リプレイ!

こすもす

文字の大きさ
上 下
441 / 454

第441話

しおりを挟む
 一階に降りると、既に朝食がテーブルに並べられていた。
 父は新聞を広げていて、俺たちをチラッと見てから、また元の場所に視線を戻す。

「おはようございます」
「……おはよう」

 景の挨拶に、とりあえず返事したというような声だ。
 本当にこの二人、バーなんかに行ったの?
 ハテナばっかりが頭に浮かびつつも、朝ごはんを食べて居間のソファーでくつろいだ。
 しばらくしてから、仕事だという父がスーツに着替えて景のところにやってきた。

「帰りも、気を付けて」
「はい、ありがとうございました」

 俺には何も言わず、父は玄関に向かって行く。
 靴を履いた父は俺たちを振り返り、ニコリとした。

「仲良く暮らしなさい」

 柔らかく微笑まれて、ちょっとくすぐったい気持ちになった。
 俺は無言で頷いて直ぐに視線を逸らす。
 景は「ありがとうございます」と口の端を上げて、父に手を振っていた。

 何だかんだで、あまりゆっくりは出来ない。
 新幹線に乗らなくてはならないから、お昼にはここを出ないと行けない。
 俺は風呂に入って、部屋で景と一緒に支度をし、また駅まで送ってくれるという母にお礼を言った。
「その前に」と景は俺に目配せをする。

「ニャム太に会いたいなぁ」
「あぁ、そうやったね、忘れとった」

 きっと二階のあの部屋だ。
 その部屋に行き、カーテンの布を捲ってそっと覗くと、やっぱりニャム太はそこにじっと佇んでいた。

「ニャム太。俺たちそろそろ行かんとアカンねん。最後に景とバイバイしてな?」

 景がニャム太の方へ手を伸ばす。
 ビクッと背筋を反応させてじっと景を睨むニャム太だったけど、柔らかく笑む景に心を許したのか、少しずつ体を出して、景の指先をスンスンと嗅ぎ始めた。

「可愛い。猫って気まぐれなんだよね。人間とはつかず離れずの関係がいいって、何かで読んだ事がある」
「そうそうー。遊んで欲しそうだから構ってあげると面倒そうな顔するくせに、放っておき過ぎるとニャーニャー鳴いて怒り出すし」
「修介と一緒だね」

 ムッ、と唇を尖らせる。
 景が猫じゃらしを左右に振ると、ニャム太は嬉しそうにその先っぽのふわふわを追いかけていた。
 そんな時、俺のスマホにメッセージが入る。
 アプリを開いて送られてきた文字を見て、目を見開き、そのまま画面を景に見せた。

「どうする? 会ってみたい?」
「うん。彼のお願い事、まだ叶えられてないからね」

 お願い事? と疑問に思ったけど、景は俺の顔に唇を寄せて、深く深くキスをした。
 これからも、宜しくね。
 そんな景の声が聞こえてくるような気がして、嬉しくなりながら何度も角度を変えて味わった。

 体を離してふと視線を移すと、ニャム太は俺たちに全く興味が無いのか、ウロウロとしてからまた窓際にぴょんと乗って、カーテンの後ろに隠れてしまっていた。

「モコにはあんなに見られてたのにね」
「ニャム太、俺たちの事呆れたんかもな」

 そうかも、と二人で笑って、もう一度キスをしてから部屋を出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...