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転校生・明日香の驚愕
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「はぁ……、ちょっと不安だなぁ。」
私は、学園への道を歩きながら、そんな事を呟く。
今、私は転校先の「瑞龍学園」へと向かっている。
幼稚舎から、大学院までを網羅するその広大な敷地は「学園都市」の異名を持つぐらいに広い。
どれぐらい広いかというと、敷地内に電車が走っているといえばわかりやすいだろうか?
例を挙げると、幼稚舎から大学の生協まで、敷地内を走る専用路面電車で駅5つ、時間にして40分弱かかる。
敷地内の環状線は一回り2時間かかるのだ。
因みに、外を走っている電車も、瑞龍学園前を通る路線が当然ある。
瑞龍学園前の駅は全部で11か所。
『瑞龍学園西口前』『瑞龍学園幼稚舎正門前』『瑞龍学園初等部正門前』『瑞龍学園中等部正門前』『瑞龍学園部活等前』『瑞龍学園高等部正門前』「瑞龍学園購買部前』『瑞龍学園西キャンパス正門前』『瑞龍学園生協前』『瑞龍キャンパス体育館前』「瑞龍学園東門前』
全て、施設の入り口であり、場合によっては、ここから中の専用路面電車を使って目的地まで移動するのだ。
噂では東京都23区の1/4ぐらいの広さがあるらしいけど、公表はされていない。
というか、公表されていないところが怪しく、また、ネット上のマップ上を歩くアプリでも、画像さえ表示されないという事で謎を呼んでいる。
高等部だけで2千人近い生徒数、幼稚舎から院迄合わせると在籍生徒数は1万人を超えると言われている超マンモス校。
それだけに、学内の施設は充実していて、たとえば大学などでは、大企業にもまだ納入されていない最新鋭の機材が取り揃えられているし、スポーツ面でも、各部活には最新の設備が用意され、専門のコーチもいて指導にあたっていてくれる。
特に高等部の部活には、場合によっては将来が決まる可能性もあることなどから、力の入れようが違う。
例えば野球部。
甲子園で活躍したともなればプロ野球のスカウトもある。
だが、生徒数の多い瑞龍学園で一つの部活に大勢が押し寄せてきても面倒が見切れない。
だから人気のある部活は複数用意されている。
例えば前述の野球部は第一野球部から第七野球部まで、7つの部活があり、
毎年5月の終わりから6月の半ばにかけて、校内リーグ戦が行われる。
そしてその結果から、選抜チームが結成されて地区大会へと進む流れになっている。
他にサッカー部やバスケットボール部なども同じではあるが、バスケットボール部など一部の、よりチームワークが必要と思われる部活などは、選抜チームではなく、リーグ戦で勝ち残ったチームがそのまま地区大会へ進むこともあるという。
その様な事柄が書かれてるパンフレットを思い出し、私はまたもやため息をつく。
急な引っ越し、慣れない土地に、失恋と親友の裏切り……急にいろいろな事があり過ぎて、少しだけ心がマヒしている自分がいる。
ただ、三日前にふらっと入ったカフェでの、銀色の髪の少女との出会いが、私の心を少し軽くしてくれた。
びっくりするぐらいの美少女なのに、女子特有のドロドロとしたところが皆無に見える、何処か中性的な無垢なる少女……そう、妖精とか天使って、ああいう子の事を言うんじゃないかな?
彼女の事を思い出すと、くすっと笑いが漏れる。
たぶん彼女は、必死になって、さりげなさを取り繕ってたと思うんだけど、私を気にして心配してくれていることが凄く丸分かりだった。
だけど、そんなことないよ、ただの偶然だよ、と見せるようにしているのがおかしくて……しかも、それが成功していると信じ切っているのが尚更おかしくて、失恋だのなんだのが全然大したことじゃ異様に思えて、思わず笑っちゃった。
それを見た彼女の言葉……女の子は笑顔が一番だよ、って、いつの時代のナンパのセリフよ?
しかも、それを行った時の彼女の笑顔……。私が男の子だったら、あの笑顔だけで恋に落ちる自信があるわ。
ユウちゃん……、バイト先ではそれだけしか教えれないって言ってたけど、そう言えば私名乗った覚えないや。
週末、あのカフェに会いに行ってみようかな?
そう考えただけで、週末が楽しみになった。
彼女に会えると思えば、今日、明日を乗り切る力が湧いてくるような感じがした。
◇
……で、何がどうして、こうなっているのでしょうか?
私の目の前には、とても綺麗な少女。
優しくて思いやりがあって……そしてちょっと怖い。
そんな印象の女の子。
名前は『小松都』ちゃん……さんの方がいいかな?
私の新しいクラスメイトで、見た感じクラスの女子の中心的な存在っぽい。
「えっと、私、生意気だって締められる……のかな?」
漫画なんかでよくあるシチュエーションを口にしてみる。そう、テンプレってやつ。
「それはあなた次第……かな?」
にヤッて笑う小松さん……怖いです。
「おいおい、可愛い子脅すなよ。」
そう言ってくれるのは「小宮修介」さん。
イケメンだけど、ちょっと冷たい感じがします。
んー、小松さんを止めてくれたけど、口だけだったし、冷たいって言うよりヘタレてる?
私のそんな考えを呼んだように、小宮さんは困った顔をする。
「一応言っとくけど、俺がヘタレてるわけじゃないからな。ユウが絡むと、こいつ怖いんだよ。」
……私って、考えてること顔に出やすい?
そして、私の隣で正座してブルブルしてるのが、有栖川悠……ユウちゃん。
何故か髪の色が真っ黒ですが、あの時カフェにいた「ユウちゃん」で間違いありません。
「で、浅葱明日香さん……でいいのよね?」
「はい。そうですけど……。」
「あなたが、ユウちゃんが一目ぼれした相手って事で間違いない?」
「へっ、一目ぼれ?」
私がキョトンとしていると、隣でユウちゃんがアタフタします。
「わわわっ!何でバラすしっ!本人の前で言うなしっ!」
……えっと、その……
「あ、あの……ユウちゃん?」
「ひっ、ひゃいっ!」
「お友達から……でいいかな?私、女の子と、その……だし……失恋したばかりだし……。」
私が精一杯、誠意を込めてそう答えると、ユウちゃんは、アタフタしながらコクコクと頷く。
うん、気持ちはありがたいけど、今はそう言う気分じゃない。それに、ユウちゃん可愛いけど女の子だし……ね。
でも友達になれて嬉しいのは本当だ。
「あらぁ、ユウちゃん振られちゃった。明日香ちゃんノーマルだから仕方がないよねぇ。」
小松さんがユウちゃんを抱きよせ、ギュってする。
「ボクだってノーマ……ムグッ……。」
何か言いかけていたけど、小松さんの胸に顔を押し付けられて黙ってしまうユウちゃん。
大丈夫かなぁ?息してる?
「あの……小松さん……。」
「都でいいよ。それで何かな、明日香ちゃん。」
「あの、じゃぁ……都……ちゃん。その……ユウちゃん大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。いつもの事だから。」
そう言って、ユウちゃんを離すと、ユウちゃんはのぼせた様にぼーっとしていた。
「それで、私をこうして呼び出したのは、ユウちゃんが、その……私に一目ぼれ?したから……ヤキモチ焼いて……ですか?」
私がなんとかそう言うと、都ちゃんは一瞬キョトンとした後、盛大に笑いだす。
「アハッ。明日香ちゃん、面白いこと、ハッキリ言うねぇ。気に入ったよぉ。」
そう言うと、都ちゃんは、私をギュッと抱きしめます。
この人抱き癖があるのかな?後……おっきぃ……。
私もそれなりな方と自負してましたが、負けました。完敗です。
「アハハはっ……えっとね、半分正解。」
「は、半分なんだぁ……。そこは違うって言ってほしかったよ……。」
「アハハ、ゴメンねぇ。ユウちゃんは私の大事だからね。変な女の子に引っかかるのは困るのよ。」
「そこは男って言う所じゃ?」
「まぁ、それは色々あるのよ、ね?」
「あ、はい……。」
世の中色々な人がいます。
きっとユウちゃんは女の子が好きな子なんでしょう。
これだけ可愛ければ、ノーマルな私でもクラっときちゃいますから、都ちゃんの心配は分かる気がします。
「なんか、都ちゃんって……いい人、なんですね。」
「うーん、それはどうかなぁ?……まぁいいわ。半分は悠ちゃんの為だけど、残りの半分は明日香ちゃんの為よ。」
「私の?」
「うん、朝から質問攻めにあってたでしょ?転校生の宿命とはいえ、結構参っていたみたいだし、後、お昼持ってきてないでしょ?」
「そ、そうなんだ……うん、お昼は学食があるって聞いてたから……。」
「だと思った。でもね、残念だけど、学食は1か月ほどは使えないと思った方がいいわ。」
「何かあるんですか?」
「うん、昨日、入学式があって新入生が入ってきたでしょ?」
都ちゃんの言葉に頷く。
「学食は、普段から人気が高くて混雑しているんだけど、一応、混雑なりの秩序があるのよ。いわゆる暗黙のルールってやつね。」
「新入生のやつらはそれを知らないからなぁ。格付けが終わるまで、秩序ってやつが乱れるんだよ。そんなところにアンタが迷い込んだら、あっという間に潰されるが放り出されるってわけだ。あ、俺の事は修介でも、シュウでも呼びやすい方で。」
今まで黙っていた小宮さん……修介さんがそう補足してくれる。
「じゃぁ、修介さんで……。じゃぁ、学食はいかない方がいいって事ですか?でも、後頭部の周りだけで7か所もあるんですよね?」
「うっ……。」
私がそう言うと、何故か修介さんが固まっていた。
「シュウ、どうしたのよ?」
都ちゃんが訝しげに訊ねる。
「い、いや、明日香ちゃんに「修介さん」って呼ばれたら、なんかこう、ゾクゾクって来てな……これやべぇ。」
「……。変態は放っておいて、7か所って言っても明日香ちゃんの選択肢だと実質3か所になるわよ?」
「そうなんですか?」
「えぇ、和風大衆食堂、イタリアン系ファミレス系、中華風ファミレス系……この3か所がリーズナブルでコスパがいい学食で、今後明日香ちゃんが使うつもりなら、この三か所をお勧めするわ。」
「成程。」
都ちゃんが学内マップに印をつけてくれるのを見ながら頷く。
「それで、他の4か所というのは……。」
「一か所は回らないお寿司屋さん。たまに奮発する分にはいいけど、毎日は厳しいでしょ?」
都ちゃんの言葉に私はコクンと頷く。
確かに毎日回らないお寿司は経済的に無理だ。ううん、回るお寿司でも厳しいかな。
「で、ここはこってりラーメン屋さんで、コッチがどんぶり屋さん。どっちも量が多すぎて明日香ちゃんには無理だと思うよ?」
そういってHPの写真を見せてくれる。
うん、無理、これは無理。こんなの、どこぞのフードファイターしか無理でしょ。山のようなラーメンと丼を見て私は大きく頷いた。
「最後はここ。」
そう言って地図に印をつける。
HPの写真を観た限り、普通の大衆食堂っぽいけど……。
「……普通の食堂っぽいんですけど?」
何が問題なのだろう?
「うん、ここは創作料理の店でね、別名「知らないことが幸せな店」よ。」
「……なんかすごく物騒な……。」
「……味は美味しいのよ?味はね。」
「……確かに、知らない方がよさそうですね。」
「うん、それがいいわ。」
「……。」
「……。」
しばらくの沈黙の後、話題が自然と別の方へと移っていった。
ちなみに、私の知らないことだけど、このお店、使っている材料が特殊だった。
写真に乗っていた、ぷりっぷりの美味しそうなエビフライは、実はザリガニだったし、大きな唐揚げは、食用ガエルだった。他にも、バッタや蜂など昆虫由来の食材もあり、調べてみれば、ちゃんと食用されているものばかり……中には地域によっては高級食材として扱われているんだけど……ねぇ?
うん、世の中には知らない方が幸せってことは一杯あるんだね。
私は、学園への道を歩きながら、そんな事を呟く。
今、私は転校先の「瑞龍学園」へと向かっている。
幼稚舎から、大学院までを網羅するその広大な敷地は「学園都市」の異名を持つぐらいに広い。
どれぐらい広いかというと、敷地内に電車が走っているといえばわかりやすいだろうか?
例を挙げると、幼稚舎から大学の生協まで、敷地内を走る専用路面電車で駅5つ、時間にして40分弱かかる。
敷地内の環状線は一回り2時間かかるのだ。
因みに、外を走っている電車も、瑞龍学園前を通る路線が当然ある。
瑞龍学園前の駅は全部で11か所。
『瑞龍学園西口前』『瑞龍学園幼稚舎正門前』『瑞龍学園初等部正門前』『瑞龍学園中等部正門前』『瑞龍学園部活等前』『瑞龍学園高等部正門前』「瑞龍学園購買部前』『瑞龍学園西キャンパス正門前』『瑞龍学園生協前』『瑞龍キャンパス体育館前』「瑞龍学園東門前』
全て、施設の入り口であり、場合によっては、ここから中の専用路面電車を使って目的地まで移動するのだ。
噂では東京都23区の1/4ぐらいの広さがあるらしいけど、公表はされていない。
というか、公表されていないところが怪しく、また、ネット上のマップ上を歩くアプリでも、画像さえ表示されないという事で謎を呼んでいる。
高等部だけで2千人近い生徒数、幼稚舎から院迄合わせると在籍生徒数は1万人を超えると言われている超マンモス校。
それだけに、学内の施設は充実していて、たとえば大学などでは、大企業にもまだ納入されていない最新鋭の機材が取り揃えられているし、スポーツ面でも、各部活には最新の設備が用意され、専門のコーチもいて指導にあたっていてくれる。
特に高等部の部活には、場合によっては将来が決まる可能性もあることなどから、力の入れようが違う。
例えば野球部。
甲子園で活躍したともなればプロ野球のスカウトもある。
だが、生徒数の多い瑞龍学園で一つの部活に大勢が押し寄せてきても面倒が見切れない。
だから人気のある部活は複数用意されている。
例えば前述の野球部は第一野球部から第七野球部まで、7つの部活があり、
毎年5月の終わりから6月の半ばにかけて、校内リーグ戦が行われる。
そしてその結果から、選抜チームが結成されて地区大会へと進む流れになっている。
他にサッカー部やバスケットボール部なども同じではあるが、バスケットボール部など一部の、よりチームワークが必要と思われる部活などは、選抜チームではなく、リーグ戦で勝ち残ったチームがそのまま地区大会へ進むこともあるという。
その様な事柄が書かれてるパンフレットを思い出し、私はまたもやため息をつく。
急な引っ越し、慣れない土地に、失恋と親友の裏切り……急にいろいろな事があり過ぎて、少しだけ心がマヒしている自分がいる。
ただ、三日前にふらっと入ったカフェでの、銀色の髪の少女との出会いが、私の心を少し軽くしてくれた。
びっくりするぐらいの美少女なのに、女子特有のドロドロとしたところが皆無に見える、何処か中性的な無垢なる少女……そう、妖精とか天使って、ああいう子の事を言うんじゃないかな?
彼女の事を思い出すと、くすっと笑いが漏れる。
たぶん彼女は、必死になって、さりげなさを取り繕ってたと思うんだけど、私を気にして心配してくれていることが凄く丸分かりだった。
だけど、そんなことないよ、ただの偶然だよ、と見せるようにしているのがおかしくて……しかも、それが成功していると信じ切っているのが尚更おかしくて、失恋だのなんだのが全然大したことじゃ異様に思えて、思わず笑っちゃった。
それを見た彼女の言葉……女の子は笑顔が一番だよ、って、いつの時代のナンパのセリフよ?
しかも、それを行った時の彼女の笑顔……。私が男の子だったら、あの笑顔だけで恋に落ちる自信があるわ。
ユウちゃん……、バイト先ではそれだけしか教えれないって言ってたけど、そう言えば私名乗った覚えないや。
週末、あのカフェに会いに行ってみようかな?
そう考えただけで、週末が楽しみになった。
彼女に会えると思えば、今日、明日を乗り切る力が湧いてくるような感じがした。
◇
……で、何がどうして、こうなっているのでしょうか?
私の目の前には、とても綺麗な少女。
優しくて思いやりがあって……そしてちょっと怖い。
そんな印象の女の子。
名前は『小松都』ちゃん……さんの方がいいかな?
私の新しいクラスメイトで、見た感じクラスの女子の中心的な存在っぽい。
「えっと、私、生意気だって締められる……のかな?」
漫画なんかでよくあるシチュエーションを口にしてみる。そう、テンプレってやつ。
「それはあなた次第……かな?」
にヤッて笑う小松さん……怖いです。
「おいおい、可愛い子脅すなよ。」
そう言ってくれるのは「小宮修介」さん。
イケメンだけど、ちょっと冷たい感じがします。
んー、小松さんを止めてくれたけど、口だけだったし、冷たいって言うよりヘタレてる?
私のそんな考えを呼んだように、小宮さんは困った顔をする。
「一応言っとくけど、俺がヘタレてるわけじゃないからな。ユウが絡むと、こいつ怖いんだよ。」
……私って、考えてること顔に出やすい?
そして、私の隣で正座してブルブルしてるのが、有栖川悠……ユウちゃん。
何故か髪の色が真っ黒ですが、あの時カフェにいた「ユウちゃん」で間違いありません。
「で、浅葱明日香さん……でいいのよね?」
「はい。そうですけど……。」
「あなたが、ユウちゃんが一目ぼれした相手って事で間違いない?」
「へっ、一目ぼれ?」
私がキョトンとしていると、隣でユウちゃんがアタフタします。
「わわわっ!何でバラすしっ!本人の前で言うなしっ!」
……えっと、その……
「あ、あの……ユウちゃん?」
「ひっ、ひゃいっ!」
「お友達から……でいいかな?私、女の子と、その……だし……失恋したばかりだし……。」
私が精一杯、誠意を込めてそう答えると、ユウちゃんは、アタフタしながらコクコクと頷く。
うん、気持ちはありがたいけど、今はそう言う気分じゃない。それに、ユウちゃん可愛いけど女の子だし……ね。
でも友達になれて嬉しいのは本当だ。
「あらぁ、ユウちゃん振られちゃった。明日香ちゃんノーマルだから仕方がないよねぇ。」
小松さんがユウちゃんを抱きよせ、ギュってする。
「ボクだってノーマ……ムグッ……。」
何か言いかけていたけど、小松さんの胸に顔を押し付けられて黙ってしまうユウちゃん。
大丈夫かなぁ?息してる?
「あの……小松さん……。」
「都でいいよ。それで何かな、明日香ちゃん。」
「あの、じゃぁ……都……ちゃん。その……ユウちゃん大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。いつもの事だから。」
そう言って、ユウちゃんを離すと、ユウちゃんはのぼせた様にぼーっとしていた。
「それで、私をこうして呼び出したのは、ユウちゃんが、その……私に一目ぼれ?したから……ヤキモチ焼いて……ですか?」
私がなんとかそう言うと、都ちゃんは一瞬キョトンとした後、盛大に笑いだす。
「アハッ。明日香ちゃん、面白いこと、ハッキリ言うねぇ。気に入ったよぉ。」
そう言うと、都ちゃんは、私をギュッと抱きしめます。
この人抱き癖があるのかな?後……おっきぃ……。
私もそれなりな方と自負してましたが、負けました。完敗です。
「アハハはっ……えっとね、半分正解。」
「は、半分なんだぁ……。そこは違うって言ってほしかったよ……。」
「アハハ、ゴメンねぇ。ユウちゃんは私の大事だからね。変な女の子に引っかかるのは困るのよ。」
「そこは男って言う所じゃ?」
「まぁ、それは色々あるのよ、ね?」
「あ、はい……。」
世の中色々な人がいます。
きっとユウちゃんは女の子が好きな子なんでしょう。
これだけ可愛ければ、ノーマルな私でもクラっときちゃいますから、都ちゃんの心配は分かる気がします。
「なんか、都ちゃんって……いい人、なんですね。」
「うーん、それはどうかなぁ?……まぁいいわ。半分は悠ちゃんの為だけど、残りの半分は明日香ちゃんの為よ。」
「私の?」
「うん、朝から質問攻めにあってたでしょ?転校生の宿命とはいえ、結構参っていたみたいだし、後、お昼持ってきてないでしょ?」
「そ、そうなんだ……うん、お昼は学食があるって聞いてたから……。」
「だと思った。でもね、残念だけど、学食は1か月ほどは使えないと思った方がいいわ。」
「何かあるんですか?」
「うん、昨日、入学式があって新入生が入ってきたでしょ?」
都ちゃんの言葉に頷く。
「学食は、普段から人気が高くて混雑しているんだけど、一応、混雑なりの秩序があるのよ。いわゆる暗黙のルールってやつね。」
「新入生のやつらはそれを知らないからなぁ。格付けが終わるまで、秩序ってやつが乱れるんだよ。そんなところにアンタが迷い込んだら、あっという間に潰されるが放り出されるってわけだ。あ、俺の事は修介でも、シュウでも呼びやすい方で。」
今まで黙っていた小宮さん……修介さんがそう補足してくれる。
「じゃぁ、修介さんで……。じゃぁ、学食はいかない方がいいって事ですか?でも、後頭部の周りだけで7か所もあるんですよね?」
「うっ……。」
私がそう言うと、何故か修介さんが固まっていた。
「シュウ、どうしたのよ?」
都ちゃんが訝しげに訊ねる。
「い、いや、明日香ちゃんに「修介さん」って呼ばれたら、なんかこう、ゾクゾクって来てな……これやべぇ。」
「……。変態は放っておいて、7か所って言っても明日香ちゃんの選択肢だと実質3か所になるわよ?」
「そうなんですか?」
「えぇ、和風大衆食堂、イタリアン系ファミレス系、中華風ファミレス系……この3か所がリーズナブルでコスパがいい学食で、今後明日香ちゃんが使うつもりなら、この三か所をお勧めするわ。」
「成程。」
都ちゃんが学内マップに印をつけてくれるのを見ながら頷く。
「それで、他の4か所というのは……。」
「一か所は回らないお寿司屋さん。たまに奮発する分にはいいけど、毎日は厳しいでしょ?」
都ちゃんの言葉に私はコクンと頷く。
確かに毎日回らないお寿司は経済的に無理だ。ううん、回るお寿司でも厳しいかな。
「で、ここはこってりラーメン屋さんで、コッチがどんぶり屋さん。どっちも量が多すぎて明日香ちゃんには無理だと思うよ?」
そういってHPの写真を見せてくれる。
うん、無理、これは無理。こんなの、どこぞのフードファイターしか無理でしょ。山のようなラーメンと丼を見て私は大きく頷いた。
「最後はここ。」
そう言って地図に印をつける。
HPの写真を観た限り、普通の大衆食堂っぽいけど……。
「……普通の食堂っぽいんですけど?」
何が問題なのだろう?
「うん、ここは創作料理の店でね、別名「知らないことが幸せな店」よ。」
「……なんかすごく物騒な……。」
「……味は美味しいのよ?味はね。」
「……確かに、知らない方がよさそうですね。」
「うん、それがいいわ。」
「……。」
「……。」
しばらくの沈黙の後、話題が自然と別の方へと移っていった。
ちなみに、私の知らないことだけど、このお店、使っている材料が特殊だった。
写真に乗っていた、ぷりっぷりの美味しそうなエビフライは、実はザリガニだったし、大きな唐揚げは、食用ガエルだった。他にも、バッタや蜂など昆虫由来の食材もあり、調べてみれば、ちゃんと食用されているものばかり……中には地域によっては高級食材として扱われているんだけど……ねぇ?
うん、世の中には知らない方が幸せってことは一杯あるんだね。
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