リプレイ!

こすもす

文字の大きさ
上 下
307 / 454

第306話 side景

しおりを挟む
「藤澤くん、やっぱり来てくれたんだ! 嬉しいよ。さぁさぁ、詩音の隣に座って」
「ありがとうございます」

 喧噪のなか、僕が来るということを詩音から聞いたであろうマネージャーが、張り切って僕を席に案内する。
 たまたま家の近くのバーを貸し切っていたのが幸いで、どうやら間に合ったようだった。
 グラスを合わせて、隣に座る詩音と笑い合った。

「藤澤さん、何度もしつこいですけど、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」
「残念でしたね。修介さん、急に来れなくなっちゃったんですか?」
「うん。電話したら、今日行けなくなった、って」
「え? 電話したらって……事前に連絡とか無かったんですか?」

 詩音は途端に顔を険しくさせた。
 そう聞かれて、そういえばそうだな、と思った。
 僕が連絡するまで、修介からは何も聞かされていなかった。

「うん。特に連絡は無かったよ。事情があるみたいで。あっちも詳しくは言わなかったから、僕も何でかは聞かなかったんだ」
「えぇ? 普通だったら連絡しません? だって、恋人の誕生日ですよ? ずっと前から約束してて、藤澤さんだって楽しみにしてたのに、酷くないですか?」
「きっと何かあったんだよ。声がなんだか沈んで、元気無かったみたいだし。例えばだけど、就活でうまくいかなくて落ち込んでるとか。ごめんね、詩音にそんな事言わせちゃって。ほら、今日は楽しく飲もうよ。僕の誕生日なんだから」
「あ、そうですよね。すみません」

 詩音は柑橘系の香りが爽やかに香る甘いカクテルが入ったグラスに口を付ける。
 僕も同じように一口飲んで喉を潤した。
 詩音はにこやかに仕事の話をし始めたから相槌をうっていたけど、どこか心ここにあらずで、頭の隅では修介の事を考えていた。
 事前に連絡が無かった事は、少し引っかかった。
 最近、修介からの連絡は格段に減った。
 南と付き合っていた時のそれに比べればとても楽だし、いいんだけれど……

 まさか、キャンセルの電話でさえも面倒になってしまったのだろうか。
 寂しい、とか、会いたい、とか、もっと甘えてきてくれてもいいのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...