勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第二章 勇者のスローライフ??

其々の戦い ―前編ー

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『ソニック・ブラスト!』
 ミュウは双剣に込められた魔力を解放して、ファイアーゴーレムにぶつける。
 放たれた風の砲撃が、ファイアーゴーレムの身体を覆う炎を散らす……がそれも一瞬の事。
 すぐに周りの炎が、穿たれた部分を覆い隠す。

「せめて、水系の魔法が使えればね。」
 ミュウは元に戻ってしまったファイアーゴーレムを見ながら、苦々しげに呟く。
 ミュウは魔法が使えない。
 魔剣である双剣に備わった、固有魔法を使うのが関の山だった。
 その上、双剣が纏う属性は風……ミュウに風の加護を与え、機動力・回避力を大幅にアップしてくれるものの、火の属性との相性はよろしくなかったりする。

「無いもの強請りをしても仕方がないか。」
 ミュウは再び双剣に魔力が集まるまでの時間を、ファイアーゴーレムの繰り出す火球をかわすことで稼いでいく。

 ソニックブラストを放った後、再び使用できるようになるまでのクールタイムは5秒
 今ミュウに出来ることは、ソニックブラストを放って炎を散らし、元に戻るまでの短い間に、露わになっている本体を斬りつけてダメージを与えることくらいだった。

 ◇

「ハァ、ハァ、ハァ……流石にしんどいわね。」
 戦闘が始まってからどれくらいの時間が過ぎたのか分からない。 
 分かっている事は、確実にお互いが消耗しているって事だけだ。
 ミュウの身体のキレも鈍ってきているのが分かる……当初は余裕で躱せていたはずのファイアーランスも、今ではギリギリで躱すのが精一杯だ。

 しかし、相手だって似たようなモノだった。
 体を覆う焔の勢いはなくなり、ソニックブラストを喰らった後、再生までの時間が伸びている。
 また、間断なく放ってきたファイアーボールやファイアーランスも、今ではミュウを牽制するときだけ放つようになってきた。
 お陰で、こうして間合い外にいる時は休息できるのだが、それは相手も同じで、時間をかければかけるほど、再生されてしまう。

「だったら、速攻で片づけるしかないよね。……いっけぇ!ソニックブラストぉ!」
 ミュウは隠れていた瓦礫から飛び出し、背後からファイアーゴーレムに向けて、溜め込んだ魔力を解き放つ。
 ファイアーゴーレムの背中を覆う焔が吹き飛び、大きく地肌を晒した。
「このチャンス!逃さないわっ!」
 ソニックブラストを追うように走り出していたミュウの双剣が、ファイアーゴーレムの背中に突き刺さる。

「マズっ!」
 何かわからないが、凄く嫌な予感がして、ミュウがその場から離れようとする。
 ドォォゥンッ!
 ミュウがいた辺りを中心にして爆発が起きる。
 衝撃に巻き込まれ、跳ね飛ばされたミュウは、壁面に強く体を打ちつけられる。
「ぐぅっ……っつ……なに?エクスプロージョン?」
 
 ミュウを弾き飛ばした爆発、それはファイアーゴーレムが自らの身体を囮にして放った起死回生のワザエクスプロージョンだった。
 実際、あの時の予感に従って離れなければ、また一瞬でも判断が遅れていたら、ミュウはエクスプロージョンに巻き込まれて、あそこに横たわっていた筈だった。

「だけどね、このチャンス逃さないよっ!」
 ミュウは素早く立ち上がり、ファイアーゴーレムに向かって走り出す。
 ファイアーゴーレムは、再生の間に合わない背中を庇うように、ミュウに対して正面を向く。
 魔法を放つ余裕もないのか、その方が早いと思ったのか、腕を振り下ろして攻撃してくる。
「いい判断だけどっ、私の狙いは違うのよっ!」
 ミュウはソニックブラストをファイアーゴーレムの右足に向けて放つ。
「貰ったっ!……烈風斬!」
 ファイアーゴーレムの腕を躱して足元まで詰め寄ったミュウは、渾身の技をファイアーゴーレムの左足・・に向けて放つ。
 直前にソニックブラストの直撃を右足に受けていたファイアーゴーレムの重心は左足にかかっていた。
 そこをミュウに斬り裂かれたため、ファイアーゴーレムはバランスを崩し前のめりに倒れる。

「倒れる時は前のめりに……いいオトコだね。」
 ミュウは高く飛びあがり、眼下に曝け出されたファイアーゴーレムの背中を捉える。
「トドメだよっ!ホントは長剣の技なんだけどねっ!……雷神爆裂斬!」
 ミュウは重力に任せて落下し、剥き出しになった背中へと双剣を突き立てる。
 
 ミュウ自身の攻撃力に落下時の勢いが加わり、双剣は容易くファイアーゴーレムの背中を貫く。
 そして放たれた技……ミュウ自身と周りのマナを凝縮し、剣を通して放たれる大技。
 ミュウの言う通り、本来は刀身の長い長剣で使用するのだが、それを刀身の短い小剣で使用した為、流しきれなかった力がミュウに跳ね返り、弾き飛ばされる。
 だからと言って技の威力が軽減することもなく、凝縮された力はファイアーゴーレムの内部で爆散し、外部をズタズタに斬り裂いていく。

 内部からの圧力に耐えかねて出来た亀裂が、全身に回る頃になってようやく、ファイアーゴーレムは動きを止める。
 そして、一瞬の静寂の後に辺り一面を揺るがすような大爆発が起きる。

 瓦礫の影で爆風から身を守っていたミュウは、辺り一帯に静寂が戻るのを確認してから、物陰から這い出す。
 ファイアーゴーレムは姿も影もなかったが、陥没した地面、抉れた壁面、そこら中に転がっている瓦礫の数々が、ミュウとファイアーゴーレムの死闘を物語っていた。

「ん?これは?」
 ミュウは足元に転がっていたものを見つけ、手に取る。
 手の平大の真っ赤な宝玉。
「これがファイアーゴーレムのコアかな?」
 ミュウはその宝玉を袋にしまうと、脱出口を探す為に周りを調べ始めた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「あー、もぅ、本当に鬱陶しいですわっ!」
 影から飛び出す小型のゴーレム。
 それを手にしたミスリル製のハンマーで叩く。
 ゴーレムはするりと躱し、地面に出来た影の中へもぐりこむ。
 マリアはすでに何度やっているか分からない『もぐら叩き』の繰り返しにうんざりしていた。

 小型のゴーレムの正体は『シャドウゴーレム』
 見ての通り『影移動』を使って敵を翻弄し、隙を見て襲い掛かるのを得意とし、またその身体はアストラル体によって構成されているため、普通の武器では傷一つつけられず、魔法か魔力を帯びた武器でないとダメージを与えられないというイヤらしいゴーレムだ。

 この広間は、あらゆるところに無数の柱が乱立し、瓦礫が転がっていて見通しが良くない。
 その上、壁面の上方に強い光を発する装置が備え付けられている為、地面に柱や瓦礫の影が無数に落ちている。
 更には、その光は一定周期で明滅し、ランダムで照らす場所が変わるので、それに合わせて影の配置も変わる……つまり、シャドウゴーレムにとって、都合のいい戦場という事だった。

「くっ、このっ!」
 飛び出してきたシャドウゴーレムの攻撃をかわし、ハンマーで殴るが、するりと躱され、地面の影に潜られる。
 直後、危機感知が働き上体を逸らすと、先程までマリアの上体があった場所を影がすり抜けていく。
 足元から、影で出来た槍が飛び出しマリアを突き刺す……が、既にマリアは、大きく飛び退さっていた為、影の槍の攻撃は空を切ることになる。

『アロー・サンシャイン!』
 マリアの呪文により、上空から光の矢が降り注ぐ。
 シャドウゴーレムの体を光の矢が貫くが、即座に影に潜られたため、大きなダメージを与える事が出来ない。
 再び襲って来るシャドウゴーレムを、ハンマーで迎撃するが、近くの瓦礫を砕くだけに留まる。

 マリアとシャドウゴーレムの相性は最悪だった。
 元々、神聖魔法には攻撃的な魔法は皆無とまでは言わないが非常に少なく、ターンアンデットのように対象が限定されているものが多い。
 神聖魔法の使い手に求められているのが、回復、治癒、補助なのだから、それで十分なのだが、今回みたいな相手では心許ないのは確かだった。

 打撃が有効な相手に、とマリアが選んだハンマーという武器……、ミスリル製ではあるが魔力を帯びているわけではないのでシャドウゴーレムにダメージを与えることが出来ない。
 なのでダメージを与えるためには魔力を付与する必要があった。
 幸いにも、神聖魔法の『祝福』を使えば一時的に魔力を付与することが出来るのだが、魔力消費量が激しい上、一度効果が切れると再度かけ直すまでに一定の時間置く必要があった。
 他のフォローが受けれるパーティ戦ならともかく、一人で戦う場合、効果が切れたときのリスクガ大きすぎた。
 
 だから、マリアはインパクトの瞬間にだけ魔力を付与する方法を選んだのだが、付与する際に、本当に刹那の瞬間だけどタイムロスが生じ、それが原因でダメージを与えきれずにいる。

 これがミュウなら、シャドウゴーレムが逃げる間も与えずに封じ込める事が出来るだろうし、クミンの持つエストリーファの剣なら易々と斬り裂く事が出来ただろう。

 逆にマリアの相手が、ファイアーゴーレムだったのなら、水魔法のアクアウォールで炎を封じ込め、力任せに叩き潰すことが出来た。
 アースゴーレムに至っては言わずもがなだ。

 だけど、シャドウゴーレムがマリアの相手であり、苦戦している事が現実なのだ。
 無い物ねだりをしても仕方がないと思う。
 ……偶然にも、同じ事をミュウが考えているとは思いも寄らなかった。

 そもそも、神聖魔法の使い手であるマリアが、神聖魔法と親和性が近いとはいえ、水と光の属性魔法を使えること事態おかしく、それだけマリアの才能が突出している証拠なのだが、シャドウゴーレムに翻弄されている現状では、何の慰めにもならなかった。



 更に時間が過ぎる………。
 マリアは今日何本目になるか判らないMPポーションを飲み干す。
 回復量が目に見えて減っている……飲み過ぎだった。

「だけど、ここから先はそう簡単に行きませんわよ。……アクアカッター!」
 マリアの放つ水流がシャドウゴーレムの身体を斬り裂く。
 シャドウゴーレムはかわしきれずにダメージを負うと、そのまま足許の陰の中に隠れる。
 心なしか、シャドウゴーレムの動きが単調になりつつある……今も前後左右から間断なく襲ってくるのだが、少し前みたいにいきなり急襲されることが無くなった……いや、マリアがそうなるように仕向けたのである。

 見ると、マリアを中心に半径5mの範囲に瓦礫はなく、影も出来ていない。
 マリアは無造作にハンマーを振るっていたのではなく、はじめから瓦礫を粉砕することが目的だったのだ。

「だからと言って、事態が好転してる訳じゃないのが辛いですわね。」
 だけど、とマリアは思う。
 これで少し余裕ができたから、今のうちにもう一つの気がかりを片付けようと……。

「出てきなさい!……ずっと監視しているのはわかってますのよ!」
 マリアが叫ぶ……が返事はない。
 代わりに背後からシャドウゴーレムが襲いかかってくる。
「くっ!……ソル・レイ!」
 マリアの放つレーザーはかわされ、すれ違いざまの攻撃によって、脇腹に傷を負う。
「っ……ヒール!」
 シャドウゴーレムの襲撃をかわしながら回復魔法を使う。
「私にもう少し力があれば……ミカゲさんのようにとは言わなくても、もう少し魔力があれば……。」
 マリアにしては、珍しく弱音が口をついて出る。

(そうだな、お主に力がないからここで倒れる……情けないことだ。)
「ウルサいですよ!ようやく答えたかと思えばそんな事ですか。」
 マリアは、その声の主がずっと監視してきた者だと言うことに気づく。
(イヤ、せっかく見つけたおもしろい素材を失うのは惜しくてな。力を貸そうか?)
「この状況を打破できると言うのでしたらさっさと力を貸しなさい。」
(……普通、もう少し考えぬか?)
「うるさいですよ。コイツを倒してミカゲさんの元へ駆けつけることが出来るなら、たとえ悪魔とでもとりひきいたしますわ。」
 勿論、後で悪魔を滅して契約を破棄しますけどね、とマリアは心の中で付け加える。

(……悪魔と取引はやめてくれぬかのぅ?)
「だったら、あなたの力を見せてくださいな。」
(……………よかろう。我は智と深淵の女神なり。力を持つと言うことは、相応の覚悟が必要となる。その力が強ければ強いほどに……。お主にその覚悟がありや?)
「覚悟?今更ですわね。私はミカゲさんの為に総てを差し出すと、すでに決めてますのよ。」
 マリアは声の主にそう告げると同時に、声の主がレフィーアやエストリーファと同じ者だと言うことを理解する。

(……その覚悟、見せてもらうぞ……我が名はユースティアなり!)
 その声と同時に、マリアの右手薬指に光の指輪が現れる。
「ユースティア、力を借りますわ。……マジェクション!」
 そっと指輪に触れ、力ある言葉を唱える。
 光がマリアを包み込み、ユースティアの加護を受けた装備に変わったマリアが姿を表す。
 シスター服をベースデザインにしたゴシックドレス。白と黒のコントラストがとても鮮やかだった。

「行きますわよ!」
 丁度向かってきていたシャドウゴーレムに向かって魔法を放つ。

『セイクリッド・サンシャインフラッシュ!』
 辺り一面が昼間のように明るくなり頭上から隙間なく聖なる光の矢が降り注ぐ。
 その矢はシャドウゴーレムの身体にも突き刺さりダメージを蓄積していく。
 シャドウゴーレムは、影の中に逃げ込もうとするが、部屋全体が明るく強い光で照らされているため影がかき消されている。

『フラッシュランス!』

 マリアは光の槍を形成し、シャドウゴーレムに向かって突き刺す。
 逃げ場を失ったシャドウゴーレムは、為すすべもなく……黒光りする宝玉だけを残して消え去っていった。

「ふぅ……。」
 周りに気配がないのを確認してマリアは変身を解く。
 マリアの目の前に妖精が現れる。
「取りあえず助かりましたわ、ユースティア。」
(ふん、我が力を貸したのじゃから、コレくらいはやってくれぬと詰まらぬ。)
「そうですわね、では偉大なる智の女神様にお伺いしますわ。」
(ウム、何でも聞くがよいぞ。)
「ここから出るにはどうすればよろしいの?」
(……。)

 結局、マリアがそこから脱出したのは、30分以上経ってからだった。
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