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こすもす

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第362話 side景

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「暴力的な彼氏とは、続いてるの?」

 僕が尋ねると、莉奈ちゃんは目を丸くした。

「いえ、別れました」
「で、今は、修介の事が好き?」
「……」
「僕に話があるっていうのは、修介に連絡しろっていう事だけ? 本音はそうじゃないんじゃないの?好きなんでしょう? 修介の事」
「好きです、けど……」
「僕にどうして欲しいの? 思ってる事、はっきり言っていいよ」

 莉奈ちゃんは一瞬戸惑ったけれど、強い目になって僕に告げた。

「もう連絡しないつもりなら、北村さんの事、私にください!」
「やだね」

 莉奈ちゃんは勢いよく頭を下げたけど、僕は間髪入れず低い声で返事をした。

「……はやっ!」

 莉奈ちゃんは頭を上げたかと思ったら吹き出して無邪気に笑うから、つられて僕も笑ってしまった。

「……なんで笑うの」
「分かってます。藤澤さんに勝てるなんて、これっぽっちも思ってませんから」
「修介は僕のだよ。あげるつもりはないよ、誰にも。それを伝えに来たんだ」
「ありがとうございます。藤澤さんの気持ち、ちゃんと聞きたかったんです。色々迷惑かけてすみませんでした。私、頑張って諦めます、北村さんの事。もう連絡もしませんし、会いに行ったりもしません。バイト、もう辞めることにしたんです」

 莉奈ちゃんはなんだかスッキリとした表情だった。
 僕の心の中も途端に晴れ渡っていくのが分かった。

「あの、本当に、お二人お似合いです。付き合ってるって事は誰にも言ってませんから。末長く、お幸せに」

 僕はその言葉を聞いて拍子抜けした。
 これくらいの歳の女の子だったら、周りに言いふらして、ある事無い事噂話をするのが大好きなはずなのに。
 もしかしたら僕を安心させる為の口から出まかせなのかもしれないけど、今の僕は不思議とその言葉をすんなり素直に受け入れられた。

「修介の周りの子はみんな、いい子ばかりでね……」

 僕は嬉しくて、修介にしてる時みたいに莉奈ちゃんの髪の毛を触って摘んで毛先へ流した。
 カッと莉奈ちゃんの顔が赤く強張ったところで、ふと我に返って慌てて手を離した。

「あぁ、ごめん。こんなところ修介に見られたら怒られちゃうな」

 莉奈ちゃんは恥ずかしそうに何回も瞬きをして下を向いたけど、またぷっと吹き出して笑った。

「なんだか似てますよね、藤澤さんと北村さん。見た目は全然違いますけど、柔らかい雰囲気とか、表情とか。だから気が合って付き合ってるんでしょうけど」
「そう? 似てきたのかな。僕が、修介に」
「そうかもしれませんね。藤澤さん、前にテレビで見た時はちょっと強面なイメージでしたけど、今はものすごく優しいですもん」
「修介に感謝しなくちゃね」

 僕たちは不思議な縁だけど、この出会いは偶然ではないと思った。
 少しだけ話した後に別れて、僕は修介の家へ車を走らせた。
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