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乙女の敵!?アル様は鬼畜ですぅ!
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「しかし、石化をレジスト出来ただけでも良かったよ。……ほら、出来た。」
アルフレッドが、調合を終えたポーションをアリスに渡す。
アリスはいまだ身体の自由が利かないのか、受け取ったポーションを持つ手もおぼつかない。
「このままじゃ飲めないですぅ。アル様飲ませてくださいよぉ……もちろん口移しで。」
「あ、アリスちゃんそんなこと言ったら……。」
アルフレッドは、何かを考えたのち、アリスからポーションを取り上げると自分の口の中に流し込む。
そしておもむろにアリスに近づき、その唇に自分の口を押し付ける。
「んっ!んぐっ……。」
軽く開いたアリスの唇を舌を使って押し広げ、その口内に含んだポーションを流し込む。
急に起きた刺激に、アリスはどうしていいかわからず、身体を身じろぎさせようとするが、元々自由が利いてないうえ、アルフレッドに抱きしめられている今の状態では、動くこともままならず、そのまま受け入れるしかなかった。
コクコクっとアリスの喉が上下し、口内に注がれたポーションをすべて飲み干したのを確認するとアルフレッドはようやく口を離す。
「うぅ……酷いのですぅ、不味いのですぅ。ファーストキスのやり直しがこんなのってあんまりですぅ。」
真っ赤な顔で涙目になりながら訴えかけてくるアリス。
「我慢しろ。味まで調整している暇はなかったんだよ。それに今のは治療行為でキスじゃない。」
空になったポーションの小瓶を回収しながらそう告げるアルフレッド。
その姿に動揺したそぶりは見られないところを見ると、本当に治療行為のつもりだったのだろう。
そう思うとアリスの中で、いいようのない怒りがわいてくる。
「ハイ、アリスちゃん、アーン。」
アルフレッドに一言言ってやらないと気が済まないと、アリスが口を開いたとたん、口の中になにかが突っ込まれる。
「むぐっ……美味しいですぅ……。」
口直しに、果物を一口大に切り取り、アリスに食べさせるミリア。
「美味しいですけどぉ……。」
ミリアを見上げ、涙目で訴えるアリス。
「もう一つどう?」
「もらう……あーん。」
「まぁ、言いたいことは分かるけど、アルにあの手の冗談は時と場所を考えないと、ね?」
アリスの口にもう一切れ果物を放り込みながら、諭すように言うミリア。
「もぐもぐ……でも……。」
「あぁいう時、アルに冗談は通じないのよ。」
遠い目をしながらそんなことを言うミリアを見てアリスが即座に理解する。
あぁ、ミリアお姉さんも経験済なんだ、と……。
「……お姉さまも辛かったんですねぇ。」
「わかってくれるのはアリスちゃんだけよぉ~。」
何故かお互いにギュッと抱きしめあう二人を見ながら、どうやらGショックから抜ける事が出来たようで一安心だと、秘かに胸をなでおろすアルフレッド。
あの時は、つい売り言葉に買い言葉的に行動してしまったが、冷静になると、アレはなかったなと、申し訳なく思い後悔していたりする。
「まさか、あんな罠に引っかかるとは思わなかったよ。」
アリスの様態が落ち着き、ある程度動けるようになったところで、アルフレッドは用意していた食事をアリスに渡しながらそう呟く。
「うぅ……ゴメンナサイなのですぅ。……でも後悔も反省もしてないのですっ!」
「後悔はともかく、反省はしなさいっ!」
アリスの言葉にミリアは拳骨を落とす。
まぁ、アレは、確かに反省してもらわないとな、と、その様子を眺めながらアルフレッドはあの時の事を思い出すのだった。
◇
「この部屋で行き止まりですぅ。」
長い道のりを歩き続けて、ようやくたどり着いた広間。
ここに来るまで一本道だったため、ここに何もなければ、さっきまで歩いてきた道を戻らなければならない。
「よく分からないですが、何かがある感じがするのですよ。」
「アリスの眼でもわからないぐらい巧妙な仕掛けか……みんな気をつけてな。」
アルフレッド達は手分けして部屋の中を調査していく。
人間だれしも、苦労に見合うだけの見返りを求めるものであり、アルフレッド達もまた、ここまで来たのだから、と、何らかの発見を期待していた。
というより、何もなく徒労に終わるのが嫌だと思うくらい、ここまでの道のりは長く暇だったのだ。
そんな心境に至る事が、そもそもの罠だという事にも気付かず、アルフレッド達は慎重に床を、壁を調べていく。
「アル様、お姉さま、ちょっと来てください。」
どれくらいの時間が経ったのだろうか、何も見つからず疲労がたまり出したころに、アリスの声がかかる。
「どうした?」
「何かあったの?」
アルフレッドとミリアは、アリスのもとに駆け寄る。
「……宝箱ですぅ。」
アリスの目の前に、ぽつんと宝箱があった。
「これ……部屋に入った時はなかったよね?」
何もない部屋の真ん中だ。
流石に宝箱があれば、最初に気づくだろう。
「なかったのです。振り向いたら突然現れたのですよ。」
アリスが言うには、その場所には何もなく、別の床を調べた後、視線を戻したら、いつの間にか宝箱があったという。
「罠だな。」
「どう見ても罠ね。」
「罠だと思うんですけど、罠の感じがしないのですよぉ。」
「どういうことなの?」
「えっとぉ、説明するのが難しいんですけどぉ、私の魔眼って『看破の魔眼』なんですよぉ。」
「ウン、それは知ってる。」
それが?とミリアは続きを促す。
「だからですね、隠されているものは暴けるんですけど、隠されていないと意味がないんですよぉ。」
「ん???」
アリスの説明は今一つミリアには理解できなかった。
「つまり、宝箱に罠が偽装されていれば、罠があることがわかるけど、初めから偽装されていなければ分からない、ってことだな。」
「です、です♪」
アルフレッドが、かみ砕いて説明するとアリスが嬉しそうに頷く。
「えっと、分かったような分からないような……でも偽装されて無い罠ってあるの?それって罠の意味なくない?」
ミリアは不思議そうに聞いてくる。
「罠、というより何らかの仕掛けだな。たとえば、この宝箱を開けるとか、動かすとかした時に発動する仕掛けがあるとする。これは罠でも何でもなく、単なる手順なので、アリスの看破の魔眼には引っかからない。そして、その作動した仕掛けが罠だとすればアリスにはわからないというわけだ。」
「成程、仕掛けね。……だとしたら、罠じゃなくて、隠し扉とかのスイッチって事もあり得るよね?」
ミリアの言葉を聞いて、アリスが徐に宝箱に手を掛ける。
「その可能性はないとは言えないが……ってバカッ、よせっ!」
止める暇もなく開かれた宝箱から光と煙が出てアリスを包み込む。
「キャッ!」
アルフレッドは素早くアリスを自分の方へと引き寄せる。
その時、光と煙に少し触れた為、その正体が分かる。
「クッ、複合異常かっ!」
「アハッ、油断……しちゃい……ま……。」
「何を喰らったか分かるか?レジストはっ?」
アルフレッドは、声を掛けながらも、収納から万能薬を取り出してアリスの口に含ませる。
が、万能薬はそのまま口から零れ落ちる。
「麻痺かっ。」
どうやら弛緩系の状態異常が効いているらしく、口元が上手く動かないらしい。
このままでは呼吸もヤバくなると判断したアルフレッドは、万能薬を口に含み、アリスの口に直接流し込む。
零れそうになる液体を口で塞ぎ舌で押しもどし、喉の奥まで流れ込むように誘導する。
しばらくして薬が利いて来たのか、アリスの口元が微かに動く。
アルフレッドは口を放しアリスを見つめる。
「大丈夫か?呼吸は出来るか?」
アリスは真っ赤になったまま頷く。
「アルっ!何か来るよっ!」
周りを警戒していたミリアが叫ぶ。
「クッ、モンスターハウスのトラップか。」
モンスターハウス……ダンジョンでは定番のトラップで、狭い部屋の中にモンスターの大群が溢れ出すというものである。
トラップのレベルにもよるが、溢れ出すのはそれ程強くないモンスターというのが救いだ。しかし、なにぶん数が多い為、まともに相手をしていれば、その内、体力もマナもアイテムも尽きてあとは蹂躙されるがままという凶悪なトラップの一つである。
「ミリア、囲まれる前に逃げるぞ!」
アルフレッドはまだ動けないアリスを担ぎ上げて入り口に向かって走り出す。
入ってきた場所に扉とかはなかったが、罠の発動と共に閉じ込められてもおかしくはない。
「足止めとかしなくていいの?」
ミリアが聞いてくる。
確かに逃げる事を考えれば足止めが出来るならしておいた方がいいが……。
そう考え、ミリアに伝えようとして振り返った所で、考えを改める。
「ミリア、逃げるのを優先した方がいい。まぁ、足止めするというなら止めないがな。」
そう言いながら後ろから迫る黒い群を指さす。
「えっ……。」
ミリアが走りながら振り向き、そして……。
「む、無理っ、無理無理無理……あれだけはイヤぁっ~~~~~!」
追いかけてくるモンスターの正体を知ったミリアが一目散に逃げだす。
「おいっ、こっちはアリスを抱えてるんだぞっ!」
なりふり構わず走り抜けていくミリアを慌てて追いかけるアルフレッドだった。
◇
「それで、この後はどうするの?」
アリスを抱きかかえたミリアが聞いてくる。
「取りあえず休憩だな。アリスもまだ本調子じゃないだろう?」
「そうですねぇ。今なら、アル様に何をされても抵抗出来無いのですぅ。あぁ、無抵抗な私に獣の如き欲望を向けるアル様……いいです、アル様になら……って、痛っ!」
「「何ふざけた事言ってるんだ(の)!!」」
「痛いですぅ。病人は労わるのですよぉ。」
「それだけ元気なら大丈夫だろ。」
「酷いのですよぉ。……さっき私の初めてを奪った癖にぃ……。」
「アルっ!アンタいつの間にっ!」
「あのなぁ……。」
アルフレッドは頭を抱える。
こんな状況でも、普段と変わらないというのは、ある意味安心ともいえるが……アルフレッドにふと悪戯心が沸き上がる。
「アリス、あのな……。」
アルフレッドはアリスの耳元に口を寄せて囁く。
最初は嬉しそうに聞いていたアリスだが、その顔が段々羞恥で紅く染まっていく。
「……という事になっても知らないぞ。」
話を終えたアルフレッドが離れると、アリスは顔を真っ赤にしたままコクコクと頷き、そしてそのまま顔を伏せて俯く。
「えっと、アリスちゃん?アルに何を言われたの?」
「……そんな事……恥ずかしてく言えませんよぉ……。」
真っ赤になったまま、なんとかそれだけを告げるアリス。
その姿を見て、流石に刺激が強すぎたかなと、反省するアルフレッドだった。
「さて、アリス調子はどうだ?」
軽く食事を終え、一息ついたところでアルフレッドがアリスに訊ねる。
「ハイ、もう大丈夫です。アル様は調合の腕前も凄いのですね。」
「そう言えばアリスちゃんってどういう状態だったの?あの宝箱が原因よね?」
逃げるのに必死で、アリスの状態の事がよく分かっていなかったミリアが聞いてくる。
「えぇ、あの宝箱に仕掛けられていたのは状態異常を起こす光と石化ガスだったのですよぉ。その石化ガスが厄介でして、レジストするのに全力を向けたから他の状態異常までは対応できなかったのですよぉ。アル様に強化していただいた装備とお守りのお陰でかなり緩和できたのですが、それが無かったらヤバかったですねぇ。」
「えっと、それって結構危ない状況だったんじゃ……。」
「まぁな。大分緩和したと言っても、筋肉弛緩、麻痺毒、神経毒に混乱、衰弱、魅了等の複合異常が利いていたからな。あのままじゃヤバかったのは確かだ。」
「えっ、でも、万能薬飲ませてたよね?……口移しで。」
状況を補足するアルフレッドにミリアが、何故か拗ねたように言う。
「万能薬と言っても、言うほど万能じゃないって事だよ。あれだけ纏めて状態異常を受けると、専用に調合したものじゃないと、進行を遅らせるぐらいの効果しかないんだ。」
「そっかぁ。でも、その調合した万能薬を飲んだから、アリスちゃんはもう大丈夫って事なんだよね。」
「そういう事ですぅ。……でも、あれだけ複雑な状態異常を治すポーションをパパッと作れるアル様って一体何者なんですかぁ?」
「ただの付与術師だよ。それより、この後なんだが……。」
アルフレッドはそれだけを言って、話題を変える。
「どうするの?全部回ったよね?」
「いや、まだ確認していない場所がある。」
「えー、そこは何もなかったですよぉ。」
アルフレッドが指し示した地図の場所を見たアリスが言う。
「確かにな、だけど『仕掛け』がアリスの看破を逃れているのなら、可能性がない訳じゃない。何より、この空白が怪しすぎるんだ。」
マッピングしてきた結果、、地図中央の不自然な空白が目立つようになる。
「確かに。どう見てもここに何かある様にしか思えないよね。」
「成程ですぅ。この空白場所に行く仕掛けがここにあると言うわけですねぇ。」
アリスが地図の1点を指さす。
「そういう事だ。……で、どうする?」
「どう、って?」
アルフレッドの問いかけに二人は首を傾げる。
「アリスの体調の事もあるし、どう考えても、最終目的地目の前だからな、一旦戻ってゆっくりと休み、準備を整えてから出直すという手もある。」
「……このままいくのですよ。」
アルフレッドの提案を聞き、しばらく考えた後アリスが言う。
「私の事なら、アル様のお薬のお陰で大丈夫ですし、ここで一度戻って手遅れになる方が怖いですぅ。」
「手遅れって?」
アリスの呟きを聞き咎めてマリアが訊ねる。
「んー、何かそんな気がするのですよ。」
「……まぁいいわ。アリスちゃんもこう言ってるし行きましょ。」
アリスの答えに釈然としない顔をしつつミリアが答える。
「分かった……二人とも、無理はするなよ。」
アルフレッドはそう言って出発の準備を始める。
それを見て二人もそれぞれに準備をするのだった。
アルフレッドが、調合を終えたポーションをアリスに渡す。
アリスはいまだ身体の自由が利かないのか、受け取ったポーションを持つ手もおぼつかない。
「このままじゃ飲めないですぅ。アル様飲ませてくださいよぉ……もちろん口移しで。」
「あ、アリスちゃんそんなこと言ったら……。」
アルフレッドは、何かを考えたのち、アリスからポーションを取り上げると自分の口の中に流し込む。
そしておもむろにアリスに近づき、その唇に自分の口を押し付ける。
「んっ!んぐっ……。」
軽く開いたアリスの唇を舌を使って押し広げ、その口内に含んだポーションを流し込む。
急に起きた刺激に、アリスはどうしていいかわからず、身体を身じろぎさせようとするが、元々自由が利いてないうえ、アルフレッドに抱きしめられている今の状態では、動くこともままならず、そのまま受け入れるしかなかった。
コクコクっとアリスの喉が上下し、口内に注がれたポーションをすべて飲み干したのを確認するとアルフレッドはようやく口を離す。
「うぅ……酷いのですぅ、不味いのですぅ。ファーストキスのやり直しがこんなのってあんまりですぅ。」
真っ赤な顔で涙目になりながら訴えかけてくるアリス。
「我慢しろ。味まで調整している暇はなかったんだよ。それに今のは治療行為でキスじゃない。」
空になったポーションの小瓶を回収しながらそう告げるアルフレッド。
その姿に動揺したそぶりは見られないところを見ると、本当に治療行為のつもりだったのだろう。
そう思うとアリスの中で、いいようのない怒りがわいてくる。
「ハイ、アリスちゃん、アーン。」
アルフレッドに一言言ってやらないと気が済まないと、アリスが口を開いたとたん、口の中になにかが突っ込まれる。
「むぐっ……美味しいですぅ……。」
口直しに、果物を一口大に切り取り、アリスに食べさせるミリア。
「美味しいですけどぉ……。」
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「もう一つどう?」
「もらう……あーん。」
「まぁ、言いたいことは分かるけど、アルにあの手の冗談は時と場所を考えないと、ね?」
アリスの口にもう一切れ果物を放り込みながら、諭すように言うミリア。
「もぐもぐ……でも……。」
「あぁいう時、アルに冗談は通じないのよ。」
遠い目をしながらそんなことを言うミリアを見てアリスが即座に理解する。
あぁ、ミリアお姉さんも経験済なんだ、と……。
「……お姉さまも辛かったんですねぇ。」
「わかってくれるのはアリスちゃんだけよぉ~。」
何故かお互いにギュッと抱きしめあう二人を見ながら、どうやらGショックから抜ける事が出来たようで一安心だと、秘かに胸をなでおろすアルフレッド。
あの時は、つい売り言葉に買い言葉的に行動してしまったが、冷静になると、アレはなかったなと、申し訳なく思い後悔していたりする。
「まさか、あんな罠に引っかかるとは思わなかったよ。」
アリスの様態が落ち着き、ある程度動けるようになったところで、アルフレッドは用意していた食事をアリスに渡しながらそう呟く。
「うぅ……ゴメンナサイなのですぅ。……でも後悔も反省もしてないのですっ!」
「後悔はともかく、反省はしなさいっ!」
アリスの言葉にミリアは拳骨を落とす。
まぁ、アレは、確かに反省してもらわないとな、と、その様子を眺めながらアルフレッドはあの時の事を思い出すのだった。
◇
「この部屋で行き止まりですぅ。」
長い道のりを歩き続けて、ようやくたどり着いた広間。
ここに来るまで一本道だったため、ここに何もなければ、さっきまで歩いてきた道を戻らなければならない。
「よく分からないですが、何かがある感じがするのですよ。」
「アリスの眼でもわからないぐらい巧妙な仕掛けか……みんな気をつけてな。」
アルフレッド達は手分けして部屋の中を調査していく。
人間だれしも、苦労に見合うだけの見返りを求めるものであり、アルフレッド達もまた、ここまで来たのだから、と、何らかの発見を期待していた。
というより、何もなく徒労に終わるのが嫌だと思うくらい、ここまでの道のりは長く暇だったのだ。
そんな心境に至る事が、そもそもの罠だという事にも気付かず、アルフレッド達は慎重に床を、壁を調べていく。
「アル様、お姉さま、ちょっと来てください。」
どれくらいの時間が経ったのだろうか、何も見つからず疲労がたまり出したころに、アリスの声がかかる。
「どうした?」
「何かあったの?」
アルフレッドとミリアは、アリスのもとに駆け寄る。
「……宝箱ですぅ。」
アリスの目の前に、ぽつんと宝箱があった。
「これ……部屋に入った時はなかったよね?」
何もない部屋の真ん中だ。
流石に宝箱があれば、最初に気づくだろう。
「なかったのです。振り向いたら突然現れたのですよ。」
アリスが言うには、その場所には何もなく、別の床を調べた後、視線を戻したら、いつの間にか宝箱があったという。
「罠だな。」
「どう見ても罠ね。」
「罠だと思うんですけど、罠の感じがしないのですよぉ。」
「どういうことなの?」
「えっとぉ、説明するのが難しいんですけどぉ、私の魔眼って『看破の魔眼』なんですよぉ。」
「ウン、それは知ってる。」
それが?とミリアは続きを促す。
「だからですね、隠されているものは暴けるんですけど、隠されていないと意味がないんですよぉ。」
「ん???」
アリスの説明は今一つミリアには理解できなかった。
「つまり、宝箱に罠が偽装されていれば、罠があることがわかるけど、初めから偽装されていなければ分からない、ってことだな。」
「です、です♪」
アルフレッドが、かみ砕いて説明するとアリスが嬉しそうに頷く。
「えっと、分かったような分からないような……でも偽装されて無い罠ってあるの?それって罠の意味なくない?」
ミリアは不思議そうに聞いてくる。
「罠、というより何らかの仕掛けだな。たとえば、この宝箱を開けるとか、動かすとかした時に発動する仕掛けがあるとする。これは罠でも何でもなく、単なる手順なので、アリスの看破の魔眼には引っかからない。そして、その作動した仕掛けが罠だとすればアリスにはわからないというわけだ。」
「成程、仕掛けね。……だとしたら、罠じゃなくて、隠し扉とかのスイッチって事もあり得るよね?」
ミリアの言葉を聞いて、アリスが徐に宝箱に手を掛ける。
「その可能性はないとは言えないが……ってバカッ、よせっ!」
止める暇もなく開かれた宝箱から光と煙が出てアリスを包み込む。
「キャッ!」
アルフレッドは素早くアリスを自分の方へと引き寄せる。
その時、光と煙に少し触れた為、その正体が分かる。
「クッ、複合異常かっ!」
「アハッ、油断……しちゃい……ま……。」
「何を喰らったか分かるか?レジストはっ?」
アルフレッドは、声を掛けながらも、収納から万能薬を取り出してアリスの口に含ませる。
が、万能薬はそのまま口から零れ落ちる。
「麻痺かっ。」
どうやら弛緩系の状態異常が効いているらしく、口元が上手く動かないらしい。
このままでは呼吸もヤバくなると判断したアルフレッドは、万能薬を口に含み、アリスの口に直接流し込む。
零れそうになる液体を口で塞ぎ舌で押しもどし、喉の奥まで流れ込むように誘導する。
しばらくして薬が利いて来たのか、アリスの口元が微かに動く。
アルフレッドは口を放しアリスを見つめる。
「大丈夫か?呼吸は出来るか?」
アリスは真っ赤になったまま頷く。
「アルっ!何か来るよっ!」
周りを警戒していたミリアが叫ぶ。
「クッ、モンスターハウスのトラップか。」
モンスターハウス……ダンジョンでは定番のトラップで、狭い部屋の中にモンスターの大群が溢れ出すというものである。
トラップのレベルにもよるが、溢れ出すのはそれ程強くないモンスターというのが救いだ。しかし、なにぶん数が多い為、まともに相手をしていれば、その内、体力もマナもアイテムも尽きてあとは蹂躙されるがままという凶悪なトラップの一つである。
「ミリア、囲まれる前に逃げるぞ!」
アルフレッドはまだ動けないアリスを担ぎ上げて入り口に向かって走り出す。
入ってきた場所に扉とかはなかったが、罠の発動と共に閉じ込められてもおかしくはない。
「足止めとかしなくていいの?」
ミリアが聞いてくる。
確かに逃げる事を考えれば足止めが出来るならしておいた方がいいが……。
そう考え、ミリアに伝えようとして振り返った所で、考えを改める。
「ミリア、逃げるのを優先した方がいい。まぁ、足止めするというなら止めないがな。」
そう言いながら後ろから迫る黒い群を指さす。
「えっ……。」
ミリアが走りながら振り向き、そして……。
「む、無理っ、無理無理無理……あれだけはイヤぁっ~~~~~!」
追いかけてくるモンスターの正体を知ったミリアが一目散に逃げだす。
「おいっ、こっちはアリスを抱えてるんだぞっ!」
なりふり構わず走り抜けていくミリアを慌てて追いかけるアルフレッドだった。
◇
「それで、この後はどうするの?」
アリスを抱きかかえたミリアが聞いてくる。
「取りあえず休憩だな。アリスもまだ本調子じゃないだろう?」
「そうですねぇ。今なら、アル様に何をされても抵抗出来無いのですぅ。あぁ、無抵抗な私に獣の如き欲望を向けるアル様……いいです、アル様になら……って、痛っ!」
「「何ふざけた事言ってるんだ(の)!!」」
「痛いですぅ。病人は労わるのですよぉ。」
「それだけ元気なら大丈夫だろ。」
「酷いのですよぉ。……さっき私の初めてを奪った癖にぃ……。」
「アルっ!アンタいつの間にっ!」
「あのなぁ……。」
アルフレッドは頭を抱える。
こんな状況でも、普段と変わらないというのは、ある意味安心ともいえるが……アルフレッドにふと悪戯心が沸き上がる。
「アリス、あのな……。」
アルフレッドはアリスの耳元に口を寄せて囁く。
最初は嬉しそうに聞いていたアリスだが、その顔が段々羞恥で紅く染まっていく。
「……という事になっても知らないぞ。」
話を終えたアルフレッドが離れると、アリスは顔を真っ赤にしたままコクコクと頷き、そしてそのまま顔を伏せて俯く。
「えっと、アリスちゃん?アルに何を言われたの?」
「……そんな事……恥ずかしてく言えませんよぉ……。」
真っ赤になったまま、なんとかそれだけを告げるアリス。
その姿を見て、流石に刺激が強すぎたかなと、反省するアルフレッドだった。
「さて、アリス調子はどうだ?」
軽く食事を終え、一息ついたところでアルフレッドがアリスに訊ねる。
「ハイ、もう大丈夫です。アル様は調合の腕前も凄いのですね。」
「そう言えばアリスちゃんってどういう状態だったの?あの宝箱が原因よね?」
逃げるのに必死で、アリスの状態の事がよく分かっていなかったミリアが聞いてくる。
「えぇ、あの宝箱に仕掛けられていたのは状態異常を起こす光と石化ガスだったのですよぉ。その石化ガスが厄介でして、レジストするのに全力を向けたから他の状態異常までは対応できなかったのですよぉ。アル様に強化していただいた装備とお守りのお陰でかなり緩和できたのですが、それが無かったらヤバかったですねぇ。」
「えっと、それって結構危ない状況だったんじゃ……。」
「まぁな。大分緩和したと言っても、筋肉弛緩、麻痺毒、神経毒に混乱、衰弱、魅了等の複合異常が利いていたからな。あのままじゃヤバかったのは確かだ。」
「えっ、でも、万能薬飲ませてたよね?……口移しで。」
状況を補足するアルフレッドにミリアが、何故か拗ねたように言う。
「万能薬と言っても、言うほど万能じゃないって事だよ。あれだけ纏めて状態異常を受けると、専用に調合したものじゃないと、進行を遅らせるぐらいの効果しかないんだ。」
「そっかぁ。でも、その調合した万能薬を飲んだから、アリスちゃんはもう大丈夫って事なんだよね。」
「そういう事ですぅ。……でも、あれだけ複雑な状態異常を治すポーションをパパッと作れるアル様って一体何者なんですかぁ?」
「ただの付与術師だよ。それより、この後なんだが……。」
アルフレッドはそれだけを言って、話題を変える。
「どうするの?全部回ったよね?」
「いや、まだ確認していない場所がある。」
「えー、そこは何もなかったですよぉ。」
アルフレッドが指し示した地図の場所を見たアリスが言う。
「確かにな、だけど『仕掛け』がアリスの看破を逃れているのなら、可能性がない訳じゃない。何より、この空白が怪しすぎるんだ。」
マッピングしてきた結果、、地図中央の不自然な空白が目立つようになる。
「確かに。どう見てもここに何かある様にしか思えないよね。」
「成程ですぅ。この空白場所に行く仕掛けがここにあると言うわけですねぇ。」
アリスが地図の1点を指さす。
「そういう事だ。……で、どうする?」
「どう、って?」
アルフレッドの問いかけに二人は首を傾げる。
「アリスの体調の事もあるし、どう考えても、最終目的地目の前だからな、一旦戻ってゆっくりと休み、準備を整えてから出直すという手もある。」
「……このままいくのですよ。」
アルフレッドの提案を聞き、しばらく考えた後アリスが言う。
「私の事なら、アル様のお薬のお陰で大丈夫ですし、ここで一度戻って手遅れになる方が怖いですぅ。」
「手遅れって?」
アリスの呟きを聞き咎めてマリアが訊ねる。
「んー、何かそんな気がするのですよ。」
「……まぁいいわ。アリスちゃんもこう言ってるし行きましょ。」
アリスの答えに釈然としない顔をしつつミリアが答える。
「分かった……二人とも、無理はするなよ。」
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