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第437話 side景
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結局、お父様の常連の店だという小さなバーに連れてこられた。
マンションの一室を借りたようなその店は、昔流行ったポップな洋楽が流れていて、奥にはドラムセットやギターなどが置いてあり、銀色のキラーボールがくるくると回って光を反射させている。
十人も入れないような狭い店内には客は一人しかおらず、お父様と同じくらいの年代の女性が、カウンター内でグラスを磨いていた。
でも僕を見た途端、慌てて中から出てきて握手を求めてきた。
「うわ~! 顔綺麗! 小さすぎるわ! こんな辺鄙な所にようこそ~」
ベタベタと顔を触ってくるその女性は、よく見れば男性だった。
スカートを履いているし化粧も綺麗に映えているが、手を見れば一目瞭然だ。
もう一人の酔っ払いの客にも握手を求められ、笑顔で対応している間、お父様は席に座ってメニュー表を開いていた。
酒を頼んで四人で乾杯をし、マスターと客はそれぞれ定位置に戻る。
僕はお父様の向かいに座って一口飲み、グラスを置いた。
「修介とは、ここに来たことはあるんですか?」
「いや、無いよ。最近知ったから」
「そうですか。連れて来てあげたら喜ぶと思います。彼、お酒が大好きだから」
視線を合わせると、やっぱり直ぐに逸らされてしまう。
僕もつい見つめ続けてしまうのもいけないな、と思いながら店の置物や色とりどりのカクテルの瓶に視線を移していたら、お父様は突然切り出した。
「あの、藤澤くん」
「はい」
「君は、修介の友達なのかな」
言い方に違和感を覚えて、思わず「えっ?」と声を漏らす。
するとお父様は、指でメガネの縁を持ち上げながら歯切れ悪く言葉を濁した。
「いや、その……修介とは、本当はただの友人では無いような気がして」
僕は目を見開いた。
どこで気付いたのだろうか。
食事の時? 気を付けてはいたが、何気ない会話や視線から勘づいたのだろうか。
隠し通すべきか、それとも正直に話すべきか。
考えあぐねていると、お父様は更に付け加えた。
「修介の事、どこまで知っているのかな」
「どこまで、とは?」
「修介に彼女が出来ない理由、だとか」
たぶん、この人は知っている。
修介が、男しか愛せないのだということを。
マンションの一室を借りたようなその店は、昔流行ったポップな洋楽が流れていて、奥にはドラムセットやギターなどが置いてあり、銀色のキラーボールがくるくると回って光を反射させている。
十人も入れないような狭い店内には客は一人しかおらず、お父様と同じくらいの年代の女性が、カウンター内でグラスを磨いていた。
でも僕を見た途端、慌てて中から出てきて握手を求めてきた。
「うわ~! 顔綺麗! 小さすぎるわ! こんな辺鄙な所にようこそ~」
ベタベタと顔を触ってくるその女性は、よく見れば男性だった。
スカートを履いているし化粧も綺麗に映えているが、手を見れば一目瞭然だ。
もう一人の酔っ払いの客にも握手を求められ、笑顔で対応している間、お父様は席に座ってメニュー表を開いていた。
酒を頼んで四人で乾杯をし、マスターと客はそれぞれ定位置に戻る。
僕はお父様の向かいに座って一口飲み、グラスを置いた。
「修介とは、ここに来たことはあるんですか?」
「いや、無いよ。最近知ったから」
「そうですか。連れて来てあげたら喜ぶと思います。彼、お酒が大好きだから」
視線を合わせると、やっぱり直ぐに逸らされてしまう。
僕もつい見つめ続けてしまうのもいけないな、と思いながら店の置物や色とりどりのカクテルの瓶に視線を移していたら、お父様は突然切り出した。
「あの、藤澤くん」
「はい」
「君は、修介の友達なのかな」
言い方に違和感を覚えて、思わず「えっ?」と声を漏らす。
するとお父様は、指でメガネの縁を持ち上げながら歯切れ悪く言葉を濁した。
「いや、その……修介とは、本当はただの友人では無いような気がして」
僕は目を見開いた。
どこで気付いたのだろうか。
食事の時? 気を付けてはいたが、何気ない会話や視線から勘づいたのだろうか。
隠し通すべきか、それとも正直に話すべきか。
考えあぐねていると、お父様は更に付け加えた。
「修介の事、どこまで知っているのかな」
「どこまで、とは?」
「修介に彼女が出来ない理由、だとか」
たぶん、この人は知っている。
修介が、男しか愛せないのだということを。
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