316 / 454
第315話 side景
しおりを挟む
* * *
「せやから、あん時もほんまはこっちに来たかったんやけど、勝手に置いて行くわけにもいかへんし」
「へーぇ」
修介は、ゆっくりと、でも少し落ち着かないような様子で僕に話し続ける。
僕はとりあえず笑顔で大人しく相槌を打っていた。
あの日、なぜ来れなかったのかはよく分かった。
しょうがない事だろう。
その彼氏とやらはどのくらいの暴力行為をしているのかは分からないけど、莉奈ちゃんを置いてはいけないし。
でも、はいそうですか、という気にもなれない。
修介の話を聞いているうち、僕の胸の内が何とも言えない不快感によって侵され始めているのに気付いた。
分かるよ。修介、優しいもんね。
困っている人がいたら、助けたくなっちゃうんだよね?
「莉奈もちょっとは考えてるんらしいんやけどね、彼氏とこれからどうしようか。怪我も何度かさせられてるし」
「へぇ」
「俺は別れた方がええって言うてるんやけど、普段は優しい人だからって、莉奈はなかなか決断できずにおんねん」
「ふんふん、へーぇ」
修介は、話始めた時は僕に謝ってばかりいたけれど、途中から話の矛先を莉奈に向けていた。
きっと自分でも気付いてないんだろうなと思うと、やっぱり不快な気分になって来て、つい適当に相槌をしてしまう。
修介はそんな僕にイラついたのだろう、眉根を寄せて僕の顔を覗き込んできた。
「もうっ、ちゃんと聞いとるん? 景はどう思う? やっぱ、暴力振るうような奴とはきっぱり別れた方がええよね?」
「別れるべきだとは思うけど、最終的に判断するのは修介じゃなくて彼女だよ」
──僕は不機嫌だ。
なぜ? 僕には内緒で二人で電話をしていた事に?
誕生日にここに来なかった事に?
いや、それじゃない。それはしょうがない事だ。
なら、修介がその子を莉奈と呼んでいる事か?
そんな子供みたいな事で?
答えが見つからない事にさらにイラついて、まるで修介に八つ当たりするかのように、僕は明らかに強くて硬い声を出した。
「こっちがいくらアドバイスしても、彼女の考え方が変わらないようなら意味ないよ。彼女は君に甘えてるんじゃない? 決断せずに悩んでいれば、いつまでも君に相談ができるからね」
何だろう、この言い方。
自分の発言に我ながら驚いた。
修介は僕の目をジッと見つめてくる。
僕のこの様子に少しだけ動揺しているようだ。
こんな言い方をしてはいけないのに、僕の唇は止まらなかった。
「修介が彼女の悩みを受け持とうなんて、そんなのできるわけないよ。これは彼女の問題なんだから、彼女自身に考えさせるべきだよ」
「……そっか」
修介は笑いながらもどこか落ち込んだように俯いてしゅんとしている。
僕の気迫に圧倒されたのか。
「彼女、修介の事が好きなんだろうね」
自分でそう口にしてみて分かった。
あぁ、僕の不機嫌な理由はこれか。
僕はきっと気付いたんだ。彼女の気持ちに。
僕の言葉に、修介は目を丸くした。
「え? 莉奈が?」
「修介気付かないの? 何とも思ってない人に相談なんて出来ないよ。他人とは違う感情があるから、修介にそうやって電話かけてくるんでしょ」
君を怒らせたいわけじゃないのに、僕はなんて子供っぽい事をしているんだ。
でも、どうにもならないこの気持ちを、目の前の修介にぶつける事で発散しようとしていた。
修介はかぶりを振って、困ったように笑っている。
「莉奈は、ただのバイトの後輩やで? そんなんあるわけ」
「リナリナって、さっきから煩いよ」
僕は本能のままに、ソファーへと修介の身体を押し倒し、両手首を押し付けて自由を奪った。
冷たく修介を見下ろす。
手に握られていたスマホがソファーの上に落とされたところで状況を理解したらしく、修介は慌てた様子で僕を見上げた。
「せやから、あん時もほんまはこっちに来たかったんやけど、勝手に置いて行くわけにもいかへんし」
「へーぇ」
修介は、ゆっくりと、でも少し落ち着かないような様子で僕に話し続ける。
僕はとりあえず笑顔で大人しく相槌を打っていた。
あの日、なぜ来れなかったのかはよく分かった。
しょうがない事だろう。
その彼氏とやらはどのくらいの暴力行為をしているのかは分からないけど、莉奈ちゃんを置いてはいけないし。
でも、はいそうですか、という気にもなれない。
修介の話を聞いているうち、僕の胸の内が何とも言えない不快感によって侵され始めているのに気付いた。
分かるよ。修介、優しいもんね。
困っている人がいたら、助けたくなっちゃうんだよね?
「莉奈もちょっとは考えてるんらしいんやけどね、彼氏とこれからどうしようか。怪我も何度かさせられてるし」
「へぇ」
「俺は別れた方がええって言うてるんやけど、普段は優しい人だからって、莉奈はなかなか決断できずにおんねん」
「ふんふん、へーぇ」
修介は、話始めた時は僕に謝ってばかりいたけれど、途中から話の矛先を莉奈に向けていた。
きっと自分でも気付いてないんだろうなと思うと、やっぱり不快な気分になって来て、つい適当に相槌をしてしまう。
修介はそんな僕にイラついたのだろう、眉根を寄せて僕の顔を覗き込んできた。
「もうっ、ちゃんと聞いとるん? 景はどう思う? やっぱ、暴力振るうような奴とはきっぱり別れた方がええよね?」
「別れるべきだとは思うけど、最終的に判断するのは修介じゃなくて彼女だよ」
──僕は不機嫌だ。
なぜ? 僕には内緒で二人で電話をしていた事に?
誕生日にここに来なかった事に?
いや、それじゃない。それはしょうがない事だ。
なら、修介がその子を莉奈と呼んでいる事か?
そんな子供みたいな事で?
答えが見つからない事にさらにイラついて、まるで修介に八つ当たりするかのように、僕は明らかに強くて硬い声を出した。
「こっちがいくらアドバイスしても、彼女の考え方が変わらないようなら意味ないよ。彼女は君に甘えてるんじゃない? 決断せずに悩んでいれば、いつまでも君に相談ができるからね」
何だろう、この言い方。
自分の発言に我ながら驚いた。
修介は僕の目をジッと見つめてくる。
僕のこの様子に少しだけ動揺しているようだ。
こんな言い方をしてはいけないのに、僕の唇は止まらなかった。
「修介が彼女の悩みを受け持とうなんて、そんなのできるわけないよ。これは彼女の問題なんだから、彼女自身に考えさせるべきだよ」
「……そっか」
修介は笑いながらもどこか落ち込んだように俯いてしゅんとしている。
僕の気迫に圧倒されたのか。
「彼女、修介の事が好きなんだろうね」
自分でそう口にしてみて分かった。
あぁ、僕の不機嫌な理由はこれか。
僕はきっと気付いたんだ。彼女の気持ちに。
僕の言葉に、修介は目を丸くした。
「え? 莉奈が?」
「修介気付かないの? 何とも思ってない人に相談なんて出来ないよ。他人とは違う感情があるから、修介にそうやって電話かけてくるんでしょ」
君を怒らせたいわけじゃないのに、僕はなんて子供っぽい事をしているんだ。
でも、どうにもならないこの気持ちを、目の前の修介にぶつける事で発散しようとしていた。
修介はかぶりを振って、困ったように笑っている。
「莉奈は、ただのバイトの後輩やで? そんなんあるわけ」
「リナリナって、さっきから煩いよ」
僕は本能のままに、ソファーへと修介の身体を押し倒し、両手首を押し付けて自由を奪った。
冷たく修介を見下ろす。
手に握られていたスマホがソファーの上に落とされたところで状況を理解したらしく、修介は慌てた様子で僕を見上げた。
0
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる