勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第二章 勇者のスローライフ??

エレメンタル登場!? ーその1ー

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「流石に、ちょっと疲れたよ……。」
 5階層の入口の前に作った休憩で、私は転がって横になる。
「アレは、アンタが悪いんでしょ。自業自得よ。」
 ミュウが呆れたように言って来るけど、私にだって言い分はある。
「だって、ミスリルだよ?ミスリルの塊なんだから、回収するのは当たり前でしょ。」
「だからと言って……ゴーレムだよ、まずは回収より身を守る事の方が優先でしょうが。」
「分かってるよぉ……だから私一人で頑張ったんじゃないの。」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 三階層のアイアンゴーレムの群れを通り抜けるのはすごく大変だった。
 途中、私が無傷で捕獲した、アイアンゴーレムに足止めをさせることによって、包囲を逃れつつ何とか第四階層まで抜けることが出来たんだけど、そこからがまた大変だったのよ。

「第四階層は『ギミック』を解除しないといけないわ。」
「ギミックってにゃんだにゃん?」
 エストリーファの新しい加護によって語尾が変わってしまったクーちゃんが聞いてくる。
「ギミックというのは『仕掛け』の事ですわ。」
 私の代わりにマリアちゃんが答えてくれる。

「この第四階層の仕掛けを解除しないと第五階層へ行けないようになってるのよ。まぁ、仕掛けそのものはそんなに難しくないんだけどね。」
 ミュウがそう言いながら、みんなに見えるように第四階層の地図を広げる。
 
「今私達がいるのがここで、この扉の先に大広間があるの。それで、この大広間から、このように5本の坑道があって、それぞれの行き着く先に小さな広間と祭壇があるのよ。その祭壇のスイッチを入れる必要があって……。」
 ミュウが地図を示しながら説明をしていく。
 更には祭壇でのスイッチの入れ方も説明してくれる。
 これはリカルドさん達から聞き出した事なので、まず間違いないと思うのよ。

「それで5カ所のスイッチが入ると、この大広間に魔法陣と祭壇が浮かび上がるので、大広間の祭壇のスイッチを入れれば、ここの5階層への扉が開くんだよ……ここまではいい?」
 ミュウが確認するように聞いてくるので、皆は一斉に頷く。
「それで、ここからが問題なんだけど、どこか一つのスイッチを入れたら、1時間以内に大広間のスイッチを入れなきゃいけないのよ。だけど、5つの祭壇への距離を考えると、この一番短いところでも、往復10分はかかる。この一番長いところは30分はかかるから、みんなで一緒に移動していたんじゃ時間が足りないので、別行動をとらないといけないのよ。」
 ミュウはそう言って私の方をみる……最後の決断は任せた、と言いたいらしいの。

「私とミュウがこことここ、マリアちゃんはクーちゃんと一緒に……。」
「待って、私一人でも大丈夫だよ。」
 いつの間にか、変身を解いて元に戻っていたクーちゃんが、そう声を上げる。
「でも祭壇にはガーディアンがいるから、クーちゃん一人では……。」
「ミカ姉、私は大丈夫、エストリーファもいるしね。それに時間がないんでしょ?」
 確かにクーちゃんの言うとおり、3つに分けると時間的に厳しく、4つに分けた方がいいのは確かなんだけど……。

「やらせてみたら?」
「ミュウ、でも……。」
「ミカゲの気持ちも分かるけど、いつまでも過保護ではいられないでしょ。冒険者を続ける限り、自分だけの力で何とかしなければいけない事なんて、これから沢山出てくるよ。」
「クミンさんなら大丈夫ですわ。」
「ミカ姉……お願い。」

「……わかったよ……でも、絶対無理しないこと、約束できる?」
「うん!ありがとう、ミカ姉。」
 クーちゃんが抱きついてくる。
 私はクーちゃんを抱きしめ、頭を撫でる。

「じゃぁ、クーちゃんがここ、マリアちゃんはこっちね。」
 私は地図上での下の2カ所をそれぞで指し示す。
 ポイントになる祭壇の場所は、中央の大広間を中心にして、五亡星の各頂点に位置してるの。
 つまり、このフロア全体が大きな魔法陣と言うわけね。
 この地図とリカルドさん情報が正しければ、何だけど、下側の頂点までは道もまっすぐで一番早く辿り着ける上、ガーディアンランクがCなのよ。
 だから、この2カ所をクーちゃんとマリアちゃんに任せて、私とミュウはガーディアンランクBの左右に別れて行くことにしたのよ。

「クーちゃんもマリアちゃんも、終わったらこの大広間で待ってて。それでミュウが戻ってきたら三人で、ここの祭壇をお願い。」
 私は地図上の上方、五亡星の天辺を指す。
 ここのガーディアンランクはAだけど、3人いれば大丈夫よね。
「ミカ姉はどうするの?」
「私の場所は一番遠いからね、ミュウより戻るのが遅いと思うんだ。だから大広間で待ってるよ。そうすれば、ミュウ達が解除してすぐに、大広間の攻略に取り掛かれるから、時間的なロスが少なくなるでしょ?」
「でも、ここにSランクって書いてあるよ……大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。お姉ちゃんに任せなさい!……それに、最悪少し待ってればみんなが戻って来るからね。無理はしないよ。」
「うん……わかった。」

「最後におさらいね。多分だけど、ガーディアンってゴーレムだと思うのよ。ガーディアンというだけに強化されてるとは思うけど、核を壊せば動きが止まることに変わりはないわ。ロックゴーレムが心臓、アイアンゴーレムが延髄、カッパーゴーレムが鳩尾にあった事から考えて、他のゴーレムも急所の位置に核があると考えていいかも知れないわ。だから見慣れないゴーレムに会ったら、喉とか目、眉間に頭頂など急所を狙ってみてね。」
 私はゴーレムの弱点や、祭壇のスイッチの入れ方など、リカルドさんに聞いたことをみんなに伝えていく。

「みんな、ちゃんと覚えた?忘れ物はない?」
 私が最終確認をすると、みんなは力強く頷いてくれる。
「クーちゃんとマリアちゃんは急がなくていいから、安全第一でね。」
 私が念押しすると、二人は分かってる、というように頷いてくれる。
 ここのギミックのタイマーはどこかのスイッチが入った時点で作動するので、一番近くて早くたどり着けるクーちゃんやマリアちゃんがスイッチを入れるのは遅い方がいい。
 出来ればミュウや私がスイッチを入れるぐらいのタイミングが一番効率がいい。

「じゃぁみんな気をつけてね。」
 私はみんなが各々の目的地に向けて坑道に入っていくのを見送る。
 考えてみれば、パーティーを組んでからバラバラに行動するのは、初めてじゃないかな?
 私やミュウが、一時的にソロで突出する事はあっても、他のメンバーは一緒にいて、いつでもサポートに入れる様にしていた。
 でも、今回みたいに、何かあっても一人で切り抜けないといけない状況は、初めてだと思う。
 私は不安を胸に抱きながらも、自分の向うべき場所へと脚を進めるのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 行動をどんどん進んでいく。
 ミカ念いはゆっくりと言われたけど、気が付いたら早足になっていた……ダメだね、もっと落ち着かないと。
 そう思って脚を止め、ゆっくりと息を吸う。
 
(どうしたの?)
「ウン、ちょっと緊張してるから、落ち着こうと思って。」
(ウン、落ち着くのはいい事だよ。まぁ私がついているから安心しなよ。)
 私を元気つける為なのか、エストリーファが妖精の姿になって、目の前に現れる。

「前々から思っていたけど、エストリーファの本体って、妖精さんなの?剣なの?」
(……難しい事聞くね。)
 エストリーファは、暫くの間悩んでいたけど、私は答えてくれるのを待つ。
(……クミンは、レフィーアの事どこまで知ってる?)
「どこまでって言われても……ミカ姉を護る女神様という事ぐらいしか知らない。」
(……レフィーアが女神だって話、信じてるの?)
「少なくとも、女神というだけの力があるのは分かってる。それに誰がなんて言おうとも、お母さんの魂を救ってくれたレフィーアは私にとっては女神様だよ。」
 私はミカ姉との出会いから、お母さんとの別れをエストリーファに話す。

(そっか……『降臨』まで見せているなら別にいいか。)
「なんのこと?」
(こっちの話……ちょっと長くなるから腰かけなよ。)
 私は、エストリーファの勧め通りに腰を下ろし、ミカ姉が用意してくれたハーブティの入った水筒を取り出す。

(まず、さっきの質問だけど、私の本体はこの姿でも剣でもないの。私はレフィーアと同じ女神……と言ってもあっちが上司なんだけどね。)
 そう言いながらクスリと笑うエストリーファ。
(それでね、この世界に干渉するために、古代魔術王国の技術力の結晶として生み出されたのが『護身の女神ユニット』ってわけなの。私達は其々自分の持つ代表的な力を、その『ユニット』に封じ込めて、ユーザーとのコミュニケーションをとるためのインターフェースとしてこの妖精の姿を作り上げたのよ。)
「ゆーざぁ?いんたぁふぇぇす?」
 よく分からない言葉が、エストリーファから紡がれる。
(えっと、つまり、私の本体は天界にいて、剣に力を与えているだけなの。それで、こうやってクミンとおしゃべりするために妖精の姿を借りているって事よ。)
「そうなんだね。」

(まぁ、詳しい事は、また今度ゆっくり話してあげるよ。それよりそろそろ急がないと。いくらゆっくりの方がいいって言われても、ミュウやミカゲより遅いのはマズいでしょ。)
「あ、うん、そうだね。」
 エストリーファに急かされて、私は立ち上がる。
 程よく緊張も解けて、いい休憩になったみたい。
「エストリーファ、頼りにしてるからね。」
 私はエストリーファに声をかけると再び歩き出す。
 目的地は目の前に迫っていた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

「ここが祭壇ですね。……クミンさんはすでに辿り着いているのでしょうか?」
 周りを調べてみますが、特に変化は無いようです。
 ミカゲさんの話だと、どこかの祭壇が起動すれば、他の祭壇の周りが光り出すとおっしゃっていましたから、クミンさんはまだ祭壇を起動させていないことになりますね。

 私は祭壇周りを改めて調べます。
 仕掛けのスイッチはすぐにわかりました。
 話に聞いていた通りなので、すぐにでもスイッチを入れる事は出来そうですが……。
 取りあえずスイッチを入れずに、私はその場から離れます。
 ミュウさんの話では、私とクミンさんが一番早くに祭壇に辿り着くそうです。
 最初の祭壇のスイッチが入ってからギミックのタイマーが作動すると言いますから、最初のスイッチを入れるのは、ミュウさんやミカゲさんが辿り着いたぐらいが丁度いいのです。
 地図から割り出した時間と私がここまでにかかった時間から考えると、後5~6分は余裕がありそうです。

「とは申しましても、タイミングは全く分かりませんけどね。」
 私は思わず、口に出して呟いていました。
 ともかく、私は私の出来る事をしましょうか。

 私は自信に身体強化の魔法を掛け、防護と加護の結界を張ります。 
 そして最後の仕上げ……。
「不浄なるものを退け、我らに聖なる力を承らんと御身に願うものなり……サンクチュアリ!」
 私を中心に聖域がこの広間一杯迄広がります。
 この中では、相手の力は半減し、私の力が倍増するというとんでもない魔法です。
 それだけに、サンクチュアリを使える司祭は殆どいません。

 私には、幸か不幸か神聖魔法の素質と才能がありました。
 それを妬んだ上司には色々嫌がらせを受けたものですが、そのおかげで、私は今こうしてミカゲさん達と一緒に居られますので、感謝してますよ。

 私は「力」が欲しかった。
 世の中の悪意から皆を守れる力が……。

 私は祭壇のスイッチを決められた手順で入れていく。
 
 そして、私は力を得る事が出来た……神聖魔法という力を……。

 最後のスイッチを入れようとして、指が止まる。

 私が得た力は、多くの人を救う事が出来る、守る事が出来る……私は「力」を得たのだ……例え、それが望んだ者とは違っていたとしても……。

 躊躇ったのは一瞬の事、私は最後のスイッチを入れる。
 ゴゴゴッ……という地響きと共に祭壇が光り出す。
 ……と同時に魔法陣が現れ、ゴーレムが姿を現す。

 ……そう、このような敵を倒すための力が、私は欲しかった。
 神聖魔法には、攻撃の為の魔法は数少ない。
 そして、そのほとんどが、アンデットや魔法生物など物理攻撃が効かない相手に対してのモノであり、ゴーレムの様な力任せの相手に対しては効果が薄い。

「だからと言って甘く見ないでいただきたいですわ。」
 私はハンマーを取り出して構える。
 私の背丈ほどもある巨大ハンマーだけど、重量軽減の魔法がかかっている上、私自身、身体強化しているので振り回すのに問題は無かった。

 神聖魔法が効かない相手には、それ以外の手段で戦うしかないのですが、悲しい事に、私には剣術や体術の才能は全くと言っていいほどありませんでした。
 だけど、そんな私に素晴らしい助言をくれた人がいたのです。
 あれは傷ついた傭兵さんを治療していた時の事でした。
 彼は魔獣に左腕を食いちぎられ、瀕死の状態でした。
 それでも彼は、こんなのは何でもないと豪快に笑っていました。
 私は治療をしながら、彼を元気つけるために色々な話をしているうちに、ついそんな悩みを漏らしてしまいました。

 だけど、彼は私の悩みを聞くと、豪快に笑い出し、そしてこう言いました。
「才能だぁ?そんなモン、持っている奴は殆どいねえよ。剣で斬れないならぶっ叩けばいい。叩いて潰すのも、剣で斬り倒すのも結果は一緒だろ?」
 彼は剣が苦手なら鈍器を持てばいいと教えてくれました。
 鈍器であれば、難しい事は何も考えずに、ただ相手に対し打ち付けるだけです。
 叩き潰すだけの圧倒的なパワーが必要となりますが、幸いにも私には身体強化の魔法があります。

 私は嬉しくなり、彼に感謝を意を込めて、禁じられていた部位欠損の回復魔法を施しました。
 彼は驚き、大袈裟なくらいの感謝をして、お礼にと私に大きなハンマーをくれて去っていきました。
 今私が持っているのは、彼からもらったハンマーをベースに様々な改良を施したものです。
 あれから私は、時間さえあればこのハンマーを振り回してきました。
 当初は、ハンマーに振り回されることが多かったのですが、今では体の一部と言っていいほどになじみ、自在に操る事が出来ます。

「だから、ゴーレム如きに負けるわけにはいきませんわ。」
 私はハンマーをゴーレムの脚に打ちつけます。
 このロックゴーレムは、通常より3倍の大きさがあるので、今のままではコアのある心臓まで届かないのです。

 ハンマーがゴーレムの脚にあたる瞬間に爆発が起き、その足を吹き飛ばします。
 このハンマーには『インパクト』の魔法がエンチャントされているので、当たった瞬間にインパクトが発動し、破壊力を押し上げてくれているのです。

 片足を失ったゴーレムは、体勢を崩します。
 でも、これだけで終わりませんわ。
「こっちもですわよ!」
 私はゴーレムのもう片方の脚も吹き飛ばします。
 両足を失ったゴーレムはそのまま地面へ転がります。
「トドメ、ですわ!」
 私は思いっ切りジャンプし、地面に転がるゴーレムの心臓部分に向けて、ハンマーを打ち下ろします。


「ふぅ……これで大丈夫ですわね。」
 私は瓦礫と化したゴーレムを見ながら息を吐きます。
 コアを確実に破壊するために、何度もハンマーを打ち下ろした結果です。

「今の私は、これくらいの事は出来るんですよ。」
 私はハンマーを手に、今は面影さえ思い出せない傭兵さんに向って呟いた。
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