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小宮修介の独白
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俺の名は、小宮修介。
ぶっちゃけて言えば、それなりにモテる。
こんなことを公言すれば、どこからともなく憎悪と嫉妬の視線が飛んできて、たまに、物理的にいろいろなものまで跳んでくる。
だから公言はしないのだが、それとは関係なく、嫉妬と憎悪の念にさらされることがよくある。
例えば、今、この瞬間とか……。
「……好き……。」
か細い声でよく聞き取れなかったが、今確かに『好き』と聞こえた気がする。
俺の目の前で、頬を染め、その瞳に涙をうっすらと浮かべながら、手を胸の前で組み、見上げてくるようなあざといポーズ。
これを天然でやってのけるのだから恐ろしい。
「お前、……好きって……。」
俺の心臓がバクバクと高鳴る。
目の前にいるのは、俺の初恋……中学の時は本気でプロポーズをした相手だ。
その娘から「好き」って言われてるんだぞ?
俺はそをっと手を伸ばす。
「うん、……一目ぼれって、こういうのかな?」
……ん?一目ぼれ?
俺は彼女?の肩に伸ばしかけた腕を止める。
……俺はこいつに、知らなかったとはいえ、二度もプロポーズをして、二度とも断られている。
なのに「一目ぼれ」って……。
「シュウが、中学の時に「一目ぼれだ」って言ってたの、本気にしなくてごめん。」
……あ、うん、要は、こいつが好きになった女の子がいるって事だな。
……どうせそんな事だろうと思ったよ、畜生ッ!
「ねぇねぇ、何の話?ってか、朝っぱらから見せつけてくれるねぇ。だけど、ユウちゃんは私の嫁だからあげないよっ!」
そう言って、目の前の女の子?を掻っ攫い、ギュッと抱きしめる少女。
彼女の名前は、小松都。彼女とは中学の時からの付き合いだ。
彼女が抱きしめている「有栖川悠」を通じて知り合った友人……というかライバル?……いや、戦友かな?
俺にとって、まず恋愛対象にならないだろうという事が分かっているからこそ、気軽に付き合える、数少ない異性の友人だ。
「いや、ユウの奴がな、一目ぼれしたって言うから。」
「なっ、何でばらすのさっ!」
都に捕まっているユウが、顔を真っ赤にして怒鳴る。
今日はまだ春休みだが、明日の入学式の準備の為に、昨日、今日と、数人のクラスメイトが駆り出されて、教室内にはそれなりの人数がいる。
そして、そんな周りのクラスメイトが、興味津々といった様子で俺達を見守っている。
「あの有栖川悠」が好きになった相手とは一体?と誰もが、気にしているのが丸分かりだった。
「えぇっ!私の嫁に手を出すなんてふてぇ野郎だ!誰?誰なのっ!私が成敗してあげるわっ!」
都がユウを抱きしめる腕に力を込める。
「成敗しないでよっ!って言うか、何で「野郎」って決めつけるのっ!相手は女の子だよっ!」
悠の言葉に、クラスメイトの男達から安堵のため息が漏れる。
……ってか、お前ら、その反応はどうなんよ?
俺はそう言いたかったが、俺自身安堵しているから口には出さない。
口に出してしまえば、その言葉はブーメランとなって返ってくるからな。
「女の子?あれだけノーマルだって言い張ってたのに目覚めちゃった?……だったら私も覚悟しないと。」
「何の覚悟だよっ!って言うかボクはノーマルっ!男の子が女の子を好きになるのは普通でしょっ!」
悠が大きな声で叫び、そして現状を把握したのか、真っ赤になって黙ってしまう。
「おい、アリスっ!なんで昨日来なかったんだよっ!」
そこに、登校してきたばかりでその場の空気が読めない男の声が響く。
まぁ、アイツが空気を読むなんて事をするはずもないが……。
渡辺勝也……良くも悪くも空気を読まない男。
昨年のクラスメイトで、現在は隣のクラス。
だけど、その性格ゆえか、男女の関係なく同じように接する勝也の事を、ユウの奴は「良き友人」として接しているため、それなりに交友がある。
少なくとも、他のクラスメイトよりは近しい存在だろう。
もっとも俺達の次に、だけどな。
「え?昨日って?」
悠がキョトンとした顔で勝也を見る。
「ストバスだよっ!昨日助っ人頼んだだろ?お前が来なかったせいで、俺たちはぼろ負けだよ。どうしてくれるんだよっ!」
勝也の話では、ゴールの占有権を巡っての、ささやかな争いがあったらしい。ユウガスケットに来れば勝てる、と勝也は意気込んで大きく条件を突きつけたらしいのだが、頼みの助っ人が来ず、結果、勝負に負けて、しばらくはゴールが使えなくなったらしい。
って言うか、ユウ頼みな時点でダメだと思うんだが?
「えっと……勝也君……ごめんね。」
悠の瞳にじわっと涙が浮かぶ。
「ボク、そんな事知らなくて……ごめんね……。」
悠が涙を浮かべながらゴメンねと連呼する。
傍から見れば、勝也がユウを苛めているようにしか見えない。
現にクラスメイトの視線が勝也を刺す。
この状況に耐えられる奴は、まずいない。
それは勝也であってもだった。
「い、いやまぁ……つ、次は頼むぞっ!」
勝也はそう言って、逃げるように教室を出ていく。
「……ねぇ、都。昨日って何か約束してたっけ?」
先程迄の涙が嘘のように掻き消え、何事もなかったかのように都と話す悠。
超絶特大な女の武器を、事も無げに使いこなす魔性の少年、それが有栖川悠である。
「相変わらず、恐ろしいヤツ。」
俺の言葉に、数人の男子がうんうんと頷く。
何が恐ろしいって言っても、アレを、天然でやっていることだ。
計算が透けて見えないため、アレをやられると、耐えることが出来るのは都ぐらいのものだろう。
その都ですら、「アレはヤバいわぁ」というぐらいなのだから、その威力は相当である。
「それはそれとして……、詳しく話を聞こうか?」
俺と都は、両方からユウの腕を取り、教室の片隅……都の席へと連行するのだった。
◇
「はぁ、つまり、名前も知らないと?」
俺は呆れかえって物も言えなくなる。
朝は、あの後すぐに教師が来て作業に入ってしまったため、詳しい話を聞けなかったので、今こうして、空き教室で弁当を食べながら話を聞いているのだ。
因みに、弁当はユウの手作りである。
小学校高学年辺りから、ユウは一人でいることが多かったらしく、その為料理の腕はかなりのものだった。
普通、一人なら食事は適当に済ませるんじゃないかと思うのだが、ユウは、「ご飯は美味しい方がいいでしょ?」と、あっさりと言ってのける。
そして、ユウはなにかあると、暴走して料理を山ほど創る癖があり、その後始末として、俺や都が呼び出されることは今までにも多々あった。
この目の前の重箱弁当は、昨晩、一目ぼれを経験した悠が、感情を持て余した結果なのだろう。
因みに、つい先日、バイト先で出すデザートの研究、とかで、ケーキを山ほど食わされたばかりだ。
その反動で、ダイエット中だと言っていた都は、少し涙を浮かべながらユウのお弁当を食べていた。
……まぁ、ユウの料理はうまいからな。
ってか、女子力高すぎだろっ!
知っているはずなのに、ホントに男子なのか?と疑ってしまう自分が情けない。
どうでもいい話だが、中学の修学旅行の時、ユウは一人だけ大浴場の使用が認められず、特別に部屋風呂を使う事になっていた。
その理由は……わかるだろ?
悠が脱衣所で服を脱ごうとしたときの騒ぎが……。
つまり、そう言う事だ。
あの時の男子の殆どが、反応した自分を隠すのに必死だった、とだけ言っておく。
因みに、現在の学園では、体育など着替えが必要な際、ユウは別の更衣室を使用している。
これは悠専用というわけではなく、この学園ぐらい生徒数が多いと、トランスジェンダーな生徒がそれなりに存在するためだ。
悠も、そんなトランスジェンダーな生徒と同じような扱いを受けているって事だな。
しかし、外見は女の子っぽいとはいえ、肉体は男であり、自身を男と自覚していて、性的相手も女性というユウは、果たしてトランスジェンダーと言えるのだろうか?
……思考がおかしな方向に転がりかけたので、俺は慌てて、ユウの現状に思考を切り替える。
悠の話では、バイト先である「カフェ レムリア」に来た訳ありっぽい少女に一目ぼれしたという。
「うん、なんか泣いてたからほっとけなくて……。」
またそれか、と俺は小さくため息をつく。
悠は「一目ぼれは初めて」というが、そんな事はない。
ただ自覚しておらず、さらにはすぐ忘れてしまうだけだ。
そして、数ある告白を全て振っているから意外に思われるだろうが、ユウは実はかなり惚れっぽい性格だった。
特に泣いている女の子には弱い。
泣いている女の子を見ると放っておけずに、おせっかいを焼く。
そしてその相手に惚れこむ。
ここで不思議なのは、ユウの気を引きたくて泣いたりするのではダメだという事。
本当に困って、心から泣いている女の子にしか、悠の「おせっかい」は発動しない。
だけど、そう言う相手に限って、悠の事は「いいお友達」でしかなく、ユウの恋愛が成就することはなかった。
「そして今回も、その沼に嵌ったという訳か。」
「今回もってなんだよ。その言い方だと、ボクがいつも一目惚れしてるみたいじゃないか。」
いや、してるだろ?というツッコミを何とか堪える。
「あの子は、ボクの髪が綺麗だって言ってくれたんだぁ。『その銀色の髪が綺麗、羨ましい』って」
悠は、その女の子が泣いていたから、笑顔がみたくて、色々と話したという。
と言っても初めての相手に対し共通の話題などあるはずもなく、会話の内容は自然とユウの事が多かったらしい。
その話題の中で、ユウの髪の毛に関して触れたという。
「そんなん、俺がいつも言ってるだろ?お前の銀髪は綺麗だって。こんなウィッグで隠すのは勿体ないって。」
俺は、ユウの黒髪を少し引っ張ってそう言う。
「シュウはオタクだからねぇ。」
「ぉいっ、その「オタクの言葉には説得力がない」みたいな言い方、ヤメロ。世の中のオタク様たちに謝れっ!」
俺がそう言うと、ユウは悲し気に目を伏せる。
「シュウたちが見てるのは『銀髪』だもん。銀髪の『キャラクター』としてのボクだよね?「銀髪のボクという存在」じゃないよね?」
そんなことない、と言いたかったが、俺には何も言えなかった。
……前科があるからな。
悠は、この話はおしまい。とばかりに、その出会った少女についてあれこれと話してくれるが、俺はロクに聞いていなかった。
……まさか、まだ引きずっているとはね。
女装には抵抗がないくせに、髪の毛の色がコンプレックスって、おかしいだろ?
俺はそう思うのだが、コンプレックスは人それぞれだし、何が地雷になるかも人それぞれだ。
ただ一つ言えるのは、校内で素の悠を見るのは難しいだろう、という事だ。
俺は黒い髪の毛先を、指に絡めてくるくると巻きながら、都と話す悠を見てそう思うのだった。
ぶっちゃけて言えば、それなりにモテる。
こんなことを公言すれば、どこからともなく憎悪と嫉妬の視線が飛んできて、たまに、物理的にいろいろなものまで跳んでくる。
だから公言はしないのだが、それとは関係なく、嫉妬と憎悪の念にさらされることがよくある。
例えば、今、この瞬間とか……。
「……好き……。」
か細い声でよく聞き取れなかったが、今確かに『好き』と聞こえた気がする。
俺の目の前で、頬を染め、その瞳に涙をうっすらと浮かべながら、手を胸の前で組み、見上げてくるようなあざといポーズ。
これを天然でやってのけるのだから恐ろしい。
「お前、……好きって……。」
俺の心臓がバクバクと高鳴る。
目の前にいるのは、俺の初恋……中学の時は本気でプロポーズをした相手だ。
その娘から「好き」って言われてるんだぞ?
俺はそをっと手を伸ばす。
「うん、……一目ぼれって、こういうのかな?」
……ん?一目ぼれ?
俺は彼女?の肩に伸ばしかけた腕を止める。
……俺はこいつに、知らなかったとはいえ、二度もプロポーズをして、二度とも断られている。
なのに「一目ぼれ」って……。
「シュウが、中学の時に「一目ぼれだ」って言ってたの、本気にしなくてごめん。」
……あ、うん、要は、こいつが好きになった女の子がいるって事だな。
……どうせそんな事だろうと思ったよ、畜生ッ!
「ねぇねぇ、何の話?ってか、朝っぱらから見せつけてくれるねぇ。だけど、ユウちゃんは私の嫁だからあげないよっ!」
そう言って、目の前の女の子?を掻っ攫い、ギュッと抱きしめる少女。
彼女の名前は、小松都。彼女とは中学の時からの付き合いだ。
彼女が抱きしめている「有栖川悠」を通じて知り合った友人……というかライバル?……いや、戦友かな?
俺にとって、まず恋愛対象にならないだろうという事が分かっているからこそ、気軽に付き合える、数少ない異性の友人だ。
「いや、ユウの奴がな、一目ぼれしたって言うから。」
「なっ、何でばらすのさっ!」
都に捕まっているユウが、顔を真っ赤にして怒鳴る。
今日はまだ春休みだが、明日の入学式の準備の為に、昨日、今日と、数人のクラスメイトが駆り出されて、教室内にはそれなりの人数がいる。
そして、そんな周りのクラスメイトが、興味津々といった様子で俺達を見守っている。
「あの有栖川悠」が好きになった相手とは一体?と誰もが、気にしているのが丸分かりだった。
「えぇっ!私の嫁に手を出すなんてふてぇ野郎だ!誰?誰なのっ!私が成敗してあげるわっ!」
都がユウを抱きしめる腕に力を込める。
「成敗しないでよっ!って言うか、何で「野郎」って決めつけるのっ!相手は女の子だよっ!」
悠の言葉に、クラスメイトの男達から安堵のため息が漏れる。
……ってか、お前ら、その反応はどうなんよ?
俺はそう言いたかったが、俺自身安堵しているから口には出さない。
口に出してしまえば、その言葉はブーメランとなって返ってくるからな。
「女の子?あれだけノーマルだって言い張ってたのに目覚めちゃった?……だったら私も覚悟しないと。」
「何の覚悟だよっ!って言うかボクはノーマルっ!男の子が女の子を好きになるのは普通でしょっ!」
悠が大きな声で叫び、そして現状を把握したのか、真っ赤になって黙ってしまう。
「おい、アリスっ!なんで昨日来なかったんだよっ!」
そこに、登校してきたばかりでその場の空気が読めない男の声が響く。
まぁ、アイツが空気を読むなんて事をするはずもないが……。
渡辺勝也……良くも悪くも空気を読まない男。
昨年のクラスメイトで、現在は隣のクラス。
だけど、その性格ゆえか、男女の関係なく同じように接する勝也の事を、ユウの奴は「良き友人」として接しているため、それなりに交友がある。
少なくとも、他のクラスメイトよりは近しい存在だろう。
もっとも俺達の次に、だけどな。
「え?昨日って?」
悠がキョトンとした顔で勝也を見る。
「ストバスだよっ!昨日助っ人頼んだだろ?お前が来なかったせいで、俺たちはぼろ負けだよ。どうしてくれるんだよっ!」
勝也の話では、ゴールの占有権を巡っての、ささやかな争いがあったらしい。ユウガスケットに来れば勝てる、と勝也は意気込んで大きく条件を突きつけたらしいのだが、頼みの助っ人が来ず、結果、勝負に負けて、しばらくはゴールが使えなくなったらしい。
って言うか、ユウ頼みな時点でダメだと思うんだが?
「えっと……勝也君……ごめんね。」
悠の瞳にじわっと涙が浮かぶ。
「ボク、そんな事知らなくて……ごめんね……。」
悠が涙を浮かべながらゴメンねと連呼する。
傍から見れば、勝也がユウを苛めているようにしか見えない。
現にクラスメイトの視線が勝也を刺す。
この状況に耐えられる奴は、まずいない。
それは勝也であってもだった。
「い、いやまぁ……つ、次は頼むぞっ!」
勝也はそう言って、逃げるように教室を出ていく。
「……ねぇ、都。昨日って何か約束してたっけ?」
先程迄の涙が嘘のように掻き消え、何事もなかったかのように都と話す悠。
超絶特大な女の武器を、事も無げに使いこなす魔性の少年、それが有栖川悠である。
「相変わらず、恐ろしいヤツ。」
俺の言葉に、数人の男子がうんうんと頷く。
何が恐ろしいって言っても、アレを、天然でやっていることだ。
計算が透けて見えないため、アレをやられると、耐えることが出来るのは都ぐらいのものだろう。
その都ですら、「アレはヤバいわぁ」というぐらいなのだから、その威力は相当である。
「それはそれとして……、詳しく話を聞こうか?」
俺と都は、両方からユウの腕を取り、教室の片隅……都の席へと連行するのだった。
◇
「はぁ、つまり、名前も知らないと?」
俺は呆れかえって物も言えなくなる。
朝は、あの後すぐに教師が来て作業に入ってしまったため、詳しい話を聞けなかったので、今こうして、空き教室で弁当を食べながら話を聞いているのだ。
因みに、弁当はユウの手作りである。
小学校高学年辺りから、ユウは一人でいることが多かったらしく、その為料理の腕はかなりのものだった。
普通、一人なら食事は適当に済ませるんじゃないかと思うのだが、ユウは、「ご飯は美味しい方がいいでしょ?」と、あっさりと言ってのける。
そして、ユウはなにかあると、暴走して料理を山ほど創る癖があり、その後始末として、俺や都が呼び出されることは今までにも多々あった。
この目の前の重箱弁当は、昨晩、一目ぼれを経験した悠が、感情を持て余した結果なのだろう。
因みに、つい先日、バイト先で出すデザートの研究、とかで、ケーキを山ほど食わされたばかりだ。
その反動で、ダイエット中だと言っていた都は、少し涙を浮かべながらユウのお弁当を食べていた。
……まぁ、ユウの料理はうまいからな。
ってか、女子力高すぎだろっ!
知っているはずなのに、ホントに男子なのか?と疑ってしまう自分が情けない。
どうでもいい話だが、中学の修学旅行の時、ユウは一人だけ大浴場の使用が認められず、特別に部屋風呂を使う事になっていた。
その理由は……わかるだろ?
悠が脱衣所で服を脱ごうとしたときの騒ぎが……。
つまり、そう言う事だ。
あの時の男子の殆どが、反応した自分を隠すのに必死だった、とだけ言っておく。
因みに、現在の学園では、体育など着替えが必要な際、ユウは別の更衣室を使用している。
これは悠専用というわけではなく、この学園ぐらい生徒数が多いと、トランスジェンダーな生徒がそれなりに存在するためだ。
悠も、そんなトランスジェンダーな生徒と同じような扱いを受けているって事だな。
しかし、外見は女の子っぽいとはいえ、肉体は男であり、自身を男と自覚していて、性的相手も女性というユウは、果たしてトランスジェンダーと言えるのだろうか?
……思考がおかしな方向に転がりかけたので、俺は慌てて、ユウの現状に思考を切り替える。
悠の話では、バイト先である「カフェ レムリア」に来た訳ありっぽい少女に一目ぼれしたという。
「うん、なんか泣いてたからほっとけなくて……。」
またそれか、と俺は小さくため息をつく。
悠は「一目ぼれは初めて」というが、そんな事はない。
ただ自覚しておらず、さらにはすぐ忘れてしまうだけだ。
そして、数ある告白を全て振っているから意外に思われるだろうが、ユウは実はかなり惚れっぽい性格だった。
特に泣いている女の子には弱い。
泣いている女の子を見ると放っておけずに、おせっかいを焼く。
そしてその相手に惚れこむ。
ここで不思議なのは、ユウの気を引きたくて泣いたりするのではダメだという事。
本当に困って、心から泣いている女の子にしか、悠の「おせっかい」は発動しない。
だけど、そう言う相手に限って、悠の事は「いいお友達」でしかなく、ユウの恋愛が成就することはなかった。
「そして今回も、その沼に嵌ったという訳か。」
「今回もってなんだよ。その言い方だと、ボクがいつも一目惚れしてるみたいじゃないか。」
いや、してるだろ?というツッコミを何とか堪える。
「あの子は、ボクの髪が綺麗だって言ってくれたんだぁ。『その銀色の髪が綺麗、羨ましい』って」
悠は、その女の子が泣いていたから、笑顔がみたくて、色々と話したという。
と言っても初めての相手に対し共通の話題などあるはずもなく、会話の内容は自然とユウの事が多かったらしい。
その話題の中で、ユウの髪の毛に関して触れたという。
「そんなん、俺がいつも言ってるだろ?お前の銀髪は綺麗だって。こんなウィッグで隠すのは勿体ないって。」
俺は、ユウの黒髪を少し引っ張ってそう言う。
「シュウはオタクだからねぇ。」
「ぉいっ、その「オタクの言葉には説得力がない」みたいな言い方、ヤメロ。世の中のオタク様たちに謝れっ!」
俺がそう言うと、ユウは悲し気に目を伏せる。
「シュウたちが見てるのは『銀髪』だもん。銀髪の『キャラクター』としてのボクだよね?「銀髪のボクという存在」じゃないよね?」
そんなことない、と言いたかったが、俺には何も言えなかった。
……前科があるからな。
悠は、この話はおしまい。とばかりに、その出会った少女についてあれこれと話してくれるが、俺はロクに聞いていなかった。
……まさか、まだ引きずっているとはね。
女装には抵抗がないくせに、髪の毛の色がコンプレックスって、おかしいだろ?
俺はそう思うのだが、コンプレックスは人それぞれだし、何が地雷になるかも人それぞれだ。
ただ一つ言えるのは、校内で素の悠を見るのは難しいだろう、という事だ。
俺は黒い髪の毛先を、指に絡めてくるくると巻きながら、都と話す悠を見てそう思うのだった。
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