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第306話 side景
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「藤澤くん、やっぱり来てくれたんだ! 嬉しいよ。さぁさぁ、詩音の隣に座って」
「ありがとうございます」
喧噪のなか、僕が来るということを詩音から聞いたであろうマネージャーが、張り切って僕を席に案内する。
たまたま家の近くのバーを貸し切っていたのが幸いで、どうやら間に合ったようだった。
グラスを合わせて、隣に座る詩音と笑い合った。
「藤澤さん、何度もしつこいですけど、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」
「残念でしたね。修介さん、急に来れなくなっちゃったんですか?」
「うん。電話したら、今日行けなくなった、って」
「え? 電話したらって……事前に連絡とか無かったんですか?」
詩音は途端に顔を険しくさせた。
そう聞かれて、そういえばそうだな、と思った。
僕が連絡するまで、修介からは何も聞かされていなかった。
「うん。特に連絡は無かったよ。事情があるみたいで。あっちも詳しくは言わなかったから、僕も何でかは聞かなかったんだ」
「えぇ? 普通だったら連絡しません? だって、恋人の誕生日ですよ? ずっと前から約束してて、藤澤さんだって楽しみにしてたのに、酷くないですか?」
「きっと何かあったんだよ。声がなんだか沈んで、元気無かったみたいだし。例えばだけど、就活でうまくいかなくて落ち込んでるとか。ごめんね、詩音にそんな事言わせちゃって。ほら、今日は楽しく飲もうよ。僕の誕生日なんだから」
「あ、そうですよね。すみません」
詩音は柑橘系の香りが爽やかに香る甘いカクテルが入ったグラスに口を付ける。
僕も同じように一口飲んで喉を潤した。
詩音はにこやかに仕事の話をし始めたから相槌をうっていたけど、どこか心ここにあらずで、頭の隅では修介の事を考えていた。
事前に連絡が無かった事は、少し引っかかった。
最近、修介からの連絡は格段に減った。
南と付き合っていた時のそれに比べればとても楽だし、いいんだけれど……
まさか、キャンセルの電話でさえも面倒になってしまったのだろうか。
寂しい、とか、会いたい、とか、もっと甘えてきてくれてもいいのに。
「ありがとうございます」
喧噪のなか、僕が来るということを詩音から聞いたであろうマネージャーが、張り切って僕を席に案内する。
たまたま家の近くのバーを貸し切っていたのが幸いで、どうやら間に合ったようだった。
グラスを合わせて、隣に座る詩音と笑い合った。
「藤澤さん、何度もしつこいですけど、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう」
「残念でしたね。修介さん、急に来れなくなっちゃったんですか?」
「うん。電話したら、今日行けなくなった、って」
「え? 電話したらって……事前に連絡とか無かったんですか?」
詩音は途端に顔を険しくさせた。
そう聞かれて、そういえばそうだな、と思った。
僕が連絡するまで、修介からは何も聞かされていなかった。
「うん。特に連絡は無かったよ。事情があるみたいで。あっちも詳しくは言わなかったから、僕も何でかは聞かなかったんだ」
「えぇ? 普通だったら連絡しません? だって、恋人の誕生日ですよ? ずっと前から約束してて、藤澤さんだって楽しみにしてたのに、酷くないですか?」
「きっと何かあったんだよ。声がなんだか沈んで、元気無かったみたいだし。例えばだけど、就活でうまくいかなくて落ち込んでるとか。ごめんね、詩音にそんな事言わせちゃって。ほら、今日は楽しく飲もうよ。僕の誕生日なんだから」
「あ、そうですよね。すみません」
詩音は柑橘系の香りが爽やかに香る甘いカクテルが入ったグラスに口を付ける。
僕も同じように一口飲んで喉を潤した。
詩音はにこやかに仕事の話をし始めたから相槌をうっていたけど、どこか心ここにあらずで、頭の隅では修介の事を考えていた。
事前に連絡が無かった事は、少し引っかかった。
最近、修介からの連絡は格段に減った。
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まさか、キャンセルの電話でさえも面倒になってしまったのだろうか。
寂しい、とか、会いたい、とか、もっと甘えてきてくれてもいいのに。
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