勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第二章 勇者のスローライフ??

領主との謁見~後編~

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「お前達が噂の『バニッシャー』か?」
 目の前に座る男性がそう声をかけてくる。
 この人が領主のクレイメン=エルザードその人で間違いない。
「『フェアリーメイズ』よ。ギルドに問い合わせればすぐわかる情報さえ得る事が出来ないなんて、可哀想ね。」
 私は言い返すと、周りが騒めく。

「なんて無礼な!」
「平民のくせに!」
「大体、平民の話を聞く必要なんかないだろ!」

 がやがやと騒がしいけど、先に喧嘩を売ってきたのはあっちだし、この男が黒幕かもしれないんだから強気で行かないとね。
 とは言うものの……見事に男の人ばっかりだなぁ。
 
「ミカゲ、私が代わるよ。」
 そんな私の気持ちを見透かしたかのようにミュウがそう言って一歩前に出る。
「領主様、ミュウと申します。遅くなったことはお詫び申し上げますが、そもそも時間の指定が無かったと思うのは私の勘違いでしょうか?」
 おぉ、ミュウの口調がいつもと違うよぉ。
 ウン、流石は私の嫁、何でもそつなくこなすねぇ。
 そんな事を考えていたら、ミュウが振り返ってニッコリと微笑む。
 すぐに顔を戻したけど、『誰がアンタの嫁よっ!』って言ってる気がした……ミュウって心が読めるんじゃないの?

「ウム、そうだな、そう言えば時間を言ってなかった気がする。」
「領主様が頭を下げる必要はありませぬぞ。平民なら呼び出されたら朝一で館の前で沙汰を待つのが当たり前。」
 領主が謝罪を仕掛けたところで側にいた側近の男が割込んでくる。
 っていうか、朝一で館の前に来て呼ばれるまで待ってるって、アホなの?
 誰がそんなことするのよ……だから貴族って奴は……。
 怒りでプルプル震えている私の拳をクーちゃんがそっと優しく包み込む。
(ミカ姉、堪えて。)
(ミカゲさん、他にも国は有りますから、派手にやってもいいですよ。)
 クーちゃん、マリアちゃんの言葉をきいたら、頭に上っていた血がすぅーと引いていくのが分かった。
 しかし、マリアちゃんの言ってる事って、要はこの国から逃げ出せばいいから好きに暴れていいよって事だよね?
 この子、ニコニコしていて誤魔化されがちだけど、私よりヤバいんじゃないかしら。

(ありがと、クーちゃんは優しいね。あとマリアちゃんのおかげで冷静になれたよ。)
(それならよかったですわ。)
 マリアちゃんは微笑みを絶やさずに軽く頷く。
 さっきのって、私を落ち着かせるためにわざと言ったんだよね?だよね?
 しかしマリアちゃんの笑顔からは本心を読み取る事は出来なかった。

 私達がそんなやり取りをしている間にもミュウと領主とのやり取りは続いていた。
 というか、殆どが領主の傍にいる側近たちの暴言をミュウが黙って聞いているという感じだったけど。
 だけど、さっきから聞いていたらグダグダグダグダと、意味の無い文句ばかり……それを許している領主ってどうなんよ。
 私は領主の様子を見ると、黙って、部下たちの様子を見ているだけだった。
 手元が何か動いているのが気になったけど、それ以上にただ見ているだけなのが気になった。
 でも、ミュウが黙って耐えているのを見て、私も黙っている。
 ここはミュウに任せたんだから、ミュウが何も言わない限りは私も黙っているべき……と思ったんだけどね。
「大体獣人風情が、我らと対等に会話しようなどと烏滸がましい。」
 ムッカァッ―――。
 あの頭の薄い男、今なんて言った?私のミュウに向かってなんて言った?

「そこの馬鹿、グチグチとさっきから黙って聞いてれば同じ事ばっかりネチネチと。大体、アンタは昨日どこにいたのよ?魔物を呼び込んでおいて、市民を護れなかった癖に何言ってんのよ!何も役立たずが偉そうにしゃべるなっ!」
「ミカ姉、抑えてっ!」
「このバカッ。人が何のために我慢してたと……。」
「あらあら。」
 三人が私を抑えようとするけど、もう止まらないよ。
 こんなクズどもは皆消えちゃえっ!
 私の身体から魔力が溢れ出す。

「な、何だ……。」
「ひぃっ、ば、化け物……。」
 そう叫ぶ男を私は一睨みする、ただそれだけで、その男は動かなくなる。
 私の魔力にあてられて、その場にいる貴族たちが次々と倒れていく。

「其処までにしてもらおうか。」
 気づいたら領主が剣を抜いて立っている。
「ふーん、剣を抜いたって事は、私とやり合うって事でいいのね。やっぱりアンタが黒幕だったんだ。」
「何のことだ?俺は領主としてこれ以上の暴挙を見過ごせないだけだ。」
「ふーん、力の無い平民は足蹴にして食い物にして、このクズたちは庇うっていうのね。お貴族様らしくて反吐が出るわよ。」
「だから、何の事だ!これ以上攻撃の意思を見せるなら、俺は領主としてキサマを反逆罪として処分するぞ。」
 私の魔力の威圧に対し意志の力で耐えている領主。
 中々の胆力だけど、だからと言って私を止められると思わないでよね。

 ◇

(クミン、マズい、ミカゲを止めなさい。レフィーアの加護もなしにあんなに魔力を放出したら暴走するわ。)
「そんなこと言っても……近づけないよぉ。」
「クッ、ミカゲのバカ……私が隙を見て抑えるから、クーはその剣でミカゲをぶっ叩け。」
「でも、それじゃぁ……。」
「大丈夫です、少々の怪我なら私が治しますわ。それに、こう言っては失礼ですが今のミカゲさんに対して、クミンさんが力の限りをぶつけても傷一つ付けるのも難しいかもしれません。」
「うぅ、分かっていたけど、そうハッキリ言われると傷つくよぉ。」
「怪我させる心配はするなって事、とにかく思いっ切り行くんだよ、いいね。」
「ウン、わかった。」
 
 ◇

「ミカゲさん、ストップですっ!お父様も剣を引いてください。何でまた同じことを繰り返してるんですかっ!」
 私が魔法を放とうとしたところにメルシィさんが割って入る。
「メルシィさんどいて、そいつ殺せない。」
「殺さなくていいんですっ!何物騒なこと言ってるんですかっ!!」
「メルシール、これはだなぁ……。」
「言い訳なんか聞きたくないです。大体、今日は穏やかに話し合うって言ってたじゃないですかっ!それが何でこんな事になっているんですか!」

 私は突然現れたメルシィさんに気を取られていた為、、背後の警戒がおろそかになっていた。 
 その為、この後に起きた奇襲への対処が一瞬遅れる。
 襲い掛かって来る者たちにとってはその一瞬で充分だった。

「しまっ……。」
 私の足が刈られ、そのままの勢いで体が傾く。
「クー、今よ!」
「ウン、ミカ姉、ゴメンっ!……アフェクション!」
 こちらに向かいながらキーワードを唱えるクーちゃん。
 一瞬でバトルモードにチェンジしたクーちゃんが持つエストリーファの剣が私に向かって振り下ろされる。
 って、マジでヤバいんですけどっ!

「ディフェンション!」
 私の身体が光に包まれバトルモードにチェンジする。
「ふぅ、危ないじゃないのっ!」
 ギリギリで変身が間に合い、身体に張られた防護結界がクーちゃんを弾く。
「ミカ姉ダメっ!」
 弾き飛ばしたクーちゃんが、空中で態勢を整え、着地度同時に私に飛び掛かり抱き着いてくる。
「よし、クー、そのまま抑えてて。」
 ミュウの声が背後から聞こえたかと思うと、私の身体に縄が巻き付く。 
 えっ、何これっ?どゆ事??



「えっと、その……お騒がせしました。」
「いや、こちらこそ悪かった。」
 ミュウと領主が互いに頭を下げている。
 私達がいるのはプライベートエリアにあるサロン。
 さっきまでの部屋は色々大変な状況になっているので場所を移したのだけど……。
 今この部屋には私達4人と目の前に座っている領主とその横にいるメルシィさんの6人だけ。
 ちなみに私はミュウの手によってぐるぐるに縛られていて、その横にはクーちゃんが逃げない様にと私にしがみついている状態なのね。
 こんなんじゃ、折角出されたお茶も飲めないんだけどなぁ。

「取りあえず、そろそろメルシィさんの事教えてもらってもいいですか?」
「あ、これは失礼しました。」
 ミュウの質問にメルシィさんが笑って答える。
「私、メルシール=エルザードと申します。ここの領主の娘です。」
 騙すつもりはなかったの、とやっぱり笑いながら言うメルシィさん。
 まぁ、領主の事を「お父様」って呼んでたからね、分かってはいたけど……。

 メルシィさんの話によれば、正体を隠して数年前からギルドの職員として働いていたらしい。
 目的はもちろん、ギルド内の監査。
 他の組織と違い冒険者ギルドはかなりしっかりとした組織だけど、それでも腐敗の種はどこにでも存在する。
 ギルドとしてもやましい事が無いという事をアピールする為、その地の施政者からの監査官を積極的に受け入れる様にしているとの事だった。
 ちなみにメルシィさんの正体を知っているのはギルドマスターだけらしい。
 
「ミカゲさん、ミュウさん、マリアさん、クミンさん、ごめんなさい。改めて謝罪させていただきますね。」
 そう言ってメルシィさんが頭を下げる。
 何か言いたいけど、今の状態じゃぁ喋る事も出来ない。
 私はミュウにそう目で訴えると、ミュウは諦めた表情で聞いてくる。

「余計な事、言わない?」
 コクコク。
 私はミュウに頷き返す。
「怒らない?」
 ……。
「怒らない?」
 私が黙っていたらミュウが少し低い声で再度問いかけてくる。
 コクコク……。
「大人しくできる?」
 コクコク。
「仕方がないわね。」
 ミュウはそう言って私の猿轡を外してくれる。

「ぷふぁっ……ミュウ酷いよぉ。後、これも解いて欲しいんだけど……。」
「黙りなさい。」
「はぁい……。」
 まぁ、喋れるようになっただけましという事にしておくよ。

「で、えーと、メルシィさん……メルシィさんでよかった?それともメルシール様とか姫様とか呼んだ方がいい?」
「今まで通り、メルシィと呼んでいただければ。」
「ん、それで、謝罪って何に対する謝罪なの?お姫様。」
 私の言葉に周りの空気が凍り付く。
「ミカ姉!」
 クーちゃんが抗議してくるけど、私は怒ってるんだからね、激おこなんだよ。

「私からは、正体を隠していた事と、今回の依頼によって迷惑をおかけした事、後はスムーズに事が運ぶように間を取り持ったのに、結果としてミカゲさんがお怒りになる結果を招いてしまった事に対して、ですね。」
「そして、私からは部下の非礼と諸々掛けた迷惑についての謝罪と街を救ってくれた事に対する感謝を……色々申し訳なかった。そしてありがとう。」
 そう言って領主が頭を下げる。
 えっと、えーと……どうしよう。
 私はオロオロとしながらクーちゃんやマリアちゃんを見るが二人ともぶるぶるッと首を振る。

「ミュゥ……。」
「そんな目で見なくても……二人とも頭をあげてください。お気持ちは十分伝わりましたから。ねっ、ミカゲ。」
 私はそんなミュウの言葉にコクコクと大きく頷く。
 相手が失礼ならこっちもそれに対抗するだけでよかったけど、こんな風に礼儀正しくされたら……どうしよう、どうすればいいのよぉ。

「えっと、ミカゲがテンパっちゃったので、この後の話は私が聞きますね。後、育ちが良くないので口の利き方とか態度とかは御目溢しいただけると助かります。」
「はい、普通にしゃべっていただいて構いませんから。余り畏まられても、しっかり意思疎通がでいているかどうか分かりませんので。」

「そうだな。で、本題に入るが、ゲーマルク子爵が行っていた事だが……。」
「これを見て貰った方が話しが早いですね。」
 ミュウが例の裏帳簿を見せて話を続ける。
 時折メルシィさんがギルドで得た情報を交えながら補足していく。

 色々話を聞いた結果をまとめると、一言でいえばゲーマルク子爵の独断による着服との事だった。
 各種公的事業には上手く子爵が取り入って責任者となっていて、当初は報告やその進捗状況など見事な手腕を見せていたので、領主も安心して任せていたという。
 数年もそのような状況が続くと、他の政策もある為事業に関してはゲーマルク子爵に任せっきりになったという。

「まさか、あのような状況になっているとは思わなくてな……こちらの監督責任を攻められても申し訳ないと思っている。」
 再度頭を下げてくる領主。
 あー、領主がそんなに頭を気軽に下げてもいいの?って却って心配になってくる。
 この少しの時間で、領主の人となりが分かった気がする。
 貴族らしい教養と知識それから領主としての能力はずば抜けているらしいけど、底抜けに人がいい。
 私達のような平民の冒険者に対して、素直に非を認める所なんかがその最たるものだと思う。
 街で集めた情報の中では領主を悪く言う声は殆どなかった。
 税率が上がった事についても「御領主様のお考えがあるから仕方がない」と苦しい癖に好意的に受け止めていた。
 あのような目にあっている孤児院のシスターサレアでさえ、「今無事に暮らせるのは御領主様のおかげ、支援金がなくなったのも深い事情があっての事でしょう」と、領主に対して好意的だった。
 ゲーマルク子爵……というよりその裏で操っている者は、その領主の評判をも利用していたに違いない。

「そうですね、その事についてはギルドとしても謝罪をしなければならないと思います。」
 メルシィさんはそう言って領主に頭を下げる。
 なんでもゲーマルク子爵は公共事業や税率増加の件に関してはギルドの眼に触れないようにうまく立ち回っていたらしい。
 そしてどこで知ったのか分からないが、ギルドの情報部の人材を何人か取り込み、自分にとって都合のいい報告をさせていたんだって。
 だからメルシィさんが情報を集めてもおかしい事は見つからなくて、でも実際におかしなことが目の前で起きているのを知って、私達に依頼すれば掻きまわしてくれて相手も尻尾を出すだろうって考えたらしいの……失礼しちゃうよね。
 まぁ、結果として目論見通りになったんだけど……。

「しかし、子爵は生真面目であのような事をする人物ではなかったはずなんだが。」
 場の意雰囲気を変えようとするかのように領主が口を開く。
「その事なんだけどね、ってクーちゃん私動けないよ。」
「大丈夫です、あの資料だね。」
 そう言いながらクーちゃんはしまっていた資料を領主とメルシィさんに渡す。
 いえ、あの、私が渡すから解いてって意味だったんだけどなぁ……。
「ミカ姉はもう少し反省するといいですよ。それにその縋る様な眼のミカ姉は可愛いです。」
 そう言って私の頭を撫でてくるクーちゃん。
 いつもと逆の立場に喜んでいるらしい……ま、いっか。

「これは!?」
 資料に目を通した領主とメルシィさんが驚愕の声を上げる。
「ニュースソースは明かせませんが、間違いのない情報です。その資料に書いてあるようにゲーマルク子爵は魔族に操られて・・・・・・・いました。」
 私の言葉に領主とメルシィさんは「まさか」とか「そんな」とか呻き声をあげていた。

 驚くのも分るけど、ゲーマルク子爵が変貌した姿の情報と採集した破片をアイちゃんに調べてもらった結果なので間違いないのよね。
 アイちゃんの分析によれば、子爵が変貌したのは魔族によるメタモルフォーゼの暴走との事だった。
 魔族が人族に力を与え、ある一定条件をクリアすると魔族への進化?が可能になるらしいのね。
 ただ、その成功率は数%以下との事で、与えられた魔力の量や質、基になる人間の素養が合わなければ暴走して魔物へと変化するらしい……というか、魔物に変貌するのはまだましな方で、殆どの場合身体が破裂して死亡するらしい。
 ゲーマルク子爵の場合、中途半端に素質があったん仇と思うけど、魔族の介入を受けてもしばらくの間は自我を保っていた為、見た目でわかる変化が無かった。
 まぁ、そのせいでこんなことになる迄事件が発覚しなかったって言うのは皮肉な話なんだけどね。

「まぁ、だから、起きた事よりこれからの事を話し合った方が建設的だと思うのよ。」
 私の言葉に、その場にいた全員が頷いた。
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