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旅立ちます。

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カチャカチャカチャ…。

まだ皆が寝静まっている明け方、台所にテンポよく響く音。

「セーラ様、沸騰しましたよ。」

「ありがとう!クレア。卵入れてくれますか?」

クレアは準備してくれた、鍋に卵を入れる。
それをクレアに火を調整してもらいながら、クツクツと茹でていく。

茹で上がれば、冷めるまで少し放置だ。

その間に私が持っている物の仕上げに係る。

そこには白っぽいクリーム状の塊が出来ている。そう、生クリームだ。
水魔法で冷やしながら作った生クリームは、そのままでも美味しい。

キウイに似たキーウイとオレンジに似たオレヌを一口位のぶつ切りに。イーチはタテ半分に切る。

ボウルに冷やしておいた生クリームに入れ、軽く混ぜ、ほんの少しのお塩を加えて更に混ぜる。

「…ちょっとあじみ!」

パクッ、と口に入れると、口の中に甘さと酸味が広がる。

「ん~!甘い!!」

甘さは絶妙だ。
それをパンに生クリームを塗り、もう1枚ではさむ。
さらにもう一度同様に生クリームをはさみ、もう1組作るとそれを切り分ける。

フルーツサンドの出来上がり!

「美味しそうですね!セーラ様!」

「たべちゃだめですよ!くれあ!!」

「分かってますよ!これはルーチェ様とルークス様のですものね。」

「…うん。」

クレアが目を細めて少し私を気遣うように見つめる。

そう、今日から兄様と姉様は学園に入る為に家を出る。

淋しいけど、二人を応援しよう!そう思って旅先で食べられるお弁当を作る事にした。

一人ではまだ背や力が足りないから、クレアに内緒で手伝ってもらうことにしたのだ。

冷めた茹で卵を潰してマヨネーズを混ぜて、塩胡椒で味を整えて作った、ふわふわのタマゴサンドと、薄くスライスしたベーコン変わりのお肉とレタス擬きのサンド。

そして、さっき出来上がったフルーツサンドはデザートの代わり。

「…できましたね。あとはおてがみをそえて…。うん!できた!!」

お弁当っぽく入れて、(お弁当箱がないんだよね。その中に手紙を隠した。
可愛い刺繍の入ったハンカチに包んで完成だ。

「しばらくあえないから、きょうはでかけるまで、ふたりのそばにいます!」

「はい。この包みは私がセーラ様のお部屋に置いてきます。」

台所の後片付けをしながら、クレアが言うから、「おねがいします!」と、お礼をして二人の所へ向かった。


◇◇◇◇◇


その日、兄様と姉様はいつも以上に私を構い倒した。

私も多分、いつも以上に兄様と姉様に甘えていた自覚もある。

遠くから優しく目を細める母様と、セバスチャン。
羨ましいと目で訴える父様とダニエル。

若干、引きっつった笑みを浮かべたアチェロさん。

(いいじゃないか、大好きな二人にしばらく会えないんだから…!)

そうアチェロさんに目で訴えると、目を細めて笑ってくれた。

楽しく過ごす時間はあっという間に過ぎて、兄様と姉様の出発の時間が来てしまった。

「ルーチェ、ルークス忘れ物はない?」

「…あります。」

母様に荷物を確認する様に言われた兄様と姉様は、私をぎゅっう!、と抱き締めた。

「…ルークス、セーラは忘れ物じゃないよ。」

「嫌です。休みまでセーラに会えないのは。」

「学園に行かなくても、お勉強は出来ますわ!」

「にいさま…。ねえさま…。」

父様に諭すように言われた兄様を見た私は、ぎゅっ、と兄様と姉様の手を強く握りしめた。

「「セーラ?」」

「……。」

「セーラ!どうしたの?」

驚く母様に、兄様と姉様も私を見て目を大きくした。
気がつくと、目からいくつもの大粒の雫が溢れ落ちていた。

驚いて身動き取れずにいる兄様と姉様を見て、父様が近くに来て私を抱き上げると、頬を伝う雫を拭ってくれた。

「…ルーチェ、ルークス。どうしてセーラが泣いているのかわかるかい?」

父様に言われて、首を横に振る兄様と姉様。
父様は私の頭を優しく撫でた。

「わかりません…。セーラ、どうしたの?」

「セーラ、泣かないで…?」

普段泣く事のない私の様子に、兄様も姉様も目に見えて動揺している。

「セーラもルーチェ、ルークス君達と離れるのが寂しいんだよ。」

「「!!」」

「寂しいのは自分達だけだと思っていたのかい?」

父様の告げた言葉に、兄様と姉様は目を大きくして私を見ている。

「…寂しい気持ちはセーラも同じなのよ。もちろん、私達もね。」

「「 …。」」

そう言って母様は兄様と姉様の頭を優しく撫でた。

「…にいさま…ねえさま…。いっちゃいやです…。」

「…っ!セーラ!ごめんね。」

「大丈夫よ!休みにはすぐ帰るからね!?」

泣きながらどうにか言葉を発すると、兄様と姉様が私の手を握った。

けれど、一度出てきた大粒の雫は中々止まってくれず、兄様と姉様を困らせた。

(私…兄様と姉様が好きなんだな…。)

そんな私の近くに来たクレアが、私に包みを渡してくれた。

「セーラ様、お二人にお渡しするのですよね?」

「…うん。…ありがとうクレア。」

「はい。」

クレアに諭されて私は目を拭うと、父様に降ろしてもらい兄様と姉様を見た。

「「?」」

「にいさま。ねえさま。たびのとちゅうで、たべてください。」

「ほぉ、お弁当作ったのかい?いいねえ~。」

「はい。セーラ様は夜明け前に、お二人の為に頑張って作っていました。」

「これは、二人とも頑張って来なきゃなぁ~。」

アチェロさんがお弁当を目を見張っていると、なぜかクレアが胸を張っていた。

「…ありがとう、セーラ。大切に食べるよ。」

「お休みには必ず帰って来るからね!」

兄様と姉様はお弁当の包みを大事そうに受け取ると、私をぎゅっ、と抱きしめた。

「るーちぇねえさま。るーくすにいさま。だいすき。…いってらっしゃい。」

私は兄様と姉様に精一杯の笑顔を見せると、
兄様と姉様も目を細めながら、最高の笑顔を見せてくれた。

「「 行ってきます!」」

こうして兄様と姉様は学園へ向かって、旅立って行った。


ちなみに、帰省の度にこの永遠の別れ並みのやり取りは行われた。
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