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第二章 勇者のスローライフ??
激闘!?オーク砦 -中編-
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「まさか、オーガがいたとはね。」
瓦礫の影に隠れながらミュウがそういう。
「想定外だったねぇ。」
私はポーションをミュウに渡しながら答える。
「ホント、ミカゲといると想定外の事ばっか。」
「だから、私の所為じゃないって言ってるでしょ。」
「あはは……。取りあえずアレを何とかしないとね。」
「ウン、オーガ4体と、その奥のオーガロード……アレをやっつければ今回の件解決だね。」
「そういう事……行くよ!」
私とミュウは瓦礫の影から飛び出して、一番近いオーガに飛び掛かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうだった?」
斥候から戻ってきたミュウにお水を渡しながら聞いてみる。
「あぁ、オークがウヨウヨいたよ。50頭以上はいるね。」
「50頭以上ねぇ……エクスプロージョン一発で終わりってわけにはいかないかぁ。」
「ゴブリンシャーマンもいたからね、魔法障壁は張ってあると見た方がいいよ。」
「そっかぁ……もう少し周りも調べてみないとね。」
私は、ミュウにそう告げると場所を移動することにした。
オーク砦の調査の依頼を受けた私達だったけど、現地に来て事前情報に不備がある事を知ったのね。
『あるパーティが命がけで持ち帰った情報』をもとにギルドは対策を立てていたんだけど、その『あるパーティ』が本当はBランクのパーティで『命がけで持ち帰った』というより情報をもたらした人以外のメンバーが全滅していたという事迄は知らされていなかったの。
確かに嘘ではないけど、ここまで情報の落差が大きいと、ギルドの対処方法が変わってくるのよ。
対処を間違えると二次被害が大きくなるから、ギルドは情報は正確に詳細にと常々言っていたんだけど、報告した職員が新米さんでヘンなプライドがあったため、「放ってはおけないけどそれ程脅威ではない」と言う様な報告になっちゃったのが原因なのよねぇ。
流石のメルシィさんも「Bランク冒険者が全滅した」って聞いてたら私達のこの依頼を回さなかったと思うのよ……たぶんだけど。
◇
「オーク50頭以上にゴブリン達までいるって!!」
私とミュウの報告に周りの冒険者からどよめきが走る。
彼等はギルドマスターが集めてくれたCランクの冒険者たちで、今回の作戦に参加してくれる予定の人達だ。
作戦の決行は明後日の予定なので、今夜中に作戦を伝えるために集まってもらったんだけど……。
「正確にはオークが約70頭、中には将軍クラスが数頭混じっているわ。ゴブリン属は全部で約90匹、中にゴブリンシャーマンが20匹、ゴブリンアーチャーが30匹程いる。それからコボルトが約50匹で、数体のトロールを引き連れているのを確認しているわ。」
ミュウがそう告げると周りの騒めきが鎮まる。
「マジかよ……、俺達だけでやれるのか?」
冒険者の誰かの呟きが起点となり、周りに動揺が走る。
「ええい、静まれっ!まだ途中だっ!」
ギルドマスターの一喝で、冒険者たちの騒めきが収まる。
流石だねぇ、伊達にマスターは名乗ってないね。
私は御礼代わりに、ニッコリと微笑んであげたんだけど、ギルドマスターは何故か顔を蒼褪めさせ、視線を逸らした……何故?
「今言った数は今日確認できた分だけだけど、出入りのチェックもしたし、誤差は数頭の範囲に収まると思うの。ただ、Bランクの冒険者が全滅したという事を考えると、全体の戦闘力はかなり高いと見た方がいいわね。」
ミュウの言葉に、その場にいた人々の間に緊張が走る。
「作戦の決行は明日なんだけど、ゴブリンやコボルトは数が少ないとおもうわ。」
「どういうことだ?」
「マリアちゃん、説明お願い。」
「ハイ、分りましたわ。」
ミュウに促されてマリアちゃんが説明を始める。
「私達は、近くの農村で話を聞いてきたのですが……。」
マリアちゃんとクーちゃんはゴブリンに襲われたという農村に行って色々調べてきてくれた。
その結果、ゴブリン達は3日置きに同じぐらいの規模で、同じルートで攻めてくるらしいのね。
だから次回の襲撃に合わせて作戦の決行を明後日にしたのよ。
「毎回、攻めてくるゴブリンは大体30~40匹、コボルトが40~50匹前後と、かなりの数が襲ってきます。」
流石にこの規模になると、村人たちでは手に追えず、みんな家に閉じこもってやり過ごしているんだって。
「ですから、砦のゴブリン達の大半は農村へ向かいます。」
マリアちゃんはそう締めくくるとミュウに場所を譲る。
「今日集まってもらった中から2パーティと他Dランクの2パーティで農村の防衛に向かってもらいたいと思います。ウチからは今日情報収集に行ってもらったマリアとクーをつけるので、現地では彼女らの指示に従ってもらえますか。」
ミュウの言葉に、一瞬騒めきが起きるがすぐに静まる。
ギルドマスターが事前に良く言い聞かせてくれた結果かな?
部下のミスはあったものの、結構優秀なんじゃない?と私たギルドマスターへの評価を改めるのだった。
「じゃぁここからはオーク砦の攻略ね……ミカゲ、お願い。」
ミュウに請われて、私が前に出る。
私は用意してもらった大きな木版に砦とその周辺の大体の地図を描く。
「まず、AパーティとBパーティの皆さんはここへ、CパーティとDパーティの皆さんはここに身を隠します。」
私は図に書き込みながら説明を始めた。
私の立案した作戦は結構単純な物……というか、連携も碌に取れない即席の団体じゃぁ難しい作戦なんて立てても無駄だと思うのよね。
なので、まずは私が砦に対して最大火力のエクスプロージョンを放つ。
まぁ、シャーマンたちの魔力障壁の強度にもよるけど、この攻撃では数はそう減らせないとみてる。いい所10頭程度かな?
その攻撃に驚いてオーク達が出てくると思うのでそれに対し、各所に配備したパーティが魔法や弓などの遠距離攻撃で各個撃破。
ここで、私が広範囲魔法を放てれば大夫数が減らせると思うけど、これはその場の状況次第かな?
出来ればこの時ゴブリンアーチャーやゴブリンシャーマンを優先的に倒すようにすれば後がグッと楽になるんだけどね。
で、その攻撃を乗り越えて、敵は迫ってくるから、後はパーティごとに各個撃破してもらう。
各パーティの位置はバラしてあるから、オーク達もばらばらに襲ってくるはず。
群れなければCランクの冒険者ならオークは余裕で倒せるでしょ?
まぁ、1パーティあたり12~13頭は倒してもらう必要はあるんだけどね。
私とミュウは遊撃、全体を見て1つのパーティにオークが群れて向かわないように寸断するのが役目。
ちょっと大変だけどね、出来なくはないと思っているのよ。
この作戦をあらかじめミュウに相談したんだけどね……。
「最初の魔法だけど、エクスプロージョンじゃなくて、この間のイグニスなんちゃらとか言うアレにしたらもっと減らせる事が出来るんじゃないか?」
「ウン、出来なくはないけど、あれだけの範囲になると魔法陣を完成させるまでに2~3分かかるからね、その間にゴブリンシャーマンに感づかれて妨害されると思うよ。それに、もしうまく発動したとしても、その後私は戦線離脱しちゃうから、長い目で見ればあまり得策じゃないよね。」
と言う様な会話の流れもあって、結局エクスプロージョンのままで行く事になったんだけどね、よく考えたらメテオストライクでも行けるかもしれない……この辺りは後でミュウと相談だね。
私が大まかな説明をした後、各個に細かい戦略、戦術を詰めた話し合いが行われ、夜が更けた辺りで解散となった。
◇
「マリアちゃんもクーちゃんもお疲れ様。」
私はミュウを含めた三人に労いのお茶を入れる。
「明後日は二人とも気を付けてね。」
「えぇ、私達よりミカゲさん達の方が心配ですわ。こっちは数が多いとはいえ、所詮はゴブリン、コボルト。Cランクパーティが二組とDランクパーティ二組がいれば殲滅は時間の問題ですからね。」
「でも、油断は禁物だよ。行動パターンからしてリーダーはいないと思うけど、ひょっとしたらそう見せるための布石って事もあるからね。」
ゴブリンが今回の様に毎回同じルートで同じ襲撃をするのは、彼らの知能が低いせいだ。
つまり「前上手くいったから今回も」というわけである。
しかし、中には進化したホブゴブリンやゴブリンリーダーなど知恵が回る個体がいる事もあり、そういう個体に率いられたゴブリン達は時々こちらが思いもかけない行動をとる事があるので要注意だった。
もし群れの中に知恵ある個体が紛れ込んでいたら、今回も前回と同じだろうと思わせておいて裏をかく、って事は十分にあり得る話なので、私はマリアちゃんとクーちゃんに十分注意を促しておく。
「ウン、ミカ姉の言う通り、その可能性も考慮しておくね。」
「クーちゃんは余り前に出ないようにね。マリアちゃんから離れずマリアちゃんの護衛に徹すること。」
私はクーちゃんを抱きしめながらそう言う。
本当はクーちゃんには留守番をしていてもらいたいけど、本人が一緒に行くことを強く望んでいるから仕方がない。
最近は訓練の模擬戦で私より強くなっているし、エストリーファの力を借りたバトルモードでいられる時間も長くなってきているけど、それでもお姉ちゃんは心配だよぉ。
「私はミカ姉たちの方が心配だよ。相手はオークでしょ?」
クーちゃんが心配している通り、魔法使いやミュウの様な手数で勝負する軽戦士にとって、実はオークやオーガの様な所謂「脳筋体力馬鹿」とは相性が悪いのよ。
奴等は、腕が無くなる程度の怪我をものともせずに突っ込んでくるので、ヘタな魔法使いでは足止めにならず、止めを刺す前に間合いを詰められちゃうんだよね。
それは軽戦士も同じことで、まともに斬り合ったら致命傷を与える前にこちらがスタミナ切れを起こすという事が多々有ったりして、仕留めきれないって事が多いの。
奴らとやり合うには、盾や大剣使い、斧使いなどの、同じ「脳筋体力馬鹿」の前衛職がいないと苦労するんだよね。
「大丈夫だよ。今回私達は遊撃隊だからね。」
「ならいいけど……本当に無茶したらダメだからね。」
まだ心配そうなクーちゃんを私は膝の上に乗せて抱きしめる。
普段なら嫌がってジタバタする彼女がやけに大人しい。
「本当、大丈夫だから心配しないで。」
私はクーちゃんの耳元で優しく囁いた。
◇
「……3,2,1……エクスプロージョン!」
私の放つ魔法がオークの集落を襲う。
建物が吹き飛び、瓦礫が舞い上がる。
予測通り、建物が壊れただけで、オーク達にほとんど被害がなさそうだが、突然の出来事に慌てふためく姿が見える。
様子見に出て来たオークやゴブリンシャーマンの姿が見えたところで、私は待機していたもう一つの魔法を放つ。
「……からのぉ……スターダスト・レイン!」
光に包まれた無数の礫が、建物を、瓦礫を、オークの身体を……その場にあるあらゆるものを貫いていく。」
これでかなりの数を減らせたはず。
私がそう考えた時ミュウの声が響き渡る。
「各員攻撃開始!」
冒険者たちが、身を隠したまま、弓矢や魔法でオーク達を襲撃する。
この頃になってようやくオーク達の反撃が始まった。
オーク達は得物を手にして、思い思いに冒険者たちに向かって行く。
近づいてくるオークに、魔法が放たれその身体にダメージを負わせる。
腕に、腹に、矢が突き刺さる。
しかしオークはものともせずにパーティに向かってくる。
初めてオークに相対したものや、戦闘に慣れていない者達はこの辺りで心が折れる。
いくら魔法や弓矢で攻撃しても倒れずに向かってくる様は相対している者にとって恐怖でしかないだろう。
しかし、今相手にしているのは曲がりなりにもCランクの冒険者。
オークとの戦闘は星の数ほどこなしている猛者であり、その怖さも、弱点も知り尽くしているのである。
魔法使いがオークの間合いに入る前に、盾を持った戦士が、オークが振り下ろしたメイスを受け止める。
その隙に背後から大剣使いの戦士がオークの身体を斬り裂く。
オークが振り向いたところを、盾を持った戦士の剣が首を刎ねる……それで終わりだ。
首がなくなったオークの巨体が崩れ落ちるのを無視して、パーティは次のオークへ斬りかかる。
盾を持った戦士と鍔迫り合いをしている間に、魔法使いの放つ魔法が襲い掛かる。
バランスを崩したところで大剣使いがトドメの一撃。
「はぁ、慣れたものねぇ。」
「ん、何が?」
私の呟きを、丁度戻ってきたミュウが聞き咎める。
「うん、Cランクの冒険者って戦い方が上手いんだなぁって。」
私が指さした先には、丁度オークに止めを刺すパーティがあった。
「まぁ、アイツ等はCランクの中でも特にオーク狩りの経験が豊富な奴らを集めて貰ったからね。」
ミュウは双剣に付いた血糊を払いながらそう言ってくる。
「そうなんだ。でもこの様子なら私達の出番は、もうないかもね。」
各パーティとも安定してオークを屠っている。
流石に5~6頭目ともなると最初程の早さは無くなってきているが、それでも安定した戦い方だった。
私とミュウはこの木の上から全体を見回しつつ、遠距離から狙っているゴブリンアーチャーやゴブリンシャーマンを倒していたのだが、それらの姿ももう見えない。
後はオーク達が一か所に固まらない様に誘導するだけでよかった。
「少しぐらいは私の見せ場が欲しいけどな。」
ミュウが笑いながらそう言う。
その言葉がトリガーになったのだろうか、安定してオークを屠っていたあるパーティが崩れる。
「ヤバい!」
ミュウが慌ててそのパーティの下に駆け寄り、オークを牽制する。
その間にパーティが体勢を立て直す。
「ミュウ危ない!」
私の放つ魔法がミュウを背後から襲おうとしていた金棒を弾き飛ばす。
「ミュウ、コイツ引き離すよ!」
私はミュウの下に飛び降りると、魔法で牽制しつつ、戦場を変えるために移動する。
「くっ……まさかこんなのが隠れていたなんて。」
ミュウはソイツに飛び掛かり、攻撃を加えながらパーティから離れる様に誘導していく。
「とにかくオーク達から引き離さないと。」
冒険者たちが安定して戦っていられるのは相手がオークだからだ。
しかし、オークを相手にしている所にこんなのが現れたら……。
一度崩れたバランスを立て直すのは、経験豊富なパーティでも難しい。
そして崩れたところに攻撃を喰らえば、無事では済まないだろう……一気に情勢が変わることだってある。
幸いにも残っているオークの数は少ないから、私達がコイツを相手にしていれば、それ程の時間を掛けずにオークは殲滅する事が出来る。
それまで持たせればいいだけの事……なんだけど。
「ミュウ、ちょっとヤバいかも。」
「引き離すつもりが、罠だったってか。」
オークと冒険者たちが戦っている場所から少し離れところ……そこには3体のオーガが待ち構えていた。
瓦礫の影に隠れながらミュウがそういう。
「想定外だったねぇ。」
私はポーションをミュウに渡しながら答える。
「ホント、ミカゲといると想定外の事ばっか。」
「だから、私の所為じゃないって言ってるでしょ。」
「あはは……。取りあえずアレを何とかしないとね。」
「ウン、オーガ4体と、その奥のオーガロード……アレをやっつければ今回の件解決だね。」
「そういう事……行くよ!」
私とミュウは瓦礫の影から飛び出して、一番近いオーガに飛び掛かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「どうだった?」
斥候から戻ってきたミュウにお水を渡しながら聞いてみる。
「あぁ、オークがウヨウヨいたよ。50頭以上はいるね。」
「50頭以上ねぇ……エクスプロージョン一発で終わりってわけにはいかないかぁ。」
「ゴブリンシャーマンもいたからね、魔法障壁は張ってあると見た方がいいよ。」
「そっかぁ……もう少し周りも調べてみないとね。」
私は、ミュウにそう告げると場所を移動することにした。
オーク砦の調査の依頼を受けた私達だったけど、現地に来て事前情報に不備がある事を知ったのね。
『あるパーティが命がけで持ち帰った情報』をもとにギルドは対策を立てていたんだけど、その『あるパーティ』が本当はBランクのパーティで『命がけで持ち帰った』というより情報をもたらした人以外のメンバーが全滅していたという事迄は知らされていなかったの。
確かに嘘ではないけど、ここまで情報の落差が大きいと、ギルドの対処方法が変わってくるのよ。
対処を間違えると二次被害が大きくなるから、ギルドは情報は正確に詳細にと常々言っていたんだけど、報告した職員が新米さんでヘンなプライドがあったため、「放ってはおけないけどそれ程脅威ではない」と言う様な報告になっちゃったのが原因なのよねぇ。
流石のメルシィさんも「Bランク冒険者が全滅した」って聞いてたら私達のこの依頼を回さなかったと思うのよ……たぶんだけど。
◇
「オーク50頭以上にゴブリン達までいるって!!」
私とミュウの報告に周りの冒険者からどよめきが走る。
彼等はギルドマスターが集めてくれたCランクの冒険者たちで、今回の作戦に参加してくれる予定の人達だ。
作戦の決行は明後日の予定なので、今夜中に作戦を伝えるために集まってもらったんだけど……。
「正確にはオークが約70頭、中には将軍クラスが数頭混じっているわ。ゴブリン属は全部で約90匹、中にゴブリンシャーマンが20匹、ゴブリンアーチャーが30匹程いる。それからコボルトが約50匹で、数体のトロールを引き連れているのを確認しているわ。」
ミュウがそう告げると周りの騒めきが鎮まる。
「マジかよ……、俺達だけでやれるのか?」
冒険者の誰かの呟きが起点となり、周りに動揺が走る。
「ええい、静まれっ!まだ途中だっ!」
ギルドマスターの一喝で、冒険者たちの騒めきが収まる。
流石だねぇ、伊達にマスターは名乗ってないね。
私は御礼代わりに、ニッコリと微笑んであげたんだけど、ギルドマスターは何故か顔を蒼褪めさせ、視線を逸らした……何故?
「今言った数は今日確認できた分だけだけど、出入りのチェックもしたし、誤差は数頭の範囲に収まると思うの。ただ、Bランクの冒険者が全滅したという事を考えると、全体の戦闘力はかなり高いと見た方がいいわね。」
ミュウの言葉に、その場にいた人々の間に緊張が走る。
「作戦の決行は明日なんだけど、ゴブリンやコボルトは数が少ないとおもうわ。」
「どういうことだ?」
「マリアちゃん、説明お願い。」
「ハイ、分りましたわ。」
ミュウに促されてマリアちゃんが説明を始める。
「私達は、近くの農村で話を聞いてきたのですが……。」
マリアちゃんとクーちゃんはゴブリンに襲われたという農村に行って色々調べてきてくれた。
その結果、ゴブリン達は3日置きに同じぐらいの規模で、同じルートで攻めてくるらしいのね。
だから次回の襲撃に合わせて作戦の決行を明後日にしたのよ。
「毎回、攻めてくるゴブリンは大体30~40匹、コボルトが40~50匹前後と、かなりの数が襲ってきます。」
流石にこの規模になると、村人たちでは手に追えず、みんな家に閉じこもってやり過ごしているんだって。
「ですから、砦のゴブリン達の大半は農村へ向かいます。」
マリアちゃんはそう締めくくるとミュウに場所を譲る。
「今日集まってもらった中から2パーティと他Dランクの2パーティで農村の防衛に向かってもらいたいと思います。ウチからは今日情報収集に行ってもらったマリアとクーをつけるので、現地では彼女らの指示に従ってもらえますか。」
ミュウの言葉に、一瞬騒めきが起きるがすぐに静まる。
ギルドマスターが事前に良く言い聞かせてくれた結果かな?
部下のミスはあったものの、結構優秀なんじゃない?と私たギルドマスターへの評価を改めるのだった。
「じゃぁここからはオーク砦の攻略ね……ミカゲ、お願い。」
ミュウに請われて、私が前に出る。
私は用意してもらった大きな木版に砦とその周辺の大体の地図を描く。
「まず、AパーティとBパーティの皆さんはここへ、CパーティとDパーティの皆さんはここに身を隠します。」
私は図に書き込みながら説明を始めた。
私の立案した作戦は結構単純な物……というか、連携も碌に取れない即席の団体じゃぁ難しい作戦なんて立てても無駄だと思うのよね。
なので、まずは私が砦に対して最大火力のエクスプロージョンを放つ。
まぁ、シャーマンたちの魔力障壁の強度にもよるけど、この攻撃では数はそう減らせないとみてる。いい所10頭程度かな?
その攻撃に驚いてオーク達が出てくると思うのでそれに対し、各所に配備したパーティが魔法や弓などの遠距離攻撃で各個撃破。
ここで、私が広範囲魔法を放てれば大夫数が減らせると思うけど、これはその場の状況次第かな?
出来ればこの時ゴブリンアーチャーやゴブリンシャーマンを優先的に倒すようにすれば後がグッと楽になるんだけどね。
で、その攻撃を乗り越えて、敵は迫ってくるから、後はパーティごとに各個撃破してもらう。
各パーティの位置はバラしてあるから、オーク達もばらばらに襲ってくるはず。
群れなければCランクの冒険者ならオークは余裕で倒せるでしょ?
まぁ、1パーティあたり12~13頭は倒してもらう必要はあるんだけどね。
私とミュウは遊撃、全体を見て1つのパーティにオークが群れて向かわないように寸断するのが役目。
ちょっと大変だけどね、出来なくはないと思っているのよ。
この作戦をあらかじめミュウに相談したんだけどね……。
「最初の魔法だけど、エクスプロージョンじゃなくて、この間のイグニスなんちゃらとか言うアレにしたらもっと減らせる事が出来るんじゃないか?」
「ウン、出来なくはないけど、あれだけの範囲になると魔法陣を完成させるまでに2~3分かかるからね、その間にゴブリンシャーマンに感づかれて妨害されると思うよ。それに、もしうまく発動したとしても、その後私は戦線離脱しちゃうから、長い目で見ればあまり得策じゃないよね。」
と言う様な会話の流れもあって、結局エクスプロージョンのままで行く事になったんだけどね、よく考えたらメテオストライクでも行けるかもしれない……この辺りは後でミュウと相談だね。
私が大まかな説明をした後、各個に細かい戦略、戦術を詰めた話し合いが行われ、夜が更けた辺りで解散となった。
◇
「マリアちゃんもクーちゃんもお疲れ様。」
私はミュウを含めた三人に労いのお茶を入れる。
「明後日は二人とも気を付けてね。」
「えぇ、私達よりミカゲさん達の方が心配ですわ。こっちは数が多いとはいえ、所詮はゴブリン、コボルト。Cランクパーティが二組とDランクパーティ二組がいれば殲滅は時間の問題ですからね。」
「でも、油断は禁物だよ。行動パターンからしてリーダーはいないと思うけど、ひょっとしたらそう見せるための布石って事もあるからね。」
ゴブリンが今回の様に毎回同じルートで同じ襲撃をするのは、彼らの知能が低いせいだ。
つまり「前上手くいったから今回も」というわけである。
しかし、中には進化したホブゴブリンやゴブリンリーダーなど知恵が回る個体がいる事もあり、そういう個体に率いられたゴブリン達は時々こちらが思いもかけない行動をとる事があるので要注意だった。
もし群れの中に知恵ある個体が紛れ込んでいたら、今回も前回と同じだろうと思わせておいて裏をかく、って事は十分にあり得る話なので、私はマリアちゃんとクーちゃんに十分注意を促しておく。
「ウン、ミカ姉の言う通り、その可能性も考慮しておくね。」
「クーちゃんは余り前に出ないようにね。マリアちゃんから離れずマリアちゃんの護衛に徹すること。」
私はクーちゃんを抱きしめながらそう言う。
本当はクーちゃんには留守番をしていてもらいたいけど、本人が一緒に行くことを強く望んでいるから仕方がない。
最近は訓練の模擬戦で私より強くなっているし、エストリーファの力を借りたバトルモードでいられる時間も長くなってきているけど、それでもお姉ちゃんは心配だよぉ。
「私はミカ姉たちの方が心配だよ。相手はオークでしょ?」
クーちゃんが心配している通り、魔法使いやミュウの様な手数で勝負する軽戦士にとって、実はオークやオーガの様な所謂「脳筋体力馬鹿」とは相性が悪いのよ。
奴等は、腕が無くなる程度の怪我をものともせずに突っ込んでくるので、ヘタな魔法使いでは足止めにならず、止めを刺す前に間合いを詰められちゃうんだよね。
それは軽戦士も同じことで、まともに斬り合ったら致命傷を与える前にこちらがスタミナ切れを起こすという事が多々有ったりして、仕留めきれないって事が多いの。
奴らとやり合うには、盾や大剣使い、斧使いなどの、同じ「脳筋体力馬鹿」の前衛職がいないと苦労するんだよね。
「大丈夫だよ。今回私達は遊撃隊だからね。」
「ならいいけど……本当に無茶したらダメだからね。」
まだ心配そうなクーちゃんを私は膝の上に乗せて抱きしめる。
普段なら嫌がってジタバタする彼女がやけに大人しい。
「本当、大丈夫だから心配しないで。」
私はクーちゃんの耳元で優しく囁いた。
◇
「……3,2,1……エクスプロージョン!」
私の放つ魔法がオークの集落を襲う。
建物が吹き飛び、瓦礫が舞い上がる。
予測通り、建物が壊れただけで、オーク達にほとんど被害がなさそうだが、突然の出来事に慌てふためく姿が見える。
様子見に出て来たオークやゴブリンシャーマンの姿が見えたところで、私は待機していたもう一つの魔法を放つ。
「……からのぉ……スターダスト・レイン!」
光に包まれた無数の礫が、建物を、瓦礫を、オークの身体を……その場にあるあらゆるものを貫いていく。」
これでかなりの数を減らせたはず。
私がそう考えた時ミュウの声が響き渡る。
「各員攻撃開始!」
冒険者たちが、身を隠したまま、弓矢や魔法でオーク達を襲撃する。
この頃になってようやくオーク達の反撃が始まった。
オーク達は得物を手にして、思い思いに冒険者たちに向かって行く。
近づいてくるオークに、魔法が放たれその身体にダメージを負わせる。
腕に、腹に、矢が突き刺さる。
しかしオークはものともせずにパーティに向かってくる。
初めてオークに相対したものや、戦闘に慣れていない者達はこの辺りで心が折れる。
いくら魔法や弓矢で攻撃しても倒れずに向かってくる様は相対している者にとって恐怖でしかないだろう。
しかし、今相手にしているのは曲がりなりにもCランクの冒険者。
オークとの戦闘は星の数ほどこなしている猛者であり、その怖さも、弱点も知り尽くしているのである。
魔法使いがオークの間合いに入る前に、盾を持った戦士が、オークが振り下ろしたメイスを受け止める。
その隙に背後から大剣使いの戦士がオークの身体を斬り裂く。
オークが振り向いたところを、盾を持った戦士の剣が首を刎ねる……それで終わりだ。
首がなくなったオークの巨体が崩れ落ちるのを無視して、パーティは次のオークへ斬りかかる。
盾を持った戦士と鍔迫り合いをしている間に、魔法使いの放つ魔法が襲い掛かる。
バランスを崩したところで大剣使いがトドメの一撃。
「はぁ、慣れたものねぇ。」
「ん、何が?」
私の呟きを、丁度戻ってきたミュウが聞き咎める。
「うん、Cランクの冒険者って戦い方が上手いんだなぁって。」
私が指さした先には、丁度オークに止めを刺すパーティがあった。
「まぁ、アイツ等はCランクの中でも特にオーク狩りの経験が豊富な奴らを集めて貰ったからね。」
ミュウは双剣に付いた血糊を払いながらそう言ってくる。
「そうなんだ。でもこの様子なら私達の出番は、もうないかもね。」
各パーティとも安定してオークを屠っている。
流石に5~6頭目ともなると最初程の早さは無くなってきているが、それでも安定した戦い方だった。
私とミュウはこの木の上から全体を見回しつつ、遠距離から狙っているゴブリンアーチャーやゴブリンシャーマンを倒していたのだが、それらの姿ももう見えない。
後はオーク達が一か所に固まらない様に誘導するだけでよかった。
「少しぐらいは私の見せ場が欲しいけどな。」
ミュウが笑いながらそう言う。
その言葉がトリガーになったのだろうか、安定してオークを屠っていたあるパーティが崩れる。
「ヤバい!」
ミュウが慌ててそのパーティの下に駆け寄り、オークを牽制する。
その間にパーティが体勢を立て直す。
「ミュウ危ない!」
私の放つ魔法がミュウを背後から襲おうとしていた金棒を弾き飛ばす。
「ミュウ、コイツ引き離すよ!」
私はミュウの下に飛び降りると、魔法で牽制しつつ、戦場を変えるために移動する。
「くっ……まさかこんなのが隠れていたなんて。」
ミュウはソイツに飛び掛かり、攻撃を加えながらパーティから離れる様に誘導していく。
「とにかくオーク達から引き離さないと。」
冒険者たちが安定して戦っていられるのは相手がオークだからだ。
しかし、オークを相手にしている所にこんなのが現れたら……。
一度崩れたバランスを立て直すのは、経験豊富なパーティでも難しい。
そして崩れたところに攻撃を喰らえば、無事では済まないだろう……一気に情勢が変わることだってある。
幸いにも残っているオークの数は少ないから、私達がコイツを相手にしていれば、それ程の時間を掛けずにオークは殲滅する事が出来る。
それまで持たせればいいだけの事……なんだけど。
「ミュウ、ちょっとヤバいかも。」
「引き離すつもりが、罠だったってか。」
オークと冒険者たちが戦っている場所から少し離れところ……そこには3体のオーガが待ち構えていた。
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