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冒険者ギルドでもテンプレは健在です。
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「ふんふんふーん……。」
アリスは手にした白いカードを眺めながら、鼻歌を鳴らしている。
「はぁ、アリスちゃんはご機嫌ねぇ。」
ミリアが疲れたように言う。
いや、疲れたように、ではなく、ミリアは実際に疲れていた。
そして、その疲労の原因は、目の前の少女、アリスの所為だった。
「だって、念願のライセンスカードですぅ。今は白ですが、ここから私の伝説が始まるのですよぉ。」
冒険者ギルドのライセンスカード、通称『ギルドカード』は、その名の通り、冒険者のライセンスを持っている者に与えられる。
つまりギルドカードを所持しているイコール冒険者である、と世間一般に認められる、身分証明書みたいなものだった。
このカードを所持していれば、街への入場税の免除や、ギルドのある街中なら、ランクに応じた割引等の優待を受けることが出来る。
もちろん、冒険者としての義務も生じるので、義務を果たさない冒険者は、ライセンスを取り上げられることになる。
今、アリスが所持しているのは、白いカード……つまりホワイトランクと言って、いわば冒険者見習いみたいなものだ。
これから依頼を受けて、達成ポイントを貯め、ギルドが制定したレベルに達することで一つ上のランク、グリーンランクにあがることが出来る。
その後も一定の条件をクリアしていけば、グリーンからブルー、ブルーからレッド、レッドからパープル、そしてシルバーというようにランクは上がっていくが、逆に、そのランクに定められた最低条件をクリアできないと、ランクが下がることになる。
そして、ホワイトランクより下はなく、ホワイトランクの最低条件を達成出来ないものは資格剥奪……つまり冒険者をクビになる。
とは言っても、ホワイトランクの最低条件というのが「月に一回、依頼を達成する」と言うものなので、余程のことがなければ資格を剥奪される事は無い。
もちろんアルフレッドもミリアもライセンスカードは持っていて、その色は赤……レッドランクで、いわゆる「中堅クラス」の冒険者だった。
これまでの経験から、ギルドで起きるトラブルは色々経験しているし、その原因や対処方法も熟知している。
場合によっては、アルフレッドの使えない「裏技」を駆使して切り抜けることも出来る。
だから、アリスが「冒険者登録をする」と言い出した時、アルフレッドはミリアに任せ、自分は準備があるから、と別行動しているのだが……。
「アルの奴、絶対こうなることを予想してたよね。」
そう呟くミリア。
彼女たちの周りの床には十数人の男達が倒れていた。
全員、ミリアとアリスの被害者である。
どうしてこうなったのか?理由は単純明快で、ミリアとアリスという、美少女二人が冒険者ギルドに姿を見せたからである。
今、ミリアがいるのは、ミルトの街から馬車で三日ほど移動したところにある、エルザの街の冒険者ギルド。
あの日、アリスに急かされてミルトの街を出てからちょうど三日目の今日、エルザの街について早々に、アリスが「冒険者ギルドに行って登録をしたい」と言い出したのだ。
公女という身分を公にすれば、今後の行動に差し支えるし、アリスとしても身分に関係なく行動がしたかった。
だから、ミルトの街の公爵邸には書置きだけを残して、家出同然に飛び出してきた、という事を道中で聞いている。
ちなみに、それを聞いたアルフレッドはすぐに引き返そうとしたのだが、アリスに「今引き返したら誘拐犯として捕まる」と脅されてやむなくここまで来たのだ。
だから、今後の行動に制限を掛けられない為にも、アリスの正体を隠しつつ、身分証明が出来る冒険者登録は必然であり、アルフレッドもミリアも反対するだけの論拠がなく、アリスの望むがままに冒険者ギルドに向う事になったのだった。
冒険者ギルドには、通常酒場が併設されていて、冒険者たちは依頼の打ち合わせや、相談の他、依頼が上手くいった時の打ち上げなどに使用している。
また、条件に合う依頼が見つけられなかった冒険者たちが、緊急の依頼が入るのを待つ場としても使われている為、この時間帯にギルドにたむろしている冒険者の殆どは、依頼が見つからず暇を持て余している者達である。
そこに現れた、美少女二人。いかにも場違いな少女たちがギルドに来る理由は、緊急の依頼であることは間違いなく、得てしてそう言う依頼はおいしいものが多かったりする。
だからだろう、誰よりも早くその依頼を受けようと、冒険者たちは彼女たちに注目していた。
その様な背景があったためか、冒険者たちは、アリスの「冒険者登録を」という言葉に激怒した。
美味しい依頼が転がり込んできたと思ったら、単なる登録だった。
しかも相手は年端も行かない少女とくれば、一言いいたくなるのも仕方がない事だろう。
アリスたちにしてみれば逆恨みもいい所なのだが、自分たちの行動が逆恨みだと自覚できるような者たちは、そもそもこのような行動に出る訳がない。
「お嬢ちゃん、ここは子供の遊び場と違うんだぜ。怪我しないうちにお家へ帰りな。」
親切心もあったのだが、期待を外された身としては、少しぐらい揶揄っても、という気持ちがあったから、口調が荒くなるのも仕方がない事だった。
「あら?御親切にどうも。あなた達のような、昼間から仕事もせずに飲んだくれている、クズのような大人の相手をするなというご忠告ですのね。」
しかし、相手の思惑がどうであれ、アリスには「はい、そうですか」と従う理由も義理もない。
それに、こういう年下の少女相手に舐めてかかる輩の相手は初めてではなく、下出に出て得るものは何もないと言う事を知っていた。
「バカにしてんのかっ!」
「あら?教養もない無知な輩と思っていましたけど、理解できるぐらいの頭はお持ちでしたのね。」
このような挑発に容易く引っかかるなんて……とアリスは思う。
アリスが今まで相手にしてきた者達は、もう少し辛抱強く、上品な言葉で修飾しながら反撃してくる。
たった一言で怒りをあらわにするなんて、相手にもならない、とアリスは余裕を持っていたのだが……。
「そんなお嬢ちゃんには「教育」が必要だな。」
そう言って、背後からいきなり掴みかかってきた冒険者の男に、たやすく掴まってしまうアリス。
「なっ、無礼な!離しなさいっ!」
アリスにとっての誤算は、ここはアリスのフィールドである「社交界」ではなく、ある意味「力がすべて」の、冒険者のたまり場だ、という事だった。
「お嬢ちゃん、大人の言う事は聞くモンだよ。中にはね、オジサンみたいな小さい女の子が好みって言う紳士もたくさんいるんだからね。」
男はそう言って、ニヤニヤしながら、アリスの腕を後ろに捻りあげる。
「痛いっ……離しなさい!」
痛みを堪え必死に暴れるアリスだが、その様子はその場にいる男たちの嗜虐心に火を点けるだけだった。
「そこまでよ!」
今、まさにアリスの身体に触れようとした男の顔を、かすめるようにナイフが通り過ぎ、背後の壁に突き刺さる。
少しは勉強も必要だろうと、黙って見ていたミリアだったが、これ以上は行きすぎだと判断して止めに入る。
「小さい子に興奮してるんじゃないわよ、この変態共!」
アリスへの気を逸らすために放った言葉だったが、興奮している彼らには効果があり過ぎた。
「なんだぁ?相手にされなくて嫉妬してんのかぁ?ちゃんと相手してやるから大人しく待ってなよ。」
「俺が先に相手してやろうかぁ。」
男たちが下卑た笑い声をあげる。
男って生き物は、ホントどうしようもない、とミリアは呆れかえる。
しかし、狙い通りに、男たちの意識をアリスから逸らすことに成功する。
アリスは、その隙をついて拘束から抜け出し、そっと隅の方へと移動する。
それを確認したミリアは、後は適当にあしらって、この場を去るだけ、と、逃げ道を探していたのだが、そんなミリアの耳にある言葉が飛び込んでくる。
「相変わらず、ナイチチが趣味なんだな。」
「いいじゃねえか、そこらのガキより色気があるチッパイなんて中々いねえんだよ!」
その言葉にミリアは我を忘れる。胸の話題はミリアの鬼門だった。
「胸が小さくて悪かったわねっ!これでもエルフの中じゃ大きいのよっ!」
ミリアが怒りに任せて精霊を召喚する。
「水の精霊よ、ミリアルドの名においてその力を示せ!『スプラッシュ!』」
どこかららともなく大量の水があふれだし、男たちへ襲い掛かる。
いきなりの濁流に巻き込まれた男たちが流されまい、と必死に足を踏ん張っている所にアリスの声が響く。
「流石お姉さま、ナイスアシストですぅ。そして、私に無礼を働いた変態紳士さんには御仕置なのですよ。」
ちゃっかりと、水責めの範囲から逃れていたアリスが、少し下がるようにミリアに指示する。
「ちょっと、アリスちゃん、何するつもり?」
アリスの言葉に、我を取り戻したミリアは、アリスの言葉通りに少し下がりながら訊ねる。
頭に血が上ったとはいえ、冷静になってみると、少しやり過ぎたと思っているミリアとしては、これ以上の面倒事になる前に帰りたかったのだが、アリスを止めるには我に返るのが少しだけ遅かったのだった。
「軽いお仕置きですよぉ?……『スタンショック!』」
アリスがルーンを唱えて放ったのは電撃系の初級魔法。
そのままでは軽く痺れる程度で、それほど効果のない魔法なのだが、今は状況が悪かった……というより、この状況だから、アリスはこの魔法を選んだのだろう。
ミリアが放ったスプラッシュは、大気中の水分を核にして出したもので、要は単なる水であり、水魔法の『ピュア・ウォーター』のように純水を生み出したわけではない。
つまり、不純物が大量に混じっている単なる水は、導電率が高く、そこに電気を流せば……。
「こうなるのよね。」
ミリアは、足元に転がってヒクヒクしている男たちを眺めながら呟いた。
「あ、終わりましたか?では、こちらに来て下さいね、アリスさんのライセンスカードが出来てますよ。」
場が鎮まるのを見計らったかのように、何事もなかったような暢気な声が背後から掛けられる。
ギルドの受付のお姉さんだった。
このようなことは日常茶飯事なのだろうが、さすがに暢気すぎるのでは?とミリアは不安を覚える。
なので、淡々と手続きを済ましていくお姉さんに思わず訊ねてしまった。
「アレ、いいんですか?」
お姉さんはミリアが指さす方に、ちらっと視線を向けた後、軽く頷く。
「器物破損もないですし、大丈夫ですよ。いつも、これくらい平和的に解決してくれると助かるんですけどねぇ。」
「私物事の分別はつきますから。」
何故か胸を張ってエッヘンと偉そうにするアリス。
その様子をニコニコと笑いながら見ているお姉さんに「本当はもっと平和的な解決をするはずだった」とは言えないミリアだった。
アルフレッドが諸々の準備を済ませ、ギルドに着いたときに目にしたのは、客の殆どが床に転がっているという異常な様相の酒場と、無事にライセンスカードを手にしてご機嫌で鼻歌を歌っているアリスと、テーブルに突っ伏したまま動かないミリアという、なんともコメントしづらい光景だった。
アリスは手にした白いカードを眺めながら、鼻歌を鳴らしている。
「はぁ、アリスちゃんはご機嫌ねぇ。」
ミリアが疲れたように言う。
いや、疲れたように、ではなく、ミリアは実際に疲れていた。
そして、その疲労の原因は、目の前の少女、アリスの所為だった。
「だって、念願のライセンスカードですぅ。今は白ですが、ここから私の伝説が始まるのですよぉ。」
冒険者ギルドのライセンスカード、通称『ギルドカード』は、その名の通り、冒険者のライセンスを持っている者に与えられる。
つまりギルドカードを所持しているイコール冒険者である、と世間一般に認められる、身分証明書みたいなものだった。
このカードを所持していれば、街への入場税の免除や、ギルドのある街中なら、ランクに応じた割引等の優待を受けることが出来る。
もちろん、冒険者としての義務も生じるので、義務を果たさない冒険者は、ライセンスを取り上げられることになる。
今、アリスが所持しているのは、白いカード……つまりホワイトランクと言って、いわば冒険者見習いみたいなものだ。
これから依頼を受けて、達成ポイントを貯め、ギルドが制定したレベルに達することで一つ上のランク、グリーンランクにあがることが出来る。
その後も一定の条件をクリアしていけば、グリーンからブルー、ブルーからレッド、レッドからパープル、そしてシルバーというようにランクは上がっていくが、逆に、そのランクに定められた最低条件をクリアできないと、ランクが下がることになる。
そして、ホワイトランクより下はなく、ホワイトランクの最低条件を達成出来ないものは資格剥奪……つまり冒険者をクビになる。
とは言っても、ホワイトランクの最低条件というのが「月に一回、依頼を達成する」と言うものなので、余程のことがなければ資格を剥奪される事は無い。
もちろんアルフレッドもミリアもライセンスカードは持っていて、その色は赤……レッドランクで、いわゆる「中堅クラス」の冒険者だった。
これまでの経験から、ギルドで起きるトラブルは色々経験しているし、その原因や対処方法も熟知している。
場合によっては、アルフレッドの使えない「裏技」を駆使して切り抜けることも出来る。
だから、アリスが「冒険者登録をする」と言い出した時、アルフレッドはミリアに任せ、自分は準備があるから、と別行動しているのだが……。
「アルの奴、絶対こうなることを予想してたよね。」
そう呟くミリア。
彼女たちの周りの床には十数人の男達が倒れていた。
全員、ミリアとアリスの被害者である。
どうしてこうなったのか?理由は単純明快で、ミリアとアリスという、美少女二人が冒険者ギルドに姿を見せたからである。
今、ミリアがいるのは、ミルトの街から馬車で三日ほど移動したところにある、エルザの街の冒険者ギルド。
あの日、アリスに急かされてミルトの街を出てからちょうど三日目の今日、エルザの街について早々に、アリスが「冒険者ギルドに行って登録をしたい」と言い出したのだ。
公女という身分を公にすれば、今後の行動に差し支えるし、アリスとしても身分に関係なく行動がしたかった。
だから、ミルトの街の公爵邸には書置きだけを残して、家出同然に飛び出してきた、という事を道中で聞いている。
ちなみに、それを聞いたアルフレッドはすぐに引き返そうとしたのだが、アリスに「今引き返したら誘拐犯として捕まる」と脅されてやむなくここまで来たのだ。
だから、今後の行動に制限を掛けられない為にも、アリスの正体を隠しつつ、身分証明が出来る冒険者登録は必然であり、アルフレッドもミリアも反対するだけの論拠がなく、アリスの望むがままに冒険者ギルドに向う事になったのだった。
冒険者ギルドには、通常酒場が併設されていて、冒険者たちは依頼の打ち合わせや、相談の他、依頼が上手くいった時の打ち上げなどに使用している。
また、条件に合う依頼が見つけられなかった冒険者たちが、緊急の依頼が入るのを待つ場としても使われている為、この時間帯にギルドにたむろしている冒険者の殆どは、依頼が見つからず暇を持て余している者達である。
そこに現れた、美少女二人。いかにも場違いな少女たちがギルドに来る理由は、緊急の依頼であることは間違いなく、得てしてそう言う依頼はおいしいものが多かったりする。
だからだろう、誰よりも早くその依頼を受けようと、冒険者たちは彼女たちに注目していた。
その様な背景があったためか、冒険者たちは、アリスの「冒険者登録を」という言葉に激怒した。
美味しい依頼が転がり込んできたと思ったら、単なる登録だった。
しかも相手は年端も行かない少女とくれば、一言いいたくなるのも仕方がない事だろう。
アリスたちにしてみれば逆恨みもいい所なのだが、自分たちの行動が逆恨みだと自覚できるような者たちは、そもそもこのような行動に出る訳がない。
「お嬢ちゃん、ここは子供の遊び場と違うんだぜ。怪我しないうちにお家へ帰りな。」
親切心もあったのだが、期待を外された身としては、少しぐらい揶揄っても、という気持ちがあったから、口調が荒くなるのも仕方がない事だった。
「あら?御親切にどうも。あなた達のような、昼間から仕事もせずに飲んだくれている、クズのような大人の相手をするなというご忠告ですのね。」
しかし、相手の思惑がどうであれ、アリスには「はい、そうですか」と従う理由も義理もない。
それに、こういう年下の少女相手に舐めてかかる輩の相手は初めてではなく、下出に出て得るものは何もないと言う事を知っていた。
「バカにしてんのかっ!」
「あら?教養もない無知な輩と思っていましたけど、理解できるぐらいの頭はお持ちでしたのね。」
このような挑発に容易く引っかかるなんて……とアリスは思う。
アリスが今まで相手にしてきた者達は、もう少し辛抱強く、上品な言葉で修飾しながら反撃してくる。
たった一言で怒りをあらわにするなんて、相手にもならない、とアリスは余裕を持っていたのだが……。
「そんなお嬢ちゃんには「教育」が必要だな。」
そう言って、背後からいきなり掴みかかってきた冒険者の男に、たやすく掴まってしまうアリス。
「なっ、無礼な!離しなさいっ!」
アリスにとっての誤算は、ここはアリスのフィールドである「社交界」ではなく、ある意味「力がすべて」の、冒険者のたまり場だ、という事だった。
「お嬢ちゃん、大人の言う事は聞くモンだよ。中にはね、オジサンみたいな小さい女の子が好みって言う紳士もたくさんいるんだからね。」
男はそう言って、ニヤニヤしながら、アリスの腕を後ろに捻りあげる。
「痛いっ……離しなさい!」
痛みを堪え必死に暴れるアリスだが、その様子はその場にいる男たちの嗜虐心に火を点けるだけだった。
「そこまでよ!」
今、まさにアリスの身体に触れようとした男の顔を、かすめるようにナイフが通り過ぎ、背後の壁に突き刺さる。
少しは勉強も必要だろうと、黙って見ていたミリアだったが、これ以上は行きすぎだと判断して止めに入る。
「小さい子に興奮してるんじゃないわよ、この変態共!」
アリスへの気を逸らすために放った言葉だったが、興奮している彼らには効果があり過ぎた。
「なんだぁ?相手にされなくて嫉妬してんのかぁ?ちゃんと相手してやるから大人しく待ってなよ。」
「俺が先に相手してやろうかぁ。」
男たちが下卑た笑い声をあげる。
男って生き物は、ホントどうしようもない、とミリアは呆れかえる。
しかし、狙い通りに、男たちの意識をアリスから逸らすことに成功する。
アリスは、その隙をついて拘束から抜け出し、そっと隅の方へと移動する。
それを確認したミリアは、後は適当にあしらって、この場を去るだけ、と、逃げ道を探していたのだが、そんなミリアの耳にある言葉が飛び込んでくる。
「相変わらず、ナイチチが趣味なんだな。」
「いいじゃねえか、そこらのガキより色気があるチッパイなんて中々いねえんだよ!」
その言葉にミリアは我を忘れる。胸の話題はミリアの鬼門だった。
「胸が小さくて悪かったわねっ!これでもエルフの中じゃ大きいのよっ!」
ミリアが怒りに任せて精霊を召喚する。
「水の精霊よ、ミリアルドの名においてその力を示せ!『スプラッシュ!』」
どこかららともなく大量の水があふれだし、男たちへ襲い掛かる。
いきなりの濁流に巻き込まれた男たちが流されまい、と必死に足を踏ん張っている所にアリスの声が響く。
「流石お姉さま、ナイスアシストですぅ。そして、私に無礼を働いた変態紳士さんには御仕置なのですよ。」
ちゃっかりと、水責めの範囲から逃れていたアリスが、少し下がるようにミリアに指示する。
「ちょっと、アリスちゃん、何するつもり?」
アリスの言葉に、我を取り戻したミリアは、アリスの言葉通りに少し下がりながら訊ねる。
頭に血が上ったとはいえ、冷静になってみると、少しやり過ぎたと思っているミリアとしては、これ以上の面倒事になる前に帰りたかったのだが、アリスを止めるには我に返るのが少しだけ遅かったのだった。
「軽いお仕置きですよぉ?……『スタンショック!』」
アリスがルーンを唱えて放ったのは電撃系の初級魔法。
そのままでは軽く痺れる程度で、それほど効果のない魔法なのだが、今は状況が悪かった……というより、この状況だから、アリスはこの魔法を選んだのだろう。
ミリアが放ったスプラッシュは、大気中の水分を核にして出したもので、要は単なる水であり、水魔法の『ピュア・ウォーター』のように純水を生み出したわけではない。
つまり、不純物が大量に混じっている単なる水は、導電率が高く、そこに電気を流せば……。
「こうなるのよね。」
ミリアは、足元に転がってヒクヒクしている男たちを眺めながら呟いた。
「あ、終わりましたか?では、こちらに来て下さいね、アリスさんのライセンスカードが出来てますよ。」
場が鎮まるのを見計らったかのように、何事もなかったような暢気な声が背後から掛けられる。
ギルドの受付のお姉さんだった。
このようなことは日常茶飯事なのだろうが、さすがに暢気すぎるのでは?とミリアは不安を覚える。
なので、淡々と手続きを済ましていくお姉さんに思わず訊ねてしまった。
「アレ、いいんですか?」
お姉さんはミリアが指さす方に、ちらっと視線を向けた後、軽く頷く。
「器物破損もないですし、大丈夫ですよ。いつも、これくらい平和的に解決してくれると助かるんですけどねぇ。」
「私物事の分別はつきますから。」
何故か胸を張ってエッヘンと偉そうにするアリス。
その様子をニコニコと笑いながら見ているお姉さんに「本当はもっと平和的な解決をするはずだった」とは言えないミリアだった。
アルフレッドが諸々の準備を済ませ、ギルドに着いたときに目にしたのは、客の殆どが床に転がっているという異常な様相の酒場と、無事にライセンスカードを手にしてご機嫌で鼻歌を歌っているアリスと、テーブルに突っ伏したまま動かないミリアという、なんともコメントしづらい光景だった。
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