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第442話
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駅前に車を停めてからオカンは、運転席から俺たちを振り向く。
その目は涙が溜まっていたからギョッとした。
「景ちゃん、ホンマにどうもありがとう! 景ちゃんが家に来てくれて私の手料理を美味しいって言って食べてくれた事、一生忘れへんからね?」
「本当に美味しかったです。ありがとうございました」
オカンはもう一度愛情こもった握手をしてもらい、何度も景の肩や顔をベタベタと触っていた。
……息子は眼中に無いのかい。
景とは今生の別れみたいにずっと渋っていたくせに、俺には軽いノリで「身体に気を付けてねぇー」と言って、オカンは去っていった。
黒縁の伊達眼鏡を掛け直した景と一緒に、駅前の広場のベンチを見る。
茶髪の男が一人腰掛けているのを見つけて、駆け寄った。
「瞬くん!」
声を掛けると、瞬くんはイヤホンを外して立ち上がり、俺に笑顔で手を振った。
「おぉー修介! 久しぶりやなぁ。良かった会えて。俺も用事あるからあんま時間無いねん、け、ど……」
瞬くんの声がどんどん窄まっていく。
初めは俺一人だと勘違いしていたであろう瞬くんは、俺の隣に来た景に視線を移す。
景は眼鏡を少しずらして、ニコッと微笑んだ。
「えっ! 藤澤、景くんですかっ?」
「そう。初めまして……というか、電話では前に話したけど」
「うわぁ~マジか~! 一緒に来てたんすか? お、お会い出来て光栄です!」
「うん。僕も重村くんにはずっと会いたいなぁと思っていたから、会えて嬉しいよ」
景はおもむろに、右手をすっと差し出す。
瞬くんは感激しながら手を服でゴシゴシと拭いて、景の手を取った。
「わー、めっちゃ嬉しいです! まさか会えると思って無かったから……い、痛っ、藤澤さん、力めっちゃ強くないすか?」
「いつか言ってたよね。今度握手してくださいって。ようやく叶えてあげる事ができて嬉しいよ」
景は満面の笑みで瞬くんと握手……というか、瞬くんの手を握り潰している。
きっといろんな感情が込められているのだろう。
ようやく解放された瞬くんは、右手をブラブラと振りながら仕切り直した。
「なんや、もしかして二人で一緒に修介の家に行っとったんか?」
「うん。一緒に住んでもええかって言いに」
「え、マジで? 付き合うてる事言うたん?」
「言えるわけないやん。友達って事にしといたけど、一緒に住んでもええって」
「へぇ! 良かったなぁ」
「まぁ最初はオトンには反対されたんやけどね」
景のおかげで、と言うと、瞬くんは「さすが芸能人やなぁー」とよく分からない褒め方で景を持ち上げていた。
景は瞬くんの事をどんな風に思ってるのか分からないけど、時折笑っているから、さっきの手の握りつぶしで全部水に流したのかな、と思った。
その目は涙が溜まっていたからギョッとした。
「景ちゃん、ホンマにどうもありがとう! 景ちゃんが家に来てくれて私の手料理を美味しいって言って食べてくれた事、一生忘れへんからね?」
「本当に美味しかったです。ありがとうございました」
オカンはもう一度愛情こもった握手をしてもらい、何度も景の肩や顔をベタベタと触っていた。
……息子は眼中に無いのかい。
景とは今生の別れみたいにずっと渋っていたくせに、俺には軽いノリで「身体に気を付けてねぇー」と言って、オカンは去っていった。
黒縁の伊達眼鏡を掛け直した景と一緒に、駅前の広場のベンチを見る。
茶髪の男が一人腰掛けているのを見つけて、駆け寄った。
「瞬くん!」
声を掛けると、瞬くんはイヤホンを外して立ち上がり、俺に笑顔で手を振った。
「おぉー修介! 久しぶりやなぁ。良かった会えて。俺も用事あるからあんま時間無いねん、け、ど……」
瞬くんの声がどんどん窄まっていく。
初めは俺一人だと勘違いしていたであろう瞬くんは、俺の隣に来た景に視線を移す。
景は眼鏡を少しずらして、ニコッと微笑んだ。
「えっ! 藤澤、景くんですかっ?」
「そう。初めまして……というか、電話では前に話したけど」
「うわぁ~マジか~! 一緒に来てたんすか? お、お会い出来て光栄です!」
「うん。僕も重村くんにはずっと会いたいなぁと思っていたから、会えて嬉しいよ」
景はおもむろに、右手をすっと差し出す。
瞬くんは感激しながら手を服でゴシゴシと拭いて、景の手を取った。
「わー、めっちゃ嬉しいです! まさか会えると思って無かったから……い、痛っ、藤澤さん、力めっちゃ強くないすか?」
「いつか言ってたよね。今度握手してくださいって。ようやく叶えてあげる事ができて嬉しいよ」
景は満面の笑みで瞬くんと握手……というか、瞬くんの手を握り潰している。
きっといろんな感情が込められているのだろう。
ようやく解放された瞬くんは、右手をブラブラと振りながら仕切り直した。
「なんや、もしかして二人で一緒に修介の家に行っとったんか?」
「うん。一緒に住んでもええかって言いに」
「え、マジで? 付き合うてる事言うたん?」
「言えるわけないやん。友達って事にしといたけど、一緒に住んでもええって」
「へぇ! 良かったなぁ」
「まぁ最初はオトンには反対されたんやけどね」
景のおかげで、と言うと、瞬くんは「さすが芸能人やなぁー」とよく分からない褒め方で景を持ち上げていた。
景は瞬くんの事をどんな風に思ってるのか分からないけど、時折笑っているから、さっきの手の握りつぶしで全部水に流したのかな、と思った。
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