勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第一章 勇者の旅立ち

聖女様登場!?

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「拾っちゃった。」
 テヘッと、可愛く舌を出してみたけど……ミュウの言葉は冷たかった。
「返してきなさい。」
「え~、酷いよぉ、まだこんなに小さいんだよっ、森に返したら魔獣の餌になっちゃうよぉ。ミュウちゃんはそれでいいの?人でなしなの?」
 私はミュウに反論を捲し立てる。

 こんな可愛い子を森に返すなんて、私には出来ないよぉ。
 だからここは何としてもミュウに折れてもらうしかない。
「だからと言って、連れてきてどうするのよ?拠点もない私達じゃぁ飼う事も出来ないでしょうがっ!」
「ウッ……。」
 ミュウの言う事ももっともだけど……。
 私が言葉に詰まった所で、腕の中にいるが声を上げる。

「あのぉ……私10歳ですからそんなに小さくないです、それに森に戻さずここで放してもらえると助かります。」
 困った顔でそう言ってくる少女……そう、私が拾ったのは人間の女の子だった。

 ◇

 私とミュウが国境沿いの小さな町、ウランに着いたのは三日前の事だった。
 街とは言っても村よりちょっと規模が大きいだけで、今まで通ってきた村と何ら雰囲気が変わらず、実際私が受けた印象も「ド田舎の村」だった。
 村中皆顔見知り、留守にするときに鍵もかけず、家主が留守でも勝手に上がり込んで待っているという、アレである。

 そんな街なので、他所者の私達は白い目で見られるかと思ったら、街中あげて大歓迎され、私が男性恐怖症だと言ったら、街中の男の人たちは嫌な顔一つせず、気を使って距離を置いてくれて……却って私達の方が恐縮するという事態に陥ったのよ。

 そんな町だから、すぐに国境を超える事はせずに少しのんびりしようかと、ミュウと話していた所に村長さんから私達に依頼が来たの。
 なんでも、都会からこの街に教会のシスターが司祭様として赴任してくることになったから、その歓迎会の為に、近くの森でビックボアを狩ってきて欲しいって。
 この街の人にとってビックボアのお肉を使った料理は最大の御馳走なので、何かお祝い事があると、街中の男たち総出で狩りに行くか冒険者がいれば依頼してるらしく、私とミュウにその依頼が来た、という事でこの森まで狩りに来たのよ。

 私達、と言うかミュウにとってはビックボアなら余裕で、森について早々2頭のビックボアを仕留めちゃったから、予定より時間が余っちゃったのよね。
 だからミュウが解体している間に私は香草に使えるのがないか採集してたら、悲鳴が聞こえて……行ってみたら、ジャイアントスネークに襲われていたこの子を見つけたってわけなんだけど……。

 私が話し終えると、ミュウは何故か頭を抱えていた。
「最初にそう言いなさいよ!……えっと、あなた……。」
「クミンです。」
 ミュウが少女を見ると、少女はクミンと名乗る。
「クミン、あなたはウランに住んでるの?」
「はい、街外れに、母と二人で……。」
 そう答えるクミンの表情が陰っていたのが気になったけど、今はミュウが何を言うのかに集中しないと……酷い事を言うようなら私が守ってあげるからね。

「だったら、私達と一緒に来なさい。もう帰るところだから送っていってあげるわ。」
 ミュウ、ごめんね、私誤解してたよぉ、やっぱりミュウは天使だわ。
 私はミュウをギュっと抱きしめる。
「ば、バカッ、こらっ、放しなさいよっ。」

「あのぉ、お気持ちは有り難いのですが……。」
 クミンは病気の母親の為に薬草を採りに来たらしく、まだ採集できていないので、ここに置いて行って欲しいというけど……。
「クーちゃん、一人じゃ置いておけないよ、どんな薬草が欲しいの?」
 クミンは戸惑いながらも、ある薬草の名前を告げる。
 それならあの辺りにあったはずよね……。
「ミュウ、私ちょっとクーちゃんと薬草を採りに行って来るね。」
「アンタたちだけじゃ心配だから私も行くわよ。」
 ミュウはそう言って出かける準備をする……何だかんだと言っても優しいんだよね。

 結局、皆でクーちゃんを守りながら森の奥へと進み、目的の薬草をたくさん採集してから街まで戻る。
「お姉ちゃん達のおかげで、沢山薬草が取れました。ありがとうございます。」
 街に入ると、クミンはそう言ってペコリと頭を下げ、走って行ってしまった。
 きっと少しでも早く母親に薬を飲ませたいのだろう。
 私達はそんなクミンの姿が見えなくなるまで見送ると、街の支配人の所へビックボアの納品に向かう。

「おぉー、これは素晴らしい、きっと皆も大喜びだろう。」
 私達が出した2頭分のビックボアのお肉に、支配人さんは大喜びで相場より高めの金額で買い取ってくれた。
 ちなみに、シスターさんの到着は今日の昼過ぎという事で、今夜歓迎パーティを開くために街中大忙しなのだそうだ。
 そんな忙しい所を、私達が邪魔をしてはいけないと思い、早々に支配人さんの下を立ち去る事にする。

「でも、シスターさんの為に街中あげての歓迎って、凄いよね。」
「街の人たちがお祭好きって言うのもあるのだろうけど、それだけシスターさんを切望していたんじゃない?」
 そう言ってミュウは広場の先を指さす。
 そこにはこじんまりとした教会があり、街の人たちが雑草を引き抜いたり壁を修復したりしている。
「ずっと、司祭様がいなかったみたいだからねぇ。」
「そう言うものなの?」
 この世界の事をよく分かっていない私には、今一つ理解できない。
「教会があるのに、司祭様がいないという事は女神様に見捨てられたという事を意味するのよ。それに、司祭様がいれば病気やケガをしても、神の奇蹟である神聖魔法で癒してもらえるからね。」
 ふーん、要は権威と実益の両得があるから司祭様がいてくれないと困るってわけなんだ。

「あ、じゃぁ、そのシスターさんが来たら、クーちゃんのお母さんも治してもらえるかなぁ?」
「うーん、そのシスターさんが司祭としてどの程度の腕前か、とかどういう性格か、にもよるけどね、まぁ、お布施が払えるなら何とかなるんじゃないの?」 
 ミュウがそういうけど……お布施って……まぁ、シスターさんも教会を維持しなきゃいけないわけだし……世知辛い世の中だよね。

「私が治しちゃってもいいのか……。」
 無意識にそう呟くとミュウに止められる。
「止めときなさいよ。」
「なんで?」
「さっきも言ったでしょ?神聖魔法は「神の奇蹟」なの。聖職者でもないあなたが使ったら、教会から『邪教の信徒』として付け狙われることになるわよ。」
「まさかぁ、たかが回復魔法くらいで大袈裟な……ってマジ?」
 ミュウの真剣な目に思わずたじろぐ。 

「あなたはたかが・・・って言うけどね、魔法が使える、それだけでも凄い事なのよ、それなのに使える魔法が神聖魔法って言ったら……分かるでしょ?」
 使える人は何でもない様に言うけどね、と呆れたように言ってくるミュウ。
 言われてみればこの世界の人口に比例して魔法使いの数って言うのは極端に少ない。
 魔法使いが多く存在する冒険者と言う職業を見ても、魔法を使えるものは2割程度だと聞いたことがある。
 冒険者10人に対して魔法使い二人……その中でも神聖魔法の使い手は0.5人だとか……。
 そして普通の魔法使いの活躍の場は、その性質上、どうしても戦いと言う非日常的な事によりがちだけど、神聖魔法は「癒す」と言う面において日常でも重宝される、それ故に市井の人々からの信望も厚く、教会の権威向上に一役買っている……と言うより無くてはならないものなのだ。

 そこに聖職者でもないものが「神の奇蹟」である神聖魔法を使ったら……教会にとっては邪魔な存在でしかない、と言うのはよくわかる。
「分かったみたいね。」
 私の表情の変化を読み取って、ミュウがそう言ってくる。
「うん……納得は出来ないけど理解はした。」
「ならOK。」
 ミュウは満足そうに頷く。
「でも、クーちゃんのお母さん治してあげたいよ……。」
 私がそう言うと、ミュウは仕方がないなぁと言うような顔で言う。
「だったら、そのシスターさんにお願いしてみましょ。余程の暴利じゃなければ私達でお布施位払えるでしょ。」
「うん、そうだね……ミュウちゃんはやっぱり優しいね。」
 そう言って私はミュウに抱き着く。
「バカッ、こんなところで……よしなさいよっ!」
 口では嫌がってるようだけど、私の抱擁を振りほどくことはしない……ホント、いい子だねぇ。
 照れているミュウを見ながらそう思い、もし、シスターさんに断られたら、私がこっそりと治そうと心に決めるのだった。

 ◇

「本日は私の様な者の為にありがとうございます。こんなに盛大に歓迎してくれるなんて……嬉しすぎて言葉が出ません……皆様とこのご縁を導いてくださった女神様に感謝を。」
 シスターさんの挨拶が終わると、パーティの始まりだ……皆飲んで歌って浮かれている。
 私とミュウはそんな町の人たちを横目に見つつ、シスターさんの様子を伺っていた。
 シスターさんは次々と挨拶に来る町の有力者たちの相手で忙しそうだが、それでも終始笑顔を絶やさないのは流石だと思う……私だったら耐えられないよ。

「ミカゲがあそこにいたら、今頃はこの辺り一帯吹き飛ばされているよなぁ。」
「そんな事な……くは無い……。」
 すでに寄っているのか、あるオッサンは親し気に話しかけながら、シスターさんの腕を触りまくっているし、別のオッサンは、シスターさんの、そのふくよかな胸元を凝視している まぁ、挨拶と言えば聞こえはいいんだけど、酔っ払いのオッサンに絡まれているのと大差なく……気の毒になってくる。

「助けに行こ?」
「そうだね、見知らぬ中じゃないし。」
 そう、ここに赴任してきたシスターさんと言うのは、ラウエルの街で獣人を庇っていた人だった。
 何でこの街に来たのかは分からないけど、あの時獣人さん達が受けた恩を代わりに返してあげようって、ミュウは考えているみたいね。
 私達は頷き合うと、シスターさんの下へ寄っていった。

「こんばんわ。」
「こんばんわ……あっ、あなた方は……。」
「シスターさん、こっちの方に美味しいのがあるのよ。」
 そう言ってシスターさんの手を引っ張りオッサンたちの輪から抜け出す。
「あ、ちょっと……。」
 一人のオッサンが私に手を伸ばしかけたが、それを見た隣のオッサンが、慌ててその手を掴む。
 その人は私がこの街に来た時に吹き飛ばした人だった……あの時はごめんね。
 「何するんだ?」「よせ、あの娘はヤバい……」等とオッサンたちの声が聞こえたような気がしたが、周りの騒めきですぐにかき消された。

「あー、余計なお世話だったかな?だとしたらゴメン。」
 人気の少ない所まで来た所で、ミュウはシスターさんの手を放し、そう言って頭を下げる。
「いえ、どうしようもなく困っていましたので、連れ出していただいて助かりました。」
 ありがとうございます、と丁寧にお辞儀をするシスターさん。
「ところで、あなた方はラウエルの街にいませんでしたか?」
 やっぱり覚えていたみたい……まぁ、ミュウはあの時獣人を庇ってかなり目立ってたからねぇ。
「……あなたが助けてくれたんだってね、獣人を代表してお礼を言うわ。」
 ミュウがシスターさんに頭を下げる。
「そんな、頭をあげてください。結局私は何もできなかったどころか、却って酷い目に合わせてしまって……。」
「そうね、あのままだったら彼女たちは死んでいたかもしれないわね。」
 ミュウがそう言うとシスターさんは俯いて黙り込んでしまう……ミュウったら、そういういい方しなくても……素直じゃないんだから。
 仕方がないので私が助け舟を出す。
「だけど、あなたが最初助けてくれたおかげで、現在彼女たちはどこかで自由に生き延びている……ミュウはそう言いたいんだよ。」
「でも、それは結果であって……。」
「結果が全てよ。あなたは獣人を助けた。色々あったけど、彼女たちは助かった……それが全てだわ……だからありがとうね。」

 シスターさんがあの時獣人を助けた事によって、それを司教に利用され、殺されそうになったのは間違いない、だけど、私達の目に留まり結果として助ける事が出来た。
 それは偶然かもしれないけど、もし、シスターさんが獣人を助けようと思わなかったら?
 司教さんに利用されることは無かっただろうけど今頃は奴隷として酷い目にあっていたことは間違いないわけで……結局、彼女たちが無事なのはあの時シスターさんが助けた結果だ、とミュウは言いたいのだ。
 その事をシスターさんに説明をすると、ようやく彼女の顔に笑顔が戻ってくる。

「ずっと、気にしていたんです。あの時私が余計な事をしなければって……でもミュウさんのおかげで救われた気がします。……ダメですね、本来なら私が救うために導かなければいけませんのに。」
 シスターさんは泣き笑いのような顔でそういうけど、何かを吹っ切ったような、その笑顔はすてきだと思った。

 その後も、私達は適当に取ってきた食べ物を摘まみながら話をする。
 シスターさんの名前はマリアさんと言って、結構なレベルの神聖魔法の使い手なんだって。
 そんな彼女が何でこんな田舎に来たかと言うと、例の件で司教があることないこと上に具申した結果、半ば左遷のような形で飛ばされてきたんだって。
 普通、彼女ぐらいの使い手は教会が囲い込み大事にされるものなんだろうけど、彼女の才能に嫉妬した司教が正確な報告をしていないため、教会の上層部は、マリアちゃんはちょっとした回復魔法が使える程度だと思っているらしい……やっぱり世知辛い世の中なんだね。

「私自身、このままでいいのかと神への信仰が揺らいでいましたから、ここに来たのは自分を見つめ直すいいきっかけだったのかもしれませんね。」
 マリアちゃんは自嘲するようにそう言った。
「うーん、神様がどうとか、どうでもいいと思うけどねぇ……それよりマリアちゃんは病気は治せるの?」
「程度にもよりますが……なにか?」 
 私はマリアちゃんに森であった少女、クミンとその母親の事を話す。

「でね、その可愛いクーちゃんの為にも、明日一緒に行ってもらえないかなぁ?」
「はぁ、ミカゲさんが、そのクミンさんと言う少女を異常に可愛がっているのは伝わりました。でもそういう事なら明日と言わず今から行きましょう。」
 私の熱意はマリアちゃんに伝わったようだけど……今から?
「えぇ、病気で苦しんでいるのであれば、1分1秒でも早く楽にして差し上げたいと思います。」
「はぁ……流石司祭様ですね……。」
 楽にするって……永遠にって意味じゃないよね?
 私は妙にやる気になっているマリアちゃんを心配しつつも、ミュウと一緒にクーちゃんの家へ案内する。
 クーちゃんの家に関しては昼の内に街の人に聞いて大他の場所は把握している。
 街の事は誰でも何でも知っているというド田舎精神のおかげで、クーちゃんの家はすぐにわかった。
 そしてクーちゃんを取り巻く状況も……。
 
 私は何となく嫌な予感を抱えながらもクーちゃんに家へ向かうのだった。 
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