勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第二章 勇者のスローライフ??

腐敗した貴族

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「今主が見えますのでしばらくお待ちください。」
 ミンツさんはそう言うと部屋を出ていく。
 私が通されたのは応接室というにはかなり広い部屋だ。
「ミカゲさん、ゴメンナサイね。」
「ううん、マリアちゃんは悪くないよ。それより危険な目にあわせてゴメンね。」
 この部屋に通されるときに、マリアちゃんの拘束は解いてもらっている。
 ただ、武装解除という事で私が腰に下げていた魔剣は取り上げられちゃった……まぁ、どうせ飾りなんだから別にいいんだけどね。
「それより、何で捕まったの?」
 私は気になっている事を聞く。
 
「えぇ、当初の予定通り街中の人々から情報を集めようとしていたのですが、皆様お貴族様の怒りに触れるのが怖い為か、中々本音を話してくださいませんでしたの。」
 まぁ、そうだろうね。
 噂話とは言え誰が聞いているか分からない街中で大ぴらに貴族を批判するようなことは言えないという気持ちはわかるわ。
「ですので、ここは私から歩み寄らねば、と思い『ゲーマルク子爵が税率を上げて私腹を肥やしている』『貴族の横暴で人々の暮らしが困窮している』という事を申し上げていきましたの。そうしたら賛同してくださる方が徐々に増えまして……。」
 いや、マリアちゃん、それって情報収集じゃなくて扇動アジテートだよね?
 街中で大声上げて貴族批判をし、賛同者を集めてたら、そりゃぁ捕まるでしょ。

「あの方たちが来た時も、最初は排除していたのですが、賛同してくださった皆様にも危険が及ぶようになりましたので、敢えて捕まって直接お話を伺った方が早いかも、と思ったのです。」
「えっと、つまりマリアちゃんはわざと捕まったって事?」
「そうですよ?でなければあの様なひょろっとした方々に私が遅れを取るなんて事ありませんわ。」
 マリアちゃんは笑いながら言うけど、あの衛兵たち、それなりにがっしりとした体格をしていて全然ひょろっとしてないんだけどね。

「ミカゲさんが助けに来てくださったのは誤算ですが、私の為に来てくださったかと思うと、嬉しさが込み上げてまいりますの。何があっても私が守りますのでご安心くださいな。」
 ……ウン、つまり私のやった事って、余計なお世話だったって事だよね。
 私はがっくりと肩を落とす。
 何んとなく、どこかで様子を窺っている筈のミュウも、溜息をついている気がした。

「貴様らが反逆者か、中々良い見た目をしているではないか。」
 私がマリアちゃんの話を聞いて脱力していると、扉が開き、下心を隠そうともしない男が現れる。
 流れからすると、コイツがゲーマルク子爵って事ね。
「あなたがゲーマルク?」
「子爵様を付けろ!この平民がっ!」
 私が訊ねると、側にいた男が憤って鞭を振るってくるが、私はそれを躱す。
 何を怒っているのか分からないけど、黙って攻撃を受け入れるいわれはない。
 ないんだけど……。
 ビシッ!
 私の身体に鞭が打たれる。
 レフィーアの防護のおかげでダメージはないけど、派手な音が室内に鳴り響く。
「ミカゲさん!……何で!身体が動かない。」
 マリアちゃんが慌てて駆け寄ろうとするが、その身体は縫い付けられたように椅子から動けないようだった。
「オラオラ、この平民風情がっ!」
 ビシッ!ビシッ!
 二度、三度と私に向かって鞭が振るわれる。

「ここは貴様らの様な礼儀を弁えぬ平民たちのために特別に作らせた部屋なのだよ。どうだ、その椅子から動けまい?」
 どうやら、ここは応接室に見せかけた拷問部屋だったらしい。
 椅子、ソファー、壁などあらゆる場所に、拘束の魔法陣が隠されているらしい。
 うぅ、油断してたみたい。

「そろそろいいだろう。」
 私が黙って考え事をしていたら、屈服したと勘違いをしたらしいゲーマルクが、部下に声をかけて鞭打ちをやめさせる。
 勝手に勘違いしてくれたみたいだから、取りあえずそのままでいてもらおう。
 そう考えて、私は顔を伏せたまま身体の力を抜く。
「あなたが、街の整備費用をごまかしたり、孤児院へ回る予算を着服してたのは分かってます。」
 マリアちゃんが、キッと睨みつけ、ゲーマルクを糾弾する。
「それがどうした?平民どもには、過分すぎる予算を儂が有効利用してやっているのだよ。」
 がはは、と品なく笑うゲーマルク。
 あの男にとって平民は家畜と何ら変わらない存在らしい。

「孤児院と言えば、スザンヌと言ったか?ワシの女にしてやろうと言ったのに分不相応にも断ったバカな娘がいてな。思い知らせるために孤児院への予算を取り上げてやったら、泣いて頭を下げに来た時には大いに笑わせてもらったわい。」
「…………だけ……で……。」
「ん?何か言ったか?」
「たったそれだけの事で、孤児院の子供たちにひもじい思いをさせたのっ!」
 私は大声を張り上げる。
 そんなバカな理由で孤児院から予算を巻き上げるなんて許せない。
「孤児院のガキ共が飢えようがどうしようがワシの知った事ではないわ。あの娘にはワシの奴隷になるなら孤児院への予算を考えてやると言っておいたからな、明日にでも奴隷にしてくださいと頭を下げに来るだろうて。あぁん、なんだその眼は?」
 私がゲーマルクを睨みつけていると、気に食わなかったのか私の方へ近づいてくる。

「何なら、お前らも儂の奴隷になるか?たっぷり可愛がってやるぞ。」
「っ……。」
 ゲーマルクは私に下卑た嗤いを向けながら、横にいるマリアちゃんの胸を弄る。

「……を放……さい……。」
「あぁん?」
「その手を放せって言ってるんだよ、下衆がっ!」
「クッ!」
 私の身体から溢れ出しそうになっている魔力が、威圧となってゲーマルクにプレッシャーを与えたみたいで、思わず2歩ほど下がる。

「お前ら、この者達を拘束せよ!」
 後退さった事を隠すかのようにゲーマルクは周りの兵士達に指示を出す。
 兵士達は動けない私達を縄で縛ろうと近寄ってくる。
「私やマリアちゃんに触るなぁっ!」
 私の身体から魔力があふれ、一番近くにいた兵士を吹き飛ばす。
「ば、バカな。この部屋で魔法は使えないはず。」
 ゲーマルクが驚愕の表情で私を見る。
 どうやら壁に刻まれている魔法陣の中には、魔法を阻害するものもあったらしい。
 でも、その魔法陣は正確には『呪文を拡散』する魔法陣なので、純粋に魔力をぶつけるだけなら何の阻害にもならない。
 どうやら呪文が使えない=魔法が使えないと思い込んでいたみたいね。
 とはいっても、その魔法陣がある限りマリアちゃんが魔法使えないから壊しておくに限るね。

 私は自分が座っている椅子とマリアちゃんが座っている椅子に魔力をぶつけ自由を取り戻す。
 それから杖を取り出して、壁際にいる兵士に向かって魔力をぶつける。
 私の収束した魔力は兵士の脇をかすめ壁を破壊する。
 同じように、刻まれている魔法陣に向けて、次々と魔力を放出していく。
 魔力が壁に当たり一瞬にして壁を崩壊させる。
 
 自由を取り戻したマリアちゃんはメイスを取り出して近くにいる兵士達に殴りかかっている。
「お前ら、何をグズグズしている。早く捕らえぬかっ!」
 腰砕けになりながらもそう指示を出すゲーマルク子爵。
 私に向かってくる兵士の一団を風の魔法で吹き飛ばす。

「さっきふざけたこと言ってたよね?」
 私はソル・レイの魔法をゲーマルク子爵の顔をかすめる様に狙って放つ。
「ひ、ヒィッ……。」
 2発、3発とソル・レイを放つ。
 ゲーマルク子爵の顔をかすめた光のレーザーはそのまま、子爵のもたれている壁に穴を穿つ。
「もう一度聞くよ?孤児院がどうしたって?」
「ひ、ヒィッ、ち、ちが、違うんだ、りょ、領主様のご命令に従っただけで、ワシは悪くない……。」
「へぇ、領主様のご命令、ねぇ……。」
 私は威力を絞ったエクスプロージョンを天井に向けて放つ。
 天井に大穴が開き、周りの壁が崩れ落ちる。

「ば、バニッシャー……。」
 兵士の中の誰かがそんな事を呟くのが聞こえた。

「じゃぁ全ては領主の所為でアンタは悪くないって?」
「そ、そうだ、儂は悪くない!」
「ふざけんなっ!」
 私はブラストカノンをゲーマルクの腹にぶち当てると、子爵はショックで意識を失う。
 威力は抑えてあるから死ぬことは無いでしょう……うん、私成長してるね。
 大体、スザンヌさんを力ずくでものにしようとか、断られた腹いせに孤児院の予算を取り上げたとかって自分で言ってたじゃない、何が『ワシは悪くない』よ。
 ホント、ふざけてるわね。
 気を失ったゲーマルクを蹴っ飛ばしてから周りを見ると、兵士達が転がっていて、その中心には、やり切った、という様にいい笑顔をしたマリアちゃんが、メイスを肩にトントンとしていた。

「これは、一体、何の騒ぎだ!」
 声が聞こえたので振り向くと、そこにはズラリと衛兵たちが周りを取り囲み、中心には見るからに高級な服装の男性が立っていた。
 更には遠巻きに街の人々が見ている。
「あらら、いつの間に外に出たのかしらねぇ。」
 マリアちゃんがのんびりとした声を上げるが、私達が外に出たんじゃなくて、建物が半壊して外から見えるようになっただけなんだよ。
 そう言いたかったけど、何で、建物が半壊したか、とか考えると落ち込みそうなので何も言わないことにした。

「ミカゲ、やりすぎだよ。」
 シュッと、背後からミュウが現れる。
 私達がピンチになったら助けに入れるように伺っていたらしいけど、あっという間に建物が半壊したため、出るタイミングを失ってしまったらしい。

「どういう事なんだ、これはお主等がやったのか?」
 何も答えない私達に苛立ったのか、男が再度叫ぶ。
「知らないよ、私達は被害者だよ。」
 取りあえずそう答えておく。

「ふざけるなっ!」
「調べはついているんだ!」
「領主様に向かってなんて口の利き方だっ!」
 衛兵たちが口々に叫ぶ。
 その中に聞き捨てならない言葉があった。

「領主?……あなたが領主様?」
「そうだ、この方こそ、この街の領主クレイメン=エルザード様だ。本来ならお前ら平民が直答できるお方ではないっ、控えよっ!」
 立派な服装の男のすぐ横にいた兵士がそう答える。
 ふーん、この人が領主ねぇ。
「このゲーマルク子爵とかいう下衆に色々指示していた御領主様で間違いない?」
 兵士の言葉は無視して、私は領主を睨みつける。
「むっ、確かにゲーマルク子爵は私の部下だが、それが?」
「ふーん間違いないんだぁ……エクスプロ―ジョン!」
 私は領主の足元に魔法をぶつける。

「エアストシールド!」
 爆風で多くの兵士が吹き飛ばされる中、領主を取り囲んでいた数人の兵士が、領主を守る様に風の盾を出して守る。
 ゲーマルク子爵の部下と違って、よく訓練された兵士みたいね。
 これはちょっと厄介かなと思いつつ、次の魔法を放つタイミングを伺う。
 ミュウとマリアちゃんは私を守る様に、横や背後の衛兵たちを牽制していてくれる。

「何をする!反逆の意志ありとみていいのか!」
「反逆も何も、そこの子爵を使って、街の税率をあげさせたり、孤児院への予算を着服させたり、街の整備費用をケチったりさせてたんでしょ、そこの下衆がそう言ったのよ。」
「ま、待て、何の事だ?」
 私の言葉に狼狽える領主様。

「アンタが上司だって、さっき言ったじゃない。何の罪もない子供たちを犯罪するしか生きる術が無くなるまで追い込んだり、税が高すぎて払えないという家庭から、税金代わりにと女の子を連れ去ったり、この街で商売したいならいう事を聞けとお店でやりたい放題する兵士を野放しにしたり……。そんな領主はただの害悪、いない方がマシよっ!」
「まて、話が見えん!」

「うるさい!アローレイン!」
 私は光の矢を領主の頭上から振り撒くが、衛兵たちが風の盾を頭上にかざして防ぐ。
「ソル・レイ!」
 私はすかさず衛兵に光のレーザーを放つ。
 護りの盾を頭上にかざしていた衛兵たちは、レーザーを受けて次々と崩れ落ちていく。
「クッ、仕方がないか。」
 自分を守る衛兵が倒れるのを見て、領主は腰の剣を抜く。
 ミュウが、カウンターを狙って飛び込む態勢を取り、マリアちゃんは防護の呪文を唱え始める。

「覚悟はいい?エクスプロー……。」
「ミカ姉、ストップ!ダメ、ダメだよ!」
「お父様も、ミカゲさんもそこまでです、話を聞いてください。」
 飛び掛かろうとする領主と魔法を放つ寸前の私の間に二人の女性が飛び込んでくる。
「クーちゃん、何でここにっ……くっ……。」
 領主の剣戟が間に入ったクーちゃん目掛けて振り下ろされる。
 私は魔力を散らしクーちゃんを庇う様にして引き寄せる。
 タイミング的に自分を盾にするしかなかった。
 私は剣が自分に振り下ろされるのを覚悟する……が、いつまで経っても斬られることは無かった。
 私はそっと目を開けて背後を振り返ると、そこには領主の剣を自分の剣で受け止めるメルシィさんがいた。

「メルシィさん、何で……。」
「メルシール大丈夫か?」
 領主は慌てて剣を引き、メルシィさんを労わるように声をかける。
 っていうか、メルシールって誰?

「お父様落ち着いてください。私は大丈夫です。」
「ウム……しかし……。」
「大丈夫です、それより、ミカゲさん。」
 メルシィさんが振り向いて声をかけてくる。
「ミカゲさん、何してるんですか、領主様に手をあげたら大変な事になりますよ!」
 メルシィさんが起こっているけど、私にだって譲れないものがある。
「だって、今回の黒幕……。」
「違います、誤解なんですよ。」
「誤解って何よ!あのバカが、領主の命令だってはっきりと言ったのよ!」
「だからそれが誤解なんですっ!そもそも……。」

「ミカゲさん危ないっ!」
 私とメルシィさんが言い合いをしている所にマリアちゃんの声が聞こえた。
「「えっ!」」
 私とメルシィさんが声のした方を振り向くと、目の前に大きな炎の渦が迫っていた。
 マズいっ、間に合うかっ!
 私は慌てて防護の魔法を構築するけど、その前にマリアちゃんの声が響き渡る。

「エリアガーデン!」
 私に迫っていた炎の渦は、直前で見えない壁に阻まれ消失する。
 私を含むこの辺り一帯をマリアちゃんの防護結界が包んでくれたおかげだった。  
「マリアちゃん、ありがと、助かったよ。」
「いいえ、それより次が来ます。」
「大丈夫、任せて……ウォータースマッシャー!」
 私は迫りくる炎の渦を水流でかき消し押し流す。

「グルルゥ……コシャクナ……。」
 炎の向こう側、私達を襲った異形の者が声を出す。
「あれは、一体……。」
「ゲーマルク子爵だよ。元、といった方がいいかな?」
 私の呟きにミュウが答えてくれる。

 トカゲのような頭に全身ゴツゴツとした鱗に覆われた、人だったソレ・・は既にゲーマルク子爵の面影を残してはいなかった。 
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