勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第二章 勇者のスローライフ??

其々の戦い ―後編ー

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「はぁ……あれ、硬すぎるにゃん。」
(クミンがまだまだだからだよ。もっと頑張って私の力を引き出してみて。)
「そんにゃこと言われてもぉ、困るにゃん……くっ……。」
 アースゴーレムの腕をエストリーファの剣で弾く。
 ゴーレムとの戦いが始まってから一刻、エストリーファの加護を受けているとはいえ、クミンはかなり披露していた。

(ミカゲが言ってたでしょ、クミンの魔力を私に纏わせるのよ。)
「……オーラブレード!」
 クミンは魔力をエストリーファに送るイメージを浮かべる……。
「にゃんっ!」
 クミンのすぐそばにアースゴーレムの腕が振り下ろされる。
「集中できにゃいにゃん。」
(もっと集中してイメージを早くまとめるの。)
「そんにゃぁ……。」

 エストリーファと会話してる間にも、アースゴーレムの猛攻は続く。
「こうにゃったら必殺技を出すにゃん!」
(そんなのあったの!?)
「ミカ姉だってイチコロの技にゃんよ。」
(何だか知らないけどやっちゃえ!)
「行くにゃんよ!」

 クミンはアースゴーレムの前に踊り出る。
 エストリーファから手を放し、両手を合わせてグッと握りしめ、顔の下まで持ってくる。
 そしてアースゴーレムを見上げながら一言。
「お願い。少しの間じっとしててにゃん。」

 一瞬、アースゴーレムの動きが止まる……が、即座に腕を振り下ろしてくる。
 クミンはエストリーファを掴むと、慌てて横に逃げる。
「にゃんでぇ、ミカ姉はあれで動かにゃくにゃったのにぃ……。」
(はぁ……クミン、最近アンタ、ミカゲ化してきてるよ?)
「ミカゲ化?」
(ポンコツになってるって事!)
「そんにゃ事にゃいにゃん!」
(ハァ、おバカな子ほど可愛いって言うけど、フォローなしはキツイわー。)
「エストリーファ、酷いにゃん!」

 疲れてると言いながらも、アースゴーレムの攻撃を躱しながらエストリーファと会話できるだけの余裕がある事に気づいてないクミンだった。

 ◇

(はぁ、バカな事やってないで、そろそろアレ倒すわよ。)
「私はいつも真面目にゃんですけど。」
(いいから……。まずは間合いをあけるわ。次の攻撃を弾くとき、その勢いを利用して、バックステップで後方へ飛び退くのよ。)
「分かったにゃん。」
 クミンは言われたとおりに後方へ飛び退く。
(休んでる暇はないわよ。右手に魔力を集中……エア・ブローを右手から私に放つようにイメージして。)
「ん……エア・ブロー!」
(今回は私がフォローするから、クミンはそのまま右手から魔力を流すことをイメージしててね。)
 クミンの右手から放たれた風の魔法が、エストリーファの刀身を覆うように渦巻いている。
(来るわよっ!先ずはあの腕をかいくぐって、左足首を狙って!)

 アースゴーレムの腕が唸りを上げてクミンに襲い掛かる。それを前方に転がることによって避けるクミン。
 そのままの勢いで、アースゴーレムに近づき、目の前にある左足首を斬り上げる。
 風を纏ったエストリーファの刀身は、その堅い筈のゴーレムの外皮を易々と斬り裂く。
(そのまま続けて!)
 クミンはエストリーファに誘導されるまま、二度三度と斬りつける。

 左足を集中的に斬られたアースゴーレムは、やがてその足で自重を支えられなくなり、バランスを崩して、倒れ込む。

(今よ!首を狙って私を突き刺すのっ!)

「分かったにゃん!」
 クミンは上空に飛び上がり、アースゴーレムの首元目掛けて飛び掛かる。
「そこにゃん!」
 クミンの持つエストリーファがアースゴーレムの首に深々と突き刺さる。
(そのまま私を離さないで。私に魔力を注いで……そう、そのまま……。)
 クミンは手に握ったエストリーファにありったけの魔力を注いでいく。
(そのまま『テンペスト』を放てる?無理そうなら『トルネード』でもいいけど?)
 『トルネード』は風の中級魔法『テンペスト』は上級魔法だ。
 普段のクミンは初級魔法しか使えないが、エストリーファの加護を受けて能力が底上げしている今なら上級魔法も可能かもしれない。

「テンペストは……ちょっと無理……にゃん。」
 クミンはそう言うと呪文を唱え始める。
「万物の根源たるマニャよ……吹き荒れし暴風とにゃりて、全てを包み吹き飛ばせ……『トルネード!』……にゃん。」
 エストリーファを通じて、アースゴーレムの体内に魔力の奔流が吹き荒れる。

「グゥ……グググ……。」
 暴れまくるアースゴーレム。
 クミンは振り落とされない様に必死にエストリーファにしがみつく。
 やがてアースゴーレムの動きは緩やかになり……動かなくなる。

(クミン、もう大丈夫よ。)
「ちょっと疲れた……にゃん。」
(私が警戒しておくから、少し休めばいいわよ。)
「うん、そうするにゃん。」
 クミンはその場に倒れ込み、意識を失う。
(眠ってる顔も可愛いわねぇ。でも、にゃんにゃん言いながら戦うクミンもいいわぁ。ミカゲに自慢しちゃおっと。)

 クミンが目を覚ましたのは、それから1刻ほど過ぎてからだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「取りあえず、分散させないと厳しいなぁ。」
ライトゴーレムの放つのフラッシュジャベリン、ウォーターゴーレムのアクアスプラッシュ、エアゴーレムのエア・カッターをそれぞれ弾きながら、間合いを取る。
「三体とも、魔法攻撃しか効かない割に総じて魔法抵抗力が高いって、どんだけよっ。」
 文句を言いながらソル・レイをエアゴーレムに向けて放つが、割り込んできたライトゴーレムに吸収される。
 そんなライトゴーレムをエア・ブラストで吹き飛ばそうとすると、今度はエアゴーレムが割込んでくる。
 だったら手数で勝負、と無数のファイアーボールを投げつけても、ウォーターゴーレムのアクアスクリーンによって阻まれる。

「くぅ……一体づつなら余裕なのにぃ……数の暴力反対~!」
 と言いながら広域魔法の「サンシャインアロー」を放つ。
 ライトゴーレムには効かないが、他の2体にはそれなりにダメージを与えている。
「この隙にっと………ふぅ。」
 片隅の岩陰に身を隠して一息つく。
 ここでしばらく休息をとりながら、戦略を練る事にしようと考えたのだ。

「まず厄介なのがライトゴーレムよね。」
 他の二つの属性より上位なせいか、魔法抵抗力が高いのだ。
 その上回復魔法も使える……そう言う厄介な敵は先に倒しておきたいところだけど、先に数を減らすことを優先した方がいいかもね。
 となると、ライトゴーレムは隔離した上で他の2体を各個撃破ってところかしら?
  MP回復ポーションを飲みながらこの先の予定を組み立てていく。



「よし、そのままよ……。」
 三体のゴーレムがこちらに向かって来るのを確認してから魔法を放つ。
「フッラッシュジャベリン!乱れ撃ちぃ!」
 隙間なく放たれる無数の巨大な光の槍が、ゴーレム達を襲う。
 ジャベリンに貫かれ動きを止めるウォーター
ゴーレムとエアゴーレム。
 しかしライトゴーレムだけは光魔法をモノともせずに単独で向かってくる。
 それは他の2体のゴーレムと連係出来なくなったことを意味する。

「ウン、やっぱゴーレムは単純でいいね……『シャドウバンカー!』
 何もない空間から現れた、巨大な黒い杭がライトゴーレムを串刺しにする。
 勿論この程度でトドメを刺せるとは思っていない。
「しばらく遊んでいてね……クレイウォール!」
 ライトゴーレムを貫いた影の杭が、形状を変えながら押さえ込もうと動き出すのを確認し、ライトゴーレムを囲うように土の壁を作り出す。
 これで暫くは時間が稼げる筈だ。

 そうこうしてる内に、2体のゴーレムが迫ってくる。
『アイシクルランス!』
 床を這うようにやってくる、アメーバみたいなウォーターゴーレムを氷の槍で、床に縫いつける。
『フリージング!』
 氷の溶けを起点に辺り一面を凍らせる。
 水属性だから大したダメージを与えられる訳ではないが、解凍するまでは動けないのは間違いない。
 しかし、コレでゴーレム達の分断に成功する。

「さてと、これで1対1よね。」
 後を追ってくるエアゴーレムと対峙する。
 エアゴーレムは、アストラル体の為一切の物理攻撃が利かない。
 しかも、風が渦巻いて、気流が動いているだけにしか見えないので、実体も掴みづらい。
 果たしてコレをゴーレムと言っていいのかどうか甚だ疑問ではある。

「見えづらくて、アストラル体だからと言って、斬れない訳じゃないのよね。……クレイウォール!」
 私の直ぐ脇から、前方へ伸びていく二つの土の壁。
 エアゴーレムの脇をすり抜け、細い通路が完成する。
 私とエアゴーレムの間を隔てる物は何もない……ただ左右に動けないだけ。
「つまり、アナタは真っ直ぐ私に向かってくるしかないわけ。そして私は……。」
 腰の剣を抜く。
 それなりの業物らしいけど、普段ほとんど使ってない剣。
 その剣に魔力を込める。
『オーラブレード!』
 剣を構えた私を見ても躊躇無く突っ込んでくるエアゴーレム。
「いっくよぉ……ミュウ直伝の奥義、『雷光旋風斬!』」
 稲妻が飛び散り、魔力で形成された刃が、エアゴーレムの身体を真っ二つに斬り裂く。
 横凪にかえす刃によって、さらに二つに……。
 四つに分かたれたエアゴーレムの身体が、私の目の前で消滅し、目の前に翡翠色の宝玉が転がる。

「これで一つ……っと急がないとね。」
 宝玉を拾い上げ、クレイウォールを解除すると、ウォーターゴーレムが凍っているところまで走っていく。

ウォーターゴーレムは、まだ凍り付いていて、身動きがとれないでいる。
「このまま砕くのもアリかなって思うんだけどね、再生されても厄介だから……消えて貰うよ。」
 私は杖を取り出し魔力を練る。
「……地獄の業火を持ってこの場の総てを焼き尽くせ!……インフェルノ!」
 炎がウォーターゴーレムに襲い掛かる。
 熱によって凍結から逃れたウォーターゴーレムだが、その身体は炎に包み込まれる。
 大量の水が溢れ出し、炎を消し押し返そうとするが、それ以上の威力で炎がウォーターゴーレムを包み込んでいく。
 やがて、ウォーターゴーレムの身体を構成している水分が、徐々に蒸発していく。
 それに伴い、あふれる水の量も減っていき、ウォーターゴーレムは完全に炎に飲み込まれて行く。

 その場の総ての水分を蒸発させ、燃やし尽くした炎が消え去った後には、蒼い宝玉が転がっているだけだった。

「さて、後一体かぁ……どうするかなぁ。」
 残されたライトゴーレムを押し込めている土の壁を見ながら呟く。
 あれが壊されるのも時間の問題だろう。
 ライトゴーレムの見かけは、ウィル・オー・ウィスプのような光の玉で、やっぱり実態はなくアストラル体だ。
 だから、物理攻撃は効かないのだが、他の2体の数倍の魔法抵抗力があるので、魔法も効きづらい。
「放置したいんだけど、……ダメだよね。」
 仕方がないなぁ、と魔力を溜め始める。
 シャドウジャベリンで、ライトゴーレムがあそこから出てきた瞬間を狙う。
 動きを止めたところで、魔法をひたすら叩き込めば、何とかなるだろう、とそう思った時だった。

「ぐぅ……がっ!」
 乙女らしくない声が私の口から洩れる……何なのよ一体。
 本能的に、身を逸らして第二撃を躱すけど、初撃のダメージが酷い。
 完全に油断してたから防護が間に合わなかった。

「ぐっ……ヒール!」
 治癒魔法を使って傷口を塞ぐ。
「っつ!」
 回復を待つ間もなく、ライトゴーレムの放つ光の槍が襲い掛かってくる。
「シールドプリズン!」
 防護壁を張り、その場を何とかしのぐものの、このままではジリ貧になっちゃうね。
 そう思った私は、この戦況をひっくり返すための隙を伺う。
 いくらライトゴーレムと言っても、魔力に限りはあるはず。
 いつまでも今みたいに際限なく魔法を打ち続けられるわけがなく、何処かで一旦途切れる筈。
 そこを狙って、反撃の一撃をぶち込むのよ。

「くっ……。」
 防護壁に光の矢が当たるたびに、私の身体が揺れる。
 傷口を塞いだと言っても、完全に治っているわけじゃないので、振動が傷に響くのよ。
 痛みを堪えながらチャンスを窺っていると、ふいに攻撃がやむ。
 今だわ!

「シャドウ・ラ……あぅっ!」
 光の塊に弾き飛ばされる……罠だった。
 ワザと攻撃の手を緩めて、誘いだすなんて……ゴーレムの癖にぃ……。
「クッ……ダークネス・スピア!!」
 床を転がりながらも、苦し紛れにはなった闇の槍が躱され、光魔法が私に向けて放たれる。

「グっ……ガッ!」
 私に向けて放たれるはずだった光魔法が暴発し、ライトゴーレムが苦しむ。
 そこに立て続けに闇に矢が降り注ぎ、更にライトゴーレムにダメージを与える。
 何?何が起きてるの?

「っと、何だ人がいたのか……じゃぁ、これはアンタの獲物か?」
 床に転がっている私の頭上で男の人の声がする。
「男っ!」
 私は素早く飛び退き、相手との間合いを開ける。
「うーん、その反応は、さすがに傷つくぜ。」
 男は頭をかきながらそう言う。
 黒髪に黒い瞳……堀の深い顔は、こちらの世界の人間を思わせるけど、その仕草に何となく懐かしさを感じる。

「アレはアンタの獲物か?」
 男が訊ねてくるので、コクコクと首を縦に振って頷く。
「それは悪かった……っと、アンタも呼ばれたクチか。」
 私をじっと見て、男はそう呟くと、私に向けて一振りの剣を投げてよこした。
「やるよ、お互い厄介なことに巻き込まれてるけど、精々がんばれよ。」
 そう言って立ち去ろうとする男を、私は思わず呼び止める。
「待って、あなたは……。」
 それ以上の言葉が出てこない。
 そもそも、何故呼び止めたのだろう?

「俺はただの通りすがりの『魔王』だよ。縁があればまた会えるかもな。」
 そう言って、今度こそ本当に立ち去っていく。
 この閉鎖された空間に、突然現れて、突然消えた男……あまりにも突然の出来事で、私の思考は正常に働いていなく、どうやって男が此処に来たのか?という事にまで気が回らなかった。
 状況が、それ以上考える暇を与えてくれなかった、という事もある。
 ダメージから回復した、ライトゴーレムが私に迫っていた。

「折角だから使わせてもらうわ。」
 自ら『魔王』を名乗った男。
 彼が纏うマナの質と量は尋常ではなかった。
 そんな彼がくれた剣だ、そこらの安物ではなく、それなりの技ものだろうと思われる。
 それはその剣を握った時に確信すした……この剣ならライトゴーレムを斬れる・・・と。

「とりあえず、ミカゲ一行っきまぁーす!」
 しんちゃんが好きだった、ロボットアニメのパイロットの真似をしながら、私はライトゴーレムの放つ光の矢を躱して懐に飛び込む。
「私の為に、死んで頂戴っ!」
 手にした剣でライトゴーレムを切り裂いていく。
「キャハッ♪どうどう?段々力が抜けていく感じはぁ?」
 一斬りするたびに、私の中に力が沸き上がり、逆にライトゴーレムの輝きが失われていく。
 それもそのはず……私の持つ剣は『総てを喰らうモノソウルシーカー』魂まで喰らい尽す妖剣だった。
 この剣で斬ると、相手のマナを、スタミナを、体力を吸い取って持ち手の魔力を、体力を、疲労を回復してくれる……つまり、攻撃が当たれば当たるほど、相手は弱り、逆に私は元気になっていくという、とんでもない代物だった。

「うふっ、エレメンタルだから、血が流れないのが残念ねぇ。その代わり、エネルギーは余さず貰ってあげるから勘弁してね♪」
 ……私が「ヒャッハー」状態になっているのは、この剣の所為であって、決して私の本性じゃないのよ。
 本当だからね。

 私の精神状態が落ち着いて、周りを見回すと、そこには白く光る宝玉が転がっているだけで他には何もなかった。
 ただ、手に持つ剣の刀身が満足そうに光り輝いていた。

「……とりあえず、封印かな、これは。」
 私はそのまま、剣を宝玉と共に袋にしまい込み出口を探すことにした。
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