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こすもす

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第402話

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「あ、お父さんだわ」

 お母様は立ち上がり、玄関の方へ向かった。
 とうとう、この時が来てしまった。
 たまらず景の服の裾を掴んでクイッと引っ張ると、クスクスと笑われた。

「なんて顔してんの」
「ほ、ほんまに言うん? とりあえず今日は友達で通したらあかん?」
「ダメ。言う。だって一緒に暮らすんだから」
「そんなん、勝手にそっちが決めた事やんかっ」
「え、嫌なの? 僕と住むの」
「嫌じゃないけど……大丈夫なん? お父さんとお母さん、もしめっちゃショック受けたりしたら」
「大丈夫だから。心配しないで」
「でも」
「あぁもう、うるさいな」

 景は俺の後頭部に手を回して引き寄せ、強引に唇を奪う。
 舌先で上唇を突かれると、閉じていた口が自然と開いて、濡れた舌の侵入を許してしまった。

「ふっ……んんッ……」

 そのまま激しく口内を侵されて、つい喉が鳴ってしまう。
 目をギュッとつぶりながら景の舌に翻弄されながらも、神経を耳に集中させた。
 二人は玄関先で会話をしているから、まだこっちにはやって来ないとは思うけど……

 気が気じゃなかった。
 それに、すぐそばでモコが俺たちを見ている。
 吠えはしないけど、さっきからトタトタと床を走り回る足音が聞こえる。

 久しぶりのキスに脳が蕩けそうになっていると、二人の足音がどんどん近づいてくるのが分かった。
 焦って体を押すと、景は最後にリップ音をチュッと鳴らしてからようやく離れてくれた。

「僕が大丈夫って言ってるんだから、大丈夫」

 そう言って今度は俺の頬に素早くキスを落とす。
 景の濡れた唇が目に入ると、余計に心拍数が上がって、今の俺にとっては逆効果だった。

 全然、大丈夫じゃない!

 俺はすぐさましっとりしている唇を服の袖でゴシゴシと荒く拭く。
 それと同時に、リビングのドアが開かれた。

「あぁ、こんにちは。いらっしゃーい」

 景のお父さんだった。
 どこか物腰が柔らかそうな、穏やかな話し方。
 眼鏡を掛けていて、景みたいに背が高い。ペコペコと頭を下げて笑っていた。

「お、お邪魔してます」

 座ったまま頭を下げる。
 さっきの不意打ちのキスで、顔が赤くなっていませんように。
 平然を装いながら精一杯笑ってふと景の方を向くと、何事もなかった様な涼しい顔をしてお茶を飲んでいたから、イラっとしてこっそり腰の辺りをグーで殴る。
 お母様はキッチンに入って、お父様は俺たちの向かいに腰を下ろした。

「なぁーんだ。父さん変に緊張して、コンビニまで行っちゃったよぉ。来れなくなったならちゃんと言っておいてくれないと」

 お母様から事情を聞いたらしいお父様は、安堵の表情を見せた。
 景に向かって話しかけているらしいけど、景は「うん」と頷いて微笑んだだけだった。
 あぁ、勘違いしているよね絶対。
 俺がその来れなくなったと思われている恋人なんですけど。
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