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第二章 勇者のスローライフ??
セルアン族、反乱!?
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「えっと、これはどういう事なのかな?」
私は、鉱山から出て来た私達を取り囲むセルアン族を睨みつける。
私の気迫に押されて、取り囲んでいる獣人たちは一歩後ずさる。
そのまま一歩進むと、ジリッと、一歩後ずさる獣人たち。
周りを見回す……リカルドたちの姿は見えないが、見知った顔がちらほらと見える。
「リカルドは?フォクシーさんは?事と次第によっては、許さないよ?」
私の言葉に、何人かの獣人がビクッと身体を震わす……が、包囲を解く気はないらしい。
「お前らッ!何をやっているっ!」
奥から怒声が響く。
どうやら話が分かる人が来たらしい。
……そう思ったんだけどね、それは早計だったみたい。
「その盗人どもをサッサと捕らえぬかっ!」
奥から出て来たのは、若いセルアン族だった。
見た目からするとリカントベア族かな?
「盗人ってどういう意味よっ!大体あんた誰よ?」
ミュウがその男に向かって問いただす。
その手にはすでに双剣が握られていて、いつでも戦闘に入れる体勢になっている。
「フンッ!下賤な人族に尻尾を振る様な恥知らずが。だが、まぁいい、特別に教えてやろう。俺はリカントベアのバークレイ。セルアン族を統べる者だ。」
その後も朗々と、自己自慢を始めるバークレイだったが、私はその半分も聞いてなかった……というより、クーちゃんによって行動を阻害されているのよ。
あのバカがミュウをバカにした時点で、私はこの周り一帯をに魔力をぶつけようとしたんだけどね、クーちゃんが背後からギュッと抱き着いてくるのよ。
(ミカ姉、ダメッ!ミュウお姉ちゃんに任せて!)
(……うぅ、クーちゃんがそう言うなら我慢するよ……でも、アイツは後で絶対泣かすからね。)
私とクーちゃんが小声でそんな事を話している間にも、バカが何か話していている。
ミュウが相手を挑発しながら、上手く話を聞きだしている。
それによると、どうやらこのバカが「勘違いした若いモノ」らしく、遺跡から追い出されたあと、自分ではない別の人物が「選ばれしもの」として鉱山に向かったという事を聞かされたらしい。
詳しく聞くと、鉱山に向かったのは、自分より遥かに劣る人族との事。
さらに言えば、その人族は鉱山に行く直前まで同胞を監禁して辱めていたという。
そんな奴らにセルアン族の未来を任せられるか!と憤ったバークレイは、志を同じくする村の若い者たちを集め、リカルドをはじめとする一族の長達に直談判に行ったか聞き入れてもらえなかったので、武力行使に出て長達を捕え、鉱山から戻る私達を待ちう構えていた、との事だった。
「そういう事だから、大人しく捕まってもらおうか。」
「だってさ、どうする?」
余裕の表情でそう告げるバークレイに、ミュウは呆れた視線を向けた後、こっちを向いて訊ねてくる。
「どうするって言われてもねぇ、可愛い女の子のお願いならともかく、大人しく捕まってあげる理由ってないよね?」
私はそう言いながら手にしていた小さな球を空へ放り投げる。
なんだ?なんだ?と、私達以外の皆の視線がその投げられた物を追う。
その球体が一番高く上がった時点で、パァーンッ!とまばゆい光を発して弾ける。
「ぐわっ!」
「眼がっ、目がぁぁぁ……。」
「ぐをぉぉぉ……。」
「眩しいっ!」
閃光弾の輝きを直接見たセルアン族たちは、目を押さえながら転げまわる。
私達は、その隙をついて、その場から逃げ出した。
◇
「全く持って失礼しちゃうよね?誰が盗人なのよ。バカかアンタは!っていってやりたかったのにぃ。」
実際、私は逃げる際に、あのバカを殴ろうとしたんだけど、ミュウに止められ、マリアちゃんに引きずられる様にしてここまで逃げて来たのよ。
ここは鉱山の裏手にある深い森の中の更に奥まった所にある洞窟。
森の中と洞窟付近に認識疎外の結界を張っておいたから、しばらくはゆっくり出来る筈……と言っても、森もセルアン族の縄張りだから、見つかるのは時間の問題かもしれないけどね。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいな。……はい、出来ましたよ。」
マリアちゃんがニコニコしながらお椀を差し出してくる。
中には待望の「お米」が入っている。
私はそれを受け取り、早速口にする。
お粥……というかリゾット風に仕上げられたそれは、日本の白米で作るほど洗練された物ではなかったが、確かにお米だった。
「おぃしぃ……。」
不覚にも涙が出そうになる。
「えっと、その……お口にあいませんでしたか?一応教えてもらった通りに作ってみたのですが……。」
マリアちゃんが私の頬を伝わる涙を見てオロオロし出す。
「ミカ姉……。」
クーちゃんも心配そうに声をかけてくる。
「あ、ゴメンね。とっても美味しかったからつい……。」
私は涙を拭って、マリアちゃんにニッコリと笑いかける。
「それならよろしいのですが……。」
ホッとしたように、胸をなでおろすマリアちゃん。
「ミカ姉が泣くほど美味しい料理……ごくっ……。」
クーちゃんが、恐る恐るお鍋の中身を救い上げ、口にしようとしているけど……懐かしくてついほろっと来たけど、味は普通だからね?
◇
「お待たせー。」
私達が食事をしているとミュウが戻ってくる。
「あ、ミュウおかえりー、どうだった?」
「ウン、周り囲まれてるねぇ……って、クーはどうしたの?」
「これが、泣くほどおいしい?……これが美味しい、コレが美味しい……。」
鍋の前で蹲って、何やらブツブツ言っているクーを見て、ミュウがコッソリと聞いてくる。
「アハッ、あはは……そっとしておいてあげて。」
「あ、うん、問題ないならいいけど……。」
「それで、どんな感じなんでしょうか?」
マリアちゃんが、ミュウの前にリゾットを置きながら聞く。
「それがね……ん?いつものと少し食感が違うね?」
「えぇ、この間ミカゲさんが購入した「お米」を使ってますの。何でも、この料理は本来「お米」を使うものなんだそうですの。」
「そうなんだぁ。ま、でもこれはこれで美味しいわね。」
「美味しい……おいしい……オイシイ……。」
……なんかクーちゃんが闇落ちしてるみたいなんだけど、大丈夫かなぁ?
「それで外の様子はどうなんですの?」
「ウン、森の中にいるところまでは突き止められたみたいだけどね、そこから先は分からないみたいで右往左往してるわよ。」
「リカルドやフォクシーさん達は?」
「ウン、村長の家に軟禁されているみたいよ。警備は厚いからそう簡単に近付けそうにないわね。」
ミュウの言葉に、皆が考え込む。
「ねぇ、もう面倒だから帰っちゃおうっか?遺跡のターミナル使えば、一瞬だよね?」
私がそう言うと、ミュウが呆れた顔でこっちを見る。
「アンタねぇ、放っておいたら、あの遺跡が証拠隠滅の為に、この辺り一帯含めて消滅するんだよ?それでもいいの?」
「だってぇ……面倒なんだもん。それに、この辺一帯だけなんでしょ?一応警告だけ出しておけば、後は私達に責任ないよね?」
「ハァ……ミカゲさん、それは流石に……。」
マリアちゃんも困った顔をしていた。
「えっ、なんで?だって、邪魔してるのあのバカたちだよね?言わば自業自得だよね?……えっ?私が悪いの?」
三人の視線が冷たい……私が悪いの?
「あのぉ、ミカ姉?この辺り一帯っていうとアスカの街も吹き飛ぶんだよ?いいの?」
「だから、街のみんなには警告して、後どうするかまでは責任持てないよ?」
私がそう言うと、クーちゃんが、ハァ……と大きな溜息を吐く。
「えっと、ミカ姉は分かってないようだけど、アスカの街が吹き飛んだら、あの「お米」って、手に入らなくなるんじゃないの?」
「ハッ!」
クーちゃんに言われて気づく。
確かに、ここが吹き飛ぶって事はアスカの街も被害にあうわけで……北アセリアに行けば手に入るって言ってたけど、遺跡がなくなったらまた、延々とここまで旅しなければいけなくて……。
「ミュウ、マリアちゃん、クーちゃん、何してるの!?さっさと行くわよ!」
いきなり立ち上がったあたしを見て、戸惑う三人。
「行くって?」
「決まってるじゃない。バカを吹っ飛ばして、セルアン族を服従させるのよ!」
困ったように聞いてくるミュウにキッパリと告げる。
「ミカ姉、落ち着いて。それが大変そうだからどうしようって話をしてたんだよね?」
「そうですよー。まずはこの包囲をどう抜けるか考えないと。」
今すぐ飛び出していくつもりだった私を、クーちゃんとマリアちゃんが押しとどめる。
「大丈夫よ。集落の真ん中に『隕石衝突』を2~3発堕として、生き残った人たちを集めて服従させるだけの簡単なお仕事だよね?」
「ちょっと違うよぉ~。ミュウお姉ちゃんも笑ってないで止めてぇー。」
私の案が速攻で却下される……いいアイディアだと思うんだけどなぁ……。
結局、三人からの猛反対により、もう少し大人しい作戦がとられる事になった。
「……で、コレが大人しい作戦ねぇ。」
ミュウが眼前の光景を見ながら呆れたように言う。
「大人しいよね?」
私は横で固まっているクーちゃんに声をかける。
「う……うん……。確かにメテオよりは……。」
「私としては、もう少し派手でもいいと思いますけどねぇ。」
「充分派手だよぉ!」
クーちゃんは、目の前のアイアンゴーレムを指さしながら叫ぶ。
この作戦は、鉱山で手に入れたゴーレムに集落を制圧してもらうという、単に魔力を注ぐだけの超簡単なお仕事だったりする。
私達がそんな話をしている間にも、ゴーレム達は迎え撃つセルアン族を蹂躙・制圧していく。
30分後……。
「くそっ!悪魔の手先めっ!」
集落の広場には主だったセルアン族たちが集められていた。
中央には、クーデターを起こしたバークレイが、アイアンゴーレムに踏みつけられて身動きが取れなくなっている。
「まぁ……、その……、なんだ……、助けてもらって感謝する……感謝するのだが……。」
その横には、リカルド達、捕らわれていた長達が気まずそうな顔で並んでいる。
長老たちの目の前には、死屍累々と横たわるセルアン族の戦士たちの姿と、それを取り囲むかのように立ち並ぶアイアンゴーレム達。
どちらかというと物理攻撃に特化したセルアン族の戦士たちでは、数体ならともかく数十体のアイアンゴーレムに敵う筈も無く、この様な結果になるのも当然の事と言える。
「あ、時間がないから、文句は受け付けないわよ。それより、あなた達「忠誠の儀」のこと知ってる?」
ミュウが唖然としているリカルドたちに声をかける。
「忠誠の儀、だと?しかし、アレは……。」
「アンタらの事情はどうでもいいけど、忠誠の儀を行わないと、この辺り一帯消滅するからね。」
「どういう事なんだ?」
ミュウにリカルドが詰め寄る。
「ミュウに近付き過ぎよ!」
私の放つソル・レイがリカルドの鼻先をかすめる。
「うっ、す、スマン……。しかし、どういう事なんだ。」
狼狽えるリカルドにミュウが説明を始める。
「……という事で、ミカゲをマスターとして認める「忠誠の儀」を行わないと、遺跡が消滅するのよ。その際、ここを中心に半径3㎞は何も残らない更地になるそうよ。」
「そ、そんな、いきなり言われても……「忠誠の儀」は準備に1週間はかかるぞ。」
「そうなの?……じゃぁ、お米は諦めて、逃げるしかないかぁ。」
ちょっと勿体けど、仕方がないよね?
「じゃぁ、そう言う事で……ミュウ、クーちゃん、マリアちゃん、帰ろ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれっ。」
帰りかけた私を、長老たちが止める。
「何か助かる方法はないのか?」
「そんなの私が知りたいよ。忠誠の儀が出来ないなら、あなた達も逃げた方がいいよ?」
「逃げろと言われても……。」
長老が、周りを取り囲むアイアンゴーレム達に眼をやる。
「簡略した儀式がありますよ。」
突然背後から声がかかる。
「ニコちゃん!」
いつの間にか、ニコちゃんが近くに来ていた。
「なんで?」
「えぇ、タイムリミットが近づいていますので様子見に。」
「後どれくらい?」
「そうですね……あと65分という所でしょうか。」
「そうなんだ……あまり時間残ってないねぇ。……ミュウ、クーちゃん、マリアちゃん急ごっか。」
「それはいいけど……簡略化した儀式って?」
ミュウがそう言うと、セルアン族の長達は目を逸らす。
それを見た私は、ミュウに声をかける。
「知ってるっぽいけど、やりたくなさそうよ?だから放って置きましょ。」
それより撤退の準備を、とミュウを急かす。
転移して遮断するのに10分かかるとして、アスカの街への避難勧告とか、遺跡に戻って、必要なものを勇者の袋に詰め込みつつ、ニコちゃんからできる限りの情報を引き出して、とやっていると、はっきり言って時間が足りない。
「でも、ミカ姉……。」
クーちゃんも心配そうに声をかけてくる。
「クーちゃん、相手が嫌だと言ってるのに無理強いは良くないよ。」
私がそう言うと、セルアン族は益々気まずそうな顔をする。
「クミンさん、ミカゲさんの言う通りです。彼らはミカゲさんをマスターと認めるより、罪のない人族の街を巻き込んでの一族の滅亡を選んだのです。私達に出来る事は、彼らのエゴに付き合わされるアスカの人達に避難を呼びかける事だけです。時間はあまり残ってませんよ?」
「そう……だよね……。」
マリアちゃんの言葉に、クーちゃんが諦めたように頷く。
ミュウも、何か言いたげではあったが、セルアン族を一瞥した後、くるりと背を向けて、鉱山に向けて歩き出す。
「じゃぁ、マリアちゃんとクーちゃんにアスカの街は任せるね。遅くても30分後には戻ってくるんだよ。」
私は二人にそう告げると、ミュウの後を追いかける。
その後に続くニコちゃん。
「待て……いや、待ってください。」
背後から声がかけられる。
振り向くと、リカルド他セルアン族の長達が頭を下げていた。
「10分後、儀式を始めたいので、それまで待っていただけないか?」
「……5分よ。それ以上は待てないわ。」
私はリカルドたちにそう告げる。
「分かりました……おい、お前ら集落の者全てをここへ集めるんだ!」
リカルドの指示を受けて、その場にいた若者たちが集落内へ散っていく。
私達は、その様子を黙って眺めていた。
5分後、広場には集落全てのセルアン族が集まっていた。
私達は彼らの前に急遽誂えた、高台に立っていてその様子を見下ろしている。
スターファング、フォレックス、リカントベア―、ディアーラント、マモラ―等、私が見た事もない種族も混じっている。
その眺めは、壮観の一言につきた。
「我らは今、新しき指導者をえた!これより「忠誠の儀」を行う。各代表は前へ!」
リカルドの言葉を受け、各種族の前に、代表と思しき人々が並び立つ。
「我らが新しきマスターよ!証しを掲げてくだされ!」
私は勇者の袋から、レフィーアから預かった宝玉を取りだし、皆に見える様に掲げる。
『我らセルアン族一同、種族の誇りにかけて、新しきマスター、ミカゲ様に忠誠を誓うものなり!』
その場にいた全員が誓いの言葉を口にし、そして………。
(……えっと、どうすればいいのかな?)
目の前に繰り広げられた光景に、思わずミュウを見る。
(そんなの知らないわよ、バカッ。)
いきなり振られたミュウも戸惑っている。
それも仕方がない……だってね、セルアン族のみんな、その場で仰向けになってお腹を見せてるのよ。
これどうすればいいのよ?
(皆の忠誠を、マスターの名において受け取った、という事を宣言すればいいのですよ。マスターが宣言するまで、彼らはあのままです……それはそれで面白いですが。)
ニコちゃんがそう教えてくれるけど……彼女の表情が愉悦に歪むのを見逃さなかったよ。
「はぁ……仕方がないか。……『セルアン族の忠誠、確かに受け取った。ミカゲの名において、セルアン族を我が配下として受け入れよう!』……こんな感じでいいのかな?」
私が戸惑いながらも宣言すると、手の中の宝玉が光り出し、その光が溢れてその場を包み込んでいく。
『……チェックOK……認証、確認……ユニット……セルアン族……マスター権限譲渡……制御……OK……。』
眩い光に包まれている中、背後に立つニコちゃんの呟きだけが聞こえてくる、
『……認証OK……ミストレス・ミカゲ……登録……AllGreen……。』
光が段々と薄れていき、周りの様子が分かる様になってくる。
セルアン族の皆は、何があったのかと、お互いの顔を見て呆然としている。
『……Systemアップデート完了!これよりセルアンフィールドはミストレスミカゲの指揮下に入ります。』
そんな言葉が聞こえたかと思うと、ニコちゃんが一歩前に進み出る。
『ガーディアン・セルアン!只今をもって全ての権限はミストレスミカゲへと移行した。よって、其方らの任はこれにて終了となる。今後は、新しきマスターの指導の下大いに栄えよ!』
ニコちゃんの宣言が下りると、セルアン族は一斉に跪き首を垂れる。
それを見てニコちゃんは「自分の役目は終わった」とばかりに後ろへ下がり、鉱山に向けて歩き出す。
「ちょっと、ニコちゃん?」
「私は戻ります。マスターも早めにお戻りになられて、その宝玉をSystemにセットしてくださいね。」
そう言ってニコちゃんは、スタスタと去って行った。
「えっと、どうしよっか?」
私はミュウを見る。
「知らないわよっ。でも、取りあえずアンタが何か声をかけてあげないと、あの人たちずっとあのままだよ?」
ミュウはそう言って、未だ首を垂れたままのセルアン族を指さす。
「アハッ……そうだよねぇ……。」
私が皆に楽にするようにと、これからよろしくね、と声をかけた後は、集落あげてのお祭り騒ぎとなった。
当然、新しき指導者という事で私も巻き込まれ、ようやく一息つけるようになったのは、翌日の朝になってからだった。
私は、鉱山から出て来た私達を取り囲むセルアン族を睨みつける。
私の気迫に押されて、取り囲んでいる獣人たちは一歩後ずさる。
そのまま一歩進むと、ジリッと、一歩後ずさる獣人たち。
周りを見回す……リカルドたちの姿は見えないが、見知った顔がちらほらと見える。
「リカルドは?フォクシーさんは?事と次第によっては、許さないよ?」
私の言葉に、何人かの獣人がビクッと身体を震わす……が、包囲を解く気はないらしい。
「お前らッ!何をやっているっ!」
奥から怒声が響く。
どうやら話が分かる人が来たらしい。
……そう思ったんだけどね、それは早計だったみたい。
「その盗人どもをサッサと捕らえぬかっ!」
奥から出て来たのは、若いセルアン族だった。
見た目からするとリカントベア族かな?
「盗人ってどういう意味よっ!大体あんた誰よ?」
ミュウがその男に向かって問いただす。
その手にはすでに双剣が握られていて、いつでも戦闘に入れる体勢になっている。
「フンッ!下賤な人族に尻尾を振る様な恥知らずが。だが、まぁいい、特別に教えてやろう。俺はリカントベアのバークレイ。セルアン族を統べる者だ。」
その後も朗々と、自己自慢を始めるバークレイだったが、私はその半分も聞いてなかった……というより、クーちゃんによって行動を阻害されているのよ。
あのバカがミュウをバカにした時点で、私はこの周り一帯をに魔力をぶつけようとしたんだけどね、クーちゃんが背後からギュッと抱き着いてくるのよ。
(ミカ姉、ダメッ!ミュウお姉ちゃんに任せて!)
(……うぅ、クーちゃんがそう言うなら我慢するよ……でも、アイツは後で絶対泣かすからね。)
私とクーちゃんが小声でそんな事を話している間にも、バカが何か話していている。
ミュウが相手を挑発しながら、上手く話を聞きだしている。
それによると、どうやらこのバカが「勘違いした若いモノ」らしく、遺跡から追い出されたあと、自分ではない別の人物が「選ばれしもの」として鉱山に向かったという事を聞かされたらしい。
詳しく聞くと、鉱山に向かったのは、自分より遥かに劣る人族との事。
さらに言えば、その人族は鉱山に行く直前まで同胞を監禁して辱めていたという。
そんな奴らにセルアン族の未来を任せられるか!と憤ったバークレイは、志を同じくする村の若い者たちを集め、リカルドをはじめとする一族の長達に直談判に行ったか聞き入れてもらえなかったので、武力行使に出て長達を捕え、鉱山から戻る私達を待ちう構えていた、との事だった。
「そういう事だから、大人しく捕まってもらおうか。」
「だってさ、どうする?」
余裕の表情でそう告げるバークレイに、ミュウは呆れた視線を向けた後、こっちを向いて訊ねてくる。
「どうするって言われてもねぇ、可愛い女の子のお願いならともかく、大人しく捕まってあげる理由ってないよね?」
私はそう言いながら手にしていた小さな球を空へ放り投げる。
なんだ?なんだ?と、私達以外の皆の視線がその投げられた物を追う。
その球体が一番高く上がった時点で、パァーンッ!とまばゆい光を発して弾ける。
「ぐわっ!」
「眼がっ、目がぁぁぁ……。」
「ぐをぉぉぉ……。」
「眩しいっ!」
閃光弾の輝きを直接見たセルアン族たちは、目を押さえながら転げまわる。
私達は、その隙をついて、その場から逃げ出した。
◇
「全く持って失礼しちゃうよね?誰が盗人なのよ。バカかアンタは!っていってやりたかったのにぃ。」
実際、私は逃げる際に、あのバカを殴ろうとしたんだけど、ミュウに止められ、マリアちゃんに引きずられる様にしてここまで逃げて来たのよ。
ここは鉱山の裏手にある深い森の中の更に奥まった所にある洞窟。
森の中と洞窟付近に認識疎外の結界を張っておいたから、しばらくはゆっくり出来る筈……と言っても、森もセルアン族の縄張りだから、見つかるのは時間の問題かもしれないけどね。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいな。……はい、出来ましたよ。」
マリアちゃんがニコニコしながらお椀を差し出してくる。
中には待望の「お米」が入っている。
私はそれを受け取り、早速口にする。
お粥……というかリゾット風に仕上げられたそれは、日本の白米で作るほど洗練された物ではなかったが、確かにお米だった。
「おぃしぃ……。」
不覚にも涙が出そうになる。
「えっと、その……お口にあいませんでしたか?一応教えてもらった通りに作ってみたのですが……。」
マリアちゃんが私の頬を伝わる涙を見てオロオロし出す。
「ミカ姉……。」
クーちゃんも心配そうに声をかけてくる。
「あ、ゴメンね。とっても美味しかったからつい……。」
私は涙を拭って、マリアちゃんにニッコリと笑いかける。
「それならよろしいのですが……。」
ホッとしたように、胸をなでおろすマリアちゃん。
「ミカ姉が泣くほど美味しい料理……ごくっ……。」
クーちゃんが、恐る恐るお鍋の中身を救い上げ、口にしようとしているけど……懐かしくてついほろっと来たけど、味は普通だからね?
◇
「お待たせー。」
私達が食事をしているとミュウが戻ってくる。
「あ、ミュウおかえりー、どうだった?」
「ウン、周り囲まれてるねぇ……って、クーはどうしたの?」
「これが、泣くほどおいしい?……これが美味しい、コレが美味しい……。」
鍋の前で蹲って、何やらブツブツ言っているクーを見て、ミュウがコッソリと聞いてくる。
「アハッ、あはは……そっとしておいてあげて。」
「あ、うん、問題ないならいいけど……。」
「それで、どんな感じなんでしょうか?」
マリアちゃんが、ミュウの前にリゾットを置きながら聞く。
「それがね……ん?いつものと少し食感が違うね?」
「えぇ、この間ミカゲさんが購入した「お米」を使ってますの。何でも、この料理は本来「お米」を使うものなんだそうですの。」
「そうなんだぁ。ま、でもこれはこれで美味しいわね。」
「美味しい……おいしい……オイシイ……。」
……なんかクーちゃんが闇落ちしてるみたいなんだけど、大丈夫かなぁ?
「それで外の様子はどうなんですの?」
「ウン、森の中にいるところまでは突き止められたみたいだけどね、そこから先は分からないみたいで右往左往してるわよ。」
「リカルドやフォクシーさん達は?」
「ウン、村長の家に軟禁されているみたいよ。警備は厚いからそう簡単に近付けそうにないわね。」
ミュウの言葉に、皆が考え込む。
「ねぇ、もう面倒だから帰っちゃおうっか?遺跡のターミナル使えば、一瞬だよね?」
私がそう言うと、ミュウが呆れた顔でこっちを見る。
「アンタねぇ、放っておいたら、あの遺跡が証拠隠滅の為に、この辺り一帯含めて消滅するんだよ?それでもいいの?」
「だってぇ……面倒なんだもん。それに、この辺一帯だけなんでしょ?一応警告だけ出しておけば、後は私達に責任ないよね?」
「ハァ……ミカゲさん、それは流石に……。」
マリアちゃんも困った顔をしていた。
「えっ、なんで?だって、邪魔してるのあのバカたちだよね?言わば自業自得だよね?……えっ?私が悪いの?」
三人の視線が冷たい……私が悪いの?
「あのぉ、ミカ姉?この辺り一帯っていうとアスカの街も吹き飛ぶんだよ?いいの?」
「だから、街のみんなには警告して、後どうするかまでは責任持てないよ?」
私がそう言うと、クーちゃんが、ハァ……と大きな溜息を吐く。
「えっと、ミカ姉は分かってないようだけど、アスカの街が吹き飛んだら、あの「お米」って、手に入らなくなるんじゃないの?」
「ハッ!」
クーちゃんに言われて気づく。
確かに、ここが吹き飛ぶって事はアスカの街も被害にあうわけで……北アセリアに行けば手に入るって言ってたけど、遺跡がなくなったらまた、延々とここまで旅しなければいけなくて……。
「ミュウ、マリアちゃん、クーちゃん、何してるの!?さっさと行くわよ!」
いきなり立ち上がったあたしを見て、戸惑う三人。
「行くって?」
「決まってるじゃない。バカを吹っ飛ばして、セルアン族を服従させるのよ!」
困ったように聞いてくるミュウにキッパリと告げる。
「ミカ姉、落ち着いて。それが大変そうだからどうしようって話をしてたんだよね?」
「そうですよー。まずはこの包囲をどう抜けるか考えないと。」
今すぐ飛び出していくつもりだった私を、クーちゃんとマリアちゃんが押しとどめる。
「大丈夫よ。集落の真ん中に『隕石衝突』を2~3発堕として、生き残った人たちを集めて服従させるだけの簡単なお仕事だよね?」
「ちょっと違うよぉ~。ミュウお姉ちゃんも笑ってないで止めてぇー。」
私の案が速攻で却下される……いいアイディアだと思うんだけどなぁ……。
結局、三人からの猛反対により、もう少し大人しい作戦がとられる事になった。
「……で、コレが大人しい作戦ねぇ。」
ミュウが眼前の光景を見ながら呆れたように言う。
「大人しいよね?」
私は横で固まっているクーちゃんに声をかける。
「う……うん……。確かにメテオよりは……。」
「私としては、もう少し派手でもいいと思いますけどねぇ。」
「充分派手だよぉ!」
クーちゃんは、目の前のアイアンゴーレムを指さしながら叫ぶ。
この作戦は、鉱山で手に入れたゴーレムに集落を制圧してもらうという、単に魔力を注ぐだけの超簡単なお仕事だったりする。
私達がそんな話をしている間にも、ゴーレム達は迎え撃つセルアン族を蹂躙・制圧していく。
30分後……。
「くそっ!悪魔の手先めっ!」
集落の広場には主だったセルアン族たちが集められていた。
中央には、クーデターを起こしたバークレイが、アイアンゴーレムに踏みつけられて身動きが取れなくなっている。
「まぁ……、その……、なんだ……、助けてもらって感謝する……感謝するのだが……。」
その横には、リカルド達、捕らわれていた長達が気まずそうな顔で並んでいる。
長老たちの目の前には、死屍累々と横たわるセルアン族の戦士たちの姿と、それを取り囲むかのように立ち並ぶアイアンゴーレム達。
どちらかというと物理攻撃に特化したセルアン族の戦士たちでは、数体ならともかく数十体のアイアンゴーレムに敵う筈も無く、この様な結果になるのも当然の事と言える。
「あ、時間がないから、文句は受け付けないわよ。それより、あなた達「忠誠の儀」のこと知ってる?」
ミュウが唖然としているリカルドたちに声をかける。
「忠誠の儀、だと?しかし、アレは……。」
「アンタらの事情はどうでもいいけど、忠誠の儀を行わないと、この辺り一帯消滅するからね。」
「どういう事なんだ?」
ミュウにリカルドが詰め寄る。
「ミュウに近付き過ぎよ!」
私の放つソル・レイがリカルドの鼻先をかすめる。
「うっ、す、スマン……。しかし、どういう事なんだ。」
狼狽えるリカルドにミュウが説明を始める。
「……という事で、ミカゲをマスターとして認める「忠誠の儀」を行わないと、遺跡が消滅するのよ。その際、ここを中心に半径3㎞は何も残らない更地になるそうよ。」
「そ、そんな、いきなり言われても……「忠誠の儀」は準備に1週間はかかるぞ。」
「そうなの?……じゃぁ、お米は諦めて、逃げるしかないかぁ。」
ちょっと勿体けど、仕方がないよね?
「じゃぁ、そう言う事で……ミュウ、クーちゃん、マリアちゃん、帰ろ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれっ。」
帰りかけた私を、長老たちが止める。
「何か助かる方法はないのか?」
「そんなの私が知りたいよ。忠誠の儀が出来ないなら、あなた達も逃げた方がいいよ?」
「逃げろと言われても……。」
長老が、周りを取り囲むアイアンゴーレム達に眼をやる。
「簡略した儀式がありますよ。」
突然背後から声がかかる。
「ニコちゃん!」
いつの間にか、ニコちゃんが近くに来ていた。
「なんで?」
「えぇ、タイムリミットが近づいていますので様子見に。」
「後どれくらい?」
「そうですね……あと65分という所でしょうか。」
「そうなんだ……あまり時間残ってないねぇ。……ミュウ、クーちゃん、マリアちゃん急ごっか。」
「それはいいけど……簡略化した儀式って?」
ミュウがそう言うと、セルアン族の長達は目を逸らす。
それを見た私は、ミュウに声をかける。
「知ってるっぽいけど、やりたくなさそうよ?だから放って置きましょ。」
それより撤退の準備を、とミュウを急かす。
転移して遮断するのに10分かかるとして、アスカの街への避難勧告とか、遺跡に戻って、必要なものを勇者の袋に詰め込みつつ、ニコちゃんからできる限りの情報を引き出して、とやっていると、はっきり言って時間が足りない。
「でも、ミカ姉……。」
クーちゃんも心配そうに声をかけてくる。
「クーちゃん、相手が嫌だと言ってるのに無理強いは良くないよ。」
私がそう言うと、セルアン族は益々気まずそうな顔をする。
「クミンさん、ミカゲさんの言う通りです。彼らはミカゲさんをマスターと認めるより、罪のない人族の街を巻き込んでの一族の滅亡を選んだのです。私達に出来る事は、彼らのエゴに付き合わされるアスカの人達に避難を呼びかける事だけです。時間はあまり残ってませんよ?」
「そう……だよね……。」
マリアちゃんの言葉に、クーちゃんが諦めたように頷く。
ミュウも、何か言いたげではあったが、セルアン族を一瞥した後、くるりと背を向けて、鉱山に向けて歩き出す。
「じゃぁ、マリアちゃんとクーちゃんにアスカの街は任せるね。遅くても30分後には戻ってくるんだよ。」
私は二人にそう告げると、ミュウの後を追いかける。
その後に続くニコちゃん。
「待て……いや、待ってください。」
背後から声がかけられる。
振り向くと、リカルド他セルアン族の長達が頭を下げていた。
「10分後、儀式を始めたいので、それまで待っていただけないか?」
「……5分よ。それ以上は待てないわ。」
私はリカルドたちにそう告げる。
「分かりました……おい、お前ら集落の者全てをここへ集めるんだ!」
リカルドの指示を受けて、その場にいた若者たちが集落内へ散っていく。
私達は、その様子を黙って眺めていた。
5分後、広場には集落全てのセルアン族が集まっていた。
私達は彼らの前に急遽誂えた、高台に立っていてその様子を見下ろしている。
スターファング、フォレックス、リカントベア―、ディアーラント、マモラ―等、私が見た事もない種族も混じっている。
その眺めは、壮観の一言につきた。
「我らは今、新しき指導者をえた!これより「忠誠の儀」を行う。各代表は前へ!」
リカルドの言葉を受け、各種族の前に、代表と思しき人々が並び立つ。
「我らが新しきマスターよ!証しを掲げてくだされ!」
私は勇者の袋から、レフィーアから預かった宝玉を取りだし、皆に見える様に掲げる。
『我らセルアン族一同、種族の誇りにかけて、新しきマスター、ミカゲ様に忠誠を誓うものなり!』
その場にいた全員が誓いの言葉を口にし、そして………。
(……えっと、どうすればいいのかな?)
目の前に繰り広げられた光景に、思わずミュウを見る。
(そんなの知らないわよ、バカッ。)
いきなり振られたミュウも戸惑っている。
それも仕方がない……だってね、セルアン族のみんな、その場で仰向けになってお腹を見せてるのよ。
これどうすればいいのよ?
(皆の忠誠を、マスターの名において受け取った、という事を宣言すればいいのですよ。マスターが宣言するまで、彼らはあのままです……それはそれで面白いですが。)
ニコちゃんがそう教えてくれるけど……彼女の表情が愉悦に歪むのを見逃さなかったよ。
「はぁ……仕方がないか。……『セルアン族の忠誠、確かに受け取った。ミカゲの名において、セルアン族を我が配下として受け入れよう!』……こんな感じでいいのかな?」
私が戸惑いながらも宣言すると、手の中の宝玉が光り出し、その光が溢れてその場を包み込んでいく。
『……チェックOK……認証、確認……ユニット……セルアン族……マスター権限譲渡……制御……OK……。』
眩い光に包まれている中、背後に立つニコちゃんの呟きだけが聞こえてくる、
『……認証OK……ミストレス・ミカゲ……登録……AllGreen……。』
光が段々と薄れていき、周りの様子が分かる様になってくる。
セルアン族の皆は、何があったのかと、お互いの顔を見て呆然としている。
『……Systemアップデート完了!これよりセルアンフィールドはミストレスミカゲの指揮下に入ります。』
そんな言葉が聞こえたかと思うと、ニコちゃんが一歩前に進み出る。
『ガーディアン・セルアン!只今をもって全ての権限はミストレスミカゲへと移行した。よって、其方らの任はこれにて終了となる。今後は、新しきマスターの指導の下大いに栄えよ!』
ニコちゃんの宣言が下りると、セルアン族は一斉に跪き首を垂れる。
それを見てニコちゃんは「自分の役目は終わった」とばかりに後ろへ下がり、鉱山に向けて歩き出す。
「ちょっと、ニコちゃん?」
「私は戻ります。マスターも早めにお戻りになられて、その宝玉をSystemにセットしてくださいね。」
そう言ってニコちゃんは、スタスタと去って行った。
「えっと、どうしよっか?」
私はミュウを見る。
「知らないわよっ。でも、取りあえずアンタが何か声をかけてあげないと、あの人たちずっとあのままだよ?」
ミュウはそう言って、未だ首を垂れたままのセルアン族を指さす。
「アハッ……そうだよねぇ……。」
私が皆に楽にするようにと、これからよろしくね、と声をかけた後は、集落あげてのお祭り騒ぎとなった。
当然、新しき指導者という事で私も巻き込まれ、ようやく一息つけるようになったのは、翌日の朝になってからだった。
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