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第372話
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数日後。
莉奈は突然、バイトを辞めることになった。
「高宮さーん! 辞めちゃうのは寂しいけど、また気が向いたら戻ってきてね? ずっと待ってるからね?」
「はい。ありがとうございます! 店長、本当にお世話になりました~」
バイト先で、店長は莉奈の手を握り名残り惜しそうに挨拶を交わしている。
俺はなかなか終わらないそれを笑いながら見て、莉奈の分の最後の退勤ボタンを押してあげた。
莉奈は他のバイトの女の子と会話をしてからパソコンに向かう。
打刻ボタンが押されていた事に気付いた莉奈は、慌てて俺の元へ駆け寄った。
「北村さん! 私の分も押してくれたんですか?」
「うん、押しといた。残業扱いになってバイト代ズルされんようにな」
「えーっ、ケチー」
そんなやり取りをしながら、お疲れ様でーす、と俺はいつもの挨拶を、莉奈はお世話になりました、とキッチンやフロアのバイトの奴らに挨拶をして、一緒に店を出た。
莉奈がバイトを辞める理由は、飲み屋でバイトをしている事が離れて暮らす親にバレて反対されたからだと店長に聞かされたけど、真意の程は分からない。
俺は最後の最後まで莉奈にちゃんと訊けなかった。
いつも莉奈と話していた駐車場まで歩いて、二人で立ち止まる。
「じゃあ、北村さん、本当にお世話になりました! 少しの間でしたけど楽しかったです。いろいろと迷惑掛けちゃって……本当にありがとうございました」
「ううん。じゃあ、大学でもし会ったら声掛けてな?」
「はい。あ、私、北村さんにプレゼントがあるんです」
莉奈はバックの中を何やらゴソゴソとし出して、はい、と俺にそれを手渡した。
「スマホケース。良かったら使って下さい」
それは前に莉奈が使っていた、手の平からあふれんばかりの馬鹿でかい大きさのスマホケースだった。
い、いらない……と正直思ったけど、受け取ってしまったからとりあえずバックに突っ込んで苦笑いをした。
「あ、あんがとな、莉奈」
「いえー! じゃ、失礼しまーす」
莉奈は大きく手を振って、そのまま振り返らずに自宅の方へ向かって行った。
何度かこの後ろ姿を見てきたけど、もうこの場所から見ることは無いんだな、となんだかシミジミしてしまった。
いや、寂しくはない。多分。別に。
スマホを取り出して見ると、景からメッセージが入っていた。
確認すると、詩音くんたちと会う日程が決まったみたいだった。
ちょうどバイトも大学のゼミもない日だったから安堵した。
「はよ会いたいなぁ」
独り言ちて、夜空の星を眺めながら、景の顔を思い浮かべた。
この間会ったばっかりなのに、もう会って景に触れたい欲に駆られている自分がいた。
今日はとことん景の動画を見まくってやる。
そう決心して、俺は帰路についた。
そして、景と会える日──
莉奈は突然、バイトを辞めることになった。
「高宮さーん! 辞めちゃうのは寂しいけど、また気が向いたら戻ってきてね? ずっと待ってるからね?」
「はい。ありがとうございます! 店長、本当にお世話になりました~」
バイト先で、店長は莉奈の手を握り名残り惜しそうに挨拶を交わしている。
俺はなかなか終わらないそれを笑いながら見て、莉奈の分の最後の退勤ボタンを押してあげた。
莉奈は他のバイトの女の子と会話をしてからパソコンに向かう。
打刻ボタンが押されていた事に気付いた莉奈は、慌てて俺の元へ駆け寄った。
「北村さん! 私の分も押してくれたんですか?」
「うん、押しといた。残業扱いになってバイト代ズルされんようにな」
「えーっ、ケチー」
そんなやり取りをしながら、お疲れ様でーす、と俺はいつもの挨拶を、莉奈はお世話になりました、とキッチンやフロアのバイトの奴らに挨拶をして、一緒に店を出た。
莉奈がバイトを辞める理由は、飲み屋でバイトをしている事が離れて暮らす親にバレて反対されたからだと店長に聞かされたけど、真意の程は分からない。
俺は最後の最後まで莉奈にちゃんと訊けなかった。
いつも莉奈と話していた駐車場まで歩いて、二人で立ち止まる。
「じゃあ、北村さん、本当にお世話になりました! 少しの間でしたけど楽しかったです。いろいろと迷惑掛けちゃって……本当にありがとうございました」
「ううん。じゃあ、大学でもし会ったら声掛けてな?」
「はい。あ、私、北村さんにプレゼントがあるんです」
莉奈はバックの中を何やらゴソゴソとし出して、はい、と俺にそれを手渡した。
「スマホケース。良かったら使って下さい」
それは前に莉奈が使っていた、手の平からあふれんばかりの馬鹿でかい大きさのスマホケースだった。
い、いらない……と正直思ったけど、受け取ってしまったからとりあえずバックに突っ込んで苦笑いをした。
「あ、あんがとな、莉奈」
「いえー! じゃ、失礼しまーす」
莉奈は大きく手を振って、そのまま振り返らずに自宅の方へ向かって行った。
何度かこの後ろ姿を見てきたけど、もうこの場所から見ることは無いんだな、となんだかシミジミしてしまった。
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「はよ会いたいなぁ」
独り言ちて、夜空の星を眺めながら、景の顔を思い浮かべた。
この間会ったばっかりなのに、もう会って景に触れたい欲に駆られている自分がいた。
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そう決心して、俺は帰路についた。
そして、景と会える日──
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