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第二章 勇者のスローライフ??
領主との謁見~前編~
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(……ゲ……ミカゲ……。)
……ん、なぁに……。
(ミカゲ、ボクが分かる?)
……レフィーア?レフィーアなの?どこ行ってたの?
(色々話したいこと一杯あるけど、時間が無いから用件だけ言うね。)
……あ、うん……。
それからしばらくの間レフィーアの言う事を黙って聞く。
簡単に纏めると、魔族の干渉があったせいで、レフィーアが本来いるべき女神の属する世界に混乱が起きたため急遽そちらに戻っていたんだって。
ただ、いない間の私が心配でセーフティモードにしていたのが、私が変身したままの理由だったみたい。
あと、その混乱収拾の為にしばらくかかりきりになるので、私達の元に戻るのに時間が掛かるらしい。
(ボクはしばらくソッチに行けない。だけどそのままじゃミカゲも大変だと思うから、この魔石を預けるよ。後、アイちゃんの規制を緩和しておいたから分からないことがあればアイちゃんに聞いて。)
……あ、待って。
そのまま消え去ろうとするレフィーアを呼び止める。
……レフィーアは大丈夫?無理してない?
(無理しないとね、いけない時もあるの。ミカゲなら分かるでしょ?)
……ウン、それでも無理しないで欲しいな。私達は待ってるから早く戻って来てね。
(……ボクがいなくて淋しいからって、ミュウやクミンにあんまり迷惑かけないようにね。じゃぁ……。)
レフィーアは笑いながらそう言うと、現れた時と同じように消えていった。
◇
「ん……お姉ちゃん、寒いよぉ、まだ眠いよぉ……。」
私が目を覚まし、身を起こそうとすると、その気配を感じっとったのかクーちゃんが毛布を引っ張って丸くなる。
「うっ、確かに寒いね。」
私はそう言って初めて自分の姿に気づく。
衣類を纏っていない生まれたままの姿だった。
まさか、クーちゃんと!
(そんな訳あるかーい!)
どこからかツッコミの声が聞こえた気がした。
そう言えばお風呂から出てそのままだっけ。
どうせすぐレフィーアの装備になるんだからってそのままでいたんだよね。
でも、じゃぁ、何で……。
何気なく手をやった胸元に触れる感触……ペンダント?
そのペンダントを手にすると、先程の夢が思い出される。
あれ、夢じゃなかったんだね。
待ってるからね、と私はペンダントトップの魔石を撫でると、布団の中に潜り込む。
夜が明けるまでにもう一眠りできるはず。
「うーん、お姉ちゃん、寒いよぉ……。」
クーちゃんがすり寄ってくる。
ウン、寒いね。
私はクーちゃんを抱き締めようとして、悪戯心が湧き上がる。
「クーちゃん、寒いときはねぇ、人肌で暖め合うといいんだよぉ。」
そう囁きながら、クーちゃんの寝間着を捲り上げると未成熟な二つの膨らみが露わになる。
うっ、クーちゃん年下なのにぃ……。
私と大差ないその膨らみに手を触れると、クーちゃんが「うーん……。」と身を捩る………可愛い……ってダメダメ。
コレじゃぁただのエロい人だよ。
私はクーちゃんの寝間着を取り払うと、ギュッと抱き締める。
少し寒かったのかクーちゃんも抱き付いて来る。
その様子に満足した私は、そのまま眠りについた……。
「きゃぁ……な、何で……。」
私が次に目を覚ましたのは、そんな叫び声のせいだった。
「んー、クーちゃんどうしたのぉ……?」
「み、み、ミカ姉……責任はとるからぁっ!」
クーちゃんの悲痛な叫びが部屋中に響き渡った。
◇
「ぷっ……わははっ……それで責任をとるって……ククク……。」
朝食の席で、騒ぎの事情を聴いたミュウが笑い転げる。
「あらら、クミンさんに寝取られてしまいましたか、残念です。」
にこやかに笑うマリアちゃん。
「もぉ―、そんなに笑わないでよ。私だってびっくりしたんだからぁ。」
そんな二人にクーちゃんがぷんぷんと頬を膨らませる。
「いや、だからって、責任を取るって……くくく……。」
「だって、朝起きて裸の女の人が横で寝ていたら、そういう事だからって本に書いてあったし……だったら責任取らなきゃって……。」
笑い続けるミュウをジト目で見ながらクーちゃんが呟く。
……まぁ、原因の私が言うのもなんだけど、クーちゃんは何の本を読んでいるのか気になるよね。
そんな事を考えながらお茶を飲んでいたらクーちゃんの矛先がこっちに向く。
「大体ミカ姉が悪いんでしょ!何をのんきにお茶飲んでるのよっ!」
「ゴメンナサイ……。」
クーちゃん激おこでした。
「それで、今日は領主と会うんだろ?食事したらすぐ出る?」
「んー、お昼過ぎでいいんじゃないかな?お貴族様って昼過ぎまで寝てるって聞いたことがあるよ。」
「そうなの?」
「ん、たぶん。」
「じゃぁお昼を早めにして、それから出よっか。」
「そうだね、じゃぁ午前中はなにしよっかなぁ。」
「私は動物達と畑の世話をしていますわね。」
マリアちゃんはそう言って食器を片づけ始める。
「あ、良かったら色々教えて欲しいけど、ダメ?」
午前をどう過ごそうかとミュウと話をしていると、片づけを終えたクーちゃんがそう聞いてくる。
「そうだね、クーの今の実力を知るのも必要だね。」
カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!
木剣同士が打ち合う音が響く。
クーちゃんが剣を振り下ろすと、ミュウは片方の小剣でそれを受け止め、もう片方の小剣をクーちゃんの喉元に突きつける。
一度間合いを取り、再度クーちゃんが斬り掛かるけど、すでにその場にミュウはいなくて、気付いた時には背後から喉元に剣を突き付けられている。
そのようなことを何度か繰り返していると、やがて力尽きたのかクーちゃんがその場にうずくまる。
それを見たミュウが「休憩にしよう」といって私の方へやってくる。
「お疲れ。どんな感じ?」
「やっぱりダメね。」
ミュウは水分を取りながらそう言った。
まぁ、今見てた感じ、エストリーファの力を借りてもミュウの身体に掠りもしなかったしね。
「そんなにダメダメですか?」
クーちゃんがションボリうなだれながらそう聞いてくる。
「あ、違う違う、そうじゃなくて……。」
ミュウが慌てて説明を始める。
「クーはまず剣術の基本を覚えるべきだと思うの。今の段階で私みたいな変則的な相手とやっても変なクセがつくだけであまりよくないと思うのよ。」
「成る程ねぇ、でも私じゃ相手にならないしなぁ。」
今の私では、エストリーファの力を使っていないクーちゃんとほぼ同等。
身体強化を使って何とか勝てるって言うレベルだから訓練相手としては物足りないとおもう。
「誰か指南してくれる人がいないか、メルシィさんに相談してみようか?」
「それがいいかもね。」
私の提案にミュウが頷いてくれる。
「そうと決まったら、次は魔力操作の訓練ね。」
私はクーちゃんを立ち上がらせると、その手に桧の枝を渡す。
「前に言ったように、身体の中の魔力を右手に集めるように集中して……そうそう、上手ね。」
今までに何度も繰り返して来たことなので、ここまではクーちゃんもスムーズに行うことが出来る。
「じゃぁ次の段階ね。右手に集まった魔力をそのまま桧の枝に流し込んで……十分に流し込んだら、表面を覆うようにして、そのままの状態を保持するの……うん、上手にできてるよ。」
「やった……って、あぁっ。」
私が褒めるとクーちゃんは嬉しそうな表情を向ける。
けど、それで集中が切れたのか、枝に纏っていた魔力が拡散して消えてしまう。
「あーあ……。」
がっくりと肩を落とすクーちゃんに、私は魔力を纏わせた枝を振りながら説明する。
「最終的には他に意識を向けていても魔力を保持出来るようにならないとね。」
そう言いながら、ミュウの尻尾を触ろうとして逃げられる。
その一連の動作の間にも桧の枝に纏わせた魔力はそのままだ。
「まずは枝を振っても魔力が保持できる様になることを目標にやってみればいいよ。」
「うん、やってみるね。」
クーちゃんはそう返事をすると、魔力操作の練習を始める。
クーちゃんは簡単な魔法が使える……あくまでも使えるだけであって、戦いの場で役に立つ訳ではない。
剣術もまだまだ未熟なので、やはり戦いの場に出るには早すぎる。
それをよく知っているのはクーちゃん本人でだからこそ力を求めたんだと思う。
守られるのではなく、肩を並べて戦うことを選んだ彼女の意志は尊重したい。
でもやっぱり心配で……。
悩んだ挙げ句に出した結論は、戦えるだけの力を、戦い方を教えることだった。
使えるモノはすべて使うと言うことで、私がクーちゃんに示したのは「魔法剣士」としての道。
剣士として急激に成長することは出来なくても、クーちゃんの魔力を纏わせた魔力剣が使えるようになれば、それだけで単純に火力アップが見込めるし使える手札も増える。
一般的には魔法剣士は効率が良くないと忌避されているらしいけど、クーちゃんにはあっていると思うのよ。
「剣に魔力を纏わせたまま戦えれば、それだけで攻撃力が上がるし、物理攻撃が効かないアストラル系の敵にもダメージを与える事が出来るようになるからね。」
私はクーちゃんに説明しながら、自分の剣に魔力を纏わせる。
「ここまでできる様になれば上出来だよ。」
私は遠くの樹木を標的にして剣を振るうと、剣先から魔力が飛び出して、樹木を斬り裂く。
「凄いっ!今のは??」
クーちゃんが尊敬の眼差しで私を見てくる。
ふふん、クーちゃんの尊敬いただきだよ。
「纏わせた魔力を放出しただけよ。慣れるとね、単純な魔力を放出するだけじゃなく、剣を起点にして魔法を使う事だって出来るんだよ。」
私は地面に剣を突き立てて魔力を流す。
「こんな風にね……エクスプロージョ……キャッ。」
「バカっ、よせっ!」
いきなりミュウに引き寄せられる。
「何するのよ、危ないじゃないのっ!」
「危ないのはミカゲよっ!何しようとしてたのよっ!」
「何って、エクスプロージョン……って、あっ!?」
アハハ……ミュウが止めてくれなかったら、この辺り一帯吹き飛ばしちゃうところだったよ、失敗失敗。
「ミカ姉は、すぐ調子に乗るんだから、そのくせ直さないとメッ、だよ。」
クーちゃんにまでダメ出しを……姉の威厳がぁ!
「まぁ、そろそろ昼食の時間だし、戻ろう?」
「うん、そうね。」
「あ、ミカ姉、ミュウお姉ちゃん、今日はありがとうございました。」
戻ろうとした私達の前に立って、クーちゃんが頭を下げる。
「いいんだよ、でも出来るようになるかどうかはこれからのクーちゃん次第だからね。レフィーアと同じく、エストリーファの力が示すのはただの可能性。どんな才能や将来性があっても、それに向かって努力しなければ得られないんだからね。」
「ウン、私頑張るね。」
拳を握って決意を新たにするクーちゃんも可愛いなぁ。
「わわっ、ミカ姉苦しいよぉ。」
「ほらほら、じゃれてないで、さっさと帰るよ。」
「あー、ミュウお姉ちゃん、見捨てないでよぉ。」
「あれぇ、クーはミカゲの責任を取るんでしょぉ?」
「もぉ―、それは言わないでっ。」
腕の中でジタバタともがくクーちゃんと、笑いながらからかうミュウ。
ホント、楽しいなぁ。
◇
「遅いですっ!何やってたんですかっ!」
領主の館の前でメルシィさんが出迎えてくれるけど、何故か怒っている。
「だって、お貴族様って、昼過ぎまで寝てるんでしょ?気を使ったんだけどなぁ。」
「そんな貴族はごく一部だけですっ!」
「あ、いるんだ、そう言う貴族。」
「あぁ、びっくりだよ、てっきりミカゲがいつものように適当に言ってるんだと思ってたよ。」
「まぁ、ミカゲさんのいう事ですから。」
「そうだね、ミカ姉だしね。」
「そこの三人、うるさいよっ!」
「あー、もういいですから早く行ってください、御領主様がお待ちですよ。」
口々に私をディスる三人に文句を言っていると、メルシィさんに急かされる。
「行ってくださいって……メルシィさんも一緒じゃないの?」
「私は少し準備がありますから、後でお伺いいたしますわ。……ここの奥が謁見の間ですので、行ってらっしゃいませ。」
メルシィさんはそう言って私達を屋敷の仲間で引き入れるとどこかへ行ってしまった。
「仕方がないねぇ、行きますかぁ。」
私達はメルシィさんに代わって案内をしてくれる館のメイドさんの後をついていく。
目の前の扉が開かれる遠くへ進むように促される。
「遅かったな、待ちかねたぞ。」
私達が部屋の中に入るとその様な言葉で出迎えられた。
……ん、なぁに……。
(ミカゲ、ボクが分かる?)
……レフィーア?レフィーアなの?どこ行ってたの?
(色々話したいこと一杯あるけど、時間が無いから用件だけ言うね。)
……あ、うん……。
それからしばらくの間レフィーアの言う事を黙って聞く。
簡単に纏めると、魔族の干渉があったせいで、レフィーアが本来いるべき女神の属する世界に混乱が起きたため急遽そちらに戻っていたんだって。
ただ、いない間の私が心配でセーフティモードにしていたのが、私が変身したままの理由だったみたい。
あと、その混乱収拾の為にしばらくかかりきりになるので、私達の元に戻るのに時間が掛かるらしい。
(ボクはしばらくソッチに行けない。だけどそのままじゃミカゲも大変だと思うから、この魔石を預けるよ。後、アイちゃんの規制を緩和しておいたから分からないことがあればアイちゃんに聞いて。)
……あ、待って。
そのまま消え去ろうとするレフィーアを呼び止める。
……レフィーアは大丈夫?無理してない?
(無理しないとね、いけない時もあるの。ミカゲなら分かるでしょ?)
……ウン、それでも無理しないで欲しいな。私達は待ってるから早く戻って来てね。
(……ボクがいなくて淋しいからって、ミュウやクミンにあんまり迷惑かけないようにね。じゃぁ……。)
レフィーアは笑いながらそう言うと、現れた時と同じように消えていった。
◇
「ん……お姉ちゃん、寒いよぉ、まだ眠いよぉ……。」
私が目を覚まし、身を起こそうとすると、その気配を感じっとったのかクーちゃんが毛布を引っ張って丸くなる。
「うっ、確かに寒いね。」
私はそう言って初めて自分の姿に気づく。
衣類を纏っていない生まれたままの姿だった。
まさか、クーちゃんと!
(そんな訳あるかーい!)
どこからかツッコミの声が聞こえた気がした。
そう言えばお風呂から出てそのままだっけ。
どうせすぐレフィーアの装備になるんだからってそのままでいたんだよね。
でも、じゃぁ、何で……。
何気なく手をやった胸元に触れる感触……ペンダント?
そのペンダントを手にすると、先程の夢が思い出される。
あれ、夢じゃなかったんだね。
待ってるからね、と私はペンダントトップの魔石を撫でると、布団の中に潜り込む。
夜が明けるまでにもう一眠りできるはず。
「うーん、お姉ちゃん、寒いよぉ……。」
クーちゃんがすり寄ってくる。
ウン、寒いね。
私はクーちゃんを抱き締めようとして、悪戯心が湧き上がる。
「クーちゃん、寒いときはねぇ、人肌で暖め合うといいんだよぉ。」
そう囁きながら、クーちゃんの寝間着を捲り上げると未成熟な二つの膨らみが露わになる。
うっ、クーちゃん年下なのにぃ……。
私と大差ないその膨らみに手を触れると、クーちゃんが「うーん……。」と身を捩る………可愛い……ってダメダメ。
コレじゃぁただのエロい人だよ。
私はクーちゃんの寝間着を取り払うと、ギュッと抱き締める。
少し寒かったのかクーちゃんも抱き付いて来る。
その様子に満足した私は、そのまま眠りについた……。
「きゃぁ……な、何で……。」
私が次に目を覚ましたのは、そんな叫び声のせいだった。
「んー、クーちゃんどうしたのぉ……?」
「み、み、ミカ姉……責任はとるからぁっ!」
クーちゃんの悲痛な叫びが部屋中に響き渡った。
◇
「ぷっ……わははっ……それで責任をとるって……ククク……。」
朝食の席で、騒ぎの事情を聴いたミュウが笑い転げる。
「あらら、クミンさんに寝取られてしまいましたか、残念です。」
にこやかに笑うマリアちゃん。
「もぉ―、そんなに笑わないでよ。私だってびっくりしたんだからぁ。」
そんな二人にクーちゃんがぷんぷんと頬を膨らませる。
「いや、だからって、責任を取るって……くくく……。」
「だって、朝起きて裸の女の人が横で寝ていたら、そういう事だからって本に書いてあったし……だったら責任取らなきゃって……。」
笑い続けるミュウをジト目で見ながらクーちゃんが呟く。
……まぁ、原因の私が言うのもなんだけど、クーちゃんは何の本を読んでいるのか気になるよね。
そんな事を考えながらお茶を飲んでいたらクーちゃんの矛先がこっちに向く。
「大体ミカ姉が悪いんでしょ!何をのんきにお茶飲んでるのよっ!」
「ゴメンナサイ……。」
クーちゃん激おこでした。
「それで、今日は領主と会うんだろ?食事したらすぐ出る?」
「んー、お昼過ぎでいいんじゃないかな?お貴族様って昼過ぎまで寝てるって聞いたことがあるよ。」
「そうなの?」
「ん、たぶん。」
「じゃぁお昼を早めにして、それから出よっか。」
「そうだね、じゃぁ午前中はなにしよっかなぁ。」
「私は動物達と畑の世話をしていますわね。」
マリアちゃんはそう言って食器を片づけ始める。
「あ、良かったら色々教えて欲しいけど、ダメ?」
午前をどう過ごそうかとミュウと話をしていると、片づけを終えたクーちゃんがそう聞いてくる。
「そうだね、クーの今の実力を知るのも必要だね。」
カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!
木剣同士が打ち合う音が響く。
クーちゃんが剣を振り下ろすと、ミュウは片方の小剣でそれを受け止め、もう片方の小剣をクーちゃんの喉元に突きつける。
一度間合いを取り、再度クーちゃんが斬り掛かるけど、すでにその場にミュウはいなくて、気付いた時には背後から喉元に剣を突き付けられている。
そのようなことを何度か繰り返していると、やがて力尽きたのかクーちゃんがその場にうずくまる。
それを見たミュウが「休憩にしよう」といって私の方へやってくる。
「お疲れ。どんな感じ?」
「やっぱりダメね。」
ミュウは水分を取りながらそう言った。
まぁ、今見てた感じ、エストリーファの力を借りてもミュウの身体に掠りもしなかったしね。
「そんなにダメダメですか?」
クーちゃんがションボリうなだれながらそう聞いてくる。
「あ、違う違う、そうじゃなくて……。」
ミュウが慌てて説明を始める。
「クーはまず剣術の基本を覚えるべきだと思うの。今の段階で私みたいな変則的な相手とやっても変なクセがつくだけであまりよくないと思うのよ。」
「成る程ねぇ、でも私じゃ相手にならないしなぁ。」
今の私では、エストリーファの力を使っていないクーちゃんとほぼ同等。
身体強化を使って何とか勝てるって言うレベルだから訓練相手としては物足りないとおもう。
「誰か指南してくれる人がいないか、メルシィさんに相談してみようか?」
「それがいいかもね。」
私の提案にミュウが頷いてくれる。
「そうと決まったら、次は魔力操作の訓練ね。」
私はクーちゃんを立ち上がらせると、その手に桧の枝を渡す。
「前に言ったように、身体の中の魔力を右手に集めるように集中して……そうそう、上手ね。」
今までに何度も繰り返して来たことなので、ここまではクーちゃんもスムーズに行うことが出来る。
「じゃぁ次の段階ね。右手に集まった魔力をそのまま桧の枝に流し込んで……十分に流し込んだら、表面を覆うようにして、そのままの状態を保持するの……うん、上手にできてるよ。」
「やった……って、あぁっ。」
私が褒めるとクーちゃんは嬉しそうな表情を向ける。
けど、それで集中が切れたのか、枝に纏っていた魔力が拡散して消えてしまう。
「あーあ……。」
がっくりと肩を落とすクーちゃんに、私は魔力を纏わせた枝を振りながら説明する。
「最終的には他に意識を向けていても魔力を保持出来るようにならないとね。」
そう言いながら、ミュウの尻尾を触ろうとして逃げられる。
その一連の動作の間にも桧の枝に纏わせた魔力はそのままだ。
「まずは枝を振っても魔力が保持できる様になることを目標にやってみればいいよ。」
「うん、やってみるね。」
クーちゃんはそう返事をすると、魔力操作の練習を始める。
クーちゃんは簡単な魔法が使える……あくまでも使えるだけであって、戦いの場で役に立つ訳ではない。
剣術もまだまだ未熟なので、やはり戦いの場に出るには早すぎる。
それをよく知っているのはクーちゃん本人でだからこそ力を求めたんだと思う。
守られるのではなく、肩を並べて戦うことを選んだ彼女の意志は尊重したい。
でもやっぱり心配で……。
悩んだ挙げ句に出した結論は、戦えるだけの力を、戦い方を教えることだった。
使えるモノはすべて使うと言うことで、私がクーちゃんに示したのは「魔法剣士」としての道。
剣士として急激に成長することは出来なくても、クーちゃんの魔力を纏わせた魔力剣が使えるようになれば、それだけで単純に火力アップが見込めるし使える手札も増える。
一般的には魔法剣士は効率が良くないと忌避されているらしいけど、クーちゃんにはあっていると思うのよ。
「剣に魔力を纏わせたまま戦えれば、それだけで攻撃力が上がるし、物理攻撃が効かないアストラル系の敵にもダメージを与える事が出来るようになるからね。」
私はクーちゃんに説明しながら、自分の剣に魔力を纏わせる。
「ここまでできる様になれば上出来だよ。」
私は遠くの樹木を標的にして剣を振るうと、剣先から魔力が飛び出して、樹木を斬り裂く。
「凄いっ!今のは??」
クーちゃんが尊敬の眼差しで私を見てくる。
ふふん、クーちゃんの尊敬いただきだよ。
「纏わせた魔力を放出しただけよ。慣れるとね、単純な魔力を放出するだけじゃなく、剣を起点にして魔法を使う事だって出来るんだよ。」
私は地面に剣を突き立てて魔力を流す。
「こんな風にね……エクスプロージョ……キャッ。」
「バカっ、よせっ!」
いきなりミュウに引き寄せられる。
「何するのよ、危ないじゃないのっ!」
「危ないのはミカゲよっ!何しようとしてたのよっ!」
「何って、エクスプロージョン……って、あっ!?」
アハハ……ミュウが止めてくれなかったら、この辺り一帯吹き飛ばしちゃうところだったよ、失敗失敗。
「ミカ姉は、すぐ調子に乗るんだから、そのくせ直さないとメッ、だよ。」
クーちゃんにまでダメ出しを……姉の威厳がぁ!
「まぁ、そろそろ昼食の時間だし、戻ろう?」
「うん、そうね。」
「あ、ミカ姉、ミュウお姉ちゃん、今日はありがとうございました。」
戻ろうとした私達の前に立って、クーちゃんが頭を下げる。
「いいんだよ、でも出来るようになるかどうかはこれからのクーちゃん次第だからね。レフィーアと同じく、エストリーファの力が示すのはただの可能性。どんな才能や将来性があっても、それに向かって努力しなければ得られないんだからね。」
「ウン、私頑張るね。」
拳を握って決意を新たにするクーちゃんも可愛いなぁ。
「わわっ、ミカ姉苦しいよぉ。」
「ほらほら、じゃれてないで、さっさと帰るよ。」
「あー、ミュウお姉ちゃん、見捨てないでよぉ。」
「あれぇ、クーはミカゲの責任を取るんでしょぉ?」
「もぉ―、それは言わないでっ。」
腕の中でジタバタともがくクーちゃんと、笑いながらからかうミュウ。
ホント、楽しいなぁ。
◇
「遅いですっ!何やってたんですかっ!」
領主の館の前でメルシィさんが出迎えてくれるけど、何故か怒っている。
「だって、お貴族様って、昼過ぎまで寝てるんでしょ?気を使ったんだけどなぁ。」
「そんな貴族はごく一部だけですっ!」
「あ、いるんだ、そう言う貴族。」
「あぁ、びっくりだよ、てっきりミカゲがいつものように適当に言ってるんだと思ってたよ。」
「まぁ、ミカゲさんのいう事ですから。」
「そうだね、ミカ姉だしね。」
「そこの三人、うるさいよっ!」
「あー、もういいですから早く行ってください、御領主様がお待ちですよ。」
口々に私をディスる三人に文句を言っていると、メルシィさんに急かされる。
「行ってくださいって……メルシィさんも一緒じゃないの?」
「私は少し準備がありますから、後でお伺いいたしますわ。……ここの奥が謁見の間ですので、行ってらっしゃいませ。」
メルシィさんはそう言って私達を屋敷の仲間で引き入れるとどこかへ行ってしまった。
「仕方がないねぇ、行きますかぁ。」
私達はメルシィさんに代わって案内をしてくれる館のメイドさんの後をついていく。
目の前の扉が開かれる遠くへ進むように促される。
「遅かったな、待ちかねたぞ。」
私達が部屋の中に入るとその様な言葉で出迎えられた。
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