勇者と魔王、選ぶならどっち?

Red

文字の大きさ
上 下
69 / 80
第三章 勇者の遺跡巡り

メイドさん募集中

しおりを挟む
「……じゃぁ、そう言う事でお願いね。」
「ハッ、早急に!」
 眼の前にいた、いかつい体つきの虎の獣人……タイガラントの若者が、深々と頭を下げて部屋を出ていく。
「はぁ……もぅやだぁー。ミュウ代わってよぉ。」
 獣人が去って行ったのを確認すると、今までの厳めしい態度を崩す。
「何言ってんの、アンタの仕事でしょ。」
「もうやだぁ……おうち帰ってミリィをモフるぅ~。」
「仕事をすることを条件にミリィたちが来たんでしょ?今帰ってもモフれないわよ?」
 駄々をこねる私に対して、冷たく言うミュウ。
 私だってわかってるのよ、コレがただの我儘だって。
 だけどね……。

「何で、いつもいつも男の相手しなきゃいけないのよっ!私は女の子がいいのっ!」
「ミカゲ、言い方!落ち着きなさいよ……ったく。」
 叫ぶ私の口を慌てて終え合えるミュウ。
 ……まぁ、確かに今の所だけ聞いていると外聞はあまりよくないかも?
 「むぐっ、むぐぅ……。」
 ミュウの拘束から逃れようと、首を振る私の視界の隅に、入り口で佇む女の子の姿が入る。
 タンタンタン!
 私はミュウの腕をタップした後、入り口を指さす。
 ミュウもその子に気づき、私の拘束を解いて、入り口の女の子に声をかける。
「面会希望のナターシャさんだよね?入っていいわよ。」
 ミュウに促されて、おずおずと入ってくるナターシャ。
「あ、ハイ……あの……お初にお目にかかります……ラクルン族のナターシャと言います。」
 オドオドしながらも名乗るナターシャ。
 頭の上の特徴ある丸い耳が、ピクピクと小刻みに震えているのが、ナターシャの緊張を表している。
 私はナターシャの傍まで行くと、その頭を撫で、耳をモフりながら声をかける。
「緊張しなくていいんだよ?……私、そんなに怖い?」
 ナターシャは、ビクッと身体を震わせ、何かを言おうとして、何も言えず俯く。

 あの忠誠の儀から1週間。
 さっきのタイガラントの若者の様に、集落の変革に関する報告だけでなく、セルアン族の各種族の代表が次々と挨拶にやってくるようになった。
 ただ、その殆どが高齢の村長か、世代交代したばかりの若者で、ナターシャの様な可愛い女の子が来るのは大変珍しかった。

「ほらほら、怖がってるから離れて、離れて。」
 ミュウが私とナターシャを引き離す。
「怖がらせてないよぉ。」
 私はミュウに文句を言うけど、私が離れた後、ナターシャはあからさまに、ホッと力を抜いていたので、何の説得力もなかった。

「それで、今日は挨拶だけ?」
 上座に座り直してぶんむくれている私を無視して、ミュウがナターシャに問いかける。
「いえ、お屋敷に召し上げられる女性について確認したいことがございまして。」
 ナターシャは、チラッと私の方を見ながら、ミュウにそう答える。

 ナターシャが言っているのは昨日から募集を始めたメイドさん達の事だろう。
 私がセルアン族を統べる党首となった事で、形だけでも執政をする場所が必要といわれ、以前客人用としてあてがわれていたこの場所を仮の執務室として、こうして謁見に使ったりしているんだけど、今後の事を考えたら拠点は必要だと思うのよ。

 だから、ニコちゃんに命じて鉱山に近い場所に拠点となる建物を用意させたんだけど、ユースティアが少し悪ノリして、とんでもないお屋敷に仕上がったのよ。
 簡単に言えば悪の親玉のお屋敷……と言えば伝わるかな?
 廃墟ではないけど、いかにも、って感じで、何も知らない人が前を通りがかったら、恐怖で身体が竦んでしまうんじゃないかって思うぐらいの出来だったのね。
 流石にこれはって事で、やり直しを命じたんだけど、ユースティアが無駄にリソースを使いこんだせいで、全面改装は不可能だったのね。
 結局、一部の改装と認識魔法の併用で、明るい所で見れば、怖がられることはない程度まで改装できたのが二日前の事。

 外装が出来あがっても、まだ内装とかはこれから仕上げていくから、それを手伝ってくれる人を募集したのが昨日の事。
 拠点とはいっても、常にそこにいる訳じゃないから、今後の管理もお願いしたいから、住み込みOKな人を優先で、長く勤めてくれる人を募集したのよ。
 もし優秀な人が居たら、私の代わりに色々お願いしようと考えているのは、まだナイショなんだけどね。

 私が住む場所になるんだから、当然女性限定なんだけど、ナターシャが言うには、その募集の事であらぬ噂が流れてるんだって。
「噂?」
 ミュウも初耳だったらしく、詳しく話す様にナターシャを促す。
「ハイ、実は、その……召し上げられた女性は……その……ミカゲ様への……夜のご奉仕も強要されると……。」
 真っ赤になりながらそう告げるナターシャ。
 なんでも、ナターシャ達ラクルン族は、その見かけと性質から、獣人好きのヒューマン族からの人気が高いため、一族の中から容姿の優れたものを何人か私に差し出すように、セルアン族を統括する長達から命じられたらしい。
 要は、私のお気に入りを差し出して御機嫌を取れって事みたいなんだけど……。

 ガタッ……。
「むぐっ……ミュウ、離してよ……うぅ……。」
 私が立ち上がった途端、ミュウによって背後から拘束される。
「ダメ!アンタ、今何しにどこに行こうとしたの?」
「そんなの決まってるじゃない。ふざけた事を言ってるセルアン族に正義の鉄槌を!」
「……具体的には?」
「村長たちが集まってるところにメテオを墜とすのよ。」
「アホかっ!」
 パシッと後ろ頭を叩かれる。
 ミュウが手にしているのは、確か「ハリセン」とかいう奴で、アスカの街の雑貨屋で見かけたものだけど……いつのまに買ってたのよ?
「そんなことしたら、また混乱が起きるでしょうがっ!」
「でもぉ……。」
「でもじゃないっ!見なさい、ナターシャも怖がってるでしょ!」
 ミュウの言葉に、ナターシャを見ると、確かに小さくなり震えている。
「えっとね……全部誤解だから……ね?」
 私は安心させようとナターシャに手を伸ばすが、彼女は『ヒッ!』と更に身体を強張らせて縮こまる。
「ふぇぇぇーん、ミュゥ、私恐怖の大王になっちゃってるぅ。」
 ナターシャの怖がりようにショックを受けた私は、そのままミュウにしがみつく。

「ハイハイ、だからこれ以上誤解を受けない様に、大人しくしてる事、分かった?」
 ミュウが私を優しく受け止め、頭や背中を優しく撫でてくれる。
「ウン、分かった。」
 私はミュウの言葉に小さく頷く。
「よしよし、ミカゲはいい子ね……ってちょっと、どこ触ってるのよっ!」
 私が尻尾の付け根をツーッと逆撫ですると、ミュウは驚いて私を突き放し、例のハリセンで頭を叩いてくる。
「痛ったぁーい……ミュウ、酷いよぉ。」
 私は頭を抱えながら、ミュウを睨む。
 ハリセンって、大きな音がするけど、実はそれほど痛くないのよね。ただ、ミュウの力で叩かれると、反動が大きくて、少し頭がクラクラするのよ。 

「まったく、油断も隙もあったもんじゃないわ。」
 ミュウは頬を紅く染めながら、自分の尻尾を隠すようにしている。
「それより、問題はその噂の方でしょ。……ナターシャ、一応言っておくけど、その噂は出鱈目だからね。」
「そうなんですか?でも、ミカゲ様は女の子が大好きだって……。」
「……それは否定しないけど。」
「否定してよっ!」
 ナターシャに同意するミュウにツッコむ。
 確かに好きか嫌いかって言えば好きだけどね、新しい誤解が生まれちゃうじゃないのよ。

 結局、ナターシャの誤解を解いて理解してもらうのに20分ほどの時間を要したのよ。
「誤解でよかったです。安心して一族の者たちに話が出来ますわ。」
「ウン、私も理解してもらえてよかったよ。」
 かなり打ち解けた感じで笑顔を向けてくれるナターシャに、私も頷く。
「主様のご命令には逆らえませんが、やはりご奉仕となると、その……。でも強要ではないと聞いて一安心です。」
 少し頬を染めながら、笑顔でそう言うナターシャから私は視線を逸らす。
「えっと、ナターシャ、その事なんだけどね……。」
 そんな私の様子を見て、ミュウが困ったようにナターシャに話しかける。
「はい?」
「えっとね、夜のご奉仕とかそう言うのじゃないんだけど……何と言っていいか……。」
 言い淀むミュウの顔を不思議そうに見つめるナターシャ。

「……まぁ、実際に体験してもらうのが早いか。」
 ミュウはどこか諦めたような口調でそう言うと、ナターシャを手招きする。
「取りあえずね、ここに座って。」
 ナターシャはミュウに言われるがまま、私の前に腰を下ろす。
「ミュウ、いいの?」
 私は一応確認をする。
「やり過ぎないようにね。」
「ウン、分かってる。」
「あの、何が……ひゃんっ。」
 ミュウの許可を得た私は、目の前のナターシャを抱き寄せ、その丸い耳を優しく撫でる。
「えっと、ミカゲ様?ミュウ様?」
 説明を求める様に視線を動かすナターシャだけど、ミュウは視線を逸らし、私は返事の代わりに、その耳を軽く甘噛みする。
「ひゃんっ!そ、それ、だ、ダメですぅ……。」
 はむはむと甘噛みを続けていると、腕の中のナターシャの身体から力が抜けていく。

 私は、甘噛みを続けながら、もう片方の耳を優しくモフりつつ、右手をお尻の付け根にある丸い尻尾の方へ移動させる。
 ほわっ……。
 すごくやわらかい毛並み……私は先から付け根に向かって逆撫でしてみる。
「ぁん……だ、ダメですぅ……。」
 さわさわさわ……。
「そ、そこは……。」
 付け根が弱点みたいで、ナターシャは無意識に腰を浮かすが、私はそれを許さず、更に撫で回す。
「だ、ダメですってば……ひゃんっ!」 
  甘噛みしている耳を少し強く噛んでみると、ナターシャの背筋がピンっとのけぞる。
 その背中を尻尾の付け根からツツーっと逆撫でしていく。
「ぁん……も、もぅ、だ、ダメぇ……。」
 ナターシャの身体から力が抜ける。
「可愛いね。」
 私はさらにナターシャの毛並みを堪能していく。
「……も、もう、ダメぇ……しゅ、しゅご…………。」
 ナターシャは完全に身体を私に預けて為すがままになっている。
 はぁ、ココでモフれるなんて思ってなかったから、サイコー。
 ネコミミもいいけど、クマ耳やタヌキ耳も甘噛みしやすくていいねぇ。
 それに、この尻尾の毛並みの気持ちよさと言ったら……このフワフワ癖になりそうよ。

「ねぇ、ミュウ、お持ち帰りしていい?」
「ダメ!」
「けちぃ。」
「ケチじゃないの。そろそろ離してあげなさい。」
「えぇー、もう?」
「一応、今は仕事中って事忘れてるでしょ?」
「はぁーい。」
 ミュウに言われて、しぶしぶとナターシャを解放する。
 ナターシャの眼は蕩けていて焦点が合ってなかったけど、ミュウが気付けを飲ましてしばらくすると、瞳に輝きが戻ってきた。

「まぁ、極偶にだけど、ミカゲがこのように暴走する事があるからね。そのこと言い含めて、決して無理強いしないようにね。」
 ミュウが、労わる様にそう告げると、ナターシャは小さく頷く。
「ハイ……あの……、いえ、ありがとうございました。」
 ナターシャはそれだけを言うと、部屋から出て行った。

「はぁ……まぁ仕方ないけど、ヘンな噂が広がるよりマシでしょ。」
 ミュウは疲れたように大きなため息を吐く。
「根も葉もない噂を流すのは誰なんだろうね?見つけたら怖い目にあわせようね。」
「……あながち間違ってないのが困るんだけどね。」
「ん?何か言った?」
 ミュウが何か呟いたようだけど、声が小さくて聞こえなかった。
「何でもない、さぁ、仕事続けるよ。今日は後3人と会う約束があるからね。」
「はぁーい。」

 結局、このあと数日は、この様な感じで、私はミュウの監視下でお仕事・・・をしながら過ごしたのだった。
 
 ちなみに、ナターシャさんと会った翌日に、彼女はメイドとして屋敷にやってきた事を付け加えておくね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき
ファンタジー
冴えない高校生女子、きら星はづき(配信ネーム)。 彼女は陰キャな自分を変えるため、今巷で話題のダンジョン配信をしようと思い立つ。 初配信の同接はわずか3人。 しかしその配信でゴボウを使ってゴブリンを撃退した切り抜き動画が作られ、はづきはSNSのトレンドに。 はづきのチャンネルの登録者数は増え、有名冒険配信会社の所属配信者と偶然コラボしたことで、さらにはづきの名前は知れ渡る。 ついには超有名配信者に言及されるほどにまで名前が広がるが、そこから逆恨みした超有名配信者のガチ恋勢により、あわやダンジョン内でアカウントBANに。 だが、そこから華麗に復活した姿が、今までで最高のバズりを引き起こす。 増え続ける登録者数と、留まる事を知らない同接の増加。 ついには、親しくなった有名会社の配信者の本格デビュー配信に呼ばれ、正式にコラボ。 トップ配信者への道をひた走ることになってしまったはづき。 そこへ、おバカな迷惑系アワチューバーが引き起こしたモンスタースタンピード、『ダンジョンハザード』がおそいかかり……。 これまで培ったコネと、大量の同接の力ではづきはこれを鎮圧することになる。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はランカ。 女の子と言われてしまう程可愛い少年。 アルステードオンラインというVRゲームにはまってラストダンジョンをクリア。 仲間たちはみんな現実世界に帰るけれど、僕は嫌いな現実には帰りたくなかった。 そんな時、アルステードオンラインの神、アルステードが僕の前に現れた 願っても叶わない異世界転移をすることになるとは思わなかったな~

処理中です...