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冒険者とはかくあるべき??
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「私を巻き込むなぁ~!!」
「い、痛い、痛いですぅ。お姉さま、マジに痛いんですぅ。」
じゃれ合っている二人をぼーっと眺める。
……アリスがお姫様、ねぇ。
じゃれ合っていた二人だが、力尽きてきたのか、今はミリアがアリスを抱きしめ、アリスが逃れるためにミリアの身体を弄り、それに対抗してミリアがアリスを拘束する……などという百合百合しい光景を眺めつつ、これからのことに思考をめぐらすアルフレッド。
アリスの話から逆算すると、あの兵士がここに居たのはアリスを狙っていたわけではないという事が分かる。
ならば、何をしていたか?という事になるのだが、現時点でそれが分かるような物は何もない。
だとするなら、当初の予定通り勇者の遺跡に向かうのがいい。
神託でも触れていたというのなら、そこに行けば何かがあることは間違いなく、逆に言えば、好むと好まざると関わらず、行くことになるのだから。
だったら考えうる限りの事態を想定し、万全の準備を整えて行くのがいい。
そのために必要なものは……とアルフレッドが思考を巡らせていると、ミリアから声がかかる。
「ねぇ、アル。結局ギルドへの報告はどうするの?」
「ん?タイガーベアの討伐完了。帰りがけゴブリンの巣を発見。調査段階でオークの集団に襲われたから、命からがら逃げだした……って事でいいだろ。」
「いいのかなぁ?」
「いいんだよ。嘘は言ってないしな。……それより、もう休んだらどうだ?」
アルフレッドは、ミリアの腕の中でくたぁっとしているアリスを見てそう言う。
「ウン、アリスちゃんも疲れちゃったみたいだし、先に休むね。」
「あぁ、ゆっくり休んでくれ。後、何があっても覗かないから安心してアリスといちゃついていいぞ。」
「しないわよっ、バカッ!」
ミリアは顔を真っ赤にしながらアリスを抱えてテントの中へ入る。
アルフレッドは、テントの中へ消えていく二人の姿を見送ると、収納袋からいくつかの素材と機材を取り出す。
「さて、と、いくつか準備しておかないとな。」
素材の中から触媒となる薬草類を取り出し、魔力を注ぎながら擂り潰していく。
ある程度の量が出来たところで、次は小石大の鉱石を取り出し、金槌で叩き、粉々にした後、さらに別の素材を取り出して同様に粉末状にしていく。
すべての素材を粉末状にし終えたところで、法則に従ってそれらを混ぜていく。
途中水を加えたり火であぶったりしながら数時間かけて、素材を触媒に変える作業に集中していた。
「………ぃ。」
「くぅー……ん?」
作業を終え、凝り固まった身体を解す為伸びをしたところで、その声に気付くアルフレッド。
「……け……ぃ……。」
その声は微かではあったが、テントの中から聞こえてきている……何かあったのだろうか?
アルフレッドはそっと中を覗き込み、すべてを悟る。
そして何事もなかったかのように入り口を占めて立ち去ろうとする。
「行かないで、アル様ぁ~、助けてくださいよぉ~。」
「いや、ムリだろ?」
アルフレッドはテントの外からそう答える。
テントの中では、ミリアがいつもの寝相の悪さを発揮していて、あられもない姿でいるのだったが、それにアリスが巻き込まれていて、何故そうなったか分からないような、しかも、間違っても人様にお見せ出来ないような格好で拘束されていた。
「とりあえず、朝になってミリアが目覚めるまで我慢しろ。」
「そんなこと言わないでくださいよぉ~。貞操の危機なんですよぉ……それともアル様が責任取ってくれますかぁ。」
その言葉を聞いた途端、アルフレッドはテントに押し入り、それならそれでもいいですけど、と呟いているアリスを力任せに引っ張る。
その際、申し訳程度にアリスの身体を覆っていた衣類が剥ぎ取られるが、それぐらいの犠牲で済んだ事で良しとしてもらいたい。
拘束から解かれたアリスはその場でしゃがみ込み、両腕で自分を抱きしめるようにして、身体の各所を隠すようにしながらアルフレッドを見上げる。
「……見ました?」
瞳に涙を浮かべ、潤ませながらそう聞いてくるアリス。
「……気にするな。よくあることだ。」
「ヤッパリ見られたぁ~。っていうか気にしますよぉ!」
「ったく、助けろって言ったのはそっちだろ。」
アルフレッドはそう言いながら収納バックから替えの衣類を取り出してアリスに投げつけ、テントを出ていく。
「ん?」
アルフレッドが火の番をしていると、着替え終えたアリスがやってきて、横に腰を下ろす。
「先ほどはありがとうございました。」
「気にするな。ミリアと一緒にいればよくあることだ。……それより何してるんだ?」
アリスはアルフレッドの腕に自分の腕を絡めて寄り添い、身体を預けてくる。
「責任、取ってもらおうと思って。」
「ったく……何の責任だよ。」
「えぇ~、その言い方アウトですぅ。仮にも女の子の全裸を見たんですよ?それなりの責任をですねぇ……、あっ。」
文句を言い出すアリスの頭を空いてる方の手で撫でてやる。
アリスは顔を蕩けさせ、軽く目を瞑ってさらに体重を預けてくる。
「ふにゃぁ~……これはこれでいいですよぉ~。アル様はよくわかってますぅ。」
アリスは、アルフレッドが撫でるのに身を任せている。
そんなアリスの様子を見ながらアルフレッドは小さな声で囁く。
「……まぁ、あんまり無理するな。辛かったら甘えていいんだぞ。」
その言葉を聞いたアリスは、一瞬身体を強張らせるものの、すぐに力を抜き、顔をアルフレッドの胸に埋める。
「アル様はズルいですぅ。そんな事を言われたら……。」
アリスの声はだんだん小さくなり聞き取れなかった。
代わりに、アルフレッドは、アリスを抱きとめたまま、ずっと頭を撫で続けるのだった。
◇
「ねぇ、アル?」
「何だ?……っとアリスそっち行ったぞ!」
訊ねてくるミリアに返事をしつつ、アリスに指示を出すアルフレッド。
「私達何でこんなことしてるのかなぁ。」
そう呟きながら目の前の草を刈るミリア。
「そうですよぉ!何でこんな……。」
「文句を言う前に体を動かす!大体アリスは冒険者になりたかったんだろ?」
「そうですけどぉ、違うのですぅ。これは冒険者じゃないのですよぉ!」
アリスは涙目になりながら、目の前を横切るカエルを捕まえようと四苦八苦している。
「普通冒険者というのはぁ、依頼を受けてぇ、凶悪なモンスターを倒してぇ、みんなから感謝されたり、ちやほやされたりするんですぅ。間違ってもカエルなんか追いかけないと思うのですよぉ。」
「まだ甘いな。そう言うのは冒険者の一面でしかないんだ。冒険者たるもの、そう言うここ一番の為に準備を怠らず万全にすることが大事なんだ。だからその準備に必要な道具の素材を集めることは立派な冒険者の第一歩だ!」
「素材位街で手に入るよね?」
アルフレッドの高説に対し、ぼそっと呟くミリア。
それでも作業の手を止めないあたり、いつもの事と慣れているミリアだった。
「金がないんだよっ!」
ミリアのツッコミに対し、つい本音を叫ぶアルフレッド。
タイガーベアの報酬だけでは、旅の消耗品を補充したら、3人が宿に泊まる分さえ残らなかったのだ。
なので、急遽遺跡への出発を前倒しにし、適当な場所で夜営の準備をした後、足りないアイテムを作成するための素材を総出で集めている所だったりする。
「あとどれぐらい必要なの?」
ミリアが集めた野草を渡しながら聞いてくる。
「そうだな、とりあえずはアリスが追いかけているカエルで終わりかな。」
「そう?じゃぁ、私は先に戻って食事の準備するね。」
「あぁ、食材はオーク肉しか残ってないぞ?」
「分かってる、大丈夫よ。」
そう言って、山ほどの野草をアルフレッドに押し付け、ベースキャンプに戻るミリアの頭の中は、残っている食材でこの後の食事をどうするか?という事で一杯だった。
「うぅ……ヌメヌメですぅ。」
「ご苦労さん。頑張ったな、」
沢山のカエルを受け取りながら、アリスに労いの言葉をかけるアルフレッド。
「アル様はぁ、こんなヌメヌメが好みなんですかぁ。」
「止めろバカッ!」
抱きついてこようとするアリスを躱して、水色の小さな球を投げつける。
その球はアリスの頭上で弾け、大量のお湯が降り注ぐ。
お湯と言っても30℃もなくやや暖かい水という程度だ。
「うぅ、ずぶ濡れですよぉ。」
「我慢しろ。」
濡れた衣類はアリスの肌に張り付き、その肌を透けさせ、見えてはいけないところが見え隠れしている。
年齢の割には発育のいいアリスは、その仕草と相まって、普段より色っぽく見えてしまうのが困ったものだ。
アルフレッドはアリスから視線を逸らしながら、今度は赤と緑の球を投げる。
赤い球が弾けるとその場で熱を放射し、緑の玉が風を起こす。
熱風がアリスを包み込み、ほどなくすると、アリスの衣類が完全に乾く。
「はぁ、凄いですねぇ。」
少し湿っている髪を弄びながらアリスが呟く。
「別に凄くないだろ。ミリアだってやろうと思えばできる筈。」
アリスに使ったのは、それぞれ水と火と風の魔法を封じ込めた小玉だ。
内包している魔力も少なく、初級の各属性魔法が使えれば誰でも出来るものだ。
「そうですねぇ……少し水の量が多くて溺れそうになって、火力が強すぎて火傷しそうになり、風の力が強くて吹き飛ばされましたけどぉ、一応乾きましたよねぇ。もっとも、吹き飛ばされたせいで汚れて、最初からやり直しというエンドレス状態……イジメですかぁ?」
何故かアリスがやさぐれていた。
どうやら、すでにやった事が有るらしいが、精霊魔法の微妙なコントロールが出来ずに散々な結果だったとのこと。
「……そう言う日もある。」
「ないよっ!」
むくれて拗ねたアリスを宥めつつ、ベースキャンプに戻る事には、ミリア特製の食事がアルフレッドたちを出迎えるのだった。
「明日には遺跡に着きますねぇ。何か注意することってありますかぁ?」
食後、火を囲みながらまったりしている所でアリスがそんな事を聞いてくる。
「そうだな、まず慌てない、急がない事だな。遺跡やダンジョンはどんな罠があるか分からないからな。それに遺跡の場合は隠し部屋などのギミックが巧妙に隠されていることもあるから、じっくりと調べる必要がある。と言っても、今回向かう場所は大勢が何度も訪れている場所だから、いまさら何があるってわけでもないだろうけどな。」
「そう言う事なら任せるのですよ。この眼があれば罠など役に立たないのですよ……ってどうしたのです?」
自慢げに言うアリスだが、アルフレッドとミリアが黙り込んでるのを見て疑問を口にする。
「いや、な。そう言えばアリスって魔眼持ちだったって事を思い出してな。」
「うん、全く気にしてなかったから、すっかり忘れてたよ。」
「えーと、気にされないのは嬉しいんですけど、完全スルーされるのも、なんかモヤモヤするのですよぉ。」
そう言ってへこむアリス。
中々難しいお年頃なのだった。
因みに、アリスの魔眼は『看破の魔眼』と言って隠されているモノを暴くことが出来るらしい。
これは本来、相手が何か隠しごとをしている場合、それが分かるというもので、結果として相手が嘘を言っているかどうかを暴くことが出来るという力なのだが、アリスの場合、隠れているモノ、隠されているモノの定義が非常に曖昧なため、罠や隠し扉があるかないかを感知したり、付近に誰かいるか?というのも目に見えなければ「隠れている」と定義して探知魔法の代わりに使えたりするといった、非常に応用が利く能力になっている。
半面、定義が曖昧なせいで上手く作用しないこともあるらしいので、完璧に便利だとは言い難いらしい。
しかし、使い方によってはダンジョンや遺跡攻略に向いた能力と言えるのだが、当の本人はその価値に気付いてなかったりするのは愛嬌というものだろう。
「じゃぁ、とりあえず、明日はアリスが頼りという事で、今日はゆっくり休むんだぞ。」
「はい分かりました……あ、アル様ロープとかないですか?」
「あるけど、こんなのどうするんだ?」
収納バックからロープを取り出してアリスに渡しながら聞く。
「御姉様を縛っておこうかと。」
「なんでっ!」
ミリアが叫ぶが、アリスの気持が分からなくもないアルフレッドは、頑張れ、と言って二人をテントへ追いやるのだった。
「い、痛い、痛いですぅ。お姉さま、マジに痛いんですぅ。」
じゃれ合っている二人をぼーっと眺める。
……アリスがお姫様、ねぇ。
じゃれ合っていた二人だが、力尽きてきたのか、今はミリアがアリスを抱きしめ、アリスが逃れるためにミリアの身体を弄り、それに対抗してミリアがアリスを拘束する……などという百合百合しい光景を眺めつつ、これからのことに思考をめぐらすアルフレッド。
アリスの話から逆算すると、あの兵士がここに居たのはアリスを狙っていたわけではないという事が分かる。
ならば、何をしていたか?という事になるのだが、現時点でそれが分かるような物は何もない。
だとするなら、当初の予定通り勇者の遺跡に向かうのがいい。
神託でも触れていたというのなら、そこに行けば何かがあることは間違いなく、逆に言えば、好むと好まざると関わらず、行くことになるのだから。
だったら考えうる限りの事態を想定し、万全の準備を整えて行くのがいい。
そのために必要なものは……とアルフレッドが思考を巡らせていると、ミリアから声がかかる。
「ねぇ、アル。結局ギルドへの報告はどうするの?」
「ん?タイガーベアの討伐完了。帰りがけゴブリンの巣を発見。調査段階でオークの集団に襲われたから、命からがら逃げだした……って事でいいだろ。」
「いいのかなぁ?」
「いいんだよ。嘘は言ってないしな。……それより、もう休んだらどうだ?」
アルフレッドは、ミリアの腕の中でくたぁっとしているアリスを見てそう言う。
「ウン、アリスちゃんも疲れちゃったみたいだし、先に休むね。」
「あぁ、ゆっくり休んでくれ。後、何があっても覗かないから安心してアリスといちゃついていいぞ。」
「しないわよっ、バカッ!」
ミリアは顔を真っ赤にしながらアリスを抱えてテントの中へ入る。
アルフレッドは、テントの中へ消えていく二人の姿を見送ると、収納袋からいくつかの素材と機材を取り出す。
「さて、と、いくつか準備しておかないとな。」
素材の中から触媒となる薬草類を取り出し、魔力を注ぎながら擂り潰していく。
ある程度の量が出来たところで、次は小石大の鉱石を取り出し、金槌で叩き、粉々にした後、さらに別の素材を取り出して同様に粉末状にしていく。
すべての素材を粉末状にし終えたところで、法則に従ってそれらを混ぜていく。
途中水を加えたり火であぶったりしながら数時間かけて、素材を触媒に変える作業に集中していた。
「………ぃ。」
「くぅー……ん?」
作業を終え、凝り固まった身体を解す為伸びをしたところで、その声に気付くアルフレッド。
「……け……ぃ……。」
その声は微かではあったが、テントの中から聞こえてきている……何かあったのだろうか?
アルフレッドはそっと中を覗き込み、すべてを悟る。
そして何事もなかったかのように入り口を占めて立ち去ろうとする。
「行かないで、アル様ぁ~、助けてくださいよぉ~。」
「いや、ムリだろ?」
アルフレッドはテントの外からそう答える。
テントの中では、ミリアがいつもの寝相の悪さを発揮していて、あられもない姿でいるのだったが、それにアリスが巻き込まれていて、何故そうなったか分からないような、しかも、間違っても人様にお見せ出来ないような格好で拘束されていた。
「とりあえず、朝になってミリアが目覚めるまで我慢しろ。」
「そんなこと言わないでくださいよぉ~。貞操の危機なんですよぉ……それともアル様が責任取ってくれますかぁ。」
その言葉を聞いた途端、アルフレッドはテントに押し入り、それならそれでもいいですけど、と呟いているアリスを力任せに引っ張る。
その際、申し訳程度にアリスの身体を覆っていた衣類が剥ぎ取られるが、それぐらいの犠牲で済んだ事で良しとしてもらいたい。
拘束から解かれたアリスはその場でしゃがみ込み、両腕で自分を抱きしめるようにして、身体の各所を隠すようにしながらアルフレッドを見上げる。
「……見ました?」
瞳に涙を浮かべ、潤ませながらそう聞いてくるアリス。
「……気にするな。よくあることだ。」
「ヤッパリ見られたぁ~。っていうか気にしますよぉ!」
「ったく、助けろって言ったのはそっちだろ。」
アルフレッドはそう言いながら収納バックから替えの衣類を取り出してアリスに投げつけ、テントを出ていく。
「ん?」
アルフレッドが火の番をしていると、着替え終えたアリスがやってきて、横に腰を下ろす。
「先ほどはありがとうございました。」
「気にするな。ミリアと一緒にいればよくあることだ。……それより何してるんだ?」
アリスはアルフレッドの腕に自分の腕を絡めて寄り添い、身体を預けてくる。
「責任、取ってもらおうと思って。」
「ったく……何の責任だよ。」
「えぇ~、その言い方アウトですぅ。仮にも女の子の全裸を見たんですよ?それなりの責任をですねぇ……、あっ。」
文句を言い出すアリスの頭を空いてる方の手で撫でてやる。
アリスは顔を蕩けさせ、軽く目を瞑ってさらに体重を預けてくる。
「ふにゃぁ~……これはこれでいいですよぉ~。アル様はよくわかってますぅ。」
アリスは、アルフレッドが撫でるのに身を任せている。
そんなアリスの様子を見ながらアルフレッドは小さな声で囁く。
「……まぁ、あんまり無理するな。辛かったら甘えていいんだぞ。」
その言葉を聞いたアリスは、一瞬身体を強張らせるものの、すぐに力を抜き、顔をアルフレッドの胸に埋める。
「アル様はズルいですぅ。そんな事を言われたら……。」
アリスの声はだんだん小さくなり聞き取れなかった。
代わりに、アルフレッドは、アリスを抱きとめたまま、ずっと頭を撫で続けるのだった。
◇
「ねぇ、アル?」
「何だ?……っとアリスそっち行ったぞ!」
訊ねてくるミリアに返事をしつつ、アリスに指示を出すアルフレッド。
「私達何でこんなことしてるのかなぁ。」
そう呟きながら目の前の草を刈るミリア。
「そうですよぉ!何でこんな……。」
「文句を言う前に体を動かす!大体アリスは冒険者になりたかったんだろ?」
「そうですけどぉ、違うのですぅ。これは冒険者じゃないのですよぉ!」
アリスは涙目になりながら、目の前を横切るカエルを捕まえようと四苦八苦している。
「普通冒険者というのはぁ、依頼を受けてぇ、凶悪なモンスターを倒してぇ、みんなから感謝されたり、ちやほやされたりするんですぅ。間違ってもカエルなんか追いかけないと思うのですよぉ。」
「まだ甘いな。そう言うのは冒険者の一面でしかないんだ。冒険者たるもの、そう言うここ一番の為に準備を怠らず万全にすることが大事なんだ。だからその準備に必要な道具の素材を集めることは立派な冒険者の第一歩だ!」
「素材位街で手に入るよね?」
アルフレッドの高説に対し、ぼそっと呟くミリア。
それでも作業の手を止めないあたり、いつもの事と慣れているミリアだった。
「金がないんだよっ!」
ミリアのツッコミに対し、つい本音を叫ぶアルフレッド。
タイガーベアの報酬だけでは、旅の消耗品を補充したら、3人が宿に泊まる分さえ残らなかったのだ。
なので、急遽遺跡への出発を前倒しにし、適当な場所で夜営の準備をした後、足りないアイテムを作成するための素材を総出で集めている所だったりする。
「あとどれぐらい必要なの?」
ミリアが集めた野草を渡しながら聞いてくる。
「そうだな、とりあえずはアリスが追いかけているカエルで終わりかな。」
「そう?じゃぁ、私は先に戻って食事の準備するね。」
「あぁ、食材はオーク肉しか残ってないぞ?」
「分かってる、大丈夫よ。」
そう言って、山ほどの野草をアルフレッドに押し付け、ベースキャンプに戻るミリアの頭の中は、残っている食材でこの後の食事をどうするか?という事で一杯だった。
「うぅ……ヌメヌメですぅ。」
「ご苦労さん。頑張ったな、」
沢山のカエルを受け取りながら、アリスに労いの言葉をかけるアルフレッド。
「アル様はぁ、こんなヌメヌメが好みなんですかぁ。」
「止めろバカッ!」
抱きついてこようとするアリスを躱して、水色の小さな球を投げつける。
その球はアリスの頭上で弾け、大量のお湯が降り注ぐ。
お湯と言っても30℃もなくやや暖かい水という程度だ。
「うぅ、ずぶ濡れですよぉ。」
「我慢しろ。」
濡れた衣類はアリスの肌に張り付き、その肌を透けさせ、見えてはいけないところが見え隠れしている。
年齢の割には発育のいいアリスは、その仕草と相まって、普段より色っぽく見えてしまうのが困ったものだ。
アルフレッドはアリスから視線を逸らしながら、今度は赤と緑の球を投げる。
赤い球が弾けるとその場で熱を放射し、緑の玉が風を起こす。
熱風がアリスを包み込み、ほどなくすると、アリスの衣類が完全に乾く。
「はぁ、凄いですねぇ。」
少し湿っている髪を弄びながらアリスが呟く。
「別に凄くないだろ。ミリアだってやろうと思えばできる筈。」
アリスに使ったのは、それぞれ水と火と風の魔法を封じ込めた小玉だ。
内包している魔力も少なく、初級の各属性魔法が使えれば誰でも出来るものだ。
「そうですねぇ……少し水の量が多くて溺れそうになって、火力が強すぎて火傷しそうになり、風の力が強くて吹き飛ばされましたけどぉ、一応乾きましたよねぇ。もっとも、吹き飛ばされたせいで汚れて、最初からやり直しというエンドレス状態……イジメですかぁ?」
何故かアリスがやさぐれていた。
どうやら、すでにやった事が有るらしいが、精霊魔法の微妙なコントロールが出来ずに散々な結果だったとのこと。
「……そう言う日もある。」
「ないよっ!」
むくれて拗ねたアリスを宥めつつ、ベースキャンプに戻る事には、ミリア特製の食事がアルフレッドたちを出迎えるのだった。
「明日には遺跡に着きますねぇ。何か注意することってありますかぁ?」
食後、火を囲みながらまったりしている所でアリスがそんな事を聞いてくる。
「そうだな、まず慌てない、急がない事だな。遺跡やダンジョンはどんな罠があるか分からないからな。それに遺跡の場合は隠し部屋などのギミックが巧妙に隠されていることもあるから、じっくりと調べる必要がある。と言っても、今回向かう場所は大勢が何度も訪れている場所だから、いまさら何があるってわけでもないだろうけどな。」
「そう言う事なら任せるのですよ。この眼があれば罠など役に立たないのですよ……ってどうしたのです?」
自慢げに言うアリスだが、アルフレッドとミリアが黙り込んでるのを見て疑問を口にする。
「いや、な。そう言えばアリスって魔眼持ちだったって事を思い出してな。」
「うん、全く気にしてなかったから、すっかり忘れてたよ。」
「えーと、気にされないのは嬉しいんですけど、完全スルーされるのも、なんかモヤモヤするのですよぉ。」
そう言ってへこむアリス。
中々難しいお年頃なのだった。
因みに、アリスの魔眼は『看破の魔眼』と言って隠されているモノを暴くことが出来るらしい。
これは本来、相手が何か隠しごとをしている場合、それが分かるというもので、結果として相手が嘘を言っているかどうかを暴くことが出来るという力なのだが、アリスの場合、隠れているモノ、隠されているモノの定義が非常に曖昧なため、罠や隠し扉があるかないかを感知したり、付近に誰かいるか?というのも目に見えなければ「隠れている」と定義して探知魔法の代わりに使えたりするといった、非常に応用が利く能力になっている。
半面、定義が曖昧なせいで上手く作用しないこともあるらしいので、完璧に便利だとは言い難いらしい。
しかし、使い方によってはダンジョンや遺跡攻略に向いた能力と言えるのだが、当の本人はその価値に気付いてなかったりするのは愛嬌というものだろう。
「じゃぁ、とりあえず、明日はアリスが頼りという事で、今日はゆっくり休むんだぞ。」
「はい分かりました……あ、アル様ロープとかないですか?」
「あるけど、こんなのどうするんだ?」
収納バックからロープを取り出してアリスに渡しながら聞く。
「御姉様を縛っておこうかと。」
「なんでっ!」
ミリアが叫ぶが、アリスの気持が分からなくもないアルフレッドは、頑張れ、と言って二人をテントへ追いやるのだった。
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