信満々に宣言します。
並べられたのは、見事な懐石料理。これほどの物は、ごく限られた高級店でしか目にすることは出来ないと、理事長が唸っていました。
対する悠もまた「先生、これがボクの全力です」と静かに言います。
ユウが作ったのは、古き良き日本の家庭料理……いわゆる「おばんざい」と呼ばれるものだった。
審査員たちは再び審査に入り、クラスメイトもお相伴にあずかります。
どちらの料理も見事であり、決着をつけるのが難しい状況でした。
明日香も一口食べ、甲乙つけがたい、と思いました。
しかし、どちらかと言うなら……。
「うーん…どちらも美味しいけど、ユウちゃんの料理はなんだかほっこりするよね?」
あるクラスメイトの言葉に、他の生徒たちもうんうんと頷きます。
そう、高級料理もいいけど、なんだか気後れしてしまうのです。
審査の結果は、教師がそれぞれ1票づつ、都と生徒会長もそれぞれ教師とユウに票を入れて、票が別れました。
そして、最後の理事長の票は……教師に入り、ユウの負けが確定しました。
「フハハハ!四天王の私をここまで追い詰めるとは、さすがだな悠!いつでも再戦してくるがいい!」と新たな教師は大笑いしながら、教室を出て行きました。
悠が苦笑しながら「次は負けないよ」と意気込んでいい、ようやく教室内は普通の調理実習へ……と、そこで修行のチャイムが鳴り、担当の教師が慌てました。
「いけないっ!調理実習がっ!」
「先生、大丈夫ですよ。みんな作り終わってます。」
都が何事も無かったかのように、そう言って調理台に視線を向けます。
そこには、山のようになったオムライスと、その他諸々の料理たち。
「はい、今日も問題なくよく出来ましたね。」
教師は一言そう言って実習の終了を告げました。
……うん、アレは調理実習なんてものじゃなかったよね?
教師が生徒にマジに料理バトルを挑むって、ちょっとおかしいよ?
明日香は、「常識ってなんだろ?」と思いながら、嬉しそうに料理を受け取る男子たちを見守るのだった。
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