有栖川悠は女の子が好き!?

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球技大会のアレコレ その3

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「問題は、どの種目にユウちゃんを出すかってことね。」
お弁当を食べながら、都がそう言う。

「バスケ」「バレー」「サッカー」「ソフトボール」「テニス」……
今回の球技大会の参加種目はこの五つ。
みんなの頑張りもあり、今のところ全競技とも準決勝まで残っている。

「えっと、悠ちゃんはこの中で得意な種目ってあるの?」
明日香がそう聞く。
得意な種目があるなら、それを優先にすればいいと、明日香は言う。

「うーん、得意なモノって言われても……ボクそう言うの分かんないよ。」
「無駄よ、明日香。ユウちゃんは得意って思う前に結果を出しちゃう子だから。しいて言うなら「全部得意」よね。」
「うぅ、そんなんじゃないのにぃ……。」
都の言葉に、悠が少し涙目になる。
その姿を、不覚にも「可愛い」と思ってしまう明日香だった。

「まず、サッカーは外しましょう。」
「どうして?」
都の言葉に明日香が疑問を挟む。
「まず、競技時間が長いこと。これはソフトボールも同じね。だけど、時間配分を見れば、サッカーは他の種目と諸に被っているから、これに出たら他の競技に出れない。」
都の言葉にうんうんと頷く、明日香と悠。
「それから、サッカーは団体競技だからね、悠一人が飛びぬけていても、あまり戦局に影響を与えないわ。」
他の競技でも同じことが言えそうだが、悠一人の存在が11人という多人数に埋もれてしまいやすい。
例えばバスケであれば、悠一人を封じるために3人にマークされたとする。
そうすると、悠以外の4人と相手2人の戦いとなり、余程の戦力差がない限り、負けることはないだろう。
そしてバスケなら、悠一人のプレイを一人や二人で止めることは不可能だ。
これがサッカーの場合、多少の人数差が出来たとしても、作戦次第では十分カバーが出来る。
なにも、常に悠に張り付いていなければならないわけじゃないのだから。

「なるほどぉ。」
明日香は都の説明にうんうんと頷いている。
「だから確実に勝てるバレーと、まず勝てるだろうバスケは決定として、あと1種目をソフトボールにするか、テニスにするか……悩むところなのよね。」
「何か問題があるの?」
明日香が訊ねる。
「うん、まずテニスね。これは、この学園内で悠に勝てる人は一人もいない。大学生を含めてもね。」
「それホント?」
「ホント、ホント。さっき「全部得意」って言ったけど、テニスだけは別格なのよ。この子は。」
「そうなんだぁ。じゃぁ、テニスでいいんじゃない?」
「そうなんだけどね、団体戦なのよ。」
「へっ?」
「だから団体戦……もしかして知らない?」
「あ、うん……あまりスポーツ詳しくなくて。」
少し恥ずかしげにそう言う明日香。
しかしそのことを気に留めた風もなく説明をする都。
「えっと、硬式テニスの団体戦っていうのは、二人で戦うダブルスが2組と、一人で戦うシングルスが3組の合計5試合を行うの。それで3試合買った方が勝ちなんだけど……。」
都は、そこで一旦言葉を切ってお茶を飲む。
「でね、悠が必ず1試合勝つというのは非常に大きなアドバンテージだけど、他4試合のうち2試合を勝たないといけないのはね……リスクが大きすぎるのよ。」
「じゃぁ、ソフトボール?」
明日香が訊ねると、都は小さな溜息をつく。
「そっちもねぇ、……。まず、試合時間からして、たぶん後半からしか参加できないわ。試合の流れでは、下手すれば最終回に間に合うかどうか……それまでの点差によっては逆転は無理かもしれないわね。」
「そうなんだぁ。」
「あとね、ソフトボールは悠の中では苦手部類に入るのよ?」
都はそう言いながら悠の手を取る。
「ほら、悠って手が小っちゃいでしょ?ソフトボールが大きくて、しっかり握れないらしいの。」
それでも、そこらの人じゃ、悠の球打てないんだけどね……と、都は苦笑しながら言う。

「うーん、じゃぁ、勝てそうなテニスでいいんじゃないかなぁ。」
「明日香もそう思う?」
「うん、今の話を聞いていると、ソフトボールは運の要素が大きすぎると思う。同じかけるなら、確実に悠ちゃんが1勝できるテニスの方が分がいいと思う。」
「かな。じゃぁ、悠の出場種目は「バスケ」「バレー」「テニス」で決定ね。」
都と明日香の間で話がまとまる。
「あのぉ、ボクの意見は?」
「何?何か出たい種目でもあるの?」
「いえ、ないです……。」
「だったら黙ってなさい。……じゃぁ、私他の子たちに話してくるわ。悠ごちそうさま。今日もおいしかったわ。」
都はそういってから立ち上がると、クラスメイトが集まっている場所へと駆け出していく。

「えっと、……ボクの話……だよね?」
悠が少し情けない顔で明日香に訊ねると、明日香は少し困った表情で一言だけ告げる。
「ドンマイ。」
ぽんぽんと肩を叩く明日香に縋り付いて泣きたくなる気分の悠だった。



「くっ、まずいわね。」
お昼を食べた後、また優勝カップの席に戻っていた悠のもとに、苦い表情をした都がやってくる。
「どうしたの?」
「サッカーが負けたわ。」
「大変よっ!」
そこに明日香が駆け込んでくる。
「あのぉ、ここ一応関係者以外立ち入り禁止なんですが……。」
そういう生徒会関係者の言葉は誰も聞いていない。
「どうしたの?まさか……。」
「ウン、バレー負けちゃったっ!」
「そう……ここまで影響あるとはね……。」
都は、少し考える。
優勝するには、残りの3種目の優勝が必須になってしまった。
となると、この準決勝はなんとしても勝ち上がらなければいけない。
「バスケに出るわ。明日香、ここお願いね。」
都はそう言うと、バスケコートに向かう。
ソフトボールは、京子中心に纏まっているから、準決勝は問題ないだろう。
京子は、私や悠にライバル心むき出しだからね、と、くすりと笑う。
京子なら、負けたら借りを作ることになる、と思って必ず勝利してくれるだろう。
テニスはもともと自分も出るつもりだったし、シングル1とダブルス1の3人は、今年全国を目指しているガチ勢だから、準決はなんとかなる。
問題はバスケだ。
男女混合とはいえ、男子の大半が、生徒会長が現在宣伝して回っている「銀髪少女隊」なるものに興味を抱いている今、放置しておくわけにはいかなかった。
当初の予測通り、生徒会団体の勢いは凄まじく、このままでは生徒会が優勝するだろうと予測が立っている。
生徒会が優勝すれば、悠は生徒会に拉致されるかもしれないが、クラスを移ることはない。
だったら、後は生徒会に任せて、新しいアイドルユニットの誕生を願う奴らが出てくる……生徒会長はそこまで考えていたのだろう。

ここまで、頭脳戦では負けを喫しているが、このままでは終われない!と都は戦意を掻き立てる。
何より、あんなダサいユニット名のアイドルになんかなる気はない。

「あんたらっ!もし負けたら、悠も私達も登校拒否するからねっ!」

さすがに、この脅しは効いたみたいで、ダラダラとアップしていた男子たちの顔が引き締まる。
男女混合のバスケ、球技大会のルールでは男子女子共に2名以上出場しなければならない。
つまり、男子3,女子2か、男子2,女子3の組み合わせしか認められないため、必然と男子3人女子2人のチームになる。
都には、背の高い男子を抜くだけの力は無いが、チームの司令塔として、3Pシューターとして、着実にチャンスをものにしていく。





ピピィーッ!

3Pシュートが決まったところで、試合終了の笛が鳴る。
33対28……接戦だけどなんとか勝てた。
都はホッとするまもなく、テニスコートへ走る。
すでに試合が始まっている時間だ。
都はシングルス3に登録してもらっているので、順番は最後だが、早めに着いていたほうがいいだろう。

都がテニスコートにつくと、そこではすでにシングルス2の試合が始まっていた。
試合結果を見てみると、シングルス1とダブルス1は順当に勝っていたが、ダブルス2は負けてしまったようだ。
ということは、今の試合勝てば都の出番はなく決勝へと進めるが、負けたら都の勝敗にかかってくる。
それを知ると、都は少し心が軽くなる。
これでテニスも決勝に行けるね、と。

都はテニスには自信があった。
幼い頃に、悠のママから直接手ほどきを受け、さらには悠の相手を嫌っていうほどしてきたのだから……。
正直言って悠以外に負ける気がしない。
バスケにフルタイム出場し、息が上がったままの、最悪なコンデションの今でも、全国を目指しているというシングルス1の美月にも余裕で勝てると思う。
……だから学園内ではテニスをやってこなかったんだけどね。
自分には、テニスの腕はあっても、上を目指す気はない。
悠という、化け物じみた相手がいる事を知っているし、何より悠ママという『壁』を見せつけられた。
それは、幼い都がテニスプレイヤーを目指すことを諦めさせるには十分すぎるほどの高く険しく乗り越える事のできない壁だった。
テニスを続けていれば、いつか壁にぶち当たる。それを乗り越えていっても、その先に立ちふさがるのがでは、絶望以外の感情が湧いて出てこない。
都は幼くして、乗り越えることができない壁という存在を知り、テニスは趣味程度に留めておくことに決めたのだ。
とは言っても、何も考えていない悠の相手をするためには、それなりにトレーニングが必要で、毎日の素振りは欠かしていない都だからこそ、テニスで負けることはないと、確信する都であった。

結局、シングルス2が、辛うじてゲームを手にし、都の出番無く決勝へと駒を進めたのだが、皆が待つ教室に戻ると、様子がおかしい事に気づく。

教室内には、いつもの明るい雰囲気とは違う、重く沈んだ空気が漂っていた。
その一角に向けると、そこには泣き崩れている少女たちの姿があった。
彼女たちはソフトボールに出ていたメンバーで、試合から戻ってきたばかりのようだった。

数人の女子が肩を寄せ合い、涙を拭いながら互いに慰め合っていた。その中で、特に目立つのはチームの代表を務める京子の姿だ。彼女は両手で顔を覆い、涙を止めることができない様子で、肩を震わせていた。

都が近づくと、京子はその気配に気づき、涙で濡れた顔をゆっくりと上げた。
そして、震える声で「ごめんなさい…負けちゃった…」と絞り出すように言う。
彼女の目には、悔しさと責任感が混じった涙が光っていた。

どうやら、1年生チームに負けてしまったらしい。
普段は自信に満ちた京子が、こんなにも打ちひしがれているのを見るのは初めてだった。
彼女の謝罪の言葉には、チームを代表する責任を感じていることがひしひしと伝わってきた。

必ず勝てるという自信があった分、ショックが大きかったのだろう。
室内が再び静まり返り、仲間たちの涙に、都もまた心を痛めるのだった。











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