311 / 454
第310話
しおりを挟む
その後莉奈は、ゆきちゃんから「もう地元へ帰る」という連絡をもらった。
それを見て一先ず安心した莉奈は立ち上がり、帰り支度を始める。
一人で帰ると言ったけど、俺はアパートまで送っていくと言ってついていった。
もう雨はすっかり上がっていて、外はヒンヤリとした空気に包まれている。
二人で横に並びながら、しばらく無言で歩いていた。
ずっと景の事を考えていた。
今日、会いに行けなかった。
少しでも会えるの、楽しみにしてたんだけどな。
でも、莉奈やゆきちゃんに怒りの矛先が向いているかといったらそうでは無かった。
全部、自分の行いのせいだ。
プレゼントだって、もっと早くから選んでおけばギリギリの受け取りにならずに済んだんだ。
大学の課題だって、就活の提出物だってそうだ。
ちゃんと余裕を持ってやっておけば、こんな事にはならなかった。
「北村さん、今日、いろいろと迷惑掛けちゃってすいませんでした」
「あ、あぁもうええよ、謝らんで。俺が勝手に連れてきたんやから」
「あはは。もう、ビックリしましたよ。いきなり逃げ出すんですもん。なんか駆け落ちでもした気分でした」
「はは」
俺は乾いた笑いでその場をやり過ごす。
「そういえば北村さん、何か用事があったんじゃないんですか? もしかして電車で出かける予定でした?」
「あぁ、実は友達の家に……でも気にせんで大丈夫やで」
「えぇ、そうだったんですね。ますます頭が上がらないです。本当にすみません」
景は今日の事を聞いたら何ていうかな。
……考えないでおこう。今は。
俺は今一度莉奈に確認を取った。
「じゃあ、莉奈。彼氏との今後の事、ホンマにちゃんと考えたほうがええからな?」
「え、今後の事って?」
「もっと周りに目を向けやって意味やで。普段は優しくてええ人なんかもしれへんけど、あんな風に豹変しとったら長続きなんてせーへんで」
「……そーですよねぇ」
莉奈は珍しく俺の言うことに反論しなかった。
そのまま黙り込んでしまい、結局無言のまま、莉奈の住むアパートの前までたどり着いた。
「じゃ、また何かあったら……ていうか、俺、あんましゃしゃり出んほうがええと思うけど。ちゃんと考えるんよ」
「北村さん、あの」
莉奈はそのまましばらく固まってしまった。
じっと莉奈を見ていたけど、視線を下げて何かを考えているようだった。
俺は頭にハテナマークを浮かべたまま何も言えずにいたら、莉奈は困ったように笑ってかぶりを振った。
「いえ、何でもないです! じゃあ、ありがとうございました!」
莉奈はそう言って、部屋のドアを開けて中に入り込んだ。
何を言おうとしたんだろう。
気にはなったけど、引き止める事はしなかった。
踵を返して、来た道を戻りながらアプリを開いて、景にメッセージを送ろうと文字を打っていった。
『お誕生日おめでとう。今日は、ごめんね。本当は行きたかったんだけど、』
そこまで打ったけど、後に続く言葉が出て来なくて、全部消去して結局送るのをやめた。
景は優しいから、気にしなくて大丈夫だよって言ってくれるだろうし。
ちゃんと、会って話そう。
次会えるのはいつになるのか分からないけど、きっと近いうちに会えるだろう。
それまでに、莉奈も彼氏とすっぱり別れられたらいいんだけど。
それを見て一先ず安心した莉奈は立ち上がり、帰り支度を始める。
一人で帰ると言ったけど、俺はアパートまで送っていくと言ってついていった。
もう雨はすっかり上がっていて、外はヒンヤリとした空気に包まれている。
二人で横に並びながら、しばらく無言で歩いていた。
ずっと景の事を考えていた。
今日、会いに行けなかった。
少しでも会えるの、楽しみにしてたんだけどな。
でも、莉奈やゆきちゃんに怒りの矛先が向いているかといったらそうでは無かった。
全部、自分の行いのせいだ。
プレゼントだって、もっと早くから選んでおけばギリギリの受け取りにならずに済んだんだ。
大学の課題だって、就活の提出物だってそうだ。
ちゃんと余裕を持ってやっておけば、こんな事にはならなかった。
「北村さん、今日、いろいろと迷惑掛けちゃってすいませんでした」
「あ、あぁもうええよ、謝らんで。俺が勝手に連れてきたんやから」
「あはは。もう、ビックリしましたよ。いきなり逃げ出すんですもん。なんか駆け落ちでもした気分でした」
「はは」
俺は乾いた笑いでその場をやり過ごす。
「そういえば北村さん、何か用事があったんじゃないんですか? もしかして電車で出かける予定でした?」
「あぁ、実は友達の家に……でも気にせんで大丈夫やで」
「えぇ、そうだったんですね。ますます頭が上がらないです。本当にすみません」
景は今日の事を聞いたら何ていうかな。
……考えないでおこう。今は。
俺は今一度莉奈に確認を取った。
「じゃあ、莉奈。彼氏との今後の事、ホンマにちゃんと考えたほうがええからな?」
「え、今後の事って?」
「もっと周りに目を向けやって意味やで。普段は優しくてええ人なんかもしれへんけど、あんな風に豹変しとったら長続きなんてせーへんで」
「……そーですよねぇ」
莉奈は珍しく俺の言うことに反論しなかった。
そのまま黙り込んでしまい、結局無言のまま、莉奈の住むアパートの前までたどり着いた。
「じゃ、また何かあったら……ていうか、俺、あんましゃしゃり出んほうがええと思うけど。ちゃんと考えるんよ」
「北村さん、あの」
莉奈はそのまましばらく固まってしまった。
じっと莉奈を見ていたけど、視線を下げて何かを考えているようだった。
俺は頭にハテナマークを浮かべたまま何も言えずにいたら、莉奈は困ったように笑ってかぶりを振った。
「いえ、何でもないです! じゃあ、ありがとうございました!」
莉奈はそう言って、部屋のドアを開けて中に入り込んだ。
何を言おうとしたんだろう。
気にはなったけど、引き止める事はしなかった。
踵を返して、来た道を戻りながらアプリを開いて、景にメッセージを送ろうと文字を打っていった。
『お誕生日おめでとう。今日は、ごめんね。本当は行きたかったんだけど、』
そこまで打ったけど、後に続く言葉が出て来なくて、全部消去して結局送るのをやめた。
景は優しいから、気にしなくて大丈夫だよって言ってくれるだろうし。
ちゃんと、会って話そう。
次会えるのはいつになるのか分からないけど、きっと近いうちに会えるだろう。
それまでに、莉奈も彼氏とすっぱり別れられたらいいんだけど。
0
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる